パンのテーブル

バリエーションも様々な人気の塩パン

  • トーホーベーカリー
  • ブーランジェリー セイジアサクラ
  • ブーランジェリー トースト
  • パン工房 風見鶏(かざみどり)

トーホーベーカリー

三鷹の森ジブリ美術館のすぐ近くにある「トーホーベーカリー」は、創業から60年以上の老舗ベーカリー。100種ほどあるすべてのパンに、小麦粉のうまみを引き出しやすいルヴァン種を使用。小麦粉は10数種そろえ、パンの種類によって2~3種類をブレンドしています。人気のクリームパンやカレーパンを始めとしたパンのおいしさはもちろんのこと、お店のモットーでもある「焼きたて・揚げたて・作りたて」が、お客様の心をとらえる繁盛店です。

トーホーベーカリー
住所:三鷹市下連雀1-9-19
電話番号:0422-43-6311
営業時間:7:00-19:00
定休日:日曜・祝日・第3月曜

「ゆめちから」をブレンドし、モチモチ感をアップ


店長の松井成和さんは、視察で訪れた愛媛で塩パンのおいしさに出会い、2013年12月、都内ベーカリーでもいち早く、ソフトフランス生地をベースにした塩バターロールを自店のラインアップに取り入れました。
「これまでのパン屋の常識からすると、パン生地にバターを包むだけ、しかも包んだバターが溶けて外に流れ出るという、ある意味アバウトな仕事で、正直なところ『そんなんでいいの?』と思いました。でも、食べてみると確かにおいしい。そして、つくってみると、ほどよくバターが流れ出す絶妙な加減が意外と難しい。スタッフたちは『もうこれで十分なんじゃないか』と言ったのですが、『あともう一歩、もっとおいしく』と思って、1カ月以上試行錯誤を繰り返しました」(松井さん)。

その後も改良を重ね、小麦粉は『リスドオル』に新たに国産小麦の「ゆめちから」をブレンドし、いっそうモチモチした食感になりました。
「小麦粉をブレンドすることで、それぞれのいいところを引き出す。製粉会社さんでも、ブレンドしたものを売っていますが、いろんな粉をいろんな配合で試してみるのがパン屋の楽しみでもあるんです」(松井さん)。

こうしてできあがった『GOLD塩バターロール』には、1個あたりに北海道産バターを10g、塩はフランス産岩塩『ゲランドの塩』を使用しています。
「バターロールよりさらに上の、最上級のパン、という意味でGOLDを冠しています。トッピングする岩塩も、普通の精製塩から始まって、世界のいろいろな岩塩を試して、焼いたときの色や存在感があるゲランドの塩に行きついたのです。塩パンはシンプルなだけに、やはり素材の違いでおいしさが変わってきますね」(松井さん)。


来て楽しい、また来たくなるようなサービスを


訪れた当日は台風接近のあいにくの天気でしたが、店内はパンを買いに来るお客様が途絶えません。この人気を支えるのが「焼きたて・揚げたて・作りたて」の魅力。人気のGOLD塩バターロールやクリームパンも、売れるからといって一度にたくさん焼かず、1日に7~8回のサイクルで焼いています。パンのバリエーションが豊富ですから、作業はいっそう煩雑になります。「○○は残り△個です」といった販売スタッフのコールを頼りに、製造のスタッフ1人1人が、自分が今どの作業をするのが最適かを判断していくそう。

また、レジに並んでいるお客様のトレイに今焼きあがったのと同じ商品がのせられていたら、「お取替えしますか?」と声をかけることも、ごく自然に実践されています。

「下を向いて目の前の作業だけに没頭していては、いい仕事はできません。製造スタッフにも販売スタッフにも、顔を上げてまわりの様子に気を配るようにと、常に話しています。『胸を張って・声を張って・アンテナを張って』仕事に取り組むことが、お客様の満足につながっていくと思うのです」(松井さん)

また、季節ごとのイベントにも力を入れ、夏休みには、パン教室と子ども店長のイベントが恒例です。3代目に当たる松井さんは、小学生のころからパン屋になると決めていたそう。「自分が小学生のとき、余った生地をもらって好き勝手にパンを作っていたのですが、たまに友だちも呼んで一緒にやると、すごく喜ばれたのを思い出して。フロアで接客体験をしてもらう『子ども店長』は、車の人気CMから着想しました」(松井さん)

「こうしたイベントは、お客様に喜んでいただくため、というのはもちろんですが、例えばパン教室で、キャラクターの顔をデコペンで描くお手本をスタッフがやって見せますよね。すると『すげ~、うめぇ~~~』なんて、子どもたちから賞賛の嵐。普段ルーティンでやっていることに、ストレートにこんな反響がある。直接かかわったスタッフにとってはとてもいい経験ですし、ほかのスタッフたちにもお客様の声を伝えて、イベントの意義を共有できるようにしています」(松井さん)。

魅力的な新商品の開発やひとつひとつのパンをよりおいしくするこだわりに加え、焼きたての香り、スタッフの心遣いや感動体験……形には残らないサービスも、お客様のリピートにつながる秘訣のようです。

お店の詳細情報、商品情報はこちら!

ページのトップへ戻る

ブーランジェリー セイジアサクラ

厨房9坪、店舗4坪のコンパクトな店内には、3種の自家製酵母種(ブドウ、柚子、ホップ)を使った、約45~50種の表情も豊かなパンが揃っています。オープン時から同店の核となっているのが『Ready to Bake』(=ホイロ後の生地を、あとは焼くだけという状態で冷蔵する方式)です。時間をかけることで引き出される風味やおいしさに加え、焼きたてのパンをタイミングよく店に並べることができ、作業効率もアップする、お客様にもお店にとってもメリットの大きい取り組みです。

ブーランジェリー セイジアサクラ
住所:東京都港区高輪2-6-20 朝日高輪マンション104号
電話番号:03-3446-4619
営業時間:9:00~18:30
定休日:木曜

パン生地とバターのハーモニーが塩パンの魅力


同店の「塩パンゴールド」は、生地の中にバターを包み込むのではなく、生地の上にのせて焼き上げるのが特長です。
「塩パンのおいしさとは、もっちりした生地にバターがしみ、底の部分はカリッと香ばしく揚げたように焼ける点。バターと生地のハーモニーがいちばんのポイントです。ブームの火付け役となった愛媛のパン屋さんをリスペクトしつつ、そのおいしさをセイジアサクラならどう表現するか、というところから入っていきました」(オーナーシェフの朝倉誠二さん)。

生地にはブドウ酵母種を使い、粉はソフトフランスに近い配合にしているそう。約20時間の長時間発酵でうまみと熟成が生まれ、ブドウ酵母種が生地のpHを下げるので、時間が経っても十分な伸張性を得られます。生地を平たく大きく広げ、中央にスケッパーで溝をつくり、ここにポマード状の発酵バターをたっぷりとのせて窯に。バターが上から下にスーッとスムーズに浸透することで、生地の上がりを妨げることもありません。

塩パンは焼きたてがいちばんおいしく、バター感が食欲をそそります。同店は、売り場の奥に厨房というレイアウトで、その中間に窯を配置しています。窯から取り出した熱々の塩パンに、仕上げの溶かしバターをたっぷり塗る作業もお客様の目の前で。香りとともにピチピチとバターのはじける音がして、この場面に遭遇したら買わずに帰るのが難しい?!

「塩パンは、パン業界にとって久々のヒット商品です。一時のブームで終わらせず、定番の食事パンに育てていくためにも、『塩パンって、やっぱりおいしいね』とお客様に喜んでいただけるものをつくっていきたい。『Ready to Bake』のシステムにのせることで、塩パンの「焼きたて」のおいしさをより生かすことができます。大きく焼くことにより、生地のうまみや香りを逃しにくいですし、成形も簡単になります。1つの決まった形にとらわれずに、柔軟な発想をし、いろいろな切り口で表現できるのが、街のリテールベーカリーの強み。つくりはシンプル、しかも付加価値の高い商品は、店にとって重要な戦力になります」(朝倉さん)。

「Ready to Bake」は街のベーカリーが生き残るための試み

同店独自の「Ready to Bake」は、ヨーロッパではポピュラーな「プースラント法」(10度前後の低温で時間をかけて発酵させる)、大手メーカーの「レディ・トゥ・ベイク」(フリーザーから取り出してすぐ焼ける冷凍生地)など、既存のさまざまなものから、アイデアを取り入れて構築されています。

パンマニアのコミュニティサイトで、2014年バゲット部門金賞受賞の「黄金色のバゲット」は、ブドウ天然酵母と長時間熟成による香ばしさや味の濃さがマニアから高く評価されました。このバゲットも、また同店一番人気の油で揚げない・リッチな具材のカレーパン「チーズカレー」も、「あとは焼くだけ」の状態でリターダーの中に常に待機していますから、いつでも焼きたてを出すことができます。

とはいっても、通常なら、ホイロ後の生地は発酵でふくらんでグルテン膜が薄くなった状態。これを低温のリターダーに入れると、どうしてもボリューム低下が起こります。そこで、低温によるダメージを受けずに、グルテン膜をしっかり支える生地にすること、また、生地を冷たいままで窯に入れても、素早く下から持ち上げて窯伸びするように、綿密に計算された生地づくりをしています。また、塩パンで言えば、平たい形で焼くのは熱効率を上げるという効果もあるからなのです。

「薄利多売と長時間労働という昔ながらのベーカリーのあり方を、商品のクオリティを上げることでブランド化し、利益をのせていく方向に変換していく。『Ready to Bake』は、そのための製パン技術や製造・販売のオペレーションをひっくるめた新しいビジネスモデルです。バリエーションが求められ、焼きたてを重視する日本のパン店に合った方法だと思っています」(朝倉さん)。

お店の詳細情報、商品情報はこちら!

ページのトップへ戻る

ブーランジェリー トースト

巣鴨の白山通り沿いにある「ブーランジェリー トースト」は、オーナーシェフの土屋正博さんがこの地に店を構えて30年以上。素材を吟味し、時代のニーズに合わせて国産小麦や天然酵母種を使ったパンも多数揃えています。ハード系の食事パンと並んで焼き菓子類にも力を入れ、常時90種ほどのラインアップでお客様をお迎えしています。

ブーランジェリー トースト
住所:東京都豊島区巣鴨1-19-10土屋ビル1F
電話番号:03-3943-2345
営業時間:[平日]8:00~20:00/[土曜]8:00~19:00
定休日:日曜・祝日

「はるゆたか食パン」生地でつくる塩バターロール


「塩バターロール」には、同店で人気の「はるゆたか食パン」の生地を使っています。「愛媛でブームになった塩パンをうちでつくるとしたら、北海道産小麦「はるゆたか」を使ったハードトースト生地がいちばん合うだろうと思いました。中種をつくり、長時間発酵させた生地に国産の有塩バターをたっぷりとはさみ、上に岩塩をのせて焼き上げています。クラムのもっちりした食感に、表面のサクサク感、バターの香りと塩味が加わることで、小麦本来の甘みがさらに引き立ちます。平日は1日80個、週末には5割増しの大ヒットになりました」(土屋さん)。

ところで、「パン生地でバターを包む」といえば、同店には「メープルメロンパン」があります。こちらは15年前からあるロングセラー商品。メープル風味のバターをメロンパン生地で包み、焼成するとシロップとバターがジュワッと溶け出て、パンの内部にできた空洞に甘い香りを閉じ込めます。表面は薄めのクッキー生地でカリカリ・サクサクの食感です。



塩パンが塩バターロールをしのぐ人気に

今春に、平たいタイプの「塩パン」をブラッシュアップした結果、じわじわと塩バターロールを追い抜く人気商品になっているそう。「実は、風見鶏の福王寺シェフがつくる塩パンがとてもおいしくて、風見鶏の厨房で直々にアドバイスいただきました。ホシノ天然酵母種を使ってルヴァン種をつくることはうちでも以前からやっていましたが、小麦粉へのこだわり、加水の違いなどいろいろな発見がありました」(土屋さん)。

リニューアルした塩パンは、「ゆめちから」のブレンド粉、デュラム小麦粉『デュエリオ』を取り入れて、もっちりとしたかみごたえを増しています。トッピングも見直し、プレーン・ベーコン・トマトとモッツアレラ・ベシャメルソースと枝豆の4種類をラインアップ。大変評判がよく、リピートが増えたそうです。

つくり手とお客様をつなげる販売の力は偉大

パンが好きで脱サラしてパン職人になったという土屋さんは、自身を「パン職人であり、パンおたく」とおっしゃいます。「よその店に出かけて、人がつくるものを味わい、研究するのが好きですし、粉を変えてみたり、発酵時間、配合などいろいろ試してみたり、いくつになっても勉強し直すのは楽しい。パンの世界の違う扉が開くんじゃないかとワクワクするんです」

店舗の建て替え中にはコンビニで働いて、在庫管理や売れ筋の分析など、すべてが数字で出てくる世界も体験したそう。その上で「パン屋はやはり売り場の人が偉大です」と土屋さん。「店のホスピタリティを支えるのは無機質なデータではなく、お客様の顔を覚え、今、どんなパンが求められているのかを感じ取り、また、つくり手のこだわりを伝えてくれる販売の力です。それがないと、いくらいいものをつくっても自己満足で終わってしまう。『○○パンは好評だから、もう少し早い時間に店に出して』なんて、ウチの奥さんと女性スタッフからの指示で僕たち厨房は動いています」

お店の詳細情報、商品情報はこちら!

ページのトップへ戻る

パン工房 風見鶏(かざみどり)

重厚なスペイン産の石窯で焼く、こだわりのパンが人気の店。オーナーシェフの福王寺明さんは、ホシノ天然酵母種と独自の配合でつくる中種に、自家製の自然発酵小麦種(ルヴァン種)を自在に組みわせて、小麦粉の持ち味を存分に生かしたパンづくりをしています。シェフによる製パン講習会は国内のみならず海外でも好評で、プロ・アマを問わず、ファンが多数です。

パン工房 風見鶏(かざみどり)
住所:埼玉県さいたま市南区大谷口5338-6
電話番号:048-874-5831
営業時間:10:00~19:30
定休日:木曜・第3日曜

イタリアの「スキャッチャータ」をアレンジ


風見鶏の塩パンは、イタリアの「スキャッチャータ」をアレンジした、小麦粉と酵母と岩塩でつくるシンプルなパンです。10年ほど前からつくり始め、小麦粉や酵母種のバランス、生地の仕込み、焼き方など改良を加えてはどんどん進化し、また、塩パン生地を使ったバリエーションも広がっています。

基本の塩パン生地には、天然酵母種、中種と自然発酵小麦種を使っています。3種類を使うことを福王寺さんは「3D」と呼んでいます。「従来、天然酵母種でつくるパンは、発酵が安定しにくく、長時間かけてつくる重たいパン、というのが一般的でしたが、この方法だと中種による熟成された旨味と発酵力、生種を追い種として使うことで発酵時間を短縮でき、ルヴァン種は乳酸発酵の香りと旨味、生地に進展性をプラスします。香りや旨味、安定した発酵力や生地の扱いやすさを立体的に構成することができるのです」。
また、小麦粉も数種をブレンドすることで「のび、とめ、のばし」という生地の特性を最適なものにしているそう。「たとえば、『とめ』を担うのは、硬質小麦を粗挽きにした小麦粉。生地が膨らむ力にタメをつくり、窯に入れたときに爆発するように一気に力を出して窯伸びをよくする、といった具合です」(福王寺さん)。

「酵母は26℃くらいで最も活発になりますが、塩パン生地は、仕込みの水を低温21~22℃にして20分ほどかけてミキシングして水和させ、いったんここで止めてから、その後さらに少しずつ水を加えていき、最終的にパンドロデヴなどと同じような多加水の生地に捏ね上げています。発酵後、ピザ生地を伸ばすようにして凸凹をつくりながら表面積を広げていく。窯入れ直前に岩塩とオリーブオイルをかけて、300℃の石窯で一気に焼き上げます。酵母も味を出しますし、小麦粉それぞれの持ち味、甘さが引き出され、シンプルなパンですが、立体的なおいしさ、香ばしさに仕上がるのです」(福王寺さん)。

今までの常識にとらわれず、遊び心から生まれるバリエーション


「塩パン生地自体に砂糖などを加えなくても、ほかの素材と合わせることで、やさしい甘みも演出することができます。また、シンプルでやわらかな生地だからこそ、さまざまな素材をあとから混ぜることも可能で、バリエーションは限りなく広がります。うちは、パン屋というより塩パン屋、といってもいいくらい。全体の1/3くらいは、この塩パン生地がベースです」(福王寺さん)。

多彩なバリエーションは、シェフの探究心と遊び心から生まれます。たとえば「塩パン生地を食パン型に入れて300℃で焼いたら、おいしさをギュッと中に閉じ込めることができるのではないか」というアイデア。多加水の生地を型に入れて高温で焼いたら、中に火が通る前に黒こげになってしまうはず、なのですが……。常識にとらわれることなく、焼成の「ひと工夫」で直焼きパンのような深い焼き色、クラムはやわらかくてしっとりもちもち、味も香りも濃い「塩トースト」が実現しています。

また、生地のミキシングが終わった段階でバターを混ぜ込んだのが、塩バタートーストです。バターを均一に練り込むのではなく、点在させることで焼き上がったときにバターの香りと風味がより際立ちます。

生のほうれん草や玉ねぎ、バジルなどは、最初から生地に練り込んでしまうと発酵の途中で野菜の酵素が邪魔をしてしまいますが、発酵完了した生地に混ぜ込んでしまえばOK。フレッシュな野菜の持ち味を生かしたパンができます。

塩パンの魅力は、しっとりもちもちとした、まるで炊き立てごはんのような食感です。米麹を原料につくられた天然酵母を使っているため、みそや醤油など和食と相性がよく、糠みそ漬けなどにもとてもよく合います。「シンプルで、どんなおかずにも合う点もごはんと同じ。塩パンは、日本人の味覚に合った究極の食事パンです」(福王寺さん)。

お店の詳細情報、商品情報はこちら!

ページのトップへ戻る

「塩パン」はシンプルなだけに、小麦粉や酵母など素材の選び方やつくり方に、それぞれのベーカリーの個性やこだわりがよりくっきりと表現されているように感じました。お気に入りを探しに各店に出かけてみてはいかがでしょう。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年11月)のものです

パンのテーブルトップに戻る