パンのテーブル

1つの生地から生まれるバリエーション

  • ブーランジュリークルミ
  • プティ リッシュ
  • コトリベーカリー
  • トラスパレンテ中目黒店

ブーランジュリークルミ

数種の小麦粉をブレンドし、ルヴァン種や水種など、さまざまな種を加えて生地のうまみを引き出し、平日でも170種類ほどのパンをつくっています。約4坪のコンパクトなスペースながら、少量ずつたくさんの種類のパンが並ぶ売り場は圧巻。お菓子類も充実し、週末にはさらに限定のパンが加わります。

ブーランジュリークルミ
住所:埼玉県さいたま市見沼区春岡1-22-1
電話番号:048-685-0444
営業時間:7:00~18:00
定休日:水曜

1つの生地から多種類を展開


取材に伺ったのは、お昼どきのお客様が一段落した14時ごろ。ランチにぴったりの惣菜パンなどは完売したものも多いですが、売り場にはまだまだ色とりどりのサンドイッチや菓子パン、食事パンなど、迷ってしまうほどのバリエーションでお客様をお迎えしています。
オーナーシェフの福井清史さんに、バリエーション展開の秘訣をお聞きしました。
「1つの生地からバリエーションをいちばん展開しやすいのがフォカッチャです。オリーブオイルとマッシュポテトを練り込んで、ミキシングを長めにかけてボリュームを出しています。やわらかな食感、具材をはさんでも歯切れがよくて食べやすく、どんな具材でも受けとめてくれる万能型です」(福井さん)。
フォカッチャの生地を使ったサンドイッチは10種類以上。「チキンの塩麹と金山寺味噌漬け」「カプレーゼの冷製フォカッチャサンド」「フレンチ仕立てのポークソテー」など、まるで一皿の料理を1つのパンに仕立てたようなメニューの数々です。
また、フォカッチャ生地に具材を包んで焼きあげるタイプの惣菜パンは9種類。「長ネギと照り焼きチキン」、ごぼうサラダを包んで焼きあげた「照り焼き葱ごぼう」や「具だくさんビーフシチュー」「イタリアンツナバジル」など。

そして、いろいろな具材をのせて焼き込むことでバリエーションを広げやすいのが塩パン生地です。
「以前はオーバーナイトのフランスパン生地を塩パンに使っていました。最近、生地を改良して、高加水で仕込みにひと工夫を加えた塩パン専用生地を開発しました。時間がたってももちもちの食感とやわらかさが変わらず、焼きたてのおいしさもいちだんとアップしています」(福井さん)。

「ラタトゥイユ」や「タルトフランベ」「クロックムッシュ」といった惣菜系のほかに、「塩キャラメル」「キャラメルリンゴ」「とろけるフロマージュ」など甘いトッピングも加わって塩パンのバリエーションは14種類に。
塩パンのように、生地を伸ばして具材をのせる、包むだけの丸い形のものが多いのも同店のパンの特長の一つ。
「なるべく生地を傷めない、やさしい成形はパンのおいしさにつながりますし、火の通りがよく、作業性もアップします。おいしさ重視で形はシンプルにすることで、具材を替えて、たくさんの種類を少量ずつつくりやすくなるのです」(福井さん)。

さらに、塩パン用のもちもち生地を使って、日替わりパンも登場しています。取材した月曜日は「キャラメルチョコピスタチオ」。食事系の塩パンが一段落する14時ごろに焼き上がります。


常に新しいおいしさを求めてバリエーションを増やしています


「フォカッチャや塩パンに限らず、1つの生地からは最低でも5アイテム、多いものでは20アイテムくらい展開しています。お客様にお好みのものを選んでいただくには、種類は多いに越したことはない。いつも同じものばかりでは、お客様だけでなく、つくり手としても飽きてしまうし、自分でも何か新しいもの、もっとおいしいものをつくって食べてみたい。常に何かを試し、動き続けることが大事ですし、そうしないと、売り上げも伸びていかないと思うのです」(福井さん)。
料理が好きで、休日には外食に出かけたり、お酒のつまみになるものをご自身でつくってみるという福井さん。そこから新しい商品開発に向けてのヒントを得て、ほかにはないパンが次々と生まれています。

売り場に並んだプライスカードを眺めていると、「自家製」の文字にも目を惹かれます。同店では、パテドカンパーニュやハンバーグ、ローストビーフやローストポークなど、サンドに使う具材やソース類の多くを自店で調理しています。
新しい商品は、一からすべて新しくつくるわけではなく、今ある具材をアレンジしたり、組み合わせを変えたり、違う生地と合わせたり、成形を変えることでも、また違うパンができあがります。たとえばあめ色に炒めた玉ねぎは、塩パンのトッピングになりますし、牛肉の煮込み料理の「ビーフストロガノフ」のベースとしても活用。「フレンチ仕立てのポークソテー」のソースにもなり、味つけを変えてローストビーフやハンバーガーのソースとして使っています。
「肉のローストなどは、やってしまえば意外と簡単ですが、パン生地をつくりながら、具材の仕込みや調理をするのはなかなか大変です。うちでは、サンド専門のスタッフが仕込みと調理を担当し、少量ずつ、いろいろな具材をつくることで、他店ではなかなか見られない品揃えを展開できているんです」(福井さん)。
また、たとえば「ガーリック」と「究極のガーリックフランス」のように、一見すると青海苔とガーリックバターで同じように見えますが、違う生地を使うことで、食べるとはっきりわかる食感、おいしさの違いが生まれます。「究極」のほうは、高加水、ライ麦15%入りのもちもちフランスパン生地で、中に気泡がボコボコできてガーリックバターの絡み具合がまさに究極!

また、ブリオッシュ生地に生クリーム、加糖卵黄、ルヴァン種を加えてさらにミキシングして、イタリアの発酵菓子パネトーネにするなど、1つの生地や具材から、樹形図のようにバリエーションが広がっていきます。
「看板メニューをいくつか決めて、同じものをたくさん売れば効率はいいですが、うちのパンは、どれもがおすすめ商品。お客様のお好みもそれぞれ違いますから、たくさんの種類をそろえて、お好きなものを選んでいただくことを大切にしています」(福井さん)。

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Petit Riche(プティ リッシュ)

オーナーシェフは「ドゥース・フランス ビゴの店」で12年間修業した島田淳一さん。オープンから10年目を迎えた現在も変わらず、ビゴの店の伝統である「基本に忠実」を心がけ、一つひとつの作業を丁寧に積み重ねていくパンづくりが特長です。よい材料を選び、6種類の生地から100アイテムを揃えています。

Petit Riche(プティ リッシュ)
住所:埼玉県さいたま市南区文蔵2-1-4
電話番号:048-866-3500
営業時間:10:00~19:00
定休日:月曜、第1日曜

和風の具材も取り入れて、ランチにぴったりのフランスシリーズ


油で揚げるドーナツやカレーパン、サンドイッチ類は手がけていないものの、パンの種類は約100種類。そのほかにお菓子も充実しているのが同店の魅力です。
「パン製造は私ともう1人だけ。生地の種類は増やさなくても、アイデア次第でバリエーションは、広がります」とオーナーシェフの島田淳一さん。
なかでも、シンプルでどんな具材とも合わせやすいのが、ストレート法でつくるフランスパンの生地だそう。
「リスドオルと国産小麦粉を半々にブレンドして、ほどよくフワッと絶妙な軽やかさに仕上げています。朝から生地を仕込み、ちょうどお昼前くらいに各種惣菜パンが焼きあがるのでランチにぴったり。パン2個と飲み物を買ってもワンコインでおさまり、毎日通っても飽きないように、いろいろな種類から選んでいただけるようにしています」(島田さん)。
自身のパンづくりについて、「こだわりがないのがこだわり」という島田さんですが、フランスパン生地に和風のお惣菜風の具材を合わせるなど、発想は自由自在です。
「主に材料を仕入れている業者さんが外食向けの食材も多数扱っていて、これはパンでもいける! とのひらめきから生まれたのが、具材をたっぷり包んだ“フランス”シリーズです」(島田さん)。


直焼きのバゲットに比べて鉄板にのせて焼くことで、クラストは薄め、ソフトでもっちりした食感に焼きあがり、具材と合わせても食べやすくなっています。ソフトなフランスパン生地の中には、ゆで卵入りの「ちょい辛カレー」や「豚の角煮」「味付き煮卵」「きんぴらごぼう」など、まるでお弁当のおかずのよう。「味付き煮卵フランス」は、甘辛く煮た油揚げの中に煮卵が丸ごと入っています。煮卵だけだと今ひとつ物足りず、お揚げを合わせてみたのだそう。
「フランスパン生地は、シンプルに粉の甘みと香りを楽しめて、クセはないのでおよそ塩味系のものなら何でも合います。洋風に限らず、ごはんに合うものならたいていはいけるんです」(島田さん)。
お揚げの中に卵を入れることで、パン生地で包むときにツルンと手が滑ることがなくなり、作業性もアップ。具材がばらけがちな「五目ひじき」も、お揚げの中に入れることで包みやすくなります。
ほかではあまり見かけない、意外な食材とパンの組み合わせにお客様の反応は、「面白半分で食べてみたけれど、結構合うね!」というのが大半だそう。一方で、これまでで短命に終わった具材は、ザーサイ入りの焼きそば、ニンニクを使って香りが強すぎるものなど。味はおいしいけれど、においが強いものは、とくにランチタイムの需要には合わないようです。
フランスシリーズは、全種類、セルクル型を使って大きさと形は揃え、見分けがつくように中身に合わせたトッピングを工夫しています。売り場に並べたときに、統一感がありつつも、それぞれ見た目の変化も生まれています。

旬の素材も取り入れて、バリエーションを展開する「本日のピザ」


同じフランスパンの生地に具材をのせて焼きあげたのが、「本日のピザ」です。毎日4~5種類つくり、具材は色とりどり。この日のラインアップは白玉をのせた「めんたいもちベーコン」、トリュフ塩で風味をプラスした「きのことチーズ」「シーフードのバジルソース」「ソーセージとサルサソース」など。メニュー名を書いたプライスカードはとくに作らず、すべて「本日のピザ」。「具材は何?」と聞いていただくことで、お客様とのコミュニケーションのきっかけにもなりますから、商品名で説明しすぎないことも大切なのだそう。
「フランスシリーズは定番が多いですが、ピザは季節の素材を取り入れたものもつくるようにしています。今日は春が旬の桜えびを使い、シンプルにマヨネーズとチーズを合わせました。仕事帰りにスーパーに寄って、旬のどんな素材があるかを見て回って、バリエーションのヒントを探します」(島田さん)。
具材のベースとして使い回しがしやすいと、島田シェフおすすめの食材はポテトサラダです。明太子を混ぜてタラモサラダにしたり、サバの水煮と一緒にディップ状にして旬の野菜を合わせるなど、どんな素材にも合い、リーズナブルにバリエーションを広げることができます。
「今はサンドイッチをやっていないので、主食とおかずを1個のパンにしたフランスシリーズやピザがサンドイッチの代わりだと思っています。いずれはぜひサンドイッチもやっていきたいです。食事パンをおうちでもこんなふうに楽しめますよ、という提案にもなりますから」(島田さん)。


同店では、基本のバゲット生地のほか、フランス産の小麦粉を使い、オーバーナイトで仕込んだ「スペシャルバゲット」もつくっています。こちらの生地にはドライトマトやオリーブなどを合わせて、食事パンやおつまみにぴったりのアイテムや、さつまいもの甘露煮を混ぜた「おーい、焼き芋!」などを展開しています。
また、カンパーニュ生地ではドライフルーツやナッツ類などを練り込んだバリエーションをつくっています。形もリング状にしてスタンドに掛けたり、ひもで吊り下げたりと、平面に並べるだけでは単調になりがちなところに立体的なディスプレイをとり入れています。そして、カヌレやスコーン、ショーソン・ポムなど焼き菓子の種類も豊富。売り場に彩りを添えます。
「パン生地は売り切れてしまうとすぐつくれるものではありませんが、お菓子類は材料さえ用意しておけば、混ぜてすぐ焼くことができます。効率よく、いろいろな種類をつくっていくことはとても大事だと思います」(島田さん)。

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コトリパン

大川泰功さんと辻由香里さんの2人で2012年にオープン。小さな子どもからお年寄りまで、また付近で働く方たちのランチタイムにも食べやすく、毎日食べても飽きない約100種類のパンを揃えています。リーズナブルな価格設定がモットーで、ツナロールなど100円の惣菜パンが多数あることも人気の所以です。

コトリパン
住所:東京都江東区福住2-7-21
電話番号:03-6240-3626
営業時間:10:00~売り切れ次第終了
定休日:月曜

白パンのサンドイッチで作業を簡略化



前職は工場設計の仕事をしていたという店主の大川泰功さん。サラリーマン時代のランチは、図面を引きながら片手にパンを持って食べるのが定番だったそう。
「そこで、パン3つに飲み物を買ってもワンコインでおさまるパン屋さんをつくろう!と辻と2人でコトリパンを始めました」と大川さん。
店の付近には大きな事業所やマンションがあり、お昼どきには行列ができ、一気に商品が売れていきます。安くて種類がたくさんあっておいしいパン屋という口コミが広がって、男性のお客様が多いのも同店ならではです。

大川さんと辻さんとで仕込む生地は5種類。前日仕込み、毎朝10時ごろにはほとんどのアイテムが焼きあがります。
「中でも、生クリームを使い、耳までやわらかい食パンは、パンそのものが食べやすくておいしいので、具材は何を合わせてもおいしいパンができます。食パン生地を使ったドッグパンや白パンのサンドイッチ、焼き込み惣菜パン、具材をはさんで焼いたパニーニなど、バリエーションを広げて、随時新作アイテムを増やし、お客様の反応を見ながら入れ替えています」(大川さん)。
白パンサンドのラインアップは約10種類あり、フィッシュ、イカメンチのほか、チキンはソースを替えて明太・甘辛・タルタルの3種類をつくっています。
「サンドイッチと言ったら、食パンでつくる三角のサンドイッチをイメージすると思いますが、食パンを焼いて冷ましてからスライスしてみみを落として具材をはさんで、三角に切って…と工程が多く、時間と手間がかかります。白パンなら、朝焼きあげて冷めたところに具材をはさむだけ。低温で焼きあげますから、やわらかくてしっとりして、食パンでつくるサンドイッチと同じような食感を再現できます。うちでサンドイッチといえば白パンのサンドと、お客様の間でもすっかり浸透しています」(大川さん)。
具材をたくさん揃えてバリエーションを広げ、材料費をある程度かけても、1つつくるのにかかる時間を半分にできれば、人手不足の解消につながり、その分安く提供できます。売る方にもお客様にもメリットがある、win-winを実現できるのです。


環境・工程を変えて効率をアップ

製造の中心となるパン職人は大川さんと辻さん。そして、近所の主婦の方々に製造補助と販売を担当してもらっています。人手は限られ、厨房7坪、店舗8坪というコンパクトなスペースですが、有効活用してたくさんの種類をつくっていけば、コストダウンにつながります。その分価格を抑え、おいしくて値段の安いパンでお客様に喜んでいただけて、売り上げもアップという好循環が生まれます。
大川さんは、製パン業界の常識にとらわれずに、前職の経験を活かしてパンづくりの工程や環境を徹底的に見直しています。

「例えば、うちでは今、冷蔵庫を大小合わせて13個使っています。惣菜パンのバリエーションを増やすには、多種類の食材を保管しておく場所(冷蔵庫)が必須です。また、作業する場所で必要なものを、すぐ手が届く位置に保管できれば、さらに効率が上がります。立体的に空間をフル活用して、隙間があれば冷蔵庫、という具合に増えていきました」(大川さん)。

食パンも含めて生地は基本前日に仕込み、成形まで済ませておきます。誰でも簡単に仕上げることができるように、惣菜パンの成形にも同店ならではのユニークな工夫があります。

例えば焼きそばパンは、ドッグパンに焼きそばをはさむスタイルがスタンダードですが、同店では「IFトレイ」(伊藤景パック)を取り入れて、円盤型の焼き込み惣菜パンにしています。トレイに具材を並べ、上から食パン生地をかぶせるだけ。トレイを使うことで、鉄板にすき間なく並べることができ、省力&省スペースになっています。クリームパンの成形にははセルクルを使用。IFトレイやセルクルを使うことで、パンを並べた鉄板の上に、もう一枚鉄板を重ねておくことも可能に。スペースを2倍にも3倍にも活用できます。
全粒粉入りのバゲット生地は、バゲット用をとった後、さらに加水してミキサーを回し、フーガスやドライトマトベーコンフランスの生地にします。生地玉を一晩寝かせる際に、鉄板ごと紙でぴっちり包んでおきますが、鉄板にピタッとくっつくベルト状のマグネットを利用しているのも大川さんならではのアイデア。外して生地の様子を見たり、また密閉したりが簡単です。

早い時間に売り切れることが多い同店ですが、残った食パンやドッグパン、バゲットなどはラスクに加工して、極力ロスをなくしています。ラスクづくりの作業は、薄くスライスしたパンに1枚1枚バターを塗るのではなく、しぼり出し袋にバターと砂糖を合わせて一気に絞り出しています。
「修業先でバターは塗るもの、と教わって、ずっとその通りにやっている場合が多いのかもしれませんが、窯の中でバターは溶けて均一に広がりますから、絞り出し方式でも仕上がりにむらはできません。常にもっと合理的なやり方はないかを考え、環境や道具をうまく活かすことで、人手が足りない、作業スペースが足りないところを補なうようにしています」(大川さん)。

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トラスパレンテ 中目黒店

都内を中心に9店舗を展開するトラスパレンテの1号店。イタリアで修業した森直史シェフがつくるパンは、おいしさとともにお客様からみたときの食べやすさや買いやすさ、見ためのかわいらしさを大切にしています。パン生地に合わせる具材がこぼれるくらいにたっぷり入っていることも特長の1つ。店内には13席のイートインがあります。

トラスパレンテ 中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒2-12-11 1F
電話番号:03-3719-1040
営業時間:9:00~19:00
定休日:火曜

パンドミ生地から表情の違うさまざまなパンを生む


同店では10種類の生地から約110種類のアイテムを展開しています。パンドミ生地からは、食パン5種類のほかにも多種類のパンがつくられています。オーナーシェフの森直史さんに、パンドミ生地を例に、バリエーションについて、お話を伺いました。
「ポーリッシュ法でつくるパンドミ生地は、しっとりもちもちとした食感が特長。予備発酵を取る分の手間はかかりますが、発酵を長くとることで、水分を保持しやすく、焼成後の劣化も遅くなります。つくり手としては、これだけこだわっています、という点をつい強調したくなりますが、翌朝食べることが多い食パン。お客様においしく召し上がっていただくことをいちばんに考えて、この製法でつくっているんです」(森さん)。

パンドミ生地からつくる食パンは、角食の「パンカレ」、山食の「プリマベーラ」、レーズン入りの「コンルーバ」、クルミ入りの「エペルテ」に、クランベリーとクルミ入りの「クランベリー」があります。食パンは、このほかにブリオッシュ生地からつくる「セコンド」もあり、6種類のラインアップです。



「成形や発酵の取り方を変えることで、一つの生地から表情に変化がつき、いろいろなパンを展開することができます。パンドミ生地のパンチの回数を多めにして、さらに窯のびがよく、ふんわりとした食感に焼きあげたのが『ナチュラーレ』です」(森さん)。
生地にさまざまな具材を混ぜることでバリエーションが生まれ、季節感を表現することもできます。かぼちゃ、うぐいす豆、赤えんどう豆など、ほんのり甘い具材とパンの塩気がよく合います。かぼちゃは当初は季節のアイテムとして始めたそうですが、女性にはとくに人気で外せなくなり、通年化したそう。
このほかにも、細長いドッグパンはサンドイッチに。また、セモリナ粉とオレガノをまぶし平たく焼いた「スキャッチャータ」は発酵を浅めに、焼き方も浅めにし、もっちりしつつもサクッとした歯切れのよさが特長です。具材をはさんでから焼き色をつけたパニーニにも展開できます。 カレーパンにもパンドミ生地。表面にパン粉をまぶして、揚げずに焼くタイプです。
「焼きカレーパンは、窯の中でフィリングの水蒸気が抜けるよりも早く生地が膨らんでいかないと、空気の抜ける穴をつくっても破裂してしまいます。もともとポーリッシュ法は窯伸びしやすいという特長がありますが、カレーパンに使う場合は、さらに発酵を長めに取り、大きめに成形しています」(森さん)。
お客様にとっては、ボリューム満点のうれしいサイズです。

作業の効率化はいろいろな製法を織り交ぜることで


「いろいろなバリエーションを展開するのは、作業を効率化するため、というよりは、1つの生地から10種類くらいは展開していかないと、売り場の棚が埋まらない、広がりが生まれないから。バリエーションが増えるということは、お客様にとっての選択肢が増えること。目新しいものを見つけたり、季節を感じたりして、パンを買うことを楽しんでもらいたい。ですから、常に新しいものを加えていくことも大切だと考えています」(森さん)。
パンドミ生地は、しっとりもちもちして、お子さんからお年寄りまでどなたにも食べやすい生地なので、皆さんに好まれる商品をつくりやすいそう。
シンプルなフランスパン生地でもいろいろなアイテムに展開できますが、パンドミは甘みのある食材とも相性がいいようです。
例えば、小さめの食パン型に成型した「デリツィア」は、ドライリンゴを生地に混ぜ込んだ「デリツィア リンゴ」、インスタントコーヒーとココア、チョコチップを混ぜてミキシングした「デリツィア チョコ」があります。この形と大きさがお気に入り!という固定ファンもいらっしゃるそう。また、同じ生地を小さな丸パンに成形した「パネトンチーニ」は、「レーズン」と「クルミ」も加わり4種類。「パネトンチーニ」のかごの中から、お好きなものをお好きなだけ選んでいただけます。同じパンでも、大きさ、形を変えて用意することで、お客様にとっての買いやすさにつなげています。

「人手不足の解消や作業効率をよくするなら、同じ製法だけに偏るのではなく、いろいろな仕込み方の生地を1日のタイムスケジュールの中にうまく組み込んでいくことがよいと考えています。たとえば、全部のパンをストレート法でつくろうとすると、同じ作業の繰り返しで、機材が遊んでいる時間ができたりしがち。オーバーナイト法あり、ストレート法あり、ポーリッシュ法ありと、複数の製法を織り交ぜ、機材や人の手が空いたら、すぐに次の作業に入れるように、スケジュールを組んでいけばいいのです」(森さん)。
基本となる生地と、タイムスケジュールをしっかりつくっておけば、1日の工程を俯瞰して「このタイミングに、この作業を組み込めば、作業工程を大幅に変えなくても新しいものがつくれそうだ」ということが見えてきます。9店舗ある各店ごとに、そうしたちょっとしたアレンジを行って、目新しいもの、その店独自のものをつくっているのもトラスパレンテらしさです。
「パンの専門学校で学ぶ学生は増えているのに、パン屋で働き続ける職人の数が増えない昨今ですが、受け入れ側の工夫で改善されるのではと思います。きちんと仕組みをつくって、環境を整えることは経営者として大切な仕事だと考え、取り組んでいます」(森さん)。

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フォカッチャ、フランスパン、パンドミなど、シンプルなパン生地から生まれる多彩なパン。お気に入りのベーカリーに出かけて「このパンもこの生地から?」という発見をしてみてはいかがでしょう?

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年05月)のものです

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