パンのテーブル

リッチなおいしさ ブリオッシュ

  • 手づくりのパン 薫々堂(くんくんどう)
  • Pappa Glasen(パッパ グラッセン)
  • CARA AURELIA(カーラ・アウレリア)大丸東京店
  • M/HOUSE(エムハウス)

手づくりのパン 薫々堂(くんくんどう)

国内の名店で修業した亀山修二シェフと、フランスのパン職人国家資格を持つ、店主の裕子さん夫婦が営むベーカリー。焼きたてパンの自然な薫りを大切に、丁寧な仕事でパンを焼き上げています。「パンと焼き菓子とブリオッシュをそれぞれ1つのジャンルとしてとらえている」という修二シェフによるブリオッシュのラインアップも豊富です。

手づくりのパン 薫々堂(くんくんどう)
住所:神奈川県横浜市泉区和泉町3857-10
電話番号:045-805-0403
営業時間:10:00~19:00
定休日:日曜、月曜

バターの薫りを楽しめる、絶妙な口溶けのブリオッシュ

ブリオッシュは、配合やレシピがだいたい同じでも、つくる人によって仕上がりがまったく違うものになるパンなのだそう。「パン屋でアルバイトしていたころ、仲間うちで試しにつくってみたら自分のブリオッシュがいちばんおいしくできて、<自分は上手!>という思い込みが最初にありました。その後、修業先のシェフがつくるナンテール(ブリオッシュ生地を型に入れて焼いた,ナンテール地方の伝統的なパン)がとてもおいしくて、生地づくりの難しさとおもしろさに惹かれていったのです」(修二さん)。

とはいえ、同店の周辺はご年配のお客様が多い土地柄ということもあり、<これが正統派のブリオッシュ!!>と大上段に構えてもなかなか受け入れてもらえません。原価が高い割に、お客様から「何も入ってないのにこの値段?」と言われることもあったそう。「そこで、同じ生地からバリエーションをいろいろつくって選択肢を広げ、ブリオッシュのおいしさを知っていただけるようにしました」(修二さん)。

例えば、同じ基本の生地で、「ナンテール」や「ア・テット」、小さい山型で焼いた「トリオ」。小さく丸めただけの「べべ」は、1個87円と手に取りやすい価格にしています。

「ブリオッシュは、生地づくりがうまくいかないと、バターたっぷりで脂っこいけれど、食感はパサついたものになります。大事なのは、バターを溶かさずに、生地の中にしっかりと乳化させること。生地のでき上がりのよしあしは、常温で成形できるかどうかでわかります。こねあがった生地を1回冷やす工程は欠かせませんが、冷えて固いままの状態で成形するのではなく、うちでは、常温に戻してから分割し、ベンチをとってそのまま常温で成形しています」(修二さん)。

「また、ブリオッシュに関しては発酵途中でパンチをしていません。パンチを入れると、窯の中でよく膨らむ力がつくのですが、膨らめばいいってもんじゃない。口の中でだんごのようになってしまうパンはダメですが、バターの薫りを楽しむ間もなく口溶けてしまうのでは物足りない。ですから、バターの味と薫りを堪能でき、ミルキーさを感じながらゆっくり口溶けていくように、発酵や焼き加減を調整しています。どういうイメージの焼き上がりにしたいか、そこから逆算して生地の扱いを考えていくのです」(修二さん)。

生地にほかの素材を混ぜたり、包んだり、リベイクでバリエーションが広がります


「ブリオッシュは、生地に混ぜものをしたり、練り込むことで、また違う生地ができますし、おいしく食べられる時間が長く、2次加工もしやすいパンです」(修二さん)。

「ブリオッシュ・ドフィノワ」は、焼き菓子のドフィノワのイメージで、クッキー生地の代りにブリオッシュ・ア・テットを使い、中にキャラメル和えのクルミを詰めたもの。
「最初から、フィリングを全部詰めて焼くと、キャラメルが溶けて下の生地にしみてしまうので、まず半分詰めて1度焼き、冷ましてから残りを詰めてもう一度焼く、2度焼き方式に変えました。ラスクのようなサクサク、カリッとした食感が楽しめ、<フランスの地方菓子にこんなのがあるよ>と言っても通ってしまいそうな(笑)、素朴な見た目とおいしさに仕上がっています」(修二さん)。

おいしさを追求すると、工程はまた1つ2つと増えていきます。パンの仕上げに使うジャムも自身で炊き、紅玉が出回る季節には、洋菓子の「タルトタタン」とほぼ同じ手間をかけて、「ブリオッシュ・タタン風」をつくります。小さいセルクル型で成形し、型からはみ出すくらいたっぷりの煮りんごをのせて焼き、最後にちゃんと1つ1つひっくり返して焼き上げるそう。
「窯出しした後にあれこれ仕上げを細工するのは嫌いですが、そこに至るまでの作業なら、手間とは思わないし、苦にもならない。窯から出したときにドヤッ!っていうのがパン屋の醍醐味なんです」(修二さん)。


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Pappa Glasen(パッパ グラッセン)

こだわりの食パンは7種類を揃え、地元で採れたての旬の野菜やオーナーの実家である秋田の「長岩果樹園」からりんごを取り寄せて使用するなどで、季節ごとに様々な種類のパンをそろえています。窯の横には、店名の「眼鏡をかけたパパ」にちなんでサヴィニャックのイラストが描かれています。

Pappa Glasen(パッパ グラッセン)
住所:神奈川県藤沢市亀井野632-5
電話番号:0466-54-8712
営業時間:9:00~19:00
定休日:月曜、火曜

地元産の卵を使ったブリオッシュ生地

店内に入ると、バリエーション多彩な食パンが、まず目に留まります。窓辺にはハード系、そして厨房に沿うような形でスイート系、惣菜パンが並びます。目の前の窯から放たれる焼き上がりの香りに包まれ、どれにしようか迷いながらパンを選ぶことを楽しめるレイアウトです。

70~80種揃うパンは、生地の仕込みから焼成まで、すべてオーナーシェフの長岩崇之さん1人の手によるもの。「粉の状態からすべてのプロセスを自分の目で確かめることができますから、乱れが生じにくい、というメリットもあります。また、以前は菓子パン用の生地を別につくっていたのですが、スイート系のパンは、クロワッサン生地、牛乳で仕込む生地、ブリオッシュ生地の3種類だけにしぼりました。それによって作業工程が減りましたし、あんぱんやクリームパンにもブリオッシュ生地を使うようにしたら、断然おいしくなって売れ行きも伸びました」(長岩さん)。

ブリオッシュに使う小麦粉は「リスドオル」と「スーパーキング」をブレンドし、中種をつくることで風味をプラスしています。卵は、地元・藤沢の養鶏所から仕入れる産みたてのもの。「養鶏所の奥さんから<いい餌を使っているからおいしいのよ!>と強いプッシュがあって……(笑)。確かに卵の味が違うんです。ブリオッシュのおいしそうな黄金色を出すには、黄身の色も大事です」(長岩さん)。
そして、焼き上がったときにバターの風味が十分に残るよう、生地に混ぜ込むバターはあまりやわらかくしすぎず、3回くらいに分けて、混ぜながらなじませていくのだそう。

ブリオッシュ+クロワッサン=ディモンシュ

ブリオッシュ生地を使ったさまざまなバリエーションの中でも目を引くのが、まるで木星のような球体の「ディモンシュ」。こちらは、日清製粉(株)のフランスパン用粉リスドオル40周年パンレシピコンクールで準大賞を獲得したパンで、クロワッサン生地に包まれたブリオッシュです。丸く成形したブリオッシュ生地のまわりに、薄く伸ばした帯状のクロワッサン生地を、独楽にひもを巻く要領で巻きつけて成形します。これを、鯛焼きを焼くときのように上下2枚の型ではさんで発酵させ、焼成しているそう。
「当時、キューブ型のパンが流行して、四角はもう飽和状態。ならば球体で、リスドオルでつくった2種類の生地を使ったらおもしろいかな!と思ったのです。しっとり&サクサクな食感の違いを楽しめて、バターが香る生地そのもののおいしさを味わっていただける自信作です」(長岩さん)

クリームパンやメロンパンなど定番の菓子パンにもブリオッシュ生地を使っているほか、イチゴのタルトは、焼いたイチゴの甘酸っぱさがギュッと凝縮、抹茶を混ぜた生地に大納言を散らした「まっちゃ大納言」、チョコチップとオレンジピールが入ったココア生地のブリオッシュはクグロフ型で焼くなど、合わせる素材や形のバリエーションも豊富です。
「いろいろな素材と相性がいいブリオッシュ生地は、バリエーションを展開しやすいです。定番の甘いパンのほか、週末には「サレ(塩味)系」もつくっています。ソーセージやホワイトソースと合わせたり、生地にチーズを練り込んでそのまま焼いたりしてもおいしいですよ」(長岩さん)。



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CARA  AURELIA (カーラ・アウレリア) 大丸東京店

老舗の砂糖メーカー大東製糖(株)が立ち上げたベーカリー。パンの名店が並ぶデパ地下で、「砂糖でパンが一層おいしくなる」をコンセプトにした、こだわりのパンが人気を集めています。自店で粉から起こしたルヴァン種、サワー種を使ったハード系のラインアップも豊富です。

CARA AURELIA(カーラ・アウレリア)大丸東京店
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1 大丸東京店 B1F
電話番号:03-6895-2785
営業時間:月曜~金曜 10:00~21:00、土曜、日曜、祝日 10:00~20:00
定休日:大丸東京店に準ずる

砂糖でパンのおいしさを引き出す


粉や酵母、塩、製法にこだわるベーカリーは数多くありますが、砂糖にこだわったパンづくりは、あまり見受けられません。同店の母体は、“含蜜糖※”の製造ではトップシェアを誇る大東製糖(株)。「砂糖メーカーとして、様々な種類の砂糖を使い分けることで食品の新しいおいしさを提案していきたい、という思いがあり、それにはパンがぴったりなのではないか!? という気づきからベーカリーを立ち上げました」と話してくれたのは店長の藤枝敏郎さん。

「砂糖は甘さだけでなく、パンをつくるときにいろいろな働きをします。生地のしなやかさや保湿性を高めたり、焼き上がったときのイーストやバターの独特な臭いを和らげたり、時間が経ってもおいしさを保つ働きなどもそうですね。また、うちで主に使っている含蜜糖※は、上白糖やグラニュー糖など精製糖のような強い甘みではないですが、優しく自然な甘さと、素材そのものの持つ味わいが生かされているのが特長。ミネラル分を多く含み、健康志向にもかなった砂糖です」(藤枝さん)。
※含蜜糖(がんみつとう)…さとうきびなどの原料由来の蜜分が含まれている砂糖。

同店では、いろいろな砂糖をパン生地やフィリング、仕上げなどに使い分けています。中でも、ブリオッシュ生地の菓子パンを始めとして、多くの商品に使われているのが「素焚糖(すだきとう)」です。奄美諸島産のサトウキビ100%の原料糖を、蜜分を残して焚きあげた含蜜糖の一種で、淡い琥珀色をした粒の細かい砂糖。黒糖ほどはクセがなく、上白糖などと同じように使うことができ、カルシウムは三温糖の約6倍で、ミネラル分を豊富に含んでいます。

含蜜糖を使ったブリオッシュ生地は2種類



店舗は売り場と厨房合わせて8坪弱。約60種類あるアイテムのほとんどをスクラッチでつくっています。砂糖を使い分けている分、生地の種類も増えていきますが、限られたスペース・時間・窯をフル活用して、ラインアップを充実させています。

ブリオッシュの生地は2種類。「黒砂糖と五色豆のブリオッシュ」は、黒砂糖20%、黒蜜3%を使ったブリオッシュ生地に、黒砂糖入りアーモンドクリームを塗って五色豆を巻きこみ、ラウンド型で焼き上げてあります。黒砂糖と黒蜜のコクと風味、しっとりとした食感で、同店の人気商品になっています。

もう1つは、素焚糖を20%使ったブリオッシュ生地で、あんぱん、メロンパン、クリームパンなどの菓子パンに使われています。シンプルな「ブリオッシュロール」にはあられ糖をトッピング。「素焚糖メロンパン」は、クッキー生地にも、表面にふりかける砂糖にも素焚糖を使っています。「焦がし砂糖のほろにがクリームパン」は、カスタードクリームにモラセスシュガー(焦がした蜜をからめた砂糖)を混ぜた、濃い褐色のクリームが特長。「素焚糖シナモンロール」は、ブリオッシュ生地に巻き込むシナモンペーストと、上にかけるアイシングにも「素焚糖」を使ってあります。砂糖の使い方で味わいに変化が生まれ、含蜜糖ならではの、ナチュラルな色合いに仕上がっています。

「素焚糖あんぱん」の餡は、専門の業者に「素焚糖」を使って炊いてもらっているそう。「ややゆるめの餡なので、餡を生地で包むのではなく、生地の上に餡をしぼりだしてフワッと巻く形に。和菓子のようなイメージに仕上がりました。ブリオッシュ生地と含蜜糖を使って、もっといろいろな種類の菓子パンをつくり、うちならではの新しいおいしさを提案していきたいです」(藤枝さん)。

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M/HOUSE (エム ハウス)

NYスタイルの食をベースにしたレストラン。日中のメニューは「ブランチ」をテーマに、料理とフレンチトーストのセットを中心に提供しています。同店のほか、六本木、銀座の「マーサーブランチ」、鎌倉の「ブランチキッチン」でもフレンチトーストのブランチをいただくことができます。

M/HOUSE (エム ハウス)
住所:東京都渋谷区恵比寿4-23-13 MERCER BLDG
電話番号:03-3441-7551
営業時間:[BRUNCH]月曜~金曜10:00~15:30(L.O.15:00)、
土曜、日曜、祝日9:00~18:00
[DINNNER]18:00~23:30(L.O.22:30)
定休日:なし

料理+ブリオッシュ・フレンチトーストの「ブランチ」


同店は、一般的なランチタイムより長めの、10時~15時30分の時間帯にブランチを提供しています。「日本では、<ブランチ>という言葉は知られていても、食文化としては未成熟です。そこで、明るく開放的な空間に身を置いて、ゆっくり時間をかけて食事を楽しむ、ライフスタイルとしてのブランチを提案しています」と語ってくれたのは、同店を運営するマーサーオフィス(株)のアートディレクター坂本耕一さん。「イメージとしては、マリンテイストが漂うリゾートホテルの朝食。しっかり食べごたえのある料理に合わせるものとして、ブリオッシュのフレンチトーストを選びました」

ニューヨーカーは「モーニングステーキ」と称して朝からがっつり肉を食べたりもするそうですが、同店のフレンチトースト・ブランチも料理はサーロインステーキを始め、大山鶏のグリル、サーモン料理、ストウブ鍋を使った煮込み料理など9種類から選べます。また、フレンチトーストに2種類のエッグベネディクトをのせた同店限定メニューもあります。

料理だけ見るとフレンチのメインディッシュ?とも思えるようなフォーマルなしつらえになっていますが、ここにフレンチトーストを取り合わせることで、カジュアルな抜け感が生まれます。「単においしい料理を提供するだけでなく、インテリアだったり、採光だったり、アルコールドリンクも充実していたり……そういった全部の要素を合わせて、『ブランチっていいね』という共感を得られたら、と考えています」(坂本さん)。

フレンチトーストには特注のブリオッシュを使用



同店で使っているブリオッシュは、フレンチトースト専用に特注したもの。「料理を楽しむためのフレンチトースト、ということで、食パンを始め、いろいろなパンを使って試作を重ねました。その結果、卵やバターをリッチに使い、ほんのりと甘みもあるブリオッシュに落ち着いたのです」(坂本さん)。

さらに、ブリオッシュとしてそのまま食べるにはおいしくても、クラムの気泡の入り方などによってアパレイユ(卵液)の浸み具合は微妙に変わってきます。フレンチトーストにしたときに、最もおいしくなるように何度も調整を重ねて、アパレイユがよりしみ込みやすい現在のブリオッシュが完成したそうです。

3cmほどの厚さにスライスしたブリオッシュは、前日からバットに並べて卵、生クリーム、牛乳、砂糖を合わせたアパレイユに浸します。「パン自体にも甘みがありますから、アパレイユの甘さはやや控えめにしています。パンの中心までしっかり浸透し、しかしベチャベチャになりすぎないようにアパレイユの量を調節するのがポイントです。途中何度かひっくり返して全量をブリオッシュに含ませていきます。しみ込みが足りないと、パンの食感が残ってパサついてしまいます」(スタッフの平山さん)。

アパレイユを含んだブリオッシュを、バターを薄く敷いた鉄板で表面に焼き色をつけ、その後250度のオーブンで6分半ほどしっかり火を通します。表面は香ばしく焼けて、中はパンというよりしっとりしたプリンのような食感に焼き上がります。「1枚目は料理と一緒に食事パンとして、2枚目はハチミツをかけてスイーツとして召し上がるお客様も多いですよ」(平山さん)。

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ふんわり軽くて食べやすく、リッチなおいしさがブリオッシュの魅力です。4つの店舗を取材して、ア・テットやナンテールといった定番だけにとどまらず、おなじみの日本の菓子パンにも、フランス地方菓子風にも、そしてフレンチトーストにもぴったりという、ブリオッシュの七変化ぶりを再発見しました。ぜひ、お店を訪ねてみてくださいね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年4月)のものです

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