ニッポンのブーランジェ

茨城県イコール「パン工房ぐるぐる」といわれるパン屋になりたい
vol.13 パン工房ぐるぐる 栗原 淳平氏

東京・上野駅から JR常磐線特急で1時間、水戸で水郡線に乗り換え更に20分、上菅谷の駅に降り立つ。駅前に商店街らしきものはない。のんびりとした住宅地を歩くこと10分。「パン工房ぐるぐる」那珂本店が見えてくる。「デイジイ」で修業した栗原淳平氏が、2016年6月2号店をオープン、ここを本店とした。テレビで話題となった美味しいクリームパンが買える店として、地元の人々の間で話題になっている。

一日3,400個売れた名物パン

「パン工房ぐるぐる」といったら、なんといっても看板商品は「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」195円であろう。2016年6月、人気テレビ番組でこの「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」が紹介されたが、その週末、当時本店のひたちなか店では一日3,400個を販売するという記録を達成した。それまでは頑張って一日1,000個弱だったというから、スタッフ一同、大変な経験をしたことになる。

「大変でしたが、自分たちもここまでできるんだ!という自信につながった」と栗原シェフ。その後、別のテレビ番組でも放映され、「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」の人気は不動のものとなった。

「今でも1店舗で平日900個、土日は1,300個売れています。一人で5、10個と箱入りで買う方も多く、ありがたい限りです」。

人気の秘密

この「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」が、なぜそれほどまでに人気なのか。その秘密を聞いてみた。

「まずはなんといってもその味です」と自信を見せる栗原シェフ。生地量40gに対しクリーム60gを注入しているのだから、手に持つとずっしり重く、中には自慢のクリームがぎっしり。名前の通り、地元茨城県の奥久慈地方の卵を使用、その卵のコクにホイップクリームを合わせ、とろりと滑らかなクリームに仕上げている。

「パンは引きがあってムチッとした食感にしたかったので、菓子っぽいブリオッシュ生地ではなく、あくまでパンとしての生地にこだわりました」

栗原シェフが生み出したこのクリームパンの強みは、冷凍しても美味しさが保てるということだ。冷凍してもパサつかず、クリームは硬くならず、半解凍してアイスクリーム感覚で食べられる。冷凍できることにより、持ち運びや保存に便利となり、お土産としても活用されている。

味のバリエーションも、今ではプレーンの他、チョコ、ティラミス、抹茶、いちごの5種類があり、この中から常時3種類を提供。訪問した10月はプレーンと、チョコと新製品のティラミスの3つの味が並んでいた。土産用に最適な100円の化粧箱と、5個入る無料のサービス箱も完備。かくしてこのクリームパン人気は衰えず、6月以降ずっと多忙な日々が続いている。

お客様が美味しいと思うパンを提案

ぐるぐるの人気はこの「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」だけではない。菓子パンから総菜パン、デニッシュ、サンドイッチ、そしてバゲットなどのハード系まで約100種類が揃う。もちろん、デイジイ出身として、あのデイジイのヒット商品「クロワッサン B.C.」 216円もある。昼前に訪れると、近隣の主婦からお年寄りまで、お客様が途切れることはない。ランチ用なのか、「奥久慈卵タマゴサラダ」108円や「焼きそばパン」108円、地元の野菜を使ったサンドイッチ類が、次々と売れていた。


人気のパンを問うと、1位は圧倒的に「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」という。 2位は「塩バターロール」108円だ。バターの香りと米粉を配合したモッチリした食感が人気という。そして3位は「全粒粉の具だくさんカレーパン」173円である。全粒粉を4割も配合、ここにしかない味わいに仕上げている。

4位は「究極のメロンパン」130円だ。焦がしバター風味のメロン皮に、中には塩バターを入れ、外はカリッと中はしっとり、甘じょっばい味わいに仕上げている。

地元の素材を使ったここだけのパン

「ぜひ食べてもらいたいお薦めのパン」を尋ねると、「干し芋シュトーレン」1,620円との答えが返ってきた。これは地元で開催された干し芋品評会で、日本一に輝いた飛田勝治農園の蜜漬けの干し芋を使ったものだが、まさにここにしかないシュトーレンといえる。クリスマスにこだわらず、この干し芋が出回る1月~3月ごろに販売する予定という。

栗原シェフはこのように地元の素材にこだわったパンを多数提案している。特に実家の栗原農園自慢の野菜や穀物を使ったメニュー提案には力が入る。

お薦めの「チーズとネギでええやん」130円もそうだ。笑福亭 鶴瓶さんが名付けたという実家の栗原農園のネギ「ネギでええやん」を生のまま使用し、チーズと合わせたものだ。食べてみるとネギとチーズがマッチして絶品。おつまみパンとしても最高だ。

「ごはんパン」もお薦めという。実家の栗原農園の最優秀賞に輝いたコシヒカリを配合した惣菜パンはまるでおにぎりを食べているような懐かしい味わいだ。ごはんを炊くために厨房には炊飯器まで用意しているほどだ。高菜162円や金平ゴボウ162円、ベーコン、チーズ餅184円は、どれもなつかしく、いくらでも食べられる。

ベースは「デイジイ」

子供のころから、お菓子づくりが大好きだったという栗原シェフ。中学2年の時に初めてパンづくりを体験、その難しさを知り、チャレンジ精神に目覚めたという。日本菓子専門学校パン科に進み、そこで講師を務めていたデイジイの倉田シェフと出会う。そのオーラに惹かれ、卒業とともにデイジイに入社することとなる。ここでパンづくりはもとより、店づくりやスタッフの育成などあらゆることを学んだという。イオンモール川口キャラ店の店長を経験、9年3か月の修業の後、独立することとなる。

高校生のころからパン職人として独立を考えていたという栗原シェフ、故郷の茨城県に戻り 2011年10月、「パン工房ぐるぐる」ひたちなか店をオープンした。

パンづくりでお客様を幸せに

独立するに当たって、店名をどうするかについて考えたという栗原氏。「カッコいい名前より、日本らしくひらがなで、お客様に店名を呼んでいただき、何度もリピートしていただけるように「ぐるぐる」と名付けました」。力強くて個性的なぐるぐるの文字は、デザイナーと何度も検討し決めたという。こだわりの人なのである。

店のコンセプトは「パンづくりでお客様を幸せに」と決めた。「忙しいとつい効率を考えてしまうので、デイジイを退職し、まっさらな状態のときに考えた」と栗原氏。理念は「おいしいパンを幸せに楽しく食べていただき、人を幸せにする会社を実現」と定めた。この理念は毎日唱和しているという。

モットーは「お客様が美味しいと思うパンをつくること」とキッパリ。「ハード系のパンはパン職人としてはカッコいいが、日々食べたいというパンではない。皆、菓子パンや惣菜パンが好きですから、地域のお客様の好みに合ったパンをつくりたい」と明言する。こうした地元の人々に寄り添ったパンづくりに注力していることが、ぐるぐる人気の秘訣ともいえる。

粉選びのモットーは「こういうパンをつくりたいというのが前提で、美味しいと思う食感になる粉を選んでいる」という。そしてベースは修業したデイジイだが、最近は自分の求める味に従い、粉の種類が増えてきたと。

理想的な仕事環境を

那珂本店は2016年6月にスタートしたが、店舗づくりや厨房、スタッフの休憩所まで、理想的な環境を完備、働きやすいように工夫している。レジには自動つり銭機を導入、入って間もないアルバイト店員でもレジができるよう対応。厨房内も空調設備を完備、夏でも涼しく快適に仕事ができるように配慮している。30坪ぐらいあるという広い厨房にはドウコン、自動分割器、テフロン加工の鉄板を導入するなど、スムースに仕事ができる環境を整えている。

パン業界は長時間労働など、昨今、労働環境が問題視されているが、そこを解決し、どれだけ長く働いてもらうかが課題、という栗原シェフ。完全週休2日を実現するだけでなく、年間13日の有給休暇も提示している。

「安心して長く働けるよう、終身雇用宣言をしました」と栗原シェフ。産休や介護休暇なども導入、スタッフ一同楽しく仕事ができるよう、働きやすい環境整備に余念がない。

「一日中ニコニコしているのが自分の最大の仕事と思っているが、なかなか難しい」と笑顔を向ける栗原氏、スタッフ一人ひとりの自主性を尊重し、和気あいあいと仕事ができるよう努力しているという。

茨城県といえば「ぐるぐる」と言われるように

33歳という若さで2店舗を経営する栗原シェフ、モンディアル・デュ・パンなど、パンの世界大会にチャレンジし、パン職人としてさらに上を目指したいという情熱に燃える。しかし一方、家族との時間を大切にしたいという思いに揺れるという。 テレビ放映でますます多忙になっ た今、新製品開発の時間もなかなか取れず、もっと店にどっぷり浸かっていたいという思いもある と本音を語る。

目標は「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」を、クリームパンといえば「ぐるぐる」と言われるようスタンダードにしていきたいという。

そして「パン工房ぐるぐる」が茨城県を代表する店となるようにしたいと抱負を語ってくれた。それには今の人気をきちんと持続していくことが大切と、口元を引き締めた。

地元の素材を生かし、地元のお客様に寄り添ったパンづくりでお客様を幸せにしたい、と意気込む栗原シェフ。地元愛に燃える真摯なパン職人の想いは確実にお客様に浸透しているようだ。

栗原 淳平

1983年茨城県生まれ。常陸太田市で育ち地元の高校を卒業後、日本菓子専門学校パン科を経て、埼玉県川口市のデイジイへ入社。倉田博和氏のもと約 10年間修業。その間コンテスト入賞や講習会、店長を経験。パン技術はもとより、お客様やスタッフへの感謝の気持ちを学ぶ。 2011年「パン工房ぐるぐる」ひたちなか店をオープン。2016年6月には那珂本店をオープン。「奥久慈卵のとろ~りクリームパン」はテレビでも放映され、大ヒット商品として知られる。

パン工房ぐるぐる 那珂本店

郵便番号/311-0105
住所/茨城県那珂市菅谷5360-1
最寄駅/JR水郡線上菅谷駅
アクセス/上菅谷駅より徒歩12分
電話/029-352-2560
営業時間/9:00~18:00
定休日/水曜日

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年12月)のものです

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