パン屋さんで活躍する女性たち パンとお店と“私”のストーリー

VOL.35 難しくて奥深いからこそ、パンづくりはやめられません GRUNE(グリューネ) 店主 今里 由紀さん

GRUNE(グリューネ) 店主 今里 由紀さん

名鉄 中京競馬場前駅から徒歩15分ほど歩いた先にある、静かな住宅街に佇むのが「グリューネ」です。名古屋市の緑区にあるので、ドイツ語で「緑」という意味の“グリューネ”と名付けました。「常連さんが毎日来てくれるようなお店にしたい」という想いでこの地に2000年にオープンし、18年目を迎えます。

私はもともと税理士事務所で働いていました。仕事柄、経営者や起業家と関わる機会が多く、お話を聞くうちに「私も経営者になりたい!」と思うように。自分のお店を開くなら…と思いをめぐらせたとき思い浮かんだのがパン屋です。幼い頃から手を動かして何かを“つくる”ことが好きで、中学生になると一人で本を見ながらケーキやパンをつくり始めました。ケーキはそこそこに美味しくできるけれど、パンはなかなか上手くいかない…。パンづくりは負けず嫌いの私にとって、とても楽しいチャレンジでした。

私がパン屋を目指し始めた当時は、名古屋にパン学校がなかったため、東京にある「パン技術研究所」の100日コースに通いました。今までは趣味でつくっていたので、独自のクセを治すのに一苦労。パンづくりの基礎を一通り学んだあとは、“お店の運営”についても学びたいと思い、「雑用もするし、無給でいいので働かせてください!」と頼み込んで、毎日通わせていただいたのが『南の麦』です。春日井市にあった人気のお店で(現在は名古屋市瑞穂区に移転)、個人店としては規模が大きく、パン業界でも有名でした。「自分の店を出したい」という想いを伝えると、4カ月という短い期間しか働けないにもかかわらず給料を払っていただき、いろいろ相談に乗ってくださったり、成形や生地の伸ばし方も快く教えてくださいました。「1分1秒も無駄にしたくない」という気持ちが強く、帰宅するとすぐさま生地を仕込み、入浴中に発酵させ、教えてもらったことをその日のうちに復習するという毎日。感覚をつかむまで数をこなし、一つずつ覚えていきました。時間に追われながらもパンづくりの練習とお店のオープン準備を並行して行い、2000年に念願のお店をオープン。近隣に住む常連さんに支えられながら、丁寧なパンづくりを続けています。

パンへのこだわり

小さいお店なので、パンを並べられるスペースも限られています。そのなかでも「選ぶ楽しさ」を味わってほしいと思い、1種類のパンの個数を減らしてバリエーションを重視。仕込みは全て私一人で行っているため、手の込んだパンというよりもシンプルなパンが多いです。その分、生地にはこだわっていて、ほとんど水を使わずに、卵と牛乳でふんわりした食感を実現。惣菜パンを食べても、「生地が美味しいな」と感じてもらえる。そんな、フィリングを引き立てつつも存在感が消えない生地で勝負したいと思っています。また、私自身、デニッシュ生地が好きなこともあり、デニッシュの種類は豊富。季節ごとに旬のフルーツを使い、カスタードクリームやアーモンドクリーム、チーズクリームなど、それぞれに合うクリームも一つずつ吟味しています。デニッシュがサクサクで取りにくいという意見をいただいたので、取りやすいように陳列も工夫しました。

休日にはスーパーなどのお店を5件以上回り、自分が食べて本当に美味しいと思える食材を調達して新作のパンに活かすことも。つくってみてお店に出し、お客さんの反応を見てみたり……。これも常連さんが多いからこそできること。1日だけお店に並んだ幻のパンもあります(笑)

切り込みが耳に見えることから「ネコパン」とも呼ばれる人気の「ヨグール」 お客様やスタッフが持ち寄り、いつのまにかネコちゃんグッズが揃いました。
旬素材を使ったデニッシュは、いつも約8種類出しています。 パンの種類は約70種類。いつ来ても“選ぶ楽しさ”を味わってほしいと、小さいお店に目一杯のパンを並べています。

女性ならではの苦労

今から20年前「パン屋で経験を積みたい!」と思ったときは、女性の製造業務の門戸の狭さに苦戦しました。何度電話をかけても断られてしまう理由は、“女性は体力がないから”というもの。しかし、パン屋を始めて、“女性だから”という理由で困ったことは特にありません。最初の数年は湿布とサポーターが欠かせませんでしたが、 “パンづくりは体力勝負”だということは覚悟していたので苦ではありませんでした。

成形したパンをオーブンに入れるときに使用するスリップピール(パンをオーブンから出し入れする道具)はとても重いので、扱いは大変ですが、毎日やっていれば女性なりに筋力がつきます。3段オーブンのうち、男性であれば上の段にも持ち上げて入れられると思うのですが、私にはそんな力はないので、作業台から滑らせて入れられる真ん中の段しか使用しません。一度に焼けるパンは少なく、仕込みの回数も増えてしまいますが、少しの工夫をすれば問題なくお店をまわすことができます。私自身、男性のつくる勢いのあるパンに憧れている部分もあるのですが、お客様にはよく「女性らしいパンだね」と言っていただくので、“私らしいパン”を丁寧に心を込めてつくっていきたいと思います。

どんなお店にしていきたいですか?

オープンするときに住宅街を選んだのは、常連さんが毎日来てくれるようなお店にしたいと思ったから。嬉しいことにその願いがかなって、グリューネのお客様は常連の方が多いんです。お店に入って「いい匂い~!」という第一声を聞くのが楽しみの一つ。いつも同じ時間に来て同じパンを買っていかれる方もいて、グリューネのパンが生活の一部になっていると思うと、とても嬉しいです。しかし、常連さんが多いからこそ、いつ来てもワクワクできる飽きのこないパン屋でありたいという緊張感も。新商品をお店に並べると「新しいね!」と目を輝かせてくれる……。そんなお客様の姿を見ると、新しいパンをつくらなければ!と背中を押される思いです。

お店を始めて思うのは、オープンするのも大変だったけれど、続けるのはもっと大変だということ。オープン当初と比べると店の前の道路が開け、大きな道と繋がり車の交通量が増えました。その分、大きなショッピングモールが建ち、客足が伸び悩むことも。でも、難しいからこそ燃える性格の私は、経営もパンづくりも「丁寧さ」を欠かないように、時代によって変化する“課題”に立ち向かっています。できるだけ長くこの場所でパン屋を続けるのが目標。体力勝負で大変ではありますが、なんだかんだ言ってもパンづくりが好きなんですよね。おばあちゃんになっても、パンをつくっていたいです。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

今里 由紀さん お気に入りのパン

タルトブレッソンブルーベリー 190円(税込)タルトブレッソンブルーベリー 190円(税込)
卵とバターをたっぷり使ったブリオッシュ生地に、チーズクリームを入れてブルーベリーを添えました。少し重めの生地に、コク深くもあっさりしているクリームチーズと生クリームでつくったクリームを組み合わせたら丁度いいのでは?と思って試してみたら、大成功!柔らかくて優しい食感も楽しんでほしいです。

いちじくヨグール 180円(税込)いちじくヨグール 180円(税込)
一見固そうな見た目をしていますが、かぶりつくと中がふわっとしていて驚くと思います!秘密は生地に練り込んだヨーグルト。ほのかに酸味が効いて風味が豊かになり、この絶妙な爽やかさは一度食べていただきたい!オープン時からある、切り込みが猫の耳に見えることから子どもにも人気なヨグールに、いちじくとカシューナッツで食感にアクセントを加えました。お客様もスタッフもよく間違えるのですが「ヨーグル」ではなく「ヨグール」です!(笑)

クロッカン 160円(税込)クロッカン 160円(税込)
私の好きなデニッシュ生地とナッツ。好きなものをこれでもかと組み合わせて、私好みのパンをつくりました。デニッシュの生地自体にクルミを練り込み、上にはアーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツと惜しみなくナッツを乗せて焼き上げています。メープルシュガーのやさしい甘味とサクサク食感で、とてもお気に入りのパンになりました。

店舗情報

店名/グリューネ(GRUNE)
郵便番号/〒458-0829
所在地/愛知県名古屋市緑区鎌倉台2-801
最寄駅/名鉄中京競馬場前駅
アクセス/名鉄「中京競馬場前」駅より徒歩15分
電話番号/052-629-5560
営業時間/9:00~20:00
定休日/月曜・火曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年10月)のものです

<オススメパン>ミルクフランス 160円(税込) 焼りんごデニッシュ 210円(税込) バゲットサンド パストラミビーフ 300円(税込)

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