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vol.33 醤油の達人に聞く、
パンと醤油のマリアージュ

紹介してくれた人

職人醤油 代表
高橋万太郎さん

大学卒業後、精密光学機器企業で営業に従事したのち、伝統産業や地域産業の魅力を追求していきたいと株式会社伝統デザイン工房を設立。全国の醤油蔵で作られた醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。生まれ育った前橋市内に本店を構えて販売するほか、イベントへの出店も多数。著書に『にっぽん醤油蔵めぐり (かもめの本棚)』(東海教育研究所)、『醤油本』(玄光社 共著)。

RECOMMENDED COMBINATION おすすめの組み合わせ

醤油を海苔に絡めてチーズと一緒に
食パンで作るホットサンド

奈良漬+クリームチーズ+バゲット

醤油は蒸した大豆に、炒った麦を砕いたものをまぶして、そこに麹菌を加えて繁殖させ、塩水を加えて発酵・熟成させて作ります。
この作り方の醤油は、鎌倉時代に中国からお坊さんが日本に持ち帰ってきたという説が有力です。ただし、色々な食べ物を塩漬けにして保存する方法はもっと前からあり、平安時代の書物には醤油の「醤」という文字が出てくることが確認されています。

庶民に醤油が行き渡り始めたのは江戸時代だと言われていますが、昭和の初めまでは高級品でした。今では信じられませんが、お酒よりも高価だったこともあった程です。
高度成長期になると、醤油はスーパーで特売の目玉商品として扱われるようになり、大量に作れる安価な醤油が主流になりました。
小規模な醤油蔵は淘汰されていき、昭和30年に全国で6,000社ほどありましたが、現在は1,000件余りまで減ってしまいました。


「職人醤油」では全国60の醤油メーカーから、醤油と醤油の加工品、合わせて約100種類を販売しています。試しに手に取りやすいよう、すべて100mlの瓶入りにしています。

醤油と海苔、チーズのホットサンド

その中で、私がパンと合うと思う醤油は、秋田県にある「石孫本店」が作る「百寿」という濃口醤油です。「石孫本店」は、昔ながらの古い道具を使い続けています。麦を炒る作業では、熱源に石炭を使っているぐらいです。そのおかげか大手メーカーが作るスッキリとした醤油では感じない豊かな香りがパンに合うと思います。

この「百寿」を使って、私が繰り返し作っているのがホットサンドです。パンは、オーソドックスな食パンを使っています。バターを塗っておいた食パンの上に、少し醤油を垂らし、刻みのりをのせて、もう一度醤油を垂らします。その上にとろけるタイプのスライスチーズをのせて、さらに醤油を垂らし、刻み海苔をのせ、再度醤油を少し垂らし、もう1枚のパンをのせて両面を焼きます。もちろん板海苔でもおいしくできます。その場合は、スライスチーズよりもひとまわり大きいサイズにして、両面に醤油を塗って試してみてください。
パンと醤油を合わせると、醤油の香りを強く感じます。海苔も一緒に合わせることで、複雑さが生まれ、さらにチーズのまろやかさを加えることでより深い味になります。

はちみつ醤油トースト。はちみつ大さじ1に醤油小さじ1を混ぜてトーストに塗ります
アボマヨ醤油トースト。醤油とバターを塗ったトーストにアボカドとマヨネーズをプラスして仕上げに醤油をひとかけ

トーストにバターを塗った上から醤油をつけてもおいしいですし、醤油とはちみつを混ぜたものを塗って食べるのもすごくおすすめです。アボカドとマヨネーズを使ったアボマヨ醤油トーストはおいしいだけでなく、栄養バランスもよいので朝食におすすめです。

「職人醤油」では、醤油を6つに分類
醤油は分類ごとに並べられています

「職人醤油」では、数ある醤油の中から気に入ったものを選びやすいよう熟成期間と味わいで大きく6つに分けています。熟成期間が半年から1年程度のものは、料理に色が付かない白醤油と西日本でよく使われる薄口醤油に分かれます。熟成期間が1年から2年程度のものは、九州や北陸で使われる甘口醤油、そして万能かつ流通量も多い濃口醤油。2年から3年と熟成期間が長いものは、バランスが良く濃厚な再仕込み醤油とうま味たっぷりでとろみのある溜(たまり)醤油に分けることができます。

地域ごとにも特徴があって、九州に代表される甘い醤油は、四国、中国地方、日本海側のエリアでもつくられています。また東日本では濃口醤油が主に使われていますが、西日本は薄口醤油と濃口醤油、両方を常備している家庭が多いのも特徴です。

STORE RECOMMENDATION 私のお店のおすすめ

24の料理や食べ物を引き立てる醤油を提案!
好物から醤油を選ぶ「大好物醤油」

店舗の一画にある大好物醤油のコーナー

これだけたくさん醤油があると、一体どれを選んだらいいかわからないと思われる方も少なくありません。そこで、「大好物醤油」と名付けたシリーズを作りました。好きな食べ物から醤油を選ぶという提案です。「その食べ物には、この醤油を合わせると味わいを引き立ててくれますよ」というもので、全部で24種類あります。
まず醤油と合わせるとおいしいと思う食べ物を300アイテムほど候補としてリストアップしました。そこから、接客中に質問されたり、話題になったりする食べ物、スタッフのいち押しなどを取り入れて、24種類に絞り込みました。

その料理のために新たに醤油を作ったわけではなく、「職人醤油」で仕入れて販売している醤油に、料理や食べ物のイラストが付いた紙のパッケージを付けています。パッケージを取り外すと、醤油蔵ごとのラベルデザインが見られます。

毎日パンを食べる人のための醤油セットとして選んだ5本。価格は左から540円、648円、486円、648円、540円(すべて税込)

「職人醤油」で販売している醤油は、すべて100ml入りです。いくつか食べ比べて楽しんでもらいたいと思っています。

今回は毎日パンを食べる人のための醤油セットを考えてみました。ホットサンドに使った「石孫本店」の「百寿」のほかは、パンと相性のいい食べ物と合う醤油を中心に選びました。「好物、アボカド。」の岐阜県「山川醸造」の「漆黒」、「好物、アイスクリーム。」の、香川県・小豆島「ヤマロク醤油」の「鶴醤」、「好物、チーズ。」は、兵庫県にある「末廣醤油」の「薫紫」で、ローストビーフのお店から頼まれてつくられたスモークした醤油です。毎日パンを食べる方もお米も召し上がると思うので「好物、白ごはん。」もどうぞ。炊き立ての白ご飯にかけてほしいこの醤油は福島県の「鈴木醤油店」が作る「平右衛門」です。

お店のカウンターは木桶をイメージ。竹製のタガは醤油蔵で使われていた本物
高橋さんが関わった本。醤油に詳しくなる情報が満載

このうち、「好物、アイスクリーム。」「好物、白ごはん。」はどちらも木桶で仕込まれています。この木桶、10年ほど前には作れる職人がほとんどいなくなってしまいました。近年、若手の醤油醸造家たちが木桶を見直し始め、「木桶職人復活プロジェクト」が立ち上がって活動しています。木桶仕込みを再開する蔵元も増えてきたところです。

伝統的な方法での醤油作りは、海外からも高い評価を得ています。醤油はソースなのに、ワインなどと同じように醸造という手間と時間のかかる作り方をしている、と。それなのにどうしてこんなに安いのか?と驚かれ、輸出量も増加しています。

アジア諸国にもナンプラーや中国醤油などさまざまな醤油がありますが、日本の醤油は香りのよさに特徴があることも海外で評価が高い一因だと思います。味はもちろん、香りも比べて、いろいろな醤油を楽しんでもらえたらいいですね。

店舗情報

おつけもの 喜多福総本家
店名
職人醤油 前橋本店
住所
群馬県前橋市西片貝町5-4-8
TEL
027-225-0012
営業時間
10:00~16:00(金土日~18:00)
定休日
なし
URL
職人醤油
https://www.s-shoyu.com
※松屋銀座店もあり

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年1月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年1月)のものです

パンを楽しむ美食の足し算