ニッポンのブーランジェ

世界一のパン職人の味をお手軽に vol.31 BOULANGERIE Dudestin(ブーランジェリー デュデスタン)佐々木 卓也氏

東京メトロ東西線妙典駅から線路の高架沿いに、行徳方面に歩くこと7分。クラシカルなつくりのお店が見えてくる。「ブーランジェリー デュデスタン」である。2012年パンのワールドカップ“クープ・デュ・モンド” ヴィエノワズリー部門日本代表として出場し、見事世界一に輝いた佐々木卓也シェフがこの地にオープンして3年。世界一のパンが味わえる店なのに身近な存在として地元の人々に愛されている。

世界一のパンが買える店

千葉県市川市の住宅地にある「デュデスタン」。一見カフェのようなイメージのブーランジュリー。横浜に本社がある大手ベーカリーチェーン「ポンパドウル」で修業した佐々木夫妻が、2015年にオープンした店だ。中に入ると、シックでオシャレな店内には、約70種類のパンが出迎えてくれる。

陳列棚には、佐々木シェフ渾身のクロワッサンや、デニッシュ類、菓子パンや惣菜パンなどが並ぶ。レジの奥にはパン工房が見えるが、コックコートを着た佐々木シェフが、次々とパンづくりに励む姿を見られるのは、嬉しい限りだ。パン好きにとっては、それだけでテンションが上がる。なんといってもここはパンのワールドカップで世界一に輝いたシェフの店なのだ。

昼近くになると近隣の人々が次々と訪れ、お目当てのパンを買っていく。ヴィエノワズリーは得意だが、元々は食事パンが好きという佐々木シェフ。バゲットや塩パン、エピなどの食事パン、キッシュなどの焼き込み調理パン、そしてサンドイッチなどにも力を入れている。
濃厚卵を2個使った「こだわり卵のサンド」400円(税込)は、やわらかくてほんのり甘い食パンと濃厚な卵の味わいが絶品で、卵好きにはたまらない。

美しくクオリティの高いパン

クロワッサンやバゲット、アップルパイなど、オシャレな店内に並ぶパンはどれもが美しくまるで芸術作品のようだ。その完成度の高さにファンが引き寄せられている。口コミでそのおいしさが広がり、お客様が通ってくる。

この店の人気はなんといっても「クロワッサン」240円(税込)だ。その美しい形、サックリと軽い食感、バターの芳醇な香りはまさに世界一の味といえる。但し、一日限定120個でそれ以上はつくれないと佐々木氏。取材に伺ったその日、この味を求めてお客様から大量の注文が入ったが、佐々木シェフは「それはお受けできません」と丁寧に断わっていた。

「アップルパイ」300円(税込)も人気商品だ。ボリューム感のある四角いパイ型だが、カットすると中にはゴロゴロにカットしたりんごがぎっしり。サクサクのパイ生地とシャキッとした生のりんごはベストマッチ。食材としてりんごが好きという佐々木シェフの自慢の逸品だ。

食パンもシェフのこだわりの一品だ。特に国産小麦を使った「国産小麦の食パン」300円(税込)は、国産小麦本来の香り、甘さを最大限に活かしており、一度食べたお客様をとりこにする。食パン類は、「サックリした食感の耳が好き」というお客様の要望に応えて、一斤の型を使用している。これも佐々木シェフのこだわりの一つといえる。

ポンパドウルでパンの全てを学ぶ

佐々木シェフがパン職人を志したのは大学生の頃だ。もともと絵が描くのが好きで手先が器用な佐々木シェフ、デザインの道に進もうと考えていたという。しかし幼い頃、母親が焼いてくれたパンの記憶がよみがえり、「パン職人もいいな」と。そして当時、横浜に本社があったポンパドウルに入社。
ポンパドウル平塚店、大岡山店や逗子店でパン職人として活躍、その後本社の製品開発担当として新製品開発に携わることとなる。「ポンパドウルでさまざまな経験をし、パンの全てを学ばせていただいた」と語る。
商品開発担当として、さまざまなコンテストにチャレンジした。こうしたチャレンジは自由で、会社として応援してくれたのはありがたかったと感謝する。

パンのワールドカップ、クープ・デュ・モンドにチャレンジ

そしてパンのワールドカップと言われるクープ・デュ・モンドにチャレンジすることとなる。パン職人としては一番高い山だが、日本代表に選ばれることは最高の栄誉となる。2009年に開催された日本代表選手選考会で、ヴィエノワズリー部門代表に選ばれた時は、信じられないくらいうれしかったと語る。ブレッド部門は神戸屋レストランの長田有起氏、飾りパン部門は同じく神戸屋レストランの畑仲尉夫氏が選ばれた。監督はトランブルーの成瀬正氏が務めた。3人とも神奈川県にいたので頻繁に会い、技術力はもとより、チームワークを強くしていった。そして2011年のアジア大会で本大会への出場権を獲得。2012年、パリで開催された世界大会で優勝するという快挙を成し遂げた。勿論この時のトロフィーは店内に飾られており、訪れた人に披露している。

デュデスタン(運命)をオープン

世界一に輝いた3人は、さまざまなところで引っ張りだことなり、注目を浴びた。一連のスケジュールをこなし終えた時、佐々木シェフはある意味「目標が無くなってしまった」と感じたという。そうした時に出会ったのが、今、佐々木シェフの片腕として活躍する奥様の金丸友美さんである。ポンパドウルのパン職人であり同僚である。この金丸さんとの出会いはまさに「運命の出会い」だったと語る佐々木シェフ。
そして22年間勤めたポンパドウルを退社、独立することとなる。場所は奥様の実家に近い千葉県の市川市、今の店舗を一目で気に入ったという。もともと喫茶店だったのでオシャレな造りだが、改装にも力を入れこだわりの店舗に仕上げた。
そして、2015年10月「デュデスタン」をオープン。店のコンセプトは2人がこれまで経験してきたことを発揮できる場であり、ちょっとフランス的であり庶民的な店にしたかったという。
それにしても奥様との運命的な出会いを大切にし、店名に「デュデスタン(運命)」と名付けたのだから、なんとステキなエピソードであろう。

丁寧な仕事を

奥様もパン職人ということはなんとも心強い。2人でアイデアを出しながら、互いの力を発揮しているのがデュデスタンの強みといえる。今はもっぱら奥様がアイデアを出し、佐々木シェフがパンに仕上げているという。2人とも阿吽の呼吸で、互いの役割をこなしている。だからこそ、開店以来の多忙な日々をこなしていけるのであろう。

もともと手先が器用という佐々木シェフ、「シナモンBOX」210円(税込)は、その独創的な形に驚かされる。ブリオッシュ生地に自家製シナモンバターを織り込み、ねじって型に入れて焼いたものだが、その姿、形、味はデュデスタンファンをうならせる。
星形の「スター・デニッシュ」300円(税込)は、ダマンドとオレンジチーズクリームとフィグの三層になっており、その味のハーモニーは絶品。高さを出したオリジナルなアレンジで、まるでケーキのような仕上がりだ。まさにヴィエノワズリーが得意な佐々木シェフの作品ともいえる。

厨房でパンづくりに没頭する佐々木シェフだが、その仕事は実に丁寧だ。少しずつこまめに何度も焼いているが、その仕上げの美しさ、こだわりが佐々木シェフの持ち味だ。
「揚げなすと長ネギの和風ピザ」は、最後にバーナーでネギを焼くというひと手間をかけている。「ネギは直火で焦げ目をつけると香りが引き立つ」と佐々木シェフ、仕上げにこだわる。水を一切使わず、卵、牛乳、バターをふんだんに使った「ブリオッシュ・ア・テット」100円(税込)をつくっていたが、一つ一つの仕事が丁寧で美しい。

いまは奥様が販売を担当、佐々木シェフが製造をほぼ一人でこなし、70アイテムをつくりだしているが、一人でよくもこんなに丁寧に・・・と驚かされる。


夫婦で「運命」を切り拓く

奥様との運命の出会いから独立を決意、「デュデスタン」を出店した佐々木シェフ。オープンして3年だが、当面は今の状態を維持していきたいという。そしてもう少し余裕が出てきたら、カフェをやってみたいと夢を語る。その真意はせっかくのパンを美味しい状態で味わってもらいたい、お客様にゆったりと過ごしてもらいたいという想いからだ。
市川市の住宅街で、世界一の技術を遺憾なく発揮し、お客様を喜ばせる佐々木シェフ。奥様と二人三脚で、運命の店を切り拓いていくことだろう。今は厨房でパンづくりを担当するのは、佐々木シェフ一人ということもあり超多忙だが、元々は二人ともパン職人。次はどんな味を提案してくれるか、楽しみだ。

佐々木 卓也氏

1970年神奈川県生まれ。手先が器用でデザインを志すが、大学時代にパン職人になることを決意、横浜に本社があるポンパドウルに入社。平塚店、上大岡店、逗子店を経験後製品開発部に。2009年パンのワールドカップ“クープ・デュ・モンド”ヴィエノワズリー部門日本代表を獲得、2011年アジア大会で翌年の本選出場権を獲得。2012年パリで開催された世界大会で優勝、話題となった。その後ポンパドウルを退社、2015年千葉県市川市に「ブーランジェリー デュデスタン」をオープン。世界一のパン職人のパンが買える店として地元で愛されている。

BOULANGERIE Dudestin(ブーランジェリー デュデスタン)

郵便番号/272-0015
住所/千葉県市川市富浜3-6-20
最寄駅/東京メトロ東西線 妙典駅
アクセス/東京メトロ東西線 妙典駅から徒歩7分
電話/047-395-5000
営業時間/9:00~18:00(パンがなくなり次第閉店)
定休日/月曜・金曜(夏季休業、冬季休業あり)



※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年12月)のものです

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