ニッポンのブーランジェ

シンプルな食事パンで勝負 vol.18 央製パン堂 梅澤 和矢氏

東京・秋葉原からつくばエクスプレス線に乗って約30分。流山セントラルパーク駅に降り立つ。駅から畑や森を見ながら歩くこと10分。広い道路沿いに白い四角い建物が見えてくる。央製パン堂である。「ようやく美味しいパンさんができた」と、地元で愛されている。

3坪の可愛いパン屋さん

一見、パン屋とは思えないような真っ白のスタイリッシュな建物、だがここが地元で人気のパン屋なのである。4台の駐車スペースは昼時ともなると、ひっきりなしにクルマが行き交う。3坪の店内には本格的なパンが並び、この場所にこんなステキなパン屋さんがあるなんて!と驚かされる。

東京や軽井沢で人気の「ブーランジェ浅野屋」を展開する株式会社浅野屋出身の梅澤和矢シェフが、この地にオープンして2年、「ハード系が美味しい本格的なパン屋さん」と評判になっている。
3人も入れば一杯になりそうなコンパクトな店だが、スッキリとして心地よい。平台にはクロワッサン、メロンパンなどの菓子パン類、ベーコンエピなどが、そして厨房との仕切りを活用した棚には、食パン、バゲット類、ロデヴなど約30アイテムが並ぶ。

昼時ともなれば次から次へとお客様が訪れ、お目当てのパンを買っていく。小さなスペースながら、流れるようなスムースな動きでお客様をリードしているのが奥様の正恵さんである。

ハード系が得意

よく見ると、昼時なのにここにはサンドイッチがない。コロッケパンや、コッペパンサンドもないが、代わりに食べやすい食事パンやバゲット類などのハード系のパンが充実している。郊外の住宅地にしては珍しく、ハード系が6割という異色のパン屋さんなのだ。

人気ベスト3を伺うと、一番人気は「クロワッサン」193円、との答えが返ってきた。美しい層が印象的なクロワッサンは、噛むとバターの香りとパリパリの食感がたまらない。

2番目は定番の「食パン」280円だ。粉の甘い香りともっちりした食感が人気という。周りに商店街がない新興住宅地のパン屋さんとして、美味しい食パンが買えるのは重要だ。また食パンのバリエーションとして 「抹茶あずき」(1本690円、1/2本345円 季節商品)も人気という。抹茶の香りと苦み、そして小豆の甘さがマッチして、色合いも美しく上品な味わいに仕上がっている。

そして、3番目は「メロンパン」172円という。卵黄を贅沢に使ったなめらかなメロン皮の下には、しっとりした生地が。「メロン皮に水分を取られてパサついた感じがイヤなので工夫した」と梅澤シェフ。一つひとつの完成度が高く、丁寧につくられているのが商品から伝わってくる秀逸なパン屋さんなのである。

パンづくりは一人で奮闘

バックヤードを覗くと、梅澤シェフが黙々とパンを焼いていた。オープンして2年ということもあるが、パンづくりすべてを一人で担当しているという。

梅澤シェフにお薦めのパンを挙げてもらうと、「バゲットトラディショナル」302円との答えが返ってきた。小麦粉、イースト、塩、水と最低限の材料で長時間発酵させたというが、その深い香り、もっちりとした歯ごたえがたまらない。パリのバゲットコンクールで一位になったレシピを梅澤流にアレンジしたという。「このバゲットトラディショナルを思う存分焼きたくて独立した」という梅澤シェフ。その情熱がこのパンに宿っている。

もう一つのお薦めは「パン・ド・ロデヴ」10g13円である。厨房は一人で担当しているにも関わらず、手間のかかるロデヴを毎日焼いているというから驚く。しかもプレーンの他に、「ロデヴくるみ」10g16円と「ロデヴフリュイ」10g18円、「ロデヴチーズ」129円の4種をを毎日焼いているという。どっしりとした外観と中はふんわりしっとり。このバランスが絶妙で、一度食べたら忘れられない味わいだ。このロデヴを食べられる近くの住民が羨ましくなるほどだ。
元ドンクの仁瓶氏やブロートハイムの明石氏らを中心に発足した「パン・ド・ロデヴの会」にも入会、品質アップに日々研鑽しているという。

ルーツは「株式会社浅野屋」

元々料理の世界、コックにあこがれていた梅澤シェフが「パン屋もいいな」と思ったのは高校時代、パン屋でアルバイトをしていたころだ。卒業後プログラマーとして活躍したが、退職することに・・・。手に職をと思い、東京製菓学校でパンづくりを学んだ。その後、(株)浅野屋に就職、14年みっちり修業した。
軽井沢のブーランジェ浅野屋の店舗で製パンを担当した後、板橋のセントラル工場に移り、製パンの仕事はもとより、商品開発、品質管理、人材育成の他、前職を生かしたシステムづくりなど、さまざまな仕事をこなした。パンづくりについてはこの時の経験が土台となっている。

そして2015年独立、故郷の流山に「央製パン堂」を出店することとなる。奥様の正恵さんは、浅野屋の同僚という。パン屋を知りつくした2人だから、独立に関してのこだわりはすごい。
「この場所に決めるまで、2年ぐらい探し回った」という正恵さん。決め手となったのは「のどかな風景と緑豊かな森が残っていたこと」という。理想の場所を探し当て、理想の店をつくるのは大変だが、楽しかったと。

シンプルイズベスト

店のコンセプトは「シンプル」であること。白を基調とした3坪の店は、スッキリとしてオシャレ。余計なものを排除、まるでブテイックのような設えだ。
「央製パン堂」という店名も、家紋の花びらをモチーフにした看板も、和菓子屋さんを思わせる。店名については「横文字の名前もいろいろ考えたが何かしっくりこない。そこでこの地域の名前「中」とパン職人を表現したいと『央製パン堂』とした」と正恵さん。
「シンプルな方が飽きがこないし、自分たちが毎日働く場所だからこそ、居心地の良い場所にしたかった」と2人。この店には2人のこだわりが息づいている。
パンづくりにおいてもシンブルイズベストという。「シンプルな配合で、自分がつくりたいパンを並べていったらハード系がメインになった」と梅澤シェフ。シンブルなパンこそ技量が試されるが、長年の経験を積んだ梅澤シェフだからこそのチャレンジといえる。今はそのシンプルなパンが地元の人々に愛され、お馴染みさんが増えていることが有難いと感謝する。

夫婦2人で二人三脚

パンづくりはご主人、販売は奥様と、2人で得意分野の担当を決めているという。オープンして2年、無我夢中でやってきた。周りに何もない郊外の住宅地だけに、最初は大丈夫か、と不安があったが、今は認知度も高まっている。「ハード系のパン中心なのに、よくここまで理解されている」と、2人。

そこには正恵さんの並々ならぬ努力がある。浅野屋で販売の仕事をしていたから、もともと接客は得意だ。バゲットなどハード系を食べ慣れない土地柄だけに、美味しく食べていただくための説明は欠かさない。フランスパンの美味しい食べ方を書いた説明書を入れたり、パンそのものの魅力を説明したりと工夫した。その努力が実って、今ではシニア層が、バゲットの焼き上がりを目指して買いにきてくれるという。

つくりたいパンで個性を発揮

自分の焼きたいパンをつくっていったら今の品揃えになったという梅澤シェフ。それにしても郊外の住宅地で、ハード系6割というのは冒険だったのではないのか。しかし「やりたいことをやらなかったら自分の店を持った意味がない」と2人。
粉については「特に国産にこだわっているわけではないが、パンにしたときの美味しさを重視している」という。イメージ通りのものをつくるために、今は9種の粉を使い分けている。発酵種はセミドライイーストの他に、自家培養のレーズン酵母、ルヴァン種、サワー種などを使いこなす。
30アイテムのパンに対し、生地はバゲット、バゲットトラディショナル、カンパーニュ、ライ麦パン、ロデヴ、クロワッサン、菓子パン用など、13種類もつくっているという。これを一人でよくこなしていると感心する。
「自分の個性を出すには当然のこと」と梅澤シェフ。その力量にお客様が付いているといえる。ここ流山はベーカリーの激戦区。生地から差別化したいと意気込むのももっともだ。

今後の夢を伺うと、「人を増やし、サンドイッチやタルティーヌを提供したい」という。厨房にはサンドイッチをつくるスペースも用意済みという。「何より自分たちが食べてみたい」と語る正恵さん。お客様もその日を待っているに違いない。

これからも夫婦二人三脚、夢に向かって突き進むことだろう。
梅澤シェフのパンと向き合う真摯な姿が、パン一つひとつに現れている。技術力をさらに磨き、納得のいくパンで、今後も地元のお客様をワクワクさせて欲しいものだ。

梅澤 和矢

1978年千葉県生まれ。高校を卒業後、プログラマーとして活躍。その後東京製菓学校に入学、製パンを学ぶ。株式会社浅野屋で14年間修業。2015年、南流山に「央製パン堂」をオープン。ハード系が得意なパン屋さんとして親しまれている。

央製パン堂(なか せいぱんどう)

郵便番号/270-0153
住所/千葉県流山市中307-3
最寄駅/つくばエクスプレス線 流山セントラルパーク駅
アクセス/流山セントラルパーク駅から徒歩10分
電話/04-7150-2066
営業時間/9:00~16:00
定休日/日・月・不定休

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年7月)のものです

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