ニッポンのブーランジェ

伝統を大切にイタリアパンの魅力を広めたい 
vol.15 Pane & Olio(パーネ エ オリオ)小林 照明氏

東京・文京区。地下鉄の護国寺駅から歩いて5分。二階建ての古い日本家屋が見えてくる。その一階がイタリアパン専門店「Pane & Olio(パーネ エ オリオ)」である。アパレル業界から転身した小林照明氏が2013年にオープン、今や近隣の人達になくてはならないパン屋さんとして親しまれている。

イタリアパンが勢揃い

センスの良い店内には、イタリアのパンがズラリと並ぶ。BGMのカンツォーネが耳に心地よく、一歩足を踏み入れただけでイタリアを感じさせる。日本でも稀有なイタリアパン専門店である。

昼近くになると、具材を満載した人気のフォカッチャをはじめ、さまざまなパンがズラリと並ぶ。ジャガイモのフォカッチャ1/4カット180円、きのこのフォカッチャ1/4カット245円、オレンジ色が印象的な白雪カボチャとサルシッチャのフォカッチャ1/4カット250円など約10種類が揃う。どれも具材とふっくらしたフォカッチャの食感がマッチ、独特の美味しさがお客様を惹きつける。またイタリアの朝食に欠かせないコルネット260円数種もお客様には人気アイテムという。

それだけではない。サンドイッチにもピッタリのチャバッタ350円や、セモリナ粉を使用したルンゴ380円など食事パンが充実、シンプルな味わいとさっくりと軽い食感がファンを惹き寄せている。

そしてここにはミラノの伝統的な食事パン、バラの花びらの形をしたロゼッタ170円や、亀の甲羅の形をしたタルタルーガ170円も揃う。イタリアから取り寄せたという分割器を使用、中に空洞がある珍しい形そのものを再現している。
このロゼッタやタルタルーガを使ったハンバーガー390円は、ジューシーなハンバーグとサクサクのパンがよく合い、人気メニューとなっている。勿論、柔らかな食感のバンズを使ったものも用意、選べるようになっている。
その他、冷蔵ケースにはさまざまなパニーニサンドが並び、近隣OLやビジネスマンのランチ需要に対応している 。

イタリアで賞に輝いた絶品パネトーネ

小林シェフの真骨頂は、約500年前のイタリアの伝統製法を守るパネトーネである。その芳醇な香り、ふわふわの食感、リッチで奥深い味わいは、他では味わえない逸品だ。

小林シェフオリジナルの「りんごとクルミとしょうがのパネトーネ」3900円は、なんと本場ミラノのパネトーネコンテスト2014で、準グランプリに輝いたというからスゴイ。そしてラッピングコンテストでは、日本の風呂敷を使った独特のラッピングで、グランプリに輝き、ダブル入賞を果たしたという実力の持ち主である。

「りんごとクルミとしょうがのパネトーネ」は、クルミのコクとりんごと生姜がマッチし、これまで体験したことのない味わいに驚く。そのかぐわしい香り、しっとり柔らかくリッチな味わいは、「こんなパネトーネ食べたことない」と、食べた人すべてを虜にする。

マードレ(お母さん)と呼ぶパネトーネ菌を育て、2日間じっくり発酵させて焼き上げるパネトーネは、全て手づくりで、5日がかりでつくられる。

クリスマス直前のある日、パネトーネクラシコ3600円を焼く現場を取材することができた。厨房には緊張感が漂う。2日かけて発酵させ、大きく膨らんだパネトーネは生地量550gの大型だ。イタリアのパネトーネに適した粉を使用、バターをたっぷり使い、漬け込んだドライフルーツは、粉と1対1という贅沢な配合だ。まるでわが子の成長具合を見守るかのように一つひとつの発酵具合をチェックする小林シェフ、その目は真剣そのものだ。表面にすばやくクープを入れ、花びらのように開き、バターをのせていく。

そして絶妙のタイミングでオーブンに入れる。窯に入れられたパネトーネは大きく膨らみ、まるで生き物のようだ。180度で40分。途中で焼け具合をみながら、じっくりと焼き上げていく。伸びが最高潮に達したところで素早く窯から取り出す。

ここからが最後の関門だ。大きく膨らんだパネトーネが萎む前に、素早く金串を刺し、逆さまに吊るしていく。その絶妙のタイミングは奥様の伊基子さんとの二人三脚でないとできないという。

ラックの幅を勘案、日本では魚焼き用の金串で対応しているが、その細い金串を焼きあがったばかりのパネトーネの根元に2本差し、ラックに素早く吊るしていく。その光景は圧巻だ。一日吊るして萎みを防ぎ、翌日ようやくラッピングできるという。

こうして出来上がるパネトーネはまさに宝物、幸せの象徴といえそうだ。「こうした伝統的な製法でつくるパネトーネは、今や本場でも少ないですね」と小林氏。まさに貴重品、特別な味わいだ。この小林シェフのパネトーネを求めて注文が入る。

アパレル業界から転身

アパレル業界で働いていた小林シェフが、パン屋に転身したきっかけは2011年の東日本大震災という。食の安全性を考えるようになり、パンの仕事をしている知人を介して出会ったイタリアのパンの美味しさの虜になり、自分でもつくってみたいと思ったという。もともとモノづくりが好きで職人になりたかったという小林シェフ。イタリアパンの道に進むことを決意する。39歳の時である。

ローマの南のラティーナという町で、師匠ジャンカルロ・デ・ローザさんと出会い、そのラボでさまざまなイタリアパンを学ぶことになる。イタリアが自分に合っていたという小林シェフ、日本と何度も往復しながらパンづくりを学んだ。
そして2013年10月、実家の築90年以上の古い建物を活かし、「パーネ エ オリオ」をオープンすることとなる。パンの修業は1年ぐらいだったため、当初はパン職人を雇いスタートさせた。「何も知らなかったからできたこと」と、当時を述懐する。以前この場所がパン屋さんだったこともあり、近隣の人には「ようやくパン屋さんがきてくれた」と、喜ばれている。

イタリアの食材と伝統的な製法にこだわり

小林シェフのモットーはイタリアの昔ながらの製法に則り、手間暇を惜しまないことだ。メインの粉はイタリア産を使用、国産の粉とブレンドして使っている。
粉だけでなく、発 酵種にもこだわる。前述のパネトーネは師匠のジャンカルロさんから譲り受けたパネトーネ菌を自分で培養、毎日継ぎ足しながら大切に育てている。このマードレはパネトーネだけでなく、コルネットにも使用、ふんわりした独特の食感と味わいをつくり出している。

ハード系やフォカッチャには「ビガ製法」という中種法を用い、一日かけてじっくり発酵、粉の美味しさを引き出している。パネトーネ菌や「ビガ製法」で奥深い味わいを引き出しているが、複雑すぎず、シンプルで粉の旨みが感じられ、食べやすい。
それだけではない。ダブルアームのミキサーもイタリアから取り寄せた。人間が捏ねるようにゆっくりと動くこのミキサーがどうしても必要だったという。「こんな風に手間暇かけるパン屋さんはイタリアでも少なくなっていますね」と小林氏。昔ながらの製法で丁寧につくられたイタリアパンを、日本に居ながらにして味わえる我々は幸せといえよう。

イタリア通の客や、イタリアをよく知っている人など、毎日訪れるお客様もいると小林シェフ。日本でイタリア本場の味が再現されている稀有なパン屋さんとして、貴重な存在となっている。

イタリア食文化の発信基地として

パンだけではない。店名の「パーネ エ オリオ」の名にあるように、ここではオリーブオイルも取り扱っている。シリアルナンバー入りの「オリーブオイル」(225g)2900円は、皿に開けている時からフルーティな香りが際立ち、その味わいに驚く。特にパニョッタ(田舎パン)とよく合う。この「オリーブオイル」はこの店限定商品というから贅沢だ。

イタリアの粉をメインに使用しているため、どうしても価格は高くなるが、「価格よりも味を重視したい」と語る。そして「パン屋がこんなに重労働だとは思わなかった」と苦笑する。パン職人に転身したご主人を支え、店づくりや販売、接客を取り仕切るのが奥様の伊基子さんである。イタリアらしいセンスあふれる店内も2人の想いそのままだ。

小林シェフがつくりだすパネトーネは今や、百貨店のイタリア展の人気アイテムだ。従って当初は10月から5月ぐらいまで焼いていたが、今は一年中焼いているという。
「イタリアが自分たちに合っている」と語る小林夫妻、シンプルで粉の風味が味わい深いイタリアパンの魅力を広めていきたいという。

文京区の一角に息づく「パーネ エ オリオ」には、まさに小林夫妻の生き方、人生が詰まっている。今後もイタリア食文化の発信基地として、その魅力をおおいに発信していただきたいものだ。

小林 照明

39歳の時アパレル業界から転身。イタリアのジャンカルロ氏に師事、42歳で実家の文京区音羽に「パーネ エ オリオ」をオープンする。看板商品は5日かけて伝統製法でつくるパネトーネ。特に「りんごとクルミとしょうがのパネトーネ」はミラノのパネトーネコンテスト2014で準グランプリに輝く。イタリアの粉、伝統製法にこだわり、シンプルなイタリアパンの魅力を発信し続けている。

Pane & Olio(パーネ エ オリオ)

郵便番号/112-0013
住所/東京都文京区音羽1-20-13
最寄駅/東京メトロ有楽町線護国寺駅
アクセス/護国寺から徒歩5分
電話/03-6902-0190
営業時間/10:00~18:00
定休日/日・月・祝日

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年2月)のものです

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