ニッポンのブーランジェ

生地の声を聞きわけ、最高のパンを焼き続ける vol.28 Boulangerie a bientôt(ア・ビアント) 松尾 清史氏

ア・ビアントは現在、2002年に豊中市に移転した本店と、ビジネス街にそびえる「中之島フェスティバルタワー」にある中之島店の2店舗で営業している。シェフの松尾氏は32歳のとき、大阪・吹田市で1号店をオープン。以来、ハード系の美味しい店という評価を得て、実力店の多い北摂で多くのパン好きに選ばれてきた。2017年4月には大阪市内に中之島店をオープン。カフェのようなおしゃれな店内には、ハード系からスイーツ系まで、常時80種ほどのパンが並ぶ。中之島店はビジネスマンやOLが朝食やランチ用のパンを買うため、総菜パンやサンドイッチを充実させている。また一見の客も多いため、インスタ映えするようなインパクトの強いパンが求められる。一方で住宅街にある本店には、初老の夫婦が散歩帰りに立ち寄ったり、子連れの若い主婦が自転車でやってきたりと常連客が多い。ビジネス街と郊外の住宅地、立地によるニーズの違いに、試行錯誤しているというシェフの松尾氏にお話をうかがった。

「パン屋になる」と書いた卒業文集

製パン技術者として、20年以上のキャリアを持つ松尾氏。氏がパン職人を目指したきっかけは、意外にもテレビドラマなのだそう。NHKの連続テレビ小説『風見鶏』の主人公だった、ドイツ人のパン職人にあこがれたのだ。
その後、鎌倉のパン屋を舞台にしたトレンディドラマにも影響され、ますます「パン屋っていいなあ」と思うようになった。
小学校の卒業文集には「パン屋になりたい」と書いた松尾氏。「その後もプロ野球の選手になりたいとか、普通の男の子らしい夢がありましたが、だんだんと現実が分ってきて…」と笑う。高校卒業後の進路を考えたとき、「そう言えば、子どものころなりたかったパン屋という選択肢もあるな」と、パン職人を目指すこととなった。
松尾氏が育ったのは大阪府箕面市。幼少期から食べることには関心が高いほうだったという。「家から電車でちょっと行ったところに、小さいパン屋があって作業場が見えたんです。そこへ行くたびにずっと眺めてましたね」

職人人生に影響を与えた調理師学校

高校卒業後、大阪のあべの辻調理師学校へ入学した松尾氏。当時は製パンコースがなく、製菓学校の授業の一環としてパンづくりを学んだ。「授業中は寝ていたり、休み時間にプロレスをしたりと、真面目な生徒ではありませんでした。今考えると、もっとちゃんと聞いていればよかったと思います」と松尾氏。
辻調に入ってよかったことは、調理の道に入る仲間ができたこと。松尾氏の修業時代は今よりも厳しく、げんこつが飛んでくることもあった。そんな苦労を高校時代の友人に話しても理解してもらえないが、同じ業界に入った友人とは、お互いのつらい気持ちが分かりあえる。辻調で同期だった女の子に電話して「一緒に頑張ろな」と言ってもらうことが、心の支えになったという。
現在も学校とはつながっていて、約20年間にわたり年に1~2回、パンづくりを教えに行っている松尾氏。「せっかく専門学校に行かせてもらったのに、働き始めてすぐに辞めてしまう子が多いのが、もったいないなと思います。辻調は成績の悪い生徒でも、追試や補習をやって、どうにかして卒業させてくれるありがたい学校でしたよ」

ハード系もスイーツ系も大切

タイプのちがう生地を使い分けて、個性豊かなパンをつくり出す松尾氏。バゲット生地、カンパーニュ生地、天然酵母を使った生地など、それぞれの個性を引き出す名手だ。
おすすめメニューとしてあげてくれたのは、大きな気泡が特徴の「パン・ド・ロデブ432円(税込)」。過加水させた生地を自家製酵母で発酵させており、外はパリッと、中はもちっとしたハードパンだ。「石うすバゲット302円(税込)」の粉は、店頭に置かれた石うすで挽いたもの。低温長時間発酵で小麦の味わいが深く、ワインやチーズに合う。クリーム入りのデニッシュにパイナップルを載せた「パイナップルのダノワース238円(税込)」は、さわやかな酸味と甘みが魅力だ。
「若いころはハード系のパンにこだわっていたこともありましたが、2店目をオープンしたころから、デニッシュ類も人気が出てきて…」と松尾氏。
「今日はバゲットがよく焼けた」と達成感を感じることもあるが、まだまだ勉強中だと言う。「私たちにとって大切なのはお客さまが喜んでくれるパンをつくること。ハード系でもスイーツ系でも最終的にはパンがおいしければいいんです」

個性的な師匠たちに出会った修業時代

1988年に専門学校を卒業し、吹田の「パンの広場」という店で働き始めた松尾氏。その当時はリテイルベーカリー自体が少なく、家から通える範囲ということで選んだという。
次に滋賀県野洲の「ル・シエル」で働き始めた。「ビゴの店で働いていた方がシェフで、パン職人としての私のベースを作ってくれたところです」シェフは穏やかでやさしい人だった。「ここでルヴァン、カンパーニュなど、ハード系のパン生地づくりをじっくり学びました。ですから私のパンも、ビゴの流れをくむと言ってもよいと思います」と松尾氏。
ル・シエルを辞めたあと、辻調の関係者がパン屋を開きたがっているということで、24歳の若さで松尾氏が店長に抜擢された。その店では辻調の元講師・山﨑豊氏が技術顧問として指導にあたっていた。「ここでパンづくりのノウハウや店舗運営について、徹底的に仕込まれました」松尾氏はその後も、いくつかの店で修業を続けた。

売れなくてもハード系をつくり続けた

最初から自分の店を出すつもりでパンの世界へ飛び込んだ松尾氏。働きながら「いつか独立できたらいいな」と考えていたという。ある人に「独立したいなぁ、ではできないよ」と言われたことから、真剣に独立を意識するようになったという。
30歳ごろ「おまえは協調性がないから独立するべき」と辻調の先生から、独立の話が舞い込んだ。北摂のある店の2号店が撤退することになり、そこを居抜きでやらないかという話だった。吹田市山田のこの店がア・ビアントの1号店となった。
得意のハード系を中心に、調理パンもすべてハード系で、品揃えも多めにして張り切っていた。周囲からもハード系が上手いと言われていた松尾氏。しかし「場所も良くなくて、最初はしんどかったですね」と当時を振り返る松尾氏。「あのころは思い上がっているところがあって、ハード系が売れ残っても、次の日もハード系を焼き続けていました。きっといつか、お客さんのほうがわかってくれると…」最近はずいぶん柔軟に考えることができるようになった、と苦笑いする。

職人と経営者、二足のわらじ

「パン職人になってからは『田舎で自分の好きなパンをつくって過ごしたい』というのが夢でしたね」という松尾氏。一番新しい店舗である中之島店も、最初はやるつもりがなかったという。中之島店のあるフェスティバルプラザでは、定期的にマルシェが開催されるが、ア・ビアントでも食パンを販売している。「限定品というだけで1000円以上のパンが30分で売り切れるんです。これまでの考え方では太刀打ちできないな、と感じます」新たなチャレンジとして2018年6月からスープランチ750円(税抜)を始めた。

オーナーになってから約10年。ア・ビアントでは夏に慰安旅行に行っている。「私にとってスタッフの笑顔が何よりのご褒美です」スタッフが仕事を忘れて楽しそうにしている姿を見ると「いつもスタッフに丁寧に対応できているわけではないので、少しは罪滅ぼしになるかなあ」と思っているそうだ。
若い職人を育てていくことも自分の役割という松尾氏。労働条件の改善も図っていかなければ、若い人はついてこないという。「私が特に何かしなくても、出来る人は勝手に育ちます。独立した弟子たちの店を訪問するのも楽しみです」と話してくれた。

パンは私にとっての「武器」

「私にとってパンは生きていくための武器。特にハード系はうちの武器だと思うんです。私がパンを焼かなくなったら、武器を失ってしまう。この年になって他の仕事をするわけにもいかないので、パン屋として走り続けるしかないんです」20年あまりのキャリアを経た松尾氏は「結婚して子どももできた現在、自分の家族のしあわせと、働いてくれているスタッフのしあわせが大事だと考えるようになりました」と話してくれた。
松尾氏はパンは日常食なので「普通でいい」と思っている。「どんなに美味しいパンでも、毎日食べていれば感動も薄れてしまいます。『感動とは何なのか?』と考えてしまうんです」
たとえ70~80点でも、普通に毎日食べてもらえるパンを焼くことが、パン職人の本当の姿だと語る松尾氏。その言葉の裏には、パンづくりを極めてきた職人の揺るぎない自信がのぞいているような気がした。

松尾 清史氏

焼くのも食べるのも、パンが大好きだという松尾氏。食べて好きなのは「あんドーナツ」。数ヶ月前から自分の店でもつくり始めた。お酒も飲むが、どちらかというとスイーツ系のパンが好きだと笑う。高校卒業後、あべの辻調理師学校の製菓コースでパンづくりの基礎を学ぶ。24歳の若さで店長を経験、30代で独立を果たす。辻調グループ校友会コンピトゥム幹事。各種パン講習会の講師多数。現在は本店と中之島店を行き来する忙しい毎日だが、お客さまとスタッフの笑顔を励みに走り続けている。

Boulangerie a bientôt(ア・ビアント) 中之島店

郵便番号/〒530-0005
住所/大阪府大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルタワー・ウエストB1F
最寄駅/地下鉄四つ橋線「肥後橋」駅、または京阪中之島線「渡辺橋」駅
アクセス/「渡辺橋」駅下車12番出口直結、または「肥後橋」駅下車4番出口直結
電話/06-4706-0202
営業時間/7:00~19:00
定休日/テナントビルの休日に準じる



Boulangerie a bientôt(ア・ビアント) 本店

郵便番号/560-0084
住所/大阪府豊中市新千里南町3-1-14 ナカニシビル1F
最寄駅/北大阪急行・桃山台駅
アクセス/北大阪急行「桃山台」駅下車、徒歩7分。二ノ切池公園の近く
電話/06-6835-3070
営業時間/7:30~17:00
定休日/不定休

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年8月)のものです

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