ニッポンのブーランジェ

丁寧な仕事と確かな品質でちょっと贅沢を
vol.17 Petit Riche(プティ リッシュ) 島田 淳一氏

JR京浜東北線・南浦和駅西口から住宅地を歩いて5分、真っ赤なファサードの可愛い店が見えてくる。「Petit Riche(以下プティ リッシュ)」である。「ドゥース・フランスビゴの店」で修業した島田淳一シェフがこの地にパン屋をオープンして約7年。本格的なパンが買える店として地元の人々に愛されている。

赤色の元気なパン屋さん

「真っ赤なパン屋さん」として親しまれている「プティ リッシュ」。ドアを開けて中に入ると、大きな平台に、ズラリと並ぶパンが目に飛び込んでくる。そして揃いの赤色のポロシャツを着たスタッフの「いらっしゃいませ」の元気な声に迎えられる。 昼近くともなれば、平台には日替わりのピザや、惣菜パンがズラリと並び、近隣のお客様が次々と訪れる。

ランチタイムの人気メニューは、「本日のピザ」210円や「本日のタルティーヌ」190円など具材をふんだんに使った総菜パンだ。

特にバゲット生地に具材をたっぷり包んだ“フランス”シリーズは、「ちょい辛カレーパンフランス」190円、「豚の角煮フランス」190円、「味付き煮卵フランス」190円、「きんぴらごぼうフランス」190円など、7アイテムが揃う。中でもカレーパンはカレーとゆで卵のコントラストが印象的だ。甘辛く煮た油揚げの中に煮卵を丸ごと入れた「味付き煮卵フランス」は、煮卵と甘辛い油揚げとシンプルな生地の味がマッチして面白い味わいだ。生地はシンプルなバゲット生地を使用、具材の味わいを引き出している。

勿論、惣菜パンだけではない。食パンなどの食事パン、菓子パンの定番、「有機小豆のこしあんぱん」170円や、「クリームぱん」170円、「メロンパン」170円などが勢揃い。そして美しいデニッシュ類やガレット類が、お客様の目を引き寄せる。そしてフランスの伝統菓子「カヌレ」も並ぶ。こうしたパンの顔ぶれを見ると、島田シェフが修業した「ドゥース・フランスビゴの店」の食文化を、きっちりと引き継いでいることを感じさせてくれる。

サンドイッチとドーナツなしで100アイテム

人気メニューベスト3を挙げてもらうと、1位は「クロワッサン」170円という。取材に訪れた日は、11時30分で既に完売。次は15時に焼きあがるという。焼き上がりを待ってようやく買うことができた。クロワッサンはボリュームたっぷりで、バターの香りとサクサクの食感がたまらない。人気1位というのもうなずける。ビゴで12年間修業した島田シェフの自慢の逸品といえる。

第2位は定番の「角型食パン」260円だ。住宅地だけあって、リーズナブルな価格の食パンは欠かせない。小麦粉の甘みが引き立つとして国産粉を中心にブレンドしているという。

そして第3位は得意の「バゲット」260円という。こちらも粉の甘み、香りを大切に、数種類をブレンドしている。クラストは香ばしく、サックリとした食感と粉の旨みがなんともいえず、いくらでも食べられる。より多くの人に食べてもらいたいと「プチバゲット」80円も揃えている。

「プティ リッシュ」にはドーナツなどの揚げ物やサンドイッチがない。「ビゴにはドーナツ類がなかったし、サンドイッチは自分の担当ではなかったので経験がないんです。やったことがないことには手を出さない方がいいかな」と島田シェフ。その代わりに焼き込み調理パンを充実させ、100アイテムを創り出している。

食事パンが売れる店

ここ南浦和はパンの激戦地区だ。すぐ近くには丸広百貨店があり、ベーカリーも入っている。また駅の反対側から徒歩十数分の場所には「ブーランジュリー・K・ヨコヤマ」がある。そこで島田シェフはドゥース・フランスビゴの店で習ったハード系を充実させることで、差別化を図っている。
島田シェフの一押しを伺うと「古代パン」200円(1/2カット100円)という。イメージで名付けたというが、塩こうじを使った古代パンは、ふんわりもっちりしていて味わい深い。「どちらかというとロデヴに近いですね」と島田シェフ。ミキサーは使わず、粉と塩こうじとドライイーストを軽く混ぜ、一晩かけてじっくり発酵させるという。この「古代パン」が、ジワジワと人気商品に育ってきているのだ。

その他、「カンパーニュノア」230円や「カンパーニュノアレザン」230円、「オレンジとクルミ、チョコとマカデミアンカンパーニュ」310円など、各種カンパーニュを充実。「このカンパーニュ系が売れているんです」と島田シェフ。ここは本格的な食事パンが揃う店として、しっかり認知されているようだ。

6種類の生地から100種のバリエーション

100アイテムものパンを揃えているが、生地の種類は6種類のみという。食パン生地とバゲット生地、菓子パン生地やクロワッサン生地など、基本の生地からさまざまなバリエーションを創り出す。「パンの技術者は自分を入れて2人だから、これ以上、生地の種類は増やせない」と島田シェフ。基本の生地からアイデアを膨らませ、お客が喜ぶパンを創り出すのが島田流といえる。クロワッサン生地を使った「プチクロワッサン」シリーズは、金ごま、ベーコン、わさびと3種類そろえているが、見た目も可愛らしく1個50円と買いやすい。手間ひまを惜しまないその丁寧な仕事ぶりには感動する。

原点は銀座の「ドゥース・フランスビゴの店」

島田シェフがパン職人を目指したのは札幌の大学時代のことだ。ベーカリーでアルバイトをしているうちに「パン屋さんもいいな!」と。大学の経済学部を卒業した後、パンの専門学校に入り直し、1年間学ぶ。そして銀座プランタンの地下にある「ドゥース・フランスビゴの店」に入ることとなる。
そのとき先輩として島田シェフを指導したのが、ビゴ東京オーナーの藤森二郎氏である。当時はビゴ氏自身が1か月に1~2度は芦屋から上京、パンの品質をチェックしていたという。勿論、今、金沢で「オーボンパンビゴの店」を経営する細田実氏も指導してくれた。
バゲットやクロワッサンが得意なのは、このビゴ時代の経験からである。特にバゲットは「ドゥース・フランスビゴの店」では多くのレストランに納品していたため、品質が厳しく問われた。少しでも問題があれば、レストランから突き返されたという。
ここで12年間、パン職人としての腕を磨くこととなるが、パンづくりの技術はもとより、フランスの食文化についても学んだと島田シェフ。

「プティ リッシュ」をオープン

12年間の経験を携え2010年、住み慣れた南浦和に「プティ リッシュ」をオープンすることとなる。島田シェフが大切にしたのは「ビゴの伝統を崩さないこと」。ビゴで学んだ糧をもとに、フランスの食文化と日本の良さを融合させたのが「プティ リッシュ」ということになる。
店名のプティ リッシュとはフランス語で『小さな贅沢、ちいさな幸せ』という意味だ。地元のお客様に自分のパンで「ちょっとした贅沢、リッチ感」を提供したいという想いで名付けたという。
「イメージカラーを赤にしたのは、元気の出る色だし、美味しそうなイメージでしょう」と島田シェフ。店のファサードやディスプレイも赤色で統一、オシャレで元気さを強調。何より印象的なのは、揃いの赤色のポロシャツで、働くスタッフたちである。「プティ リッシュ」にくるだけで元気を貰えそうだ。

ライブ感を出すためにオーブンは店舗側に向けて設置した。「焼き立てのアツアツをお客様に提供したい」と島田シェフ。パンを焼く様子が見え、焼きたての香りが漂えば、購買意欲をそそられる。

そして島田シェフが大切にしているのはお客様との対話である。実際、店の前で撮影しているときも、道行くお客様との挨拶、会話は欠かさない。島田シェフとスタッフたちの優しい笑顔が、親しみのあるパン屋さんとして支持されている。

丁寧な仕事にこだわる

パンづくりでこだわっていることを問うと「丁寧につくること、そして多少高くとも良い材料を選ぶこと」との答えが返ってきた。確かな材料を使い、一つひとつ丁寧につくること。その想いは店頭に並ぶパンをみればわかる。どれも完成度が高く、銀座に行かなくても、ここで同等のパンが買える。その価値はお客様がよく認知している。だからこそ、「プティ リッシュ」のファンが増殖している。

今後の夢を伺うと、「このまま現状維持ができればいいんです」と柔和な笑顔を向ける島田シェフ。急がず、気張らず、毎日を懸命に・・・。そんな島田シェフだからこそ、スタッフからも、お客様からも信頼が厚い。
今は無理だが、将来は得意のバゲットを使ったサンドイッチを手掛けたいと島田シェフ。現在の惣菜パンにカスクルートなどのバゲットサンドが加われば、お客様のランチ需要をさらに充実できる。フランスの香りがする本格的なパン屋さんとして、愛される「プティ リッシュ」。島田シェフの真摯な生きざまが、さらにファンを増やし続けることであろう。

島田 淳一

1974年埼玉県生まれ。大学を卒業後、東京製菓学校に入学、製パンを学ぶ。その後、銀座プランタンにある「ドゥース・フランスビゴの店」で12年間修業。2010年、南浦和に「Petit Riche(プティ リッシュ)」をオープン。以来、本格的なパンが買える店として親しまれる。

Petit Riche (プティ リッシュ)

郵便番号/336-0025
住所/埼玉県さいたま市南区文蔵2-1-4
最寄駅/JR武蔵野線・京浜東北線 南浦和駅
アクセス/南浦和駅から徒歩5分
電話/048-866-3500
営業時間/10:00~19:00
定休日/月曜、第1日曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年6月)のものです

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