パン屋さんで活躍する女性たち パンとお店と“私”のストーリー

VOL.37 「言葉にすれば夢はかなう」そんな経験をいくつも重ねてできた母娘2人の夢のお店です。 Pain Place Croûton(パン プラス クルトン) オーナーシェフ 山本 友理さん

Pain Place Croûton(パン プラス クルトン) オーナーシェフ 山本 友理さん

「Pain Place Croûton(パン プラス クルトン)」は、南海電鉄和歌山市駅から北大通りを南へ7分ほど道なりに歩いたところにあります。「食べ飽きないこと」、「健康によいこと」にこだわって、みなさまの毎日にそっと添えていただけるようなパンづくりを目指して、母娘2人で毎日焼きたてのパンを販売しています。

子どものころから料理をつくることが大好きで、将来は食に関わる仕事がしたいと思っていました。通っていた中学校の教室の窓からは料理教室の大きな看板が見え、毎日その看板を見ては「ここに入れば料理教室の先生になれるのかな」と考えていました。高校時代も料理への熱は冷めず、卒業後は短大の食物栄養科に進学。栄養士の資格も取得しました。

「将来こういうことがしたい」、「こんな仕事がしたい」と口に出すと、不思議と追い風が吹いてくる。昔から私には、そんなことが度々あります。短大時代のアルバイト先の社長が、中学校のときに毎日看板を眺めていた憧れの料理教室の校長と知り合いだったことから、在学中からそこで助手として経験を積むことができました。卒業後はそのまま就職し、次第に講師としてパンやお菓子の教室を任されるようになっていきました。結婚や出産を経ても大好きな料理の仕事を続けたいと、講師業のかたわら、レストランでの製パンも経験。それと並行して、自宅で趣味としてパンを焼いて友人などにプレゼントしていたところ、「おいしい!もっとつくって!」と言われるようになり、時々頼まれてはつくるようになっていきました。

「いつか自分の店をもちたい」と夢を言葉にはしていましたが、なかなか踏み出せないでいた私の背中を押してくれたのは、当時小学6年生だった娘。卒業式の謝恩会のとき、皆の前で「私の夢はママと一緒にパン屋をやること」と宣言したのです。その夢を現実にするために、娘は高校卒業後、専門学校で製菓と製パンを学び、他店でも1年間修業しました。そして2014年12月、二人の夢であるこの店をようやくオープンすることができました。「言葉にすれば夢はかなう」。そんな素晴らしい経験をいくつも経て、今に至ります。

パンへのこだわり

私は、栄養士のほかにも調理師や野菜ソムリエ、豆腐マイスターなど講師時代に取得した様々な資格を持っています。せっかくパン屋をやるなら、その資格を生かして、オリジナリティーのあるパンをつくろうと考えました。豆腐をパン生地に練り込んだヘルシーなパン、和歌山の旬の野菜や果物を使った季節限定のパン、紀州うめどりや湯浅醤油、生石高原の卵など、地元のブランド食材を使ったパンづくりです。

子どもに安全なパンを食べさせたいというのが私のパンづくりの原点です。その想いは今も変わらず、お客様にも同じく安心で安全なパンを食べてもらいたいと思っています。できるだけ身体にやさしい素材を使うことはもちろんのこと、素材の味を引き出してくれる29種類のミネラルが入った水を使うなど、仕込み水にもこだわります。とはいえ、こだわり過ぎると手が届かないパンになってしまうので、品質と価格のバランスも大切。毎日食べてもらえる手頃な価格を維持することも忘れません。

私のパンづくりのアイデアは、料理教室の講師時代に様々な料理コンテストに出場した経験を生かしたもの。料理コンテストというのは、ありきたりのメニューやレシピでは選ばれません。素材同士の組み合わせや調理法、盛り付けやネーミングに至るまで意外性や斬新さが必要です。かつてさまざまなコンテストで賞もいただきましたが、そのときに鍛えた発想力やアイデアが、今のパンづくりに生きていると感じるのです。小麦粉や水、油脂の合わせ方で味や食感を変化させたり、パンの形やネーミングにも工夫してみたり。アイデアは無限に湧いてくるので、食べる人の反応を見たり、スタッフの意見を聞いたりしながら、改良に改良を重ねて形にしています。些細な工夫によって売れ行きが変化していくのを見ると、パン屋というのは本当に面白い仕事だとつくづく思います。

講師時代は家庭用の小さなオーブンでパンを焼いていたので、業務用の石窯オーブンに慣れるまではとても苦労しました。 パンづくりのアイデアは無限。スタッフとの会話の中から新しいパンのアイデアが生まれることも。
一番人気の「おとふちゃん」。底はきつね色に香ばしく、表面は焼き色が付かないように低温で焼いています。 手に取るとずっしりと重量感のある「あん食パン」。あんの硬さと量の調整に苦労しました。

女性ならではの苦労

パン業界は、圧倒的に男性職人が多い世界。パンづくりの素となる材料は、粉も砂糖も何もかもが重いんです。そして、捏ねあがった生地がまた重い(笑)。とにかく体力を使います。床がコンクリート、調理台の下が冷蔵庫ということもあり、冬場は冷えにも悩まされます。クッションマットを床に敷いたりしていますが、やはり気温の低い時期はつらいですね。

幸い私は、自宅のそばで開業していることもあり、娘も戦力となってくれているので、家庭との両立で悩むことはありません。しかし、開業当時は、何もかもはじめてなのに加え、パンづくりのペースもできていないうちから、モーニングやランチ、カフェメニューとあれもこれもとお出ししようとしたせいで、すぐ近くに家があるのに帰れない、いつ寝たらいいのかわからないという状態に陥ってしまいました。体力的につらい時期もありましたが、次第に慣れ、娘がランチの準備をしながら並行してパンの仕込みができるようになり、スタッフも合間、合間でランチの仕込みを手際よくやってくれるようになりました。近頃は、時間的にも随分余裕ができてきたと感じます。

雑誌やテレビにたくさん取り上げてもらった1年目は不景気知らずで乗り切りましたが、オープン2年目の夏に、この前まで飛ぶように売れていたパンが、さっぱり売れなくなり、「夏はパン屋の売り上げが落ちる」ということを、身を持って知りました。スタッフと話し合うと「暑いときにこのパンは喉詰まって食べにくいよ」とか、「見た目が大きすぎるから手が伸びないのでは?」という意見が出て、気候や季節に合わせたパンの改良が必要だと気づきました。今年3回目の夏は、石窯で焼いた焼きたてナンと野菜をたっぷりトッピングしたカレーセットや、サラダ感覚でいただける豆乳ごまだれ冷麺をランチメニューにしたり、塩気のあるパンや惣菜系のパンのラインアップを増やしたりと、夏を意識した商品づくりに頑張りました。その努力が実り、今年はほとんど落ち込みなしで夏を乗り切ることができました。

どんなお店にしていきたいですか?

「パン プラス」はフランス語で「パンの広場」という意味。焼きたてパンの香りに誘われて、広場のように多くの人が集まる居心地の良いお店にすることが開業時からの変わらない目標です。カフェを併設したのも、ここで心もお腹もほっこりしてもらいたいと思ったから。利用されるお客様は、圧倒的に女性、それも主婦が多く、当店のスタッフも全員女性。新作ができたら、「もっと食べやすい形にしないと女性には売れないよ」、「もっとボリュームがあるほうが女性には喜ばれそう」、「この前行ったお店のランチがおいしかったから取りいれてみたら」といったような意見を日々交換し合い、女性目線、主婦目線を商品づくりやお店づくりに生かしています。

先日、若いママさんから、「うちの子の人生初のパンがクルトンの『おとふちゃん』なんです」と言われたことがあり、とても感動しました。離乳食を意識してつくったわけではないのですが、「乳製品や卵を使っていないので離乳食にちょうどいい」という声がママさんたちの口コミで広がっているようで、ベビー用にと買われる方が増えました。ベビー連れでモーニングを楽しむ若いママさんたちの姿が、当店の朝の光景になってきているのもうれしいですね。

最近、お客様からご紹介いただいて、移動販売車「わかヤン」での委託販売も始めました。「わかヤン」は、軽トラックで生鮮食料品や日用品などを巡回販売するものですが、一部地域で高齢化や過疎化が進む和歌山ではこうしたサービスが今とても注目されています。曜日限定での販売ではありますが、ここまで買いに来ることができない遠方の方やお年寄りの方にも当店のパンを味わっていただけることがとてもうれしいです。毎週楽しみにしてくださる方のために、美味しいパンをお届けしたいとあらたなやりがいを感じています。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

山本 友理さん お気に入りのパン

おとふちゃん 4個入り200円、8個入り400円(各税抜)おとふちゃん 4個入り200円、8個入り400円(各税抜)
和歌山の老舗豆腐店「ナカシタトウフ」の搾りたての高濃度豆乳「里のほほえみ」と通常より濃度の高い豆乳で仕上げた「十六豆腐」でねりあげたパン生地を、焼き目をつけないように低めの温度で焼き上げました。人気TV番組「Sma STATION」で1日500個以上売れる「めちゃ売れパン」として紹介された当店の看板商品。豆腐のようにやわらかくなめらかな食感と大豆のやさしい甘みが味わえる風味豊かなパンに仕上げました。卵と乳製品不使用なので、離乳食にもビーガンの方にもおすすめ。豆腐マイスターである私の自信作です!

れんこんフランス 200円(税抜)れんこんフランス 200円(税抜)
北海道産の全粒粉をブレンドしたハードな食感のフランスパン生地を丸く薄くのばし、その上に甘辛く炊き上げたれんこんのきんぴらをトッピング。しゃきしゃきした食感のれんこんと鷹の爪のピリっと辛い味わいを楽しんでいただけるパンになっています。仕上げにマヨネーズをのせ、さらにアツアツの鉄板に地元和歌山の湯浅醤油を垂らしてじゅわっと弾けたところにこのパンをのせ、香ばしさをプラス。さらにハケで塗って醤油をしみこませています。このときたまらないほど醤油の良い香りが立つので、焼きたてのこのパンを前に、いつも娘と「今すぐ食べた~い!」と言い合っています。

スイートパンプキンベーグル 170円(税抜)スイートパンプキンベーグル 170円(税抜)
乳製品も油脂類も使わない、きび砂糖のほんのりとした甘さの素朴でヘルシーなパン生地に、かぼちゃあんを練り込んだベーグル。ベーグルはゆでることで、ぎゅっと目の詰まったもちっとした食感になるのですが、実は私自身、このベーグル特有の食感が苦手で、長い間ベーグルをつくることはありませんでした。ところが、お客様からベーグルを食べたいという声もあり、それなら自分らしいベーグルをつくってみようと思って考案したのがこちら。ゆでる前に一度発酵させることで独特の「ふわもち」食感に仕上げました。他にも色々なフレーバーがありますが、どれもフランスパン並みのシンプルな生地で腹持ちが良いので、ダイエット食にされるお客様もいらっしゃいます。

店舗情報

店名/Pain Place Croûton(パン プラス クルトン)
郵便番号/〒640-8225
所在地/和歌山県和歌山市久保丁4-8
最寄駅/南海電鉄和歌山市駅
アクセス/南海電鉄和歌山市駅より徒歩10分
電話番号/073-433-0500
営業時間/7:30~19:00
モーニング 7:30~10:00、ランチ 10:00~18:00、カフェ 14:00~18:30
定休日/月曜・火曜・水曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年10月)のものです

<オススメパン> あんロール食パン 380円(税抜) クリームパン 130円(税抜) たまご食パン 400円(税抜)

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