竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-vol.8 焼きたてパンのカフェはいつも行列 地元農家と連携し、目指すは本物の地域密着 ブレドール 橋本 宗茂さん

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修行経験もなくいきなり製造チーフに

竹谷
 橋本さんが最初に勤められた葉山ボンジュールは、前の全パン連の会長だった猪狩さんの息子さんがはじめたパン屋さんですね。猪狩さんと大学の同級生だから、手伝ったということですね。
橋本
 私はベーカリーでの修行経験がなかったのですが、スタートがいきなりチーフでした。ボンジュールではずっとカフェやレストランで、販売のマネージャーをやっていました。ある日いきなり「橋本君、悪いけど、工場をやってよ」と言われて、見よう見まねで始めました。スポットスポットで担当していたので、当時は仕込みから焼成まで通しでやったこともなかったぐらい。だから、とんでもないことを教えたこともあるかもしれませんね。種の熟成がどういうものかわからないで、「これでいいよ」と言い切っていたこともあった。(笑)。「それはちがう」と言われても、私が一番上だから、言い切ってしまうしかなかった。
竹谷
 でも、今は本当にいいパンを焼いていますね。
橋本
 ベーカリー講習会は行きました。パン学校が代々木にあった頃、講習会に出たり、竹谷さんのベーカリーフォーラムに参加したりとか。ただし、私は食べるのが好きだったので、自分で味見して、これうまくないなとか判断していました。

作り手によって味がちがうからこそパンはすばらしい

橋本
 ボンジュールを辞めたときには、独立するとは一切言わなかった。でも2年ぐらい経ってから、昔からのお客さんが見つけてきてくださった。「ボンジュールの味が変わったので、橋本さんがどこにお店開いたのか探していたけど、たまたまブレドールのパンいただいたら、橋本さんの味がした」と。やっぱり橋本の味って出るんだなと驚きました。
 コンテチーズだって、村々で味が違いますよね。牛が食べる牧草によって原乳に違いが出て、同じ種類のチーズでも味がちがう。パンも土着酵母がある。葉山には葉山の酵母があるだろうし、人の手にもいろんな酵母や乳酸菌がついている。その土地土地の水でも違ってくるし。そういう意味ではパンは地域密着だと思う。
 うちはレシピは公開しているし、作り方も全部オープン。作る人によって味は変わるので。パンのおもしろさってそういう部分ですね。間口は狭いかもしれないが、発酵は奥が深い。わからない部分がいっぱいある。私だって、『ブレドールのパンはおいしい』って言っていただいても、返事のしようがない部分があります。特に変わった作り方をしているわけでもないから。
竹谷
 パン作りって、結局は当たり前のことを、当たり前にやることだからね。

いい材料を惜しみなく使って付加価値を生み出す

橋本
 テレビ見たり、本を読んだり、パン屋を巡るのも勉強です。和三盆を使うようになったのは、讃岐の和三盆の製造工程をNHKで見てからです。四国にある特殊なさとうきびの原種を、研いで研いで使う。こんなに手間がかかっている砂糖が日本の文化にあるんだと驚きました。
 私も以前、4500円の木箱に入れた食パンを売ったことがあります。そごうさん、西武さんで全国販売して、800本ぐらい売れました。材料に、和三盆、エシレバター、ジャージーの生クリーム使って、小麦もこだわった。原価だけで2000円は超えました。
 いま、パンが売れなくなってきているし、利益がだんだん圧縮されてきている。地方のパン屋さんに話を聞くと、安い材料に流れているようです。原材料を落としてもおいしく作る技術がある人はいますので、一概には言えませんが、やっぱりいい材料でなければ出せない味がある。安いものに代替して、結局値段も安くしてしまうと、ますます売り上げが減ってしまう。安いもの安いものを追いかけていくスタイルは、商売としてどうかなと思います。
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