ニッポンのブーランジェ

個性的なパンでお客様をニコニコ笑顔にしたい 
vol.14 ブーランジェリー nico 近藤 将吾氏

東京駅からJR東海道線で約1時間、平塚駅に降り立つ。北口からららぽーと方面に歩くこと10分。大通りから1本入ったところに、「ブーランジェリー nico」がある。ドンクやル・ルソールで修業した近藤将吾シェフが、地元に近いこの場所にオープンして2年。ハード系の美味しいパンが買えると、地元のパン好きの人々に愛されている。

個性的なパンのパラダイス

通りから少し奥まった店内に足を踏み入れる。木の温もりが感じられる店内には個性的なパンがズラリと並び、訪れた人をワクワクさせる。平台にはバゲット240円(税別)などハード系を中心に、クロワッサン、惣菜系のタルティーヌ、菓子パン、デニッシュ、サンドイッチなど約80アイテムが揃う。丁寧につくられたパン一つひとつに近藤シェフのワザが光る。

昼時ともあって、店には近隣の主婦やシニア層、OLやビジネスマンらが次々と訪れる。「近くに市役所があるので・・・」と近藤シェフ。常連客も「今日はどれにしようか?」と悩むのが楽しそうだ。

一番人気はクロワッサンだが、ランチタイムには自慢のサンドイッチやホットドッグなど惣菜パン、タルティーヌなどのデリ系がよく売れるのだという。

バゲットやチャバッタを使ったタルティーヌ3種350円は、自家製ベシャメルソースをぬり、その上に具材をたっぷりのせて焼いたものだ。無添加ソーセージとナス、ズッキーニなど野菜を使ったものは、彩りも鮮やかで食欲をそそる。またじゃがいもとチキンは2種のチーズとのマッチングが味の深みを増している。そしてネギとチキンのタルティーヌもブルーチーズとエダムチーズとの組み合わせが独特の味わいをつくりだしている。できるだけ焼きたてを食べてもらいたいと、小まめに何度も焼き上げる。その丁寧さがファンを惹きつけている。

近藤シェフがつくり出すカレーパン 200円もおもしろい。12種類のスパイスで煮込んだオリジナルのチキンカレーを、牛乳仕込みのパン生地で包んだ焼きカレーパンだが、他にはない個性を放つ。

こだわりの食事パン

近藤シェフにもっと食べていただきたいお薦めのアイテムを聞くと、「パン・ド・ロデヴ」と「フォカッチャ」の答えが返ってきた。

レーズンから起こした自家製酵母を使ったロデヴは、外側はガッシリしすぎず、中はみずみずしくもちもちで、香ばしさと粉の甘さが引きたつ。「酸味が出すぎると食べにくいのでレーズン酵母を使っている」と近藤シェフ。粉の風味とレーズン酵母のマリアージュが、他にない近藤流のロデヴをつくりだしている。価格もホールで500円、1/2カット 250円とリーズナブルだ。

そして最近力を入れているのが、「フォカッチャ」1/4カット 220円という。セテュヌ ボンニデーの有形シェフに教えてもらったというフォカッチャは、ふっくらもっちり。手ごねで仕込み、大きく焼いているため、「こんなにも!」と驚くほどもっちりしており、いくらでも食べられる。

ハード系が充実

80アイテムも揃うパンの顔ぶれをよく見ると、ハード系が多いことに驚く。そこはドンクやル・ルソールでの経験が息づいている。バゲットはもとより、大納言 200円、パン・オ・フィグ 190円、カカオ・ド・ショコラ 220円。そしてクルミのバンズにクリームチーズをたっぷり使った、フロマージュノア 220円も人気の商品だ。

「ウチでは普通のあんぱんは売れないんです」と近藤シェフ。人気はバゲット生地に栗あんとバターを挟んだ「マロンバター」160円だ。そして「クルミとあんこ」210円もハード系の生地とあんこが絶妙なハーモニーを放ち、お客様に支持されている。

一人舞台で奮闘

この 80アイテムをほとんど近藤シェフが一人でつくるというから驚きだ。広くてすっきりとした厨房では、粉の計量から仕込み、洗いもの、掃除まですべて一人でこなす。「なんとかもう一人雇いたいと思っているのですが、なかなか来ていただけない」と近藤シェフ。すっかり一人舞台が慣れたと手際よくパンづくりに励む。

「本当はベーコンもウチでつくりたいが、手がまわらなくて・・・」と近藤シェフ。
自家製だと香りも味ももっと個性的なものを提供できるのに・・・と歯がゆそうだ。今は一人でできることに精一杯手を尽くす。その努力を怠ることはない。店では一人でも、地元の料理人ら仲間との交流から学ぶことが多いという。

「頑張っている先輩として尊敬しているのはカタネベーカリーの片根シェフですね」と語る近藤シェフ。「ストイックでパンづくりに対する真摯な姿勢がスゴイ」と絶賛する。互いに多忙を極めており実際の交流はないが、共にドンク出身ということもあり、あこがれの存在であるようだ。

ヨーロッパでのパンとの出会いがベーカリーへの道に

元々パン屋を目指したわけではないが、若いころ世界中を放浪。ヨーロッパでパンに出会い、パン屋もいいなと思ったのがきっかけと語る近藤シェフ。2007年にドンクに入社。小田原店、横浜そごう店で 5年間、パンづくりの基礎を学ぶ。その後、「ル・ルソール」のパンが好きだったこともあり、ル・ルソールに入社、清水シェフに師事することになる。何事にも熱心でストイックな清水シェフは厳しかったが、丁寧に美しくつくる技術など学ぶことが多かったと述懐する。

「ル・ルソール」では2年修業したが、パンづくりだけでなく、洗練されたディスプレイや陳列はその時に学んだことを活かしているという。確かに店の雰囲気、ハード系が強い品揃えなどは一瞬、ル・ルソールを思わせるところがある。

そして 2014年、奥様の真理さんの地元である平塚に「ブーランジェリー nico」をオ ープンさせることになる。店名の「nico」は自分のパンを食べてニコッと笑顔になって欲しいとの想いを込めて名付けたという。

個性とこだわりで差別化

すぐ近くには大手食品スーパーがあり、入口すぐにはパンコーナーがある。だからこそ差別化した商品で勝負しなければと、パン職人近藤シェフのチャレンジ精神が燃える。最初からハード系に力を入れているのもその一つだ。

ル・ルソールの「バゲットなどを一つの材料と考えて、メニュー開発するやり方は大変勉強になった」と近藤シェフ。ここでもそのアイデアを取り入れている。

生地は長時間冷蔵発酵でいつでも焼成できるように工夫している。そのために広い厨房には、ドウコン、冷蔵庫などを充実させ、なんとか一人でもできるようにしている。 個々のパンの量が少ないので、番重は使わないと近藤シェフ、確かに厨房では番重が見当たらない。だからこそよけいすっきり広く見えるのかもしれない。
「もう一人雇えたらいいのですが・・・」といいながら、今は一人舞台を楽しんでいるようだ。

といってもサンドイッチやタルティーヌなどは奥様と二人三脚だ。アパレル出身という奥様は、パン関係は結婚してから関わったというが、今ではサンドイッチ、タルティーヌなどは奥様の担当だ。その丁寧な仕事ぶりは近藤シェフも信頼を寄せている。

自分のパンでお客様を笑顔に

「お客様に喜んでいただけるパンをつくりたい」と日々奮闘する近藤シェフ。店名にあるようにお客様を笑顔にするのがモットーだ。そのために妥協は一切ない。
大磯出身でサーファーでもある近藤シェフの地元愛は大きい。野菜は実家や、知り合いの農家のものを使用。「地元の食材で、お客様を笑顔に」と、そのための手間暇は惜しまない。

今は奥様と二人三脚だが、もう一人職人さんが入ってくれたら、やりたいことがたくさんあると夢を膨らます。「焼き菓子にも力を入れたいし、店の前をテラス席にし、そこで食べていただけるようにしたい・・・」と。

オープンして2年だが、積極的に宣伝していないのでまだ認知度も低い。もっと認知度を上げ、自分のパンを食べてもらいたいというのが一番の願いという。それには「nicoのパンをまた食べたいと思っていただかなければ・・・」と日々のパンづくりに余念はない。まだ 33歳という近藤シェフ、nicoの名の通り笑顔が印象的な近藤夫妻のこれからのチャレンジが楽しみだ。

近藤 将吾

1982年神奈川県生まれ。20代前半にヨーロッパ放浪中にパンに魅力を感じ、2007 年に 25歳で「ドンク」に入社、5年間パンづくりを学ぶ。その後「ル・ルソール」で 2年間修業。2014 年に、独立するなら地元湘南でと、平塚に「ブーランジェリー nico」をオープン。ハード系を中心とした個性的なパンで人気店に。

ブーランジェリー nico

郵便番号/254-0036
住所/神奈川県平塚市宮松町7-2落合ビル 1F
最寄駅/JR東海道線平塚駅
アクセス/塚駅北口から徒歩10分
電話/0463-86-6900
営業時間/8:00~19:00
定休日/月曜・火曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年12月)のものです

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