パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

「おいしいものだけを店に出す」当たり前のことを、ブレずに誠実に、続けていきたいです
 シンボパン 店主 シンボ ユカさん

シンボパン 店主 シンボ ユカさん

立川駅から歩いて5~6分ほど。道路から数段の階段を下りていただくと、「シンボパン」と書かれた白いドアがあります。ガラス越しに見える店内は雑貨店のようでもありますが、日々30種類以上のパンをつくっているベーカリーです。モーニングやランチ、店内限定メニューのイートインもできますし、時には音楽ライブ、クリエーターさんの作品展示やワークショップなど、ワクワクするイベントも行っています。

パン職人になって自分の店を持つに至ったのは、「いくつかの偶然が重なって」としか言いようがないのですが、ベーカリーでの仕事は、学生時代に力を注いでいた運動系の部活と共通する部分があって、自分に向いていたみたいです。

小さいころから食べることが大好きだった私は、「おいしいチャイを淹れたいな」と思って、立川にあるカフェでアルバイトを始めました。ところが、アルバイト先の店舗はベーカリーがメインのカフェで、紅茶を淹れるはずがパンをつくることが仕事になりました。その後、たまたまパソコンでベーカリーを検索してみたら、いちばん最初にヒットしたのがカタネベーカリーのブログでした。オープン間もない店を訪れてみると、「住宅街にあって、朝ごはんが食べられて……」という、私がパン屋としてこうありたいな、という姿が全部そこにありました。パンや食についての考え方に共鳴し、スタッフに応募しました。

カタネベーカリーで働いた日々は、おいしいものだけが身近にある環境で、片根夫妻の「イメージにぴったりのおいしさ」をつくりあげていく追求心をいつも間近に感じることができました。おいしい食材に出会い、食べて、それを使って今度は自分たちがおいしいものをつくる。でも、同じ食材でも季節によって味が違うし、その日の気温や天気でも違ってきます。
「おいしい」にはレシピでは書ききれない部分がたくさんある。片根夫妻がパンやフィリング、料理をつくる現場で働きながら、必死にそれを見て覚える。仕事の手が空いたときに自分でもつくってみて、食べてもらう。何か違う、何か足りないところは、またひたすら見て、覚えて・・・・・その繰り返しが私にとってのパン修業でした。

ベーカリーで10年間働き、つくり手として、あるべき姿が明確になり、ブレることがなくなったときに店を出す決心がつき、2010年に、父が自転車屋を営んでいた店舗を改装して、「シンボパン」を立ち上げました。

パンへのこだわり

私にとって、パンづくりへのこだわりは「おいしいものをつくりたい」という気持ち、それに尽きます。自分の舌で答えがわかっていないと目標は定まりませんから、おいしいものを食べることがいちばんの勉強になります。自分がつくりたい味をしっかりイメージして、そこにたどり着くまで体を動かし、手を動かし、生地に触れ、五感を働かせて感じ取り、試行錯誤を繰り返してつくりあげていきます。

パン生地は、長時間発酵のバゲット、菓子パン、ヴィエノワ、フォカッチャ、コッペパンの5種類で、どれも日々進化中です。全粒粉で香ばしさを出すなど、配合やつくり方を少しずつ変えることで、よりおいしいものになっていきます。

また、いろいろなイベントに出店するほか、ショップやギャラリーのオープニングパーティーなどでケータリングもしています。会場の雰囲気や展示される作品イメージに合わせてメニューを考え(基本、食べ物が目立ちすぎないように、派手なものは避けます)、味を完成させていきます。先日も、サバサンドをつくろうと思い、ドレッシングにあと1つ何を入れたらいいかで、さんざん迷いました。結局1週間、毎朝市場で魚を買ってきては試し、納得のいくものができたのですが、当日の市場にサバの入荷がなかった、というオチが(笑)。でも、代わりにアジを使っておいしい魚のサンドイッチになりました。

外はパリッと、中はもっちりのフランスパンは、煮込み料理にもよく合う 注文後に具材をはさむサンドイッチ。つくりながらお客様とコミュニケーション
菓子パン生地は口溶けのよさが自慢 食パン、フランスパン、コッペパンなど、目指すのは毎日食べても飽きない食事パン

女性ならではの苦労

今まで仕事をする中で、「女性だから」という視点で考えたことはなかったです。仕事をしていて、苦しいことがたくさんあるのは当たり前、小麦粉の袋が重たいのは、女性でも男性でもみんな同じ。でも、周りから「女性だから…」という目で見られることはよくありますし、とくに女性1人でやっていると、趣味で店をやっているという誤解を受けやすい、というのが現状です。

店とイベント出店とケータリングが重なることも多いのですが、全部準備して、当日の販売や会場でのセッティングは友人や家族に手伝ってもらい、こなすようにしています。プロとして店を出す以上は、定休日以外は店を休まない、というのをずっと当たり前のこととしてきました。
「できるかできないか」を考えるのではなく、「大丈夫」にしていくのが仕事だと思っています。どこのパン屋でもいいから、という出店オファーなら別ですが、地元・立川でのイベントや、イベントを企画しているときに私のパンを思い出してくれた、なんて本当に光栄なことですから、極力受けています。受ける方向でスイッチを入れると、自然にエネルギーは沸いてくるし、やらないほうがきっと後悔が大きいと思うのです。

というわけで、あちこちのイベントに出店している日でも、定休日以外ならお店のほうもちゃんと営業していますから、ぜひお越しくださいね。

どんなお店にしていきたいですか?

とにかく長く続いていく店にしていきたいです。 「おいしいものだけを店に出す」という当たり前のことを誠実に続けて、毎日の食卓に並べてもらえるパン、食事パンは、料理と合わせた時に、お互いを引き立て合うようなおいしさをこれからも目指していきます。
おいしいことに敏感であり、自分で食べておいしいと思った材料を使い、手間暇かけてつくっていく。そのためには、まず自分の体調を整えておくのが最低限のことですね。

そして、食べることを通して人が集まり、交流する場所でありたいですし、大好きな音楽のライブや様々なイベント、波長の合うクリエーターの作品展示会など、常に新しいこと、面白いことをこれからも、ここから発信していきたいです。

この店は、祖父の代から自転車屋で、父が店をやっていた頃は、いつも店に近所の人たちが集まって来て、おしゃべりしたりくつろいだりしていました。ここで「シンボパン」として開業したのは、父の店を後世に残す、という使命感があったわけではないんです。でも、人とかかわるのが好きで、いざというときに手伝ってくれる人を集める才能は、そんな環境が育ててくれたのかもしれません。

よいベーカリーとは? の答えは、人によって違うと思います。売り上げや利益だけを重要視していたら、きっと今、私のまわりには全然違う人たちがいたと思います。
お店にパンを買いに来てくださるお客様や、私に出店の依頼を下さる方々を見ていると、私が今までブレずにやってきたことは間違っていないな、という手ごたえを感じられます。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

シンボ ユカさん お気に入りのパン

マカダミアのフランスパン 220円(税込)マカダミアのフランスパン 220円(税込)
フランスパンの生地に、オーブンでローストしたてのマカダミアナッツをたっぷり混ぜてあり、ナッツの香ばしさと食感を楽しめます。フランスパンよりやや細めに成形し、やや低めの温度で焼き上げています。丸ごとかぶりつくと、パン生地とナッツのバランスのよさを実感できます。

バインミー 480円(税込)バインミー 480円(税込)
フランスパンは、料理と合わせたときをイメージして、味が1つにまとまるようにつくっています。とくにサンドに使うフランスパンは、具とのバランス、食べやすさを考えて、やや細め、ちいさめに。できたても、夜になってもおいしいように何度も試してつくりあげました。ナンプラーなどで下味をつけた豚肉と、大根、ニンジンのなます、チリマヨネーズ、コリアンダーをたっぷり添えて。

フランボワーズのドーナツ 180円(税込)フランボワーズのドーナツ 180円(税込)
ドーナツは時間がたっても酸化しにくいグレープシードオイルで揚げてあります。ジャムは自家製。パンと合わせた時に一番いい状態になるように、煮詰め具合を加減しています。生地をふんわりさせたいから、穴あきではなく丸く成形。うちのパンは、コロンと丸い形が多く、ふんわりとふくらんでおいしいんです。

店舗情報

店名/シンボパン
郵便番号/〒190-0012
所在地/東京都立川市曙町2-21-5
最寄駅/JR立川駅
アクセス/立川駅より徒歩6分
電話番号/042-522-6211
営業時間/7:30~18:00
定休日/日曜、月曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年9月)のものです

<オススメパン>クランベリーとチョコレート 220円(税込)
じゃがいも 160円(税込) イチジクとマスカルポーネクリーム 230円(税込)

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