ニッポンのブーランジェ


粉の個性を生かし自分のパンを表現
vol.02 ブラフベーカリー 栄徳 剛氏

横浜・元町、観光やショッピングで賑わう元町商店街から山手に向かう代官坂を登る。けっこうな急坂を登りきる手前に、ブルーのオシャレな店舗が見えてくる。いい香りに誘われて中に入ると、そこはスタイリッシュで、まるでギャラリーのようなベーカリーだった。2010年12月、世田谷・三宿の「ラ・テール」で活躍した栄徳剛氏が立ち上げた「ブラフベーカリー」である。ディスプレイや調度品など、隅々まで店主のこだわりが貫かれたここは、今や地元の客は勿論、観光客にも人気のベーカリーとして知られている。ファッションブティックのような空間には、ベーグルやシナモンロール、マラサダなどアメリカンスタイルのパンがズラリと並ぶ。なぜアメリカンスタイルなのか?
「場所柄、外国人のお客様が多いこと、それに老舗のウチキパンさんや、ポンパドウルさんが近くにあるので、競合しない店にしたかったんです」。栄徳夫妻のアメリカ体験、特に奥さんの友紀さんが、サンフランシスコに留学していた経験から、アメリカンスタイルを選択したという。ここには栄徳夫妻の熱い想いがギュッと詰め込まれている。


なつかしいアメリカの味を提案

店内に入ってまず目に止まるのは、アメリカンサイズの「シナモンロール300円(税込)」である。生地量140gという存在感、たっぷりのチーズクリームのアイシングがインパクトを与えている。大ぶりではあるが上品な甘さで、一口食べると止まらない。
平台の中ほどを陣取っているのは、5種類のハワイ風ドーナツ「マラサダ160円~230円(税込)」である。ここではカレーパンもジャムパンもマラサダの一つとして提案されている。揚げドーナツでありながら、その食べ口の軽さにいくらでも食べられる。
「ミルクステイック210円(税込)」も栄徳氏のスペシャリテだ。準強力粉7割と薄力粉3割で、歯切れのよさを出したフランスパンに、蒜山のジャージーバターで作ったミルククリームがたっぷり。その軽い食感と口溶けがファンを惹き寄せる。レジ横のケースに並ぶ「キャロットケーキ2円/1g(税込)も人気商品。これは友紀さんの担当だ。オリーブオイルとたっぷりの人参が入ったケーキは、ヘルシーでなつかしい味わい。アメリカの家庭の味を再現したという。
平日は80アイテム、休日は120アイテムをつくるというが、どれもが完成度が高く、商品一つひとつから栄徳氏の探究心と丁寧な仕事が見えてくる。

ブラフブレッド

栄徳氏渾身の作品は「ブラフブレット1.5斤530円(税込)」である。北海道・十勝産のキタノカオリ100%に挑戦したこの食パンは、優しい香りと、やわらかくもっちりした食感がたまらない。粉の風味を引き出すために焼き型にもこだわった。普通の食パン型より少し小さめの正方形の型を特注。「この型だと皮が薄くパリッと香ばしく焼きあがるんです」と栄徳氏。ブラフブレッド専用の型ではあるが、店にもディスプレイ、希望者には販売もしている。この「ブラフブレット」は「&Premium3」(マガジンハウス刊)のパン特集号で、日本の食パン名品10本に選ばれている。これだけでも栄徳氏の実力を窺い知ることができる。

「ディーン&デルーカ」のようなセレクトショップ

店のコンセプトは「ニューヨークの高級食料品店、ディーン&デルーカのようなセレクトショップにしたかったんです」と栄徳氏。選りすぐりの食品の集合体。そんなイメージなのだという。
高級セレクトショップに相応しい店づくりへのこだわりは半端ではない。店内中央の大きな平台は木製、厨房側の棚は鉄製、レジ周りはステンレス製と3種の素材を使っている。
そして訪れた人に大きなインパクトを与えているのが、レジ奥に飾られた日本を代表する芸術家である草間彌生氏の「かぼちゃ」の版画である。草間さんが大好きという栄徳氏が、独立した時に飾ろうと買い求めていたという。「オーブンが買えるぐらい高価でした」と言いながらも、嬉しそうだ。

それと対比して厨房と店舗の仕切り壁が大きく切り取られ、スタッフが作業をしている姿が、まるで一枚の絵画のように見える。窓の中の栄徳氏の仕事風景を眺めていると、突然、大きな手がニュッと出て、焼きたてのパンを並べだした。ガラスがないから厨房と店舗が直に繋がっている。
「お客様との対話を大切にしたかったので、この窓だけは絶対作って欲しいとデザイナーに頼みました」。イメージカラーのイブ・クラインの青色も、パッケージデザインも、金属製のトレーやトングも、全てデザイナーに特注したという。この店舗そのものが、栄徳氏の想い、そして人生を描き出す作品なのだ。

横浜のパン屋の3代目として

栄徳氏のパン体験は産まれたときからといえる。祖父の代から近くの石川町でパン屋を営んでおり、子供のころから父親のパンで育った。いわばパン屋の3代目である。パンにも、地元横浜にもひと際思い入れが強い。この代官坂が好きで、自分がパン屋をやるなら絶対この場所、と決めていたという。

東京製菓学校を卒業後、本牧にあったL'ami du pain でフランス人のドミニク氏に師事。その後当時のホリデイ・イン(現ローズホテル)で、4年間パン職人として活躍した。このホリデイ・イン時代に、フランスやアメリカで研修を受け、現地のパンを学んだ。そして次は、グランカフェ新橋ミクニの立ち上げに関わり、その後世田谷・三宿のブーランジェリー ラ・テールで、パン職人としての道を極めることになる。今でこそ有名店だが、当時は売上が低迷していた。そのラ・テールを人気店に押し上げたのは、栄徳氏の手腕といえそうだ。ラ・テール“大地のパン”というコンセプトのこの店で、国産の原料に深く関わり、その魅力に惹かれていった。
そして2010年、ここ代官坂の物件が空いたことから、独立を決意、ブラフベーカリーオープンにこぎつけた。33歳の時である。店名の意味を問うと、「ブラフというのは崖の意味で、この辺り一帯がブラフと呼ばれているんです。だから迷わずブラフベーカリー」と教えてくれた。

粉が好き

粉が好きで、おもしろい粉をいろいろ使いたいと語る栄徳氏。厨房を覗くと、たくさんの銘柄の粉袋が置かれていることに驚く。特に今、お気に入りはキタノカオリという。独特の食感、香りや風味がずば抜けている。これをなんとかパンで表現したい。その究極の商品が『ブラフブレッド』である。
「今、面白いと思っているのは台湾の粉ですね。台湾での講習会で出会ってその面白さに惹かれました」。と語る栄徳氏。この粉は、ここではクリームパンやドーナッツとして表現されている。

イタリアのカプート社の粉も面白いと栄徳氏。現地のピザ職人が使っている粉で、粒子が粗く歯切れがいいので、ピザやフォカッチャに使用している。
「日本ではなかなか入手できませんが、フランスの灰分が高く味わい深い粉も欲しいですけどね」。
粉の話をすると話は尽きない。研究者の顔を覗かせる栄徳氏。粉の持つ特性を生かしたパンづくりが楽しくて仕方ないとばかりに笑顔を見せた。
ラ・テール時代に粉や素材の面白さに目覚めたが、シニィフィアン・シニィフィエの志賀勝栄氏の講習会に何度か同行したと語る栄徳氏。素材や発酵種を極める志賀氏の影響を、少なからず受けていることは確かなようだ。

パンは自己表現

独立して5年、訪れた人を幸せな気分にしてくれるブラフベーカリーは、しっかりと地元に根付き、人気店として成功を収めている。その栄徳氏の次なる挑戦はカフェである。既に徒歩5分ぐらいのところに建設中だ。そこでは菓子を中心としたカフェにし、お客様にゆったりとくつろいでもらいたいという。カフェは4人の子育てをしながら奮闘している友紀さんが中心となって運営することになる。

ブラフベーカリーとしては「コンセプトを崩さないように、デニッシュやもっとアメリカっぽい商品を増やしていきたいですね。元々ニューヨークは世界中からの寄せ集め、各々が個性を大切にしている。そんな自由な姿がアメリカンぽいですよね」。
パンづくりは自己表現、個性のある粉を使いこなし、自分のパンを表現したい。「理想はディズニーランド、あのように高いお金を払っても、お客様に笑顔で帰って頂ける店を目指したいですね」。
産まれた時からパン職人のDNAを受けつぐ栄徳氏、柔和な風貌は飄々として自然体だ。しかしその探究心はすごい。素材を活かしきる技術力と表現力には定評がある。先日も台湾で開催されたパン講習会に講師として招かれたほどだ。
原材料を厳選、粉の個性を引き出し、自分のパンづくりに挑む。その目はまっすぐにパンづくりを見つめている。表現者栄徳氏が、次はどんな自分スタイルのパンを創りだすのか楽しみだ。

栄徳 剛氏

1976年、横浜のパン屋の長男として誕生。96年東京製菓学校卒業後、横浜・本牧にあった「ラミ・デュ・パン」に勤務。その後「ホリデイ・イン」(現「ローズホテル」)、グランカフェ新橋ミクニ、東京・三宿「ブーランジェリー ラ・テール」でパン職人としての腕を磨く。2010年、地元横浜にアメリカンスタイルの「ブラフベーカリー」をオープン。

BLUFF BAKERY(ブラフベーカリー)

郵便番号/231-0861
住所/横浜市中区元町2-80-9 モトマチヒルクレスト1F
最寄駅/みなとみらい線 元町・中華街
アクセス/元町・中華街駅元町口より徒歩8分
電話/045-651-4490
定休日/無休

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年6月)のものです

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