ニッポンのブーランジェ

地元に根ざす「普段使いのパン屋さん」でありたい
vol.12 BOULANGERIE ianak!(ブーランジェリーイアナック) 金井 孝幸氏

JR山手線と地下鉄千代田線の西日暮里駅から徒歩3分。下町の懐かしい街並みが広がる住宅地の一角に、オレンジ色の可愛い店が見えてくる。「BOULANGERIE ianak!(ブーランジェリーイアナック)」である。「メゾン・カイザー」出身の金井孝幸シェフが、地元のこの地にオープンして10年。人気のパン屋さんとしてしっかりと根付いている。

多彩な味の宝庫

鮮やかなオレンジ色の店構えに思わず足を止め、店内に足を踏みいれる。5坪ほどの売り場には、たくさんのパンがズラリと並ぶ。菓子パン、デニッシュ類、惣菜パン、バゲット、サンドイッチ、食事パンなど約80アイテムが揃う。「よくもこんなにたくさん!」と感心してしまうほどだ。5人も入れば満員となってしまう店内には、次から次へとお客様が押し寄せ、パンがどんどん売れていく。金井シェフのワザが光るパンを眺めながら、どれを買おうかと選ぶ楽しさは格別だ。

約80アイテムの中でも1番人気は「お豆とれんこんのカレーパン」250円だ。ターメリック入りの生地でたっぷりの豆とレンコンを包んだカレーパンは、大きくカットしたレンコンのシャキシャキした歯応えが、独特の味わいをつくりだしている。最近はテレビでも紹介され、ますます人気が高まっている。「豆はヘルシーだからよく使います」と語る金井シェフ。まさにここにしかない自慢の逸品といえる。

2番目に人気の商品は、店頭で目に飛び込んでくる「パンドラ」253円だ。パンドラの箱のごとく四角い形の「パンドラ」は、カスタードを練り込み、チョコレートをぎっしり巻き込んでいる。溶けたカスタードの甘さとチョコのほろ苦さがなんとも大人の味わいだ。6.5cm角と大ぶりの四角形だが、さっくりした食感とバランスの良い味わいに、一個食べられてしまう。「テレビで放映されたのでこれもよく売れています」と語る金井シェフ。まさにイアナックの看板商品として育っているようだ。

食事パンも得意

「場所柄、あんぱんやメロンパン、チョココロネなどの菓子パンがよく売れます」と語る金井シェフに、特にお客様に食べていただきたいお薦めを伺うと、「やっぱりバゲットですね」との答え。

レジに続くチルドケースの前に並ぶバゲットは美しく、金井シェフが実力派のベテランパン職人であることを物語る。「メゾン・カイザー」の前は、卸がメインで多くのレストランにバゲットを配達している「パンテコ」で修業。毎日バゲットづくりに励んでいたというだけあって、金井シェフがつくりだすバゲットは凛として美しい。自家製ルヴァンリキッドを使い、長時間低温発酵させたバゲットは、芳醇な香りと、サクッとしたクラストともっちりしたクラムがクセになる。

店内を見回すと、数種類並ぶ小ぶりの食事パンに手を伸ばすお客様が多いことに気付く。「小さければ食べやすいし買いやすいでしょう。いろんな人に試してもらいたいので」。「ヴィエノワプチ」78円、「ショコラ」88円、「チーズ」88円の3種と、「雑穀のパン」78円など、買いやすい価格のプチパンの提供には、そうした金井シェフの優しさが込められている。

それだけではない。熟練パン職人が奏でるハード系のパンは絶品だ。自家製のイチジク酵母を使った「パンドカンパーニュ」1/2カット439円、レーズンやクランベリー、ピスタチオ、ヘーゼルナッツがゴロゴロ入った「フルーツライ」520円は一度食べたらやみつきになる。ハード系は20アイテムぐらい焼いていると語る金井シェフ。たくさん売れるわけではないが、常連客がいるのが嬉しいという。もっとこうしたハード系食事パンにも馴染んで欲しいというシェフの願いが店頭でさりげなく表現されている。

メゾン・カイザーをベースに

元々パン職人を目指したわけではない、と語る金井シェフ。「たまたまアルバイト募集を見て入社したのが、当時の西武百貨店池袋店の『ルノートル』でした。やっている内にパンづくりがおもしろくなって・・・」。ルノートルでパンづくりの基本を学んだ金井シェフ、次は恵比寿の「パンテコ」に移り、3年間バゲットづくりに没頭することとなる。

その後、メゾンカイザーの門を叩くことになる。当時オープン1年足らずで拡大時期にあった。金井シェフは三田店からCOREDO 日本橋店、そして高輪本店で腕を磨く。「ル・ルソール」の清水シェフや、「メゾン・イチ」の市毛シェフも店は違えど同じ時期にメゾン・カイザーで修業した仲間である。

フランスを標榜するメゾン・カイザーはクロワッサンや食事パンが中心。ここでルヴァンリキッドを使った食事パンをじっくり学んだという。

「当時のカイザーは独立志向の職人が多かったですね」と語る金井シェフ。そうした仲間の刺激もあって、メゾン・カイザーで4年間修業後、いよいよ独立することとなる。

地元西日暮里で独立

「ここ西日暮里は私の地元。独立するなら絶対この場所がいいと、最初から決めていました」。2006年、「ブーランジェリー・イアナック」をオープンした。

「ianak!イアナック」という耳慣れない店名はどうして?との問いに、「名前の金井(KANAI) を逆にしただけ」と笑顔を向ける。一見強面だが、そんな茶目っ気がスタッフを和ませ、伸び伸びとした職場をつくり上げているといえそうだ。

「ルノートル」で3年、「パンテコ」で3年、「メゾン・カイザー」で4年と、10年間の修業を経ての独立だから、パンづくりの技術は十分だ。最初は修業先の経験からバゲットなどのハード系を多く焼いていたが、下町という場所柄、柔らかいパンの方がよく売れた。老若男女、幅広いお客様に喜んでいただけるパンを増やしていった結果、今のイアナックがあるという。

「店に飾りは要らない。全部パンで埋め尽くそうという気持ちでした」。確かにイアナック店内はいたってシンプルだ。近隣の子供連れの主婦からお年寄りまで、地元のニーズを取り入れた商品構成は、お客様に寄り添いながら、継続していきたいという金井シェフの想いが詰まっている。

こだわりすぎないのが信条

パンづくりへのこだわりを問うと「こだわりすぎると幅が狭くなる。こだわりすぎないのがモットー」と語る金井シェフ。国産小麦粉や発酵種などへの強いこだわりを売りにするパン職人が多い中で、意外な言葉が返ってきた。

とはいえ、粉は7~8種類の小麦粉を金井流にブレンド。生イースト、インスタントイーストに加えて、発酵種はカイザー時代に親しんだルヴァン・リキッド、自家製イチジク酵母を併用、菓子パンにはあえて酒種をブレンドするというこだわりようだ。

酒種は自家製で「個人的にマイブーム」と語る金井シェフ、クリームパンやチョココロネ、メロンパンなどの菓子パン、そして人気商品のパンドラにも酒種を加えることで、風味が増し、しっとり感が持続するという。

パンの製法のベースはメゾン・カイザーだが、自分流にアレンジしていると金井シェフ。特に惣菜パンは二次発酵の時間をしっかり取り、やわらかさが持続するよう工夫している。過度にこだわりすぎることはないが、「美味しい!」とお客様に喜んでいただくための、さりげないこだわりこそが金井流といえる。

地元の人に寄り添いパンの美味しさを伝えたい

今年10周年を迎え、今や地元で評判の繁盛店として親しまれるイアナック。平日は地元客を中心に200人から250人が、休日ともなると金井シェフの評判を聞きつけ、2倍の約400人が訪れるという。

多忙な日々にうれしい悲鳴をあげる金井シェフだが、2014年には上野に新設された新しい商業施設、上野の森さくらテラスに2号店「イアコッペ」を出店した。「まだ2店舗目は早いと思ったのですが、せっかくのお話なので出店することにしました」。イアコッペの方は奥様を中心に運営している。

毎日、イアナックのパンづくりがひと段落すると、金井シェフ自身が、コッペパンを配達している。ヴィエノワに近いコッペとブリオッシュ生地、全粒粉を使ったものやチョコヴィエノワと、多彩なコッペパンはさくらテラスでも評判となっている。「イアコッペ」を体験し、金井シェフのパンを求め、イアナックに来店する客もいるという。

最近は下町の熟練パン職人の店として、テレビに取り上げられることもあり、少しずつ金井シェフのパンが地元から全国へと広がってきている。

今後の夢を聞くと、「自分は特に夢なんてありません。町のパン屋さんとして、この店をきちんと持続させていくだけです」と真顔で答える。しかし「妻は料理が得意なので、何かやりたいと言うかもしれません」と笑顔を向けた。地元に愛される普段着のパン屋さん。その真摯な生き方がイアナックファンを増やしているといえる。「イアコッぺ」を仕切る奥様と共に、今後どんな店をつくり上げていくのかこれからが楽しみだ。

金井 孝幸

1971年東京生まれ。「ルノートル」、「パンテコ」、「メゾン・カイザー」で修業、2006年、地元西日暮里に「ブーランジェリー イアナック」をオープン。地元で圧倒的に愛されるベーカリーとして知られる。自家製酵母を併用するなど、独創性あふれるパンづくりでその名が知られている。

ブーランジェリー イアナック

郵便番号/116-0013
住所/荒川区西日暮里4-22-11
最寄駅/JR山手線・京浜東北線、地下鉄千代田線 西日暮里駅
アクセス/西日暮里駅より徒歩3分
電話/03-3822-0015
営業時間/8:30~19:00(パンがなくなり次第閉店)
定休日/不定休

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年10月)のものです

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