パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

日常食として、どなたにもおいしく食べていただけるベーグルを目指しています

tecona bagel works(テコナベーグルワークス)店長 小林 千絵さん

「テコナベーグルワークス」は、代々木公園駅・代々木八幡駅近くにあるベーグルの専門店です。

私は、パティシエとして10年間働いた後、当店のオーナーである高橋雅子と彼女がつくるベーグルに出会いました。パティシエ時代から、私はなぜか「丸いもの」が好き。ベーグルのコロッと丸いフォルム、酵母が育ってプクプクと丸い泡が生まれ、生地が予想外の形に膨らんだりするところに魅せられ、ベーグルづくりにすっかりはまって2010年からこの店の店長を務めています。

小麦粉の種類を変えれば出来あがりの食感が違ってきますし、この生地だったらどんな素材を合わせたらおいしいか、そんなことを考えるのがおもしろくて、オープン当初は20~30種類ほどのバリエーションが、7年たった今は50~60種類くらいに。とくに宣伝はしていないですが、口コミでお客様からお客様へと輪が広がっていく手ごたえを感じています。

パンへのこだわり

「テコナ」のベーグルは、それぞれ食感に特徴がある3種類の生地を使ってつくっています。「もち」は、レーズンから自家製酵母を起こし、低温長時間発酵でつくっています。自家製の酵母は繊細で、例えばスパイスなどを入れると発酵がうまくいかないこともあるため、ベリー類などを練り込む程度にシンプルにつくっています。独特のもちもち感が特徴で、手間と時間をかけてつくっている分、生地そのものの味わいが深く、ディップともよく合います。
ホシノ天然酵母種を使い、むぎゅっと噛みしめるタイプの「むぎゅ」は、強い生地に負けないように食感や香り、味にインパクトのあるものを合わせています。また、和風の素材との相性もいいです。
イーストを使用した「ふか」は、ベーグルとしてはやわらかな食感で食べやすく、菓子パンや惣菜パンのようなイメージでバリエーションも多彩に展開しています。

ベーグルというと、パンそのものはシンプルで、あとからクリームチーズやさまざまな具材をサンドするイメージがありますが、テコナのベーグルは、それ1つだけでも完結したおいしさに仕上げてあります。生地の食感、香り、歯ざわり、甘味などをベースにつくりたいベーグルの味や姿をまず決めて、素材を選び、足し算をしてイメージ通りの味になるように組み立てていきます。ときには、多種多様な製菓材料の中から目的に適うものをチョイスしたり、ここにちょっと香りを加えるにはブランデーなのか、ラム酒なのかグランマルニエなのか、と使い分けてみたり。パティシエ時代にたくさんの引き出しを持てたことは、新商品をつくるときの強みになっています。

同時に大切にしているのは、テコナらしい親しみやすさです。たとえば、プレーンなベーグルによく合うディップの「黒イチジクの赤ワイン紅茶煮」、私ならここにクローブだとか粒胡椒を入れてちょっとクセのある味に仕上げたいところ。でも、「お客様が好きなものを3個選ぶとしたら、これが入るかな?」と常に考えながらつくるようにしています。「7個めに買いたい個性的なもの」よりも、より多くのお客様のベスト3に選んでいただけるテイストを目指しています。

プレーンベーグルの「もち」(左)と「むぎゅ」 キラリと光るザラメを散りばめることで、ベーグルに表情が生まれます。
甘酸っぱいイチジクとクリームチーズのディップはプレーンなベーグルにぴったり。 生地に黒ごまを練りこんだら、クリームにも黒ごまを使うなど、どこかにつながりを持たせることがおいしさの秘訣。

女性ならではの苦労

パティシエ時代、まわりを見ると40才過ぎて仕事を続けている女性はほとんどいなかったです。ケーキ業界もパン業界も、女性にとっては体力的にきついし、結婚、出産などのタイミングでやめていく人が本当に多い。私も30代半ばになり、体力が落ちているな、と感じることもあります。足腰立つ間はずっとベーグルをつくっていきたいですから体調管理には万全を期して、大好きな生牡蠣も食べなくなりました。

酵母は生き物ですから、「自家製のレーズン酵母たちは元気かな?」と毎日気にかけてあげたいですし、酵母種は翌々日の分を仕込んでいくため、まとまった休みをとるのは難しいです。店でやりたいこともまだまだいろいろあって、自分がもう1人ほしいくらい。飲食の現場で働く女性の多くが、そう思っているのじゃないでしょうか?

そして、とくに女性だからというわけではありませんが、ゴミはなるべく少なくしたいと思い、お客様にはマイバッグ持参をお願いしています。店のロゴがついた袋をお渡しして街を歩いてもらえれば宣伝にもなるのでしょうが、環境への負担を考えて簡易包装にご協力いただいています。

どんなお店にしていきたいですか?

おかげさまで、「テコナ」は8年目を迎えました。メディアで紹介されることも増えて、お客様も地元の女性の方が中心だったのが、男女ともに年齢層が幅広くなり、遠くから買いに来てくださる方もいらっしゃいます。そんな変化に合わせて、インスタグラムでの情報発信を始めました。「店長イチオシのベーグル」だとか「新作のベーグルに混ぜる、漬け込みフルーツの仕込み中」だとか、「ごめんなさい!!今日は完売しました」などなど、日々の様子を写真でお伝えしています。

ベーグルが日常食としてもっともっと広がって、「テコナ」の名前を聞いたら「あっ、あそこの店ね」とわかっていただけるといいな、と思っています。NYなどの本格ベーグルとはちょっと違うテイストかもしれませんが、普段ベーグルをあまり食べ慣れていない人にもおいしく食べていただけるのが「テコナ」らしさ。そして、思わず手に取ってみたくなるような、見た目の<かわいらしさ>も大切にしていきたいです。

私たちは毎日500個、600個のベーグルをつくっていますが、お客様にお渡しするのはそのうちの数個。ですから1つ1つのベーグルを愛おしむように大切につくり、地階にあるお店までわざわざ足を運んでくださるお客様を、感謝の気持ちでお迎えしようとスタッフたちといつも話しています。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!

小林 千絵さん お気に入りのパン

もち ソーセージ粒マスタード 260円(税込)もち ソーセージ粒マスタード 260円(税込)
手間暇かけて育てている自家製のレーズン酵母を使ったもち生地が好き! そして、これも私のお気に入りの、沖縄産ソーセージをコロコロと入れました。プレーン生地のモチモチ感、ソーセージのプリッとした食感に、香りのよいマスタードがアクセントを添えます。

ふか パンプキンラムレーズンクリーム 280円(税込)ふか パンプキンラムレーズンクリーム 280円(税込)
サルタナレーズンとクルミの甘めの生地に、かぼちゃあんとラム酒に漬けたレーズン、クリームチーズを巻き、少しシナモンの入ったシュトロイゼルをのせてあります。素材を足し算して1つの完成された美味しさに仕上げ、見た目の楽しさも演出する、パティシエの本領を発揮してつくったベーグルです。

むぎゅ 紅芋ごまあんクリーム 280円(税込)むぎゅ 紅芋ごまあんクリーム 280円(税込)
黒ごまと紅いもを練り込んで、少しピンクがかった生地は香りがとてもいいです。「むぎゅ」は噛みごたえのある生地なので、ちょっとヘビーな黒ごまのあんこでインパクトのあるベーグルに。月餅風の黒ごまあんとクリームチーズの相性も抜群です。

店舗情報

店名/tecona bagel works(テコナベーグルワークス)
郵便番号/〒151-0063
所在地/東京都渋谷区富ヶ谷1-51-12 代々木公園ハウス B1F
最寄駅/東京メトロ千代田線代々木公園駅、小田急線代々木八幡駅
アクセス/代々木公園駅、代々木八幡駅より徒歩1分
電話番号/03-6416-8122
営業時間/11:00~18:30(売り切れ次第終了)
定休日/不定休(夏季・年末はHPでお知らせ)

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年2月)のものです

<オススメパン>もち 黒ゴマさつまいも 270円(税込)
小麦粉の風味を生かした「もち」生地に黒ゴマをたっぷり練り込み、さつまいものシロップ煮を巻き込んであります。カットしてクリームチーズのサンドにしてもおいしいですし、トーストしてバターとも相性抜群。 ふか あずきかぼちゃクリチ280円(税込)
定番の人気商品。かぼちゃを練り込んだ「ふか」生地に、蒸かしたかぼちゃ、大納言、クリームチーズがたっぷり入っています。かぼちゃの種を丸くトッピングしてかわいらしく仕上げました。

ふか アンチョビオリーブ 265円(税込)
生地にはトマトとハーブを練り込み、中にはアンチョビ入りクリームチーズとオリーブとケッパーを巻いてあります。ピザをイメージして上にもチーズをトッピング。少しクセはありますが、アンチョビ好きな方に好評です。

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