2012年4月末にオープンした「ブーランジェリー バリュック プリュス」は、JR西日本大久保駅より直結する明石ビブレ1階にあります。この辺りは子育て世代からお年寄りまで、幅広い世代の方が生活されている地域です。そのため、老若男女に楽しんでいただけるよう、ラインナップ豊富にパンを取り揃えています。

私がパン職人としてスタートしたのは某ベーカリーチェーン店のパートから。そもそもは自宅で始めたパンづくりにはまり、「どうせ働くならパン屋で」という興味本位からでした。職人といっても当時はサンドイッチなどを担当し、パン生地には触らせてももらえませんでした。しかし、一緒に働くのは専門学校などで学び、一流店で修行してきたパン職人たち。そこで無理をいって、仕事が終わって1時間ほどサポートという形で、パンづくりを基礎から教えていただくチャンスをもらったんです。お金にはなりませんが、タダでプロから教えてもらえるというのは本当にラッキーでした（笑）。

その後、2年ほどパートとして働きましたがお店は閉店。でも、同じ場所で違うパン屋がオープンするとわかり、新たにパートの面接を受けました。地の利を知った経験者ということもあり、めでたく合格。それからパートで働いたところ「社員にならないか」と声をかけられ、子どもが大きくなったこともあり、思い切って社員として働くようになりました。とはいえパン職人としての技術はまだまだ未熟。毎日が勉強で、一緒に働くすべての人が先生でした。貪欲に学び、パン作りに情熱を注いでいたことを評価してもらえたのか、今では店長。まだまだ至らないところがあると思いますが、スタッフや業者さんなど周囲の方々に助けられ、日々、奥の深いパンづくりの世界と向き合っています。

パンづくりは子育てに似ています。時間も手間もかかり、こねかたが少し違うだけで味わいが変わるほど繊細です。だからこそ面白くもあり、難しくもあります。それでも時間をかけてゆっくり発酵させたパンほど美味しい。そうして生み出したパンはまるで我が子のように愛しくもあります。

例えば当店のドイツパン「ミッシュブロート」の場合、1週間かけてサワー種をつくり、それをベースに前日からミッシュ種を起こして一晩寝かせ…とまさに手塩にかけて育てているという気分でつくっています。それゆえ私には愛着のあるパンですが、ドイツパンは日本人には好みの分かれるパン。正直なところ、特別人気のあるパンではありません。それに手間のかかるパンばかりでは店がまわらなくなります。そのためミッシュブロートのように手間がかかり過ぎるパンは限定しつつ、さまざまな好みにこたえられるように、できるだけ多くの種類をそろえるようにしています。

また、パン以外にもタルトなども豊富にそろえています。パンとは違う味わいを表現でき、女性から特に人気が出たこともあり、今では種類も豊富になりました。お店横には小さいながらもイートインのスペースを設けているので、ランチやカフェ利用でも気軽に使ってもらえると嬉しいですね。パンは焼きたてが一番美味しいですから。

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パンづくりはとにかく腕力のいる仕事です。どうしても女性は男性に比べて腕力がないので、男性以上に体力を疲弊することになります。しかしながら私は主婦であり、3人の子どもの母親でもあるので、帰宅すればどれだけ体が疲れていてもご飯をつくらなければなりません。そんな家庭や子育てと仕事の両立は決して簡単ではありません。今でこそだいぶ慣れ、子どもも大きくなってきたので少しはラクになりましたが、最初は毎日がへとへとでしたね。

それでも、パンづくりはやっぱり面白い。今でも学ぶことがたくさんあり、もっともっと技術を磨いていきたいという気持ちに変わりはありません。パンは本当に繊細で、ちょっとした力加減で味わいが変わります。男性に腕力では勝てなくても、そんなデリケートな部分に目が行き届くような、女性らしい感性は大切にしていきたいと思っています。

私が店長になってから常連のお客様に「店長が女性になったからか、パンが優しい味やな」と喜ばれたことがあります。体はもっとがっしり鍛えても、そんな優しい味になるような女性らしさはキープしていきたいなと思います（笑）。

私はパート時代から店長となった今も、常に「働かせてもらっている」という気持ちです。私は周りのスタッフに本当に支えてもらってきたおかげで、パン職人になれ、店長をしていられるのだと感じているからです。だからこそ、バイトやパートの方も含めて、みんなが働きやすく、一緒に頑張れるような雰囲気作りを大切にしています。出産後に復帰してくれた女性スタッフがいるのも私の自慢です。女性は結婚や出産、子育てなど、働き続けるために乗り越えていかなければならない山があると思います。そんなさまざまな立場に立たされた女性でも働きやすい店づくりをしたいですね。そして、頑張っていればちゃんと評価されるお店でありたいと考えています。

パンづくりにおいては、当店は会社でもあるので、組織として利益を出していかなければなりません。それでも人件費やコストなどは今のラインをキープしつつ、ひと手間かけたり食材選びを厳選したりすることで、もっと美味しいパンを育てていけるはずと考えています。ただ利益追求型に邁進するのではなく、母親目線での安心安全な素材選び、主婦として納得のいく価格設定、パンを愛する者として美味しいパンに育てるためにかける手間や時間は、決しておざなりにすることなくパンをつくっていきたいと思っています。

そのほかアレルギーの方が増えているように感じるので、卵や乳製品を使っていないパンをもっと増やしていこうと考案中です。アレルギーを気にせず、もっとパンのある生活を楽しんでもらえたら嬉しいですね。

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もちっこトースト 1斤/240円（税別）、1本/460円（税別）
フランス産小麦粉で仕込んだ天然酵母で、長時間低温発酵させてつくった山食です。きめ細やかでフワフワ、食べるともちもちの食感で、買った当日や二日目ぐらいは焼かずに食べてもしっとりしていて美味しいですよ。トーストすると表面はカリッと香ばしくなり、中はもちもちしていて、私は毎朝食べていますが飽きることがありません。余計なものは入れずに昔ながらのシンプルな素材だけで作ったパンですが、じっくり時間をかけてつくっているので、小麦の旨みがじんわり染み出たような奥深い味わいです。。

オレンジナッツブロート 250円（税別）
1週間以上かけて作るドイツパン「ミッシュブロート」の生地に、オレンジピールとくるみを練り込みました。コーヒーにもワインにもあうパンで、食感も楽しめます。ライ麦を30％配合しており、ドイツパンならではの独特の風味がありますが、オレンジピールやくるみの味わいがプラスされることで、ドイツパン初心者にも食べやすいのではないでしょうか。パン職人をしていると、このような熟成を重ねた滋味深い味わいが一番美味しく感じます。朝食パンとしても、夜に料理と合わせるパンとしても、千阪お気に入りのパンです。

男爵 190円（税別）
カリカリに焼き上げたベーコンと北海道男爵でつくられたポテトサラダをフランスパンでサンドしました。ほくほくとした食感が残る家庭的な味わいのポテトサラダは、どこかホッとする味わいです。また、当店のパンに使う塩は、すべて沖縄産の荒塩ヨネマースを使っているのですが、シンプルな素材で作るフランスパンほど、このまろやかな味わいの塩が生きてきます。このフランスパンでサンドすると、素朴な味わいのポテトサラダの美味しさが引き立つように感じます。食べごたえのあるパンなので、ランチとしてもおすすめです。

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