ニッポンのブーランジェ ニッポンのブーランジェ

オーナーシェフを超え
チャレンジングな道を切り拓く
vol.39 ザ スタンダード ベイカーズ トウキョウ 氏家 由二氏

JR東京駅構内のエキナカ商業施設「グランスタ東京」に、栃木の人気ベーカリーが進出した。美味しいパンとコーヒーの店として話題の店は「THE STANDARD BAKERS TOKYO」(ザ スタンダード ベイカーズ トウキョウ)である。店内には統括シェフを務める氏家由二氏自慢のパンが揃う。「ドミニク・サブロン」や「ジョエル・ロブション」で修業した氏家シェフの確かな味に、多くの人が引き寄せられている。

THE STANDARD BAKERS TOKYO

栃木の人気ベーカリーカフェが東京駅に

氏家シェフ東京店の前で

2020年8月、東京駅に「グランスタ東京」がオープンした。1階と地下1階の2フロアを併せると、150店舗以上のJR東日本最大規模のエキナカ商業施設が誕生した。
コロナ禍の厳しい環境下、お客様を集めているのは、栃木県大谷町の人気ベーカリーレストランが展開する「THE STANDARD BAKERS TOKYO」(以下スタンダード ベイカーズ)である。ブルーと黒を基調にした大人のイメージの店内には、食パン類をはじめ、菓子パンや惣菜パン、サンドイッチや、バゲットやカンパーニュなどの食事パンまで約70アイテムが揃う。併設の落ち着いた雰囲気のカフェスペースでは、こだわりのコーヒーを楽しむことができる。店には次から次へとお客様が訪れ、「美味しいパンとコーヒーの店」として、重宝されている。

左:多彩な食パン類が並ぶ / 右:ハード系も充実

こだわりの素材と確かな味

この店の人気は、地元の名産とちおとめの自家製ジャムを、たっぷり錬り込んだ「とちおとめプレミアムブレッド」594円(税込)である。ジャムの赤色の渦巻きと甘酸っぱい香り、サックリした生地がマッチし、いちご好きにはたまらない。

左:とちおとめプレミアムブレッド / 右:中にはとちおとめの自家製ジャムが

また栃木の御養卵と北海道産ミルクを使用したカスタードクリームをたっぷり詰めた「御養卵のクリームパン」302円(税込)も人気の逸品だ。さっくりと軽いブリオッシュ生地に濃厚なカスタードがマッチし、食べた人を虜にする。バリエーションとして「とちおとめミルククリームパン」324円(税込)もある。自家製とちおとめミルククリームの優しい甘さは、まるでケーキを食べているかのようと評判だ。

御養卵のクリームパンと、とちおとめミルククリームパン

その他那須の千本松牧場のミルクを使った「千本松ミルクパン」184円(税込)など、栃木愛に溢れたパンが並ぶ。

基本となる小麦やバターは北海道産を中心に使用しているが、地元栃木の素材もふんだんに取り入れている。経験豊かな氏家シェフが考え抜いて創り出したパンはどれもが完成度が高く魅力的だ。

氏家シェフのワザが光る

とちおとめカンパーニュ

フランス小麦のバゲット356円(税込)や、とちおとめカンパーニュ1/2カット421円(税込)やセーグルフリュイ1/2カット432円(税込)など、どれを食べてもそのレベルの高さに驚く。特にとちおとめカンパーニュは、そのみずみずしくフルーティな味わいと、しっとりした口どけに感動する。

左:フランス小麦のバゲット / 右:セーグルフリュイ
きたあかりのコロッケバーガー

料理人出身だけに、サンドイッチ類は得意だ。最近の人気は「きたあかりのコロッケバーガー」421円(税込)という。ジャンボコロッケと野菜、ソースの組み合わせが抜群だ。また「自家製ボイルポークとカマンベールサンド」626円(税込)、「北海道産コーンとスモークサーモンのピタパン」626円(税込)などは、料理パンといえるほどで具材の組み合わせは秀逸だ。

左:自家製ボイルポークとカマンベールのサンド / 右:北海道産コーンとスモークサーモンのピタパン

一流店で修業を重ねる

パニフィカシオンユー

もともと料理人として活躍していた氏家シェフだが、パンの面白さに惹かれ、パン職人に転向した。一見何の変哲もない食事パンが、料理と合わせると抜群に美味しくなることに感動したという。
料理とパンのマッチングの魅力に目覚め、「ブルディガラ」を皮切りに、「ドミニク・サブロン」で4年、三ツ星レストラン「ジョエル・ロブション」のパン部門で4年間修業を重ねた。
サブロン氏にはフランス人の食文化やパンに対する想いを、そしてロブションでは料理に対する姿勢、素材の組み合わせなど高レベルの技術を学んだという。

「ロブションは常に緊張感がありました。スパイスなどを効果的に使用し、ワンランク上の味に仕上げていくワザを学びました」
そして2013年、満を持して独立。宇都宮市に「パニフィカシオンユー」をオープンした。小さな店ではあるが、圧倒的な商品力と氏家夫妻の温かいホスピタリティで、ファンが殺到する人気店になった。

ベンチャーとの出会いとチャレンジ

「パニフィカシオンユー」のオーナーシェフとして順風満帆の生活を送っていた氏家シェフが、なぜスタンダード ベイカーズと関わることとなったのか。
きっかけはあるイベントで、主催者の「カルチャーバンクスタジオ」の松本裕功社長と出会ったことだ。新規事業開発などを手掛ける松本社長は、パワーが漲っていた。
「栃木をもっと元気にしたい!パンを中心にしたベーカリーレストランで地元に活力を取り戻したい。手伝ってくれませんか」。松本社長の壮大な構想は、氏家シェフの心を揺さぶった。
「パン屋のオーナーだけで終わるより、この人と仕事をしたら面白そう!」
心の奥にくすぶるチャレンジ魂に火がついた。そして一緒に仕事をすることとなる。

大谷石の町として知られる栃木県大谷町に、巨大なベーカリーレストラン「THE STANDARD BAKERS」大谷本店を出店するプロジェクトに参画。自分の店を長期休業し、開店のために奔走する。
理想とするパンづくりを実践するため、ロブション時代の後輩を引き抜き、2018年5月、無事オープンした。本格的なパンと地元の食材を生かした食事が楽しめる店として、たちまち評判となり、まさに地元を元気づける拠点となっている。

左:カルチャーバンクスタジオ松本裕功社長 / 右:THE STANDARD BAKERS大谷本店

STANDARD BAKERSの統括シェフとして

大谷本店がスタートして半年、グランスタ東京への出店の話が舞い込んだ。「めったにないチャンス」と、松本社長は東京駅への出店を決意。新たなチャレンジが始まった。東京駅は日本の玄関口として、世界への発信拠点として、勝負するには最高の舞台だ。厨房を入れ約35坪を確保したが、厨房の不足分は池袋にパン工房を設置することで対応している。
「エキナカでこんなに本格的な食事パンが買えるとは」とパン好きを唸らせる食事パンの多くは、池袋の工房でじっくりと焼いている。コロナ禍ではあるが、常連客がついているのも、その品質の高さに満足してのことだろう。

左:食事パンコーナーの前で / 右:店舗併設の厨房で手づくり

「エキナカではあるが、食事パンを充実させたかった」と語る氏家氏。3日がかりでつくるバゲットは、フランス産小麦の香りと甘み、サックリした食感が癖になる。少し長さを短めにしているのも、持ち帰り易さを考えての配慮だ。

左:バゲットを窯から出す氏家氏 / 右:やや短めのバゲット

「旬野菜のキーマカレーパン」281円(税込)は野菜たっぷりの焼きカレーで女性に人気。また「アンチョビとオリーブのプチパン」189円(税込)は一口かじるとアンチョビとオリーブの香りが広がり幸せな気分になる。一つひとつのパンが熟慮を重ねた秀逸の出来栄えなのだ。

左:旬野菜のキーマカレーパン / 右:アンチョビとオリーブのプチパン

クロワッサン専門店も

地下1階の「Curly‘s Croissant TOKYO BAKE STAND」もスタンダード ベイカーズの運営だ。イートインを併設したプレミアムクロワッサンとコーヒーの専門店である。

左:クロワッサン専門店として / 右:こだわりのクロワッサンが自慢

フランス産の小麦粉と、フランスノルマンディー地方の発酵バターを贅沢に使用したクロワッサンは、サクッとした食感と、芳醇なバターの香りがたまらない。プレミアムクロワッサン270円(税込)はもとより、バターとあんを挟んだ、あんバタークロワッサン378円(税込)が人気という。
一つひとつが美しく、洗練された出来栄えはジョエル・ロブション出身であることを彷彿とさせる。ギフトボックスも用意し、東京駅土産として喜ばれている。

コロナ禍で東京駅を行き交う人々が激減、予定の半分の売り上げと語る氏家シェフ。コロナが収まれば、売り上げも回復するであろう。

左:人気のあんバタークロワッサン / 右:ギフトボックスも用意

優れたパン職人を育成したい

パン職人の育成が楽しみ

今年44歳になる氏家シェフ、スタンダード ベイカーズの取締役として益々期待がかかる。2021年5月には姉妹ブランドとして横浜の巨大な無印良品内にベーカリーをオープンした。パンの力に目覚めた無印良品からパンを任されたのだからすごい。それだけでも氏家シェフの実力がうかがい知れる。
チャレンジ精神旺盛な松本社長と共に仕事をすることで、「パン屋のオーナーにはできない経験ができる」と笑顔を向ける。どんどん前に進む松本社長の期待に応えるには、人の育成は欠かせない。多くの人を育てるのも醍醐味の一つと語る。

6月には渋谷に新しいベーカリーカフェを出店。立地の特性に合わせた商品開発は氏家シェフの得意とするところだ。
大胆な構想で突き進む松本社長にプロのパン職人として参画する氏家シェフ。ダイナミックな体験を楽しみながらも、自身の店を再オープンさせている。
「本当はゆっくりしている方が好きなんです」と語る氏家シェフだが、ベンチャーと一緒に自分の可能性を切り拓く人生を満喫しているようだ。
「大変だが仕事が面白くて仕方がない」と氏家シェフ。オーナーシェフの座に安住せず、新たな可能性に賭ける氏家シェフの活躍に期待したい。

東京駅丸の内駅舎の前で

氏家 由二氏

1977年福島県生まれ。料理人として活躍していたが、パンの魅力に目覚め、パン職人に転向。「ブルディガラ」「ドミニク・サブロン」「ジョエル・ロブション」で各4年修業。2013年独立、宇都宮に「パニフィカシオンユー」をオープン、オーナーシェフに。その後「THE STANDARD BAKERS」に統括シェフとして参画。2018年大谷本店、2020年東京駅店を開店。完成度の高いパンが評判を呼んでいる。

THE STANDARD BAKERS TOKYO(ザ スタンダード ベイカーズ トウキョウ)

郵便番号
100-0005
住所
東京都千代田区丸の内1-9-1 グランスタ東京1階
最寄駅
JR東京駅
電話
03-6665-7995
営業時間
7:00~22:00(日・連休最終日の祝日 〜21:00)
※営業時間が変更の可能性がございます。詳細はHPにてご確認ください。
定休日
なし

「THE STANDARD BAKERS TOKYO」について詳しくはこちら

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年4月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年4月)のものです

ニッポンのブーランジェTOPへ戻る