パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

「トコハのがいいね」と いわれるような想いを込めたパンをお届けしたい  トコハベーカリー 店主 柚口 恵さん

トコハベーカリー 店主 柚口 恵さん

京都府立植物園からほど近い、北山駅より徒歩3分にトコハベーカリーはあります。北山は私の地元であり、店から植物園の緑を眺められることも気に入って店の場所を決めました。オープンした2005年3月頃より様々なお店が周囲に増えてきましたが、京都中心部よりはまだまだ静かなエリアなので、のんびりとパンを焼いています。

もともと私はファッション系の専門学校を卒業し、広告系のスタジオで働いていました。でも、もっと“つくる”を実感したいと考え、当時から好きだったパンやケーキなどを扱う仕事をしたいと思うようになりました。そんな折り、北白川にある「ドンク」で職人募集をしているのを見つけて、運よく転職することができたのです。未経験からのスタートでしたが、教育システムがしっかりした会社だったので、基礎からきちんと学ぶことができました。

それから8年を過ぎた頃、もっと自分の想いを込めたパンをつくりたいと考えるようになってきました。そんな想いを友人たちとの食事の席で語っていたところ、そのうちの一人に「二人で独立してみたら」と助言されたのです。“二人”というのは、専門学校時代の同級生であり、スタジオで働いていた頃の同期でもある、今は接客担当をしてもらっている北澤さんと私のこと。当時、彼女は雑貨屋で働いていたのですが、友人のアドバイスに乗って、お互いに独立を考えるようになりました。しかし、いざ独立して運営していけるのか自信より不安ばかり。そこで私は先に独立を果たしていた友人のパン屋「ボン・ボランテ」でお世話になることに。一年ほどそちらで経験を積ませてもらったおかげで要領を得て、いよいよ女性二人で開店へと踏み切ったのです。

パンへのこだわり

独立したいと思ったきっかけは「自分の想いのこもったパン」をつくっていきたかったから。「どこにでもあるようで、ここにしかないものを つくりたい」という思いが強いですね。そして、食パンやクリームパンといった、どこのパン屋でも売っているようなパンなのに「トコハのがいいな」といってもらえるようなパンをつくれたらと頑張っています。

パンは発酵と熟成のバランスをとることが大切だと考えて、そのタイミングを見計らうのは腕の見せどころです。季節などで温度や湿度は一日一日異なるので気が抜けません。特にトコハベーカリーの人気商品「トコハ食パン」は吸水をできる限り入れて、しっかりミキシングをかけ、なめらかな伸びの良い生地をつくることで、きめ細かな口溶けの良いクラムに仕上げています。また、水分を逃さず焼き上げられるようにガスオーブンを 使っています。九州地方でカステラを焼くために開発されたガスオーブンなので、しっとり焼き上ります。遠赤外線効果もあって、ふっくらと仕上がるんですよ。

パンの種類はそれほど多くはありませんが、その分、パン生地はもちろんフィリングやパンに混ぜ込む具材など、一つひとつ手間暇かけて手づくりしています。そうすることで、トコハらしい味わいのパンができ上がっていくのだと思います。

店前の道をまっすぐ行くと京都府立植物園があるので、緑が目に入る癒しの風景を望むことができます。 朝食の定番である食パンは安定した味わいを出せるように、熟成発酵のタイミングや焼き具合に特に気を遣っています。
焼き上り時刻がわかるように、店内の黒板でお知らせしています。
「ドンク」でたたきこまれたバゲットを私なりに進化させています。大胆に切り込んだクープもトコハらしさのひとつかも。

女性ならではの苦労

パン職人になろうと思ったときは、女性だからこその壁を感じました。私がパン職人をめざした20年以上前の時代はまだまだ男社会の業界。法規制前だったこともあり、募集記事には「女性不可」の文字が躍り、なかなかトライできずにいました。ところが、北白川の「ドンク」で募集記事がでたときに性別条件がなく、未経験でもOKの文字が。これは運命だと思いましたね! 早速エントリーして私は採用されることに。当時のドンクにはすでに女性職人の方が一人いて、その方の活躍が大きかったという幸運もあってのことでした。

それでもドンクに入社した初めの半年ほどは辞めることばかり考えていました(苦笑)。本来はおっとりした性格なのに、常に時間に追われ、大量につくるので体力的にもしんどく、毎日ついていくだけでも大変。でも、ドンクは教育環境が整っているため、徹底的に基礎から学ばせていただけたのはありがたかったです。それから一年ほど頑張っていると慣れてきて、全ポジションの仕事を経験させてもらえるようになりました。徐々に自分で業務のコントロールができるようになってくると、腰を据えてがんばろうと気持ちも変化してきたのです。独立を考えなければ、そのまま働いていたと思います。現在は一人でパンづくりをしているので、時間に追われて流れ作業にならないよう、できる限り自分のペースで気持ちを込めたパンづくりができるように考えています。またパンづくりは毎日長時間立ったまま前傾姿勢の体に負担がかかる仕事。休日にはヨガをしたり、整体やマッサージに通ったり身体のメンテナンスを心がけています。

どんなお店にしていきたいですか?

友人と二人だけで運営しているお店なので、こじんまりはしていますが自分達が無理をしすぎないで、自分達のできる範囲を守っていきたいと考えています。開店当初は「三年は頑張ろう」と話していたのですが、気が付けば今年でもう丸11年を迎えることができました。正直なところお店を大きくしたいとかの野望はなく、二人でできるだけ長く続けて行けたらと思っています。お客様にはパンとともに、このほんわかした店の雰囲気ごと好きになってもらえたら嬉しいですね。

店名にある「トコハ」の由来は、「常葉」の読みをカタカナにしたものです。二人で「なんやろ?」なんて思ってもらえる店名がいいじゃないかと、古語辞典をめくっていて偶然見つけた言葉です。「常葉」とは、文字通り「常緑の木の葉」のこと。年中枯れないとは縁起がいいじゃないかと決めました。この店名に込めたように、常に青々と枯れない緑のように、新鮮でおいしいパンをお届けしていきたいです。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

柚口 恵さん お気に入りのパン

カリカリのごまぱん 170円(税込)カリカリのごまぱん 170円(税込)
フランスパン生地を丸めたものに、黒ゴマを混ぜたダッチ生地をかぶせて焼き上げ、その上に溶かしバターを塗っています。ひび割れたダッチ部分がカリカリとしていて、中はもっちりした食感になっています。そんな食感の楽しさや、バターの風味とゴマの香ばしい味わいがクセになり、ついつい手が伸びるパンです。それでいて中は何も包んでいないシンプルなパンなので、朝食にはもちろん、ランチやディナーにあわせる食事パンとしてもおすすめです。和食とあわせても、意外とあうパンだと思います。いろんな食材と相性がいい味わいだと思うので、半分にカットしてハンバーガーのバンズのように使っていただいても、おいしくいただけますよ。

トコハ食パン 330円(税込)トコハ食パン 330円(税込)
時間をかけて熟成発酵させることで生地に水分をしっかり含ませ、その水分を逃さないように焼いています。遠赤外線効果もあってか中に水分を残したまま焼き上がり、しっとりもっちりした食感に。そのもっちり感を楽しみたいと、トーストせずに食べられるお客様もいらっしゃいます。私はトーストして表面をパリっと、中のもちもち感を楽しむのが好きです。このもちもち感をより味わうには、四枚切りぐらいの厚切りがおすすめ。しっかりミキシングをかけて口どけもよく仕上がっているので、厚切りでも食べやすいと思います。また甜菜大根からつくられる「てんさい糖」を加えているので、体に優しい甘さもあります。

ライ麦パンのクルミとレーズン ホール600円、ハーフ300円(税込)ライ麦パンのクルミとレーズン ホール600円、
ハーフ300円(税込)

自家製のサワー種を使って、しっとりもっちり仕上げたライ麦パン。酸味はやわらかく軽いので、ほとんど気にならない程度だと思います。混ぜ込んだカリフォルニアレーズンの甘みや大きめのクルミの食感とともに、ライ麦パンならではの濃厚な粉の旨みをたっぷり味わえます。クルミの灰汁が生地に移ってしまっては台無しなので、お店でクルミを丁寧に灰汁抜きし、乾燥させたものを使っています。手間をかけた分、クルミ本来の美味しさを楽しんでいただけるのではと思います。そのまま食べても美味しいのですが、私はクリームチーズを塗って食べるのも好き。チーズなどをのせれば、お手軽にお洒落オードブルに変身しますよ。

店舗情報

店名/トコハベーカリー
郵便番号/〒603-8053
所在地/京都府京都市北区上賀茂岩ヶ垣内町22-102
最寄駅/京都市営地下鉄「北山駅」
アクセス/京都市営地下鉄「北山駅」より徒歩約3分
電話番号/075-723-8380
営業時間/10:00~19:00(売り切れ次第閉店)
定休日/火曜・水曜(臨時休業あり)

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年6月)のものです

<オススメパン>クリームパン 190円(税込)
クリームチーズとクランベリー 210円(税込) オリーブのフォカッチャ 170円(税込)

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