ニッポンのブーランジェ

パンを通して『街の止まり木』に vol.25 BREAD PLANT OZ(ブレッドプラント オズ) 大島 剛志氏

東急東横線の都立大学駅から徒歩15分、柿の木坂交差点近くにオシャレなパン屋さんがある。メゾンカイザーで修業した大島剛志オーナーシェフが、2013年にオープンした「ブレッドプラント オズ」である。美味しくて居心地の良いベーカリーカフェとして、子供からシニアまで地元の人々に親しまれている。

個性溢れるパンが揃う店

壁に可愛いパンのイラストが描かれている「ブレッドプラントオズ」、中に足を踏み入れると、黒と白の市松模様の床、天井にはシャンデリア、クラッシックで落ち着いた店内に驚く。中央のクラッシックな丸い平台や窓側の大きな陳列台、そして正面奥にも大島シェフ渾身のパンがズラリと並ぶ。個店のパン屋さんにしては「広くてオシャレ!」、外国に行ったかのようだ。
そして奥にはカウンターも含め、19席のカフェスペースもあるのだから、近隣の人たちにとっては、美味しいパンが買えて、お茶が飲める場所として親しまれている。

陳列棚には、自慢のバゲットやクロワッサン、ドーナツ、食パンや惣菜パン、菓子パンなど約80アイテムが並ぶ。そのどれもが修業したメゾンカイザーを土台に、大島シェフの自由な発想がプラスされたオリジナリティ溢れる商品だ。昼時ともなれば、近隣の人々が訪れ、次々と売れていく。

取材した2月は、チョコレートを使った新製品が提案されていた。その月の新製品を開発、分かりやすくアピールし、お客様を喜ばせるのも大島シェフならではだ。ここ目黒はパン屋の激戦地区だが、どこにも負けない個性と完成度の高さがお客様を引き寄せる。

自由な発想から生まれる商品

この店の圧倒的人気ナンバーワンは「クロワッサン」205円(税込)である。贅沢に国産発酵バターを使った生地量60gという大ぶりのクロワッサンは、その味と香り共にインパクトが強く、店の主役としてその存在感を放つ。

「バゲットOZ」302円(税込)もこの店の看板商品だ。4種の小麦粉をブレンドし、自家製の発酵種を使い、20時間以上低温発酵させて小麦粉の旨みをじっくりと引き出したバゲットは、その深い香りと味わいが食べた人を虜にする。遠くからわざわざ買いに来てくれる顧客もいると大島シェフ。丹精を込めた自慢の逸品だけに、ファンが増えていることが嬉しいと顔をほころばせる。

ドーナツも評判が高い人気商品だ。2月後半のこの日は、「プレーンシュガー」135円(税込)はもとより、春を思わせるカラフルな「つぶつぶ苺ドーナツ」194円(税込)や、「チョコスプレー」194円(税込)が目を惹き、次々と売れていた。自家製乳酸菌酵母を使ったドーナツは、そのふんわり感ともちもちした食感が、ここにしかない味わいとして支持されている。

メゾンカイザーでパンの科学を学ぶ

学生時代はラガーマンとして活躍したという大島シェフ。パン屋を志し、旧葉山ボンジュールで5年間パンの基礎をみっちり学んだ。その後、メゾンカイザーの木村周一郎社長と出会い、入社を決意。オープン1年頃の高輪店で活躍、半年後はコレド日本橋店に異動、製造部門を任されることに。厨房、店舗併せて約60坪という大型店で、当時1日200万円を売上げる超繁盛店を6名の職人で切り盛りしていたという。東京ミッドタウン店の店長も経験、その後各店の技術指導を任され、木村社長の片腕として貢献してきた。

メゾンカイザーで学んだことの大きな要素は、「パンづくりが理にかなっていることだった」と大島シェフ。「パンづくりの科学を徹底して突き詰め、パン職人の経験だけに頼らないところが木村社長の凄いところ」と感心する。

子供たちに美味しいパンを食べさせたい

10年間メゾンカイザーでその成長を支えた大島シェフ、ある日、木村社長から「独立してはどうか」と言われたという。そして2013年、ここ目黒に「ブレッドプラントオズ」をオープンすることとなる。国籍を問わず自分のつくりたいものを自由な発想で展開したいという意味を込めて店名を“BREAD PLANT OZ”とした。
店舗、カフェ、厨房を併せて42坪の店を出店することはかなり勇気が要る。「やるからにはこのぐらいのスペースは必要」とアドバイスしてくれたのは木村社長だった。今やパンも買えてカフェメニューも楽しめる街のオアシスとして愛されている。

店のコンセプトについては「子供たちに美味しいパンを食べさせたい」と即答する。近くに小学校があるためか、平日でも学校帰りの子供と母親の姿を多く見かける。店に入るなり好きなパンの前に立ち、「これがいい!」と指さす子供たちの姿は微笑ましく、まさに子供たちに愛されているパン屋さんといえる。

やりたいことをやれなければ独立の意味がない

「子供たちに美味しいパンを」をテーマとするなら、おのずと原材料選びにもこだわることになる。「いい材料を使えないなら独立する意味がない」と語る大島シェフ。その心は自分が納得できる材料を使い、適正な価格で買っていただくということだ。だからこそ出店場所を吟味、目黒のこの場所を選択したという。今やオズは高品質の美味しいパンが買える場所として、その存在価値を増している。

「国産小麦粉では自分の思ったパンはつくれない」と語る大島シェフ、粉はメゾンカイザー時代からの粉を改めて厳選、発酵種は自分流に工夫した自家製乳酸菌酵母を使用し、粉の旨みを引き出している。この自慢の自家製酵母を全てのパンに使用、大島流の発想と技術力で美味しさを追求する。

粉や発酵種だけではない。副材料にもこだわる大島シェフ、焼き上がりの風味が全く違うと、チーズは全てナチュラルチーズを使用。人気商品の「ボルケーノ」356円(税込)はチーズを贅沢に使った逸品だが、その香り、味わいはチーズ好きにはたまらない。発酵バターを使いバニラを皮ごと粉にして入れた「メロンパン」162円(税込)は、優しいバニラの香りが、上品な味わいに仕上がっている。

「パンは大きめの方が美味しい」と大きさにもこだわる。人気商品の「コーヒーロール」281円(税込)は、直径11cmと迫力ある大きさだ。マフィンは高さも幅もあり、トーストするとそのサックリした味わいがたまらない。その高い技術力、探求心がオズファンを惹き寄せる。

経営の師匠は木村社長

そうした大島シェフの元には、さまざまなところから出店のオファーが寄せられる。2017年9月にはマルイ国分寺店に2号店を出店した。1日3回本店から配送しているが、ハード系からクロワッサンやドーナツまで、美味しいパンが買えるとして人気店となっている。その後も出店要請が続いているが、スタッフをきっちりと育成し、5年以内にはもう一軒、厨房つきの店を出店したいと語る大島シェフ、経営手腕には定評がある。

その経営の師匠は木村社長である。10年間パンづくりの研鑽を積んだだけなく、経営の心をしっかりと学んだという。「メゾンカイザーが日本でここまで成長できたのは、木村社長だからこそ」と大島シェフ。今でも月に1回は会っているというが、木村社長にとっても自慢の愛弟子なのであろう。

街の『止まり木』になりたい

「目指すは街の止まり木のような存在」と語る大島シェフ。センス溢れる店で完成度の高いパンを買い、カフェでゆったりとパンメニューを味わうことができるのも、近隣の人々にはありがたい存在だ。実際、平日の13時~16時ごろまでは、カフェスペースは親子連れで賑やかだ。子供の頃に美味しいパンを食べた記憶は、子供たちの心にずっと生き続けるであろう。

そのカフェスペースを活用し、さまざまなワークショップを開催している。12月はクリスマスのパン、2月にはバレンタインをテーマに「子供パン教室」を実施。そして3月には開店5周年を記念し、木村社長を招聘しパン教室を実施した。子供の頃からオズのファンになってもらうことは大切だ。
人気のドーナツはもともと自分の息子に食べさせたいと思ってつくったという大島シェフ。子供たちへの思い入れは強い。子供からシニアまでオズで楽しいひとときを過ごしてもらいたいというが、既に近隣の人々には『止まり木』として重宝されているといえそうだ。美味しいパンが買えるだけでなく、皆が店に集い楽しく過ごせる場として、オズの存在価値がますます高まることを期待したい。

大島 剛志氏

1975年生まれ。パン屋を目指し旧葉山ボンジュールで5年間修業。その後メゾンカイザーに入社、高輪店、コレド日本橋店でパンの責任者を、東京ミッドタウン店で店長を経験。その後各店の技術指導者として、10年間同社の発展に貢献。2013年独立し目黒に「ブレッドプラントオズ」をオープン。2017年9月には2号店を国分寺に出店。メゾンカイザーを土台に大島流を融合したオリジナリティ溢れるパンに定評がある。

BREAD PLANT OZ(ブレッドプラント オズ)

郵便番号/152-0023
住所/東京都目黒区八雲4-1-19
最寄駅/東急東横線 都立大学駅
アクセス/都立大学駅から徒歩15分
電話/03-6421-2571
営業時間/パン販売 8:00~20:00、カフェ(モーニング)8:00~10:00、カフェ(通常メニュー)10:00~20:00
定休日/なし

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年2月)のものです

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