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vol.32 お漬物の達人に聞く、
パンと奈良漬のマリアージュ

紹介してくれた人

有限会社安藤与吉商店
代表取締役 安藤隆史さん

明治14年に愛知県で創業したつけもの専門店「喜多福」の4代目。和食店での勤務を経て、家業を承継。創業者である山田才吉考案の「守口大根味醂奈良漬(現在の守口漬)」から始まった味醂奈良漬の味を守っている。和食と漬物の知識を反映したピクルスなど、新しい商品展開にも尽力。料理好きが高じて、プライベートでも梅干しを漬けるなど、研究熱心。

RECOMMENDED COMBINATION おすすめの組み合わせ

奈良漬にクリームチーズを混ぜたディップを
香り高いバゲットに合わせて

奈良漬+クリームチーズ+バゲット

「喜多福」の代表商品は味醂奈良漬です。守口大根、スイカでも作っていますが、やはり瓜がいちばん人気です。一般に奈良漬は非常に手間と時間のかかる漬物です。最初に仕込んでから製品になるまで、最低でも2年かかります。全国のいろいろな漬物屋が奈良漬を作っていますが、価格競争もあって工程を効率化したお店も多いようです。しかし、「喜多福」では、昔から変えることなく、熟練した職人の技術で一つひとつ丁寧に作っています。

パリパリとした食感と深みのある甘味が特徴の味醂奈良漬は守口大根、瓜、スイカのほかきゅうりも

まず材料を洗浄し、塩漬けして、材料の水分を出すと同時に殺菌。それから酒粕に漬け込むことで塩を抜きます。粕床から出して洗って、表面の水分を拭いて、また塩漬けするというサイクルを5回繰り返します。「喜多福」の味醂奈良漬は、最初の4回は日本酒から出る酒粕、最後5回目の粕は、味醂を作るときに出る味醂の粕で漬けることに特徴があります。これによって独特の甘みと深みに仕上がります。
出来上がるまでに2年もかかるということは、仕込みの段階で2年後のことを考えて材料を仕入れなくてはいけません。これがなかなか大変です。

また、瓜は国産のものを使っていますが、ひとつひとつ大きさや厚みが違います。できるだけ同じ味になるようにしていますが、やはりそれは漬ける人の匙加減で変わってしまうのも難しいところです。
酒粕も水分の少ないものを選ぶ必要があります。昔でいう二級酒のようなお酒を作るときにできる酒粕がそれです。最近の日本酒は吟醸酒のような高級なものが多くなってしまって、適した酒粕が手に入りづらくなってしまいました。
そのような状況でも、100年以上続く作り方を守っているのが「喜多福」の誇りです。

そうは言っても、漬物を食べる人が減っているのも事実です。店を継いでから、特に若い方に食べて欲しいと考えて試行錯誤してきました。現在好評なのが、クリームチーズと味醂奈良漬を組み合わせた「奈良漬ディップ」です。

おつまみにぴったりの奈良漬ディップのバゲット

クリームチーズと味醂奈良漬を混ぜ込むときに、フードプロセッサーで切ったものと、手で切ったもの、2種類用意しています。和食店での経験から、食感を大事にすることに加えて、程よくクリームチーズに風味が染み出すように仕上げています。少量の酒粕も混ぜるなど、「喜多福」の商品として販売するので色々と工夫をしましたが、ご自宅で奈良漬を細かく切ってクリームチーズと混ぜていただいてもおいしくできると思います。

お酒が好きな方は特に奈良漬ディップをバゲットにのせておつまみとして楽しんでいただきたいです。パンが持つ甘さと奈良漬ディップの酒粕の風味がよく合います。天然酵母で作られたパンだと自然に近い発酵食品同士なので、一層合うと思います。

食パンと組み合わせてサンドイッチにするのもおすすめです。我が家ではトーストした食パンにのせるだけという食べ方もよくしていて、子供たちも喜んで食べています。

食パンでサンドイッチに
「奈良漬ディップ」として商品化。540円(税込)

卵サラダやタルタルソースにピクルスの代わりに細かく刻んだ沢庵や奈良漬を入れると少し甘みが出て奥行きの深い味になり、こちらもサンドイッチに合います。ベトナムのサンドイッチ、バインミーに入れるなますの代わりに漬物を使ってもらうと和とエスニックを組み合わせて新しい味わいのサンドイッチになります。

バニラアイスクリームと奈良漬ディップを混ぜながら食べるのも、是非試してみていただきたいです。意外な組み合わせですが、酒粕の風味と甘さ、酸味もある奈良漬ディップとバニラアイスクリームを混ぜながら食べるとおいしいですよ。

STORE RECOMMENDATION 私のお店のおすすめ

旬を先取りしたフレッシュで歯応え抜群のピクルス

季節ごとに旬の食材を使用したピクルスは、人気商品に

店を引き継いでから、ピクルスも作りはじめました。先代は浅漬けや糠漬けで季節を先取りしていたので、ピクルスも季節を大切に作っています。また漬物は食感が大事だと私は考えているのでピクルスも塩漬けにしてから、酢漬けにするなど、歯応えを感じてもらえるように仕込んでいます。

「季節のピクルス」は、ピクルス液に銀座ミツバチプロジェクトのはちみつを使って。 540円(税込)
紫玉ねぎを甘酢で漬け込んだ「レッドオニオン」496円(税込)

ピクルス液には、昆布の出汁を加えて、和食と合うように工夫もしています。春は長芋の梅仕込み、夏になるとトマトを鰹出汁のジュレにつけたピクルスが人気です。トマトは一つひとつ湯むきして食感に気を配っています。全て手作りなので、たくさんは作れず、お店に出すとすぐに売れてしまう人気商品です。

漬物はそのまま食べるだけでなく、料理のアクセントとしても活用してもらいたいと思います。知り合いの料理家さんが教えてくれたのは、沢庵を細く切ってオープンオムレツに入れる食べ方です。パン好きの方なら、このオムレツを使ったサンドイッチも楽しんでもらえると思います。

自家製の漬物を中心に全国のおいしい漬物もセレクト
和歌山の南高梅を銀座のはちみつginpachiではちみつ梅に

おかげさまで、長く家族で「喜多福」の漬物を食べてくださる方も多いです。漬物やピクルスなら、野菜をあまり食べないお子さんも食べてもらえることも。これまであまり漬物を食べる習慣がなかった方も、パンとの組み合わせで楽しんでもらえたら嬉しいです。

店舗情報

おつけもの 喜多福総本家
店名
おつけもの 喜多福総本家
住所
東京都中央区湊2-14-4
TEL
03-3551-3566
営業時間
9:00~18:30(日・祝 ~18:00)
定休日
元日
URL
おつけもの 喜多福総本家
https://www.otsukemono-kitafuku.com
※松屋銀座店、松屋浅草店もあり

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年5月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年5月)のものです

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