ニッポンのブーランジェ


自家製酵母とReady to Bake で勝負
vol.01 ブーランジェリーセイジアサクラ 朝倉 誠二氏

東京港区、白金・高輪。高級マンションが立ち並ぶ一角に、地元の人々に圧倒的に人気のベーカリーがある。「ブーランジェリーセイジアサクラ」である。店に近づくに連れて、焼きたての甘い香りが漂ってきて、誘われるように店の前に立つ。真っ赤にペイントされた小さな店舗は、なんとも可愛らしく、道行く人の目を惹き寄せる。オーナーシェフの朝倉誠二氏が2008年に、自分の名前で勝負したいと、この地にオープンした。
広さはたったの13坪。厨房9坪、店舗は4坪という小さなスペースだ。赤を基調とした可愛い店内には、自家製酵母を自在に操る、朝倉氏自慢のパンがズラリと並び、訪れる客を魅了する。差別化したパンをつくるには、粉、油脂、発酵種の3つの要素があるが、自分は発酵種で勝負していると語る朝倉氏。約45アイテムのパンは全て、3種の自家製酵母を駆使した個性溢れるパンである。

勝てるチーズカレーを開発

この店の一番人気は「ぶどうの天然酵母チーズカレー329円(税込)」である。東京で最も美味しいカレーパンと評判も高く、テレビ番組でもよく取り上げられる。スイス産のグリュイエールチーズをたっぷり使った野菜ゴロゴロの焼きカレーパンは、さっくりした生地とスパイシーな具材、とろとろのチーズが、絶妙な味わいだ。ボリュームたっぷりとはいえ、一個329円という価格にも関わらず、差し入れや土産にと、大量注文する客も多いという。

「このカレーパンは、差別化を狙い、高輪という土地に合ったカレーパンはどういうものかを考えて、揚げカレーではなく、敢えて焼きカレーにしました。焼く方が使える具材の幅が広がり、空洞が出ないんです」。たっぷりの自家製フィリングとチーズを載せて、伸びのいい生地で包み込み、焼くことによって味を重ねるのだと朝倉氏。その戦略が見事に当たり、今や平日でも1日400個、休日ともなれば500個は売れる看板商品に育っている。

3種の自家製酵母を使い分ける

セイジアサクラのパンの特長は、発酵種が奏でる熟成の香りと味わいである。レーズン、ゆず、ホップの3つの自家製酵母を自ら培養。これらの3種の酵母を使い分けたパンは多彩で、個性豊かで他にない美味しさを作り出している。
ホップ種をつかった「アロマホップ生クリーム食パン378円(税込)」は、酵母が放つ優しい香りとしっとりした味わいが特長。数日経っても豊かな香りの持続性に驚くが、それにはワケがある。食パン型に入れ、蓋をしてこもらせ焼きにすることで風味を閉じ込めるのだ。

シェフのお薦めは「塩パンゴールド248円(税込)」。今、塩パンが人気だが、朝倉氏が創りだす塩パンは独特だ。食パンに代わる食事パンを時流に乗せて出したいと、敢えて大きく焼いて生地の美味しさを引き出した。メロンパンはしっとりしてゆずの風味がほのかに残る。人気のフォカッチャはここにしかない味わいで、ボリュームたっぷりのフォカッチャサンドは昼でほぼ完売となる。ゆずの酵母を使った「ゆずロール70円(税込)」や、4種のフルーツをつかった「キャトルフリュイセック286円(税込)」も絶品だ。狭い店舗に並ぶパンは、一つひとつが個性に溢れ、実力派ベーカリーここにありと主張している。

パリで武者修行

朝倉氏のパン職人としてのルーツは徳島県にある。高校生の時、たまたまアルバイトをしたパン屋で、パンづくりに目覚めた。小さな田舎町のパン屋だが、朝倉氏の頑張りで、行列のできるパン屋へと成長させた。
「自分のパンが世界で通用するか試してみたかった」という朝倉氏は、休暇を利用しては渡仏、パン屋に飛び込んでは「働かせてください」と頼み込む。最初はどの店でも断られたが、持ち前のガッツで、何軒かで体験修行した。パリに住んで本気で修行したい。そう決心した朝倉氏は、徳島のパン屋を辞めて単身渡仏。徒手空拳でパン職人としての道を模索することになる。そしてついには有名なブーランジュリー「ベルナール・ガナショー」と「エリック・カイザー」で修行する。

<ガナショーでポーリッシュ(液種法)を学ぶ>

ガナショーは当時も有名店で、フランス語もできない朝倉氏は、当然門前払い。しかし「やらせて下さい」と厨房に飛び込み、バゲットを成型してみせる。朝倉氏の仕事ぶりに納得、入り込むことができた。
フランスはよくも悪くも実力の世界。身に付いた腕がモノをいう。とはいえ数々の辛酸を舐めたことは間違いない。ポーリッシュでつくる一本クープの「フルート・ガナ」は、超人気アイテム。夢中でバゲットを焼いたと当時を振り返る。
ではなぜガナショーだったのか。液種、ポーリッシュを学びたかったからである。ポーリッシュは、吸水の水を旨みに変え、粉を水和させると朝倉氏。これにより、しっとりと、そしてもっちりした食感、粉の旨みを存分に引き出した風味豊かなパンを生み出すことができる。

<エリック・カイザーでルヴァンリキッドを体験>

ガナショーで修行した朝倉氏は、次に「エリック・カイザー」の門を叩く。ルヴァンリキッド(液体天然酵母)による製法を学ぶためである。エリック・カイザーの商号で、ちょうど新店となるマルゼルブ店オープン直前だった。立ち上げの苦労を共に味わいながら、エリック・カイザーのパンづくりを学んだ。ルヴァンリキッドを安定的につくりだすルヴァン・フェルメント(ルヴァンリキッドを管理する機械)を開発、いつでも、どこでも安定した美味しさを提供できるスキームを創り出したカイザーはすごいと絶賛する。
パリでも最先端の人気店での体験が、朝倉氏を骨太にそしてよりポジティブなパン職人に育てたといえそうだ。

メーカーで商材開発も経験

パリで3年間修行、31歳の時帰国した朝倉氏は、不二製油に勤務、独立後は協和キリンフードシステム(現MCフードスペシャリティーズ)で開発に携わっている。朝倉氏が発酵や種に並々ならぬ意欲を燃やすのは、パン職人として、そしてメーカーでの商材開発の経験があるからだ。オーナーシェフとしてのパン職人の顔と、メーカーのソフト開発者、この2つの顔を持つ朝倉氏は稀有な存在といえる。双方を熟知しているからこそ、応用範囲が広い。どうすれば勝てるか、勝ちパターンがわかると自信をのぞかせる。

Ready to Bakeを世に問う

2008年、高輪にセイジアサクラをオープンさせるが、「店は自分にとって、Ready to Bake(ホイロ後冷蔵することによりすぐ焼ける製法)を世に問う場所」、と宣言する。レーズン、ゆず、ホップの3種の自家製酵母を使い分け、香り豊かなパンを焼き上げるが、生産効率を上げるために取り組んでいるのが、Ready to Bakeである。24時間、時には48時間冷蔵発酵させる。これでパンの風味・美味しさを引き出すだけでなく、いつでも焼成可能という生産効率も大幅アップできる。
レーズン酵母で粉のうま味を引き出した「黄金色のバゲット324円(税込)」が、パンマニアのクチコミサイト「パン・オブ・ザ・イヤー2014」バゲット部門で金賞に輝いた。自分が長年信じて続けてきたパンづくりの理論、発酵種とReady to Bakeが評価されたと喜びを語る。
生産性の向上は、今のベーカリーにとって重要課題。少し前までは長時間労働が当たり前だったが、今の若者には通用しない。いかにして美味しいパンをお客様に届けるか、しかも生産効率を上げて・・・。この課題をクリアするためのReady to Bakeなのだと語る。

新しいスキームを創り業界に貢献したい

高輪の4坪の売り場で、オリジナリティ溢れるパンを提案する朝倉氏、次なる目標は、パリに店を出したいと、夢を描く。
しかし、朝倉氏が一番やりたいことは、新しいシステムを産みだし、パン屋のスキームを開拓、そして次の世代に少しでも貢献したいと目を輝かせる。
朝倉氏は饒舌だ。のってくると身を乗り出し、どんどん言葉が飛びだす。「私は究極の未来派。目標をきちんと持って、今を懸命に生きれば、思いも寄らぬ未来が待っている」と笑顔を向ける。
「失敗は肥やし、努力は裏切らない」と語る朝倉氏。後ろ盾もコネも何もない若者が、実力と心意気のみでのし上がってきた。あらゆる体験を肥やしに、貪欲に今を生きる朝倉氏は、まさにベンチャーの顔を持つ。パン職人と経営者、2つの顔を併せ持つ朝倉誠二氏の次なる未来に期待したい。

朝倉 誠二氏

徳島、鳴門市内の店でパン職人として修行を重ねた後、26歳で渡仏、パリのブーランジュで修行。その間「ベルナール・ガナショー」「エリック・カイザー」で腕を磨く。
帰国後、原材料メーカーで商品開発やコンサルタントを経験。2008年、高輪に「ブーランジュリーセイジアサクラ」を開業。

ブーランジェリーセイジアサクラ

郵便番号/〒108-0074
所在地/東京都港区高輪2-6-20 朝日高輪マンション104号
最寄駅/都営地下鉄浅草線高輪台駅
アクセス/高輪台駅より徒歩7分
電話番号/03-3446-4619
営業時間/9:00~18:30
定休日/木曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年6月)のものです

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