パンのテーブル

地元食材を使ったパンで地域活性化

  • ラ・フーガス
  • パッパグラッセン
  • パンの蔵

ラ・フーガス

東京都西多摩郡を流れる平井川の畔に位置し、カフェスペースも併設するブーランジェリー「ラ・フーガス」。手間は惜しまず、吟味した原材料と地元の食材を使い、自信をもっておすすめできるものだけをつくることをコンセプトに、地元住民に愛されるお店を目指しています。

ラ・フーガス
住所:東京都あきる野市草花3492-183
電話:042-569-6369
営業時間:8:30~18:00(※ランチ営業は11:00〜14:30)
定休日:火曜

作ったパンを売って終わりではなく、その場で食べていただきたい


東京都世田谷区の梅ヶ丘で「ラ・フーガス」を営んでいたパン職人、仁禮正男さんが東京都あきる野市に移転したのは2007年のことでした。

「世田谷時代はビルのテナントでパンを作って、売るだけのお店でした。固定客も多く、睡眠時間が毎日4時間という忙しい毎日を送っていたのですが、このままのスタイルでいいのかな? と考えるようになりました。作ったパンを売って終わりではなく、その場で食べていただきたい。それなら、パンに合わせた料理も提供できるカフェスタイルがいいんじゃないか、と。いろんな場所を見て回りましたが、川沿いで緑豊かなこの立地が一目で気に入りました。『こんな場所でカフェができたらどんなに素敵なんだろう』と思ったんです」。

こうして、あきる野市に住居兼店鋪を建て、店内と川沿いのテラス席にカフェスペースを設けたベーカリーカフェに挑戦することになった仁禮さん。ただ、実際に営業をはじめてみると勝手が違う点が予想以上に多かったといいます。 「世田谷とは客層が違うことは覚悟していましたが想像以上でした。特に、パンはスーパーで購入するものという認識の方が多く、パンの需要がこんなに少ないとは思ってもいませんでした」。

移転当初は念願だったカフェの方が需要は大きく、ランチのできるお店にパンも売っている、というイメージが先行してしまったとか。それでも地道な営業を続けた結果、この1、2年はパンを求めてラ・フーガスを訪れる客も日に日に増え、お昼時を中心に店は賑わいを見せています。

地元の食材を使っておいしいパンができないか



パン屋としての認知度を高めるための取り組みのひとつとして始めたのが、地元・あきる野産の食材を使ったパン作りでした。

「せっかく緑の多い場所に移ってきたんだから、遠くから取り寄せるよりも地元の食材を使っておいしいパンができないかなと考え始めました。まず始めたのがサンドイッチの具材に使う野菜をあきる野産にしたこと。夏の時期ならキュウリとトマトをあきる野産にしたり、今の季節ならレタスがそうですね。あとはカフェメニューで提供する料理にも地元の野菜を使っています」。

地元のとれたて野菜が並ぶ畜農産物直売所「秋川ファーマーズセンター」などで仕入れた食材は、お店で次々にオリジナルパンに生まれ変わります。サンドイッチ以外にも、あきる野産の人参を使った「あきる野カレーパン」を通年で販売するほか、取材時には地元産の野菜で作った「スイートポテト」「みそねぎチーズ」「ほうれん草ブリオッシュ」といったパンが店頭に並び、彩りを加えます。

「もちろん、季節によって入荷できない場合もあるので「全てあきる野産です」とは言えませんが、できるだけ地元の旬な野菜を取り入れようという意識で作っています」。

また、月に1、2回は地元で開催される朝市に出店したり、あきる野市で開催される産業祭にも参加するなど、「パンはスーパーで買うもの」という意識が強い地元の方に向けて、パンの魅力をアピールする活動を続けています。

「世田谷は駅前の商店街だったこともあって若者からお年寄りまで、男女比もそれほどなくお客様がいらっしゃっていましたが、今の場所ではお客様のほとんどが主婦の方です。でも、客層が違うからといってスタイルは変わりません。今まで食べてなかったようなパンを『こんなのもありますよ』『こういう食べ方もありますよ』と紹介していきたい。そう心がけて営業しています」。

お店の詳細情報、商品情報はこちら!

ページのトップへ戻る

パッパグラッセン

神奈川県藤沢市の住宅地に溶け込むパン屋「パッパグラッセン(Pappa Glasen)」。来店されるお客様には「パンを選ぶ楽しさ」を感じてもらいたいと、工房の見える店内には調理パン、菓子パン、食事パンなど約80種類の多彩なパンがぎっしりと並びます。

パッパグラッセン
住所:神奈川県藤沢市亀井野632-5
電話番号:0466-54-8712
営業時間:9:00~19:00
定休日:月曜、火曜

新鮮でリーズナブルな食材を探したら、地元野菜に勝るものはなかった


「高校を卒業するまでこの辺で育ちました。いつか店を出すなら地元に帰って営業してみたい……その思いはずっとありましたね」。

そう語ってくれたのは、小田急線・六会日大前駅から徒歩6分の静かな住宅街に店を構える「パッパグラッセン」のオーナーシェフ長岩崇之さんです。サラリーマンを経て28歳でパン職人を志すと、数々の受賞歴を持つパン職人、井上克哉氏に師事。井上氏が経営する「ブーランジュリー オーヴェルニュ」(東京都葛飾区)で8年半勤務した後、2012年9月に念願だった地元、神奈川県藤沢市に今のお店をオープンしました。

「昔からの友だちもよく利用してくれます。また、飲食店を経営している知人も多く、食材はどこで仕入れればいいのか、といった地元ならではの情報を教えてもらえたことも意外なメリットでした」。

お店のモットーは、「お客様に毎日おいしくパンを食べてもらえること」。リスドオル40周年記念創・食Clubレシピコンクールで賞にも輝いたお店の人気商品「ディモンシュ」をはじめ様々なコンテストにも精力的に参加し、常に味の追求を心がける長岩さん。この「毎日おいしく」を突き詰めていくと、新鮮な地元野菜を使ったパンが自ずと生まれたと言います。

「新鮮でリーズナブルな食材を探したら、やっぱり地元野菜に勝るものありませんでした。野菜は知り合いの農家から直接仕入れることもありますし、このあたりは農家の方が多いからなのか野菜の無人販売所もたくさんあります。そこで買った野菜を調理パンに使ったりもしています」。

おいしいのはもちろんのこと、安心・安全であることも大事な要素



駐車スペースは5台分。ベビーカーでも入りやすい設計など、地元ファミリー層を意識した店頭には、常時約80種類近くのパンが並びます。

「仕入れ状況にもよりますが、サンドイッチや調理パンには地元産の野菜を使うように心がけています。あとは卵も地元産のものです。ほかにも、今の季節なら『イチゴのデニッシュ』『おいもとカスタードのブリオッシュ』などのパンにも、地元の食材を使っています」。

このほか、「りんごのデニッシュ」に使うりんごは、親戚が経営する秋田県の果樹園から取り寄せるなど、地元産でなくても出自のわかる素材を使うことを心がけている、と長岩さんは語ります。

「お店をよく利用していただくのは地元で暮らす主婦の方や高齢者の方々。おいしいのはもちろんのこと、安心・安全であることも大事な要素だと思います」。

お店の前にはテラス席もあり、買ったパンをすぐに食べられる心地よい空間も魅力です。また、最近は近くの学校が取り組む「地産地消」の教育活動に賛同してパンを卸したりと、地域住民との関わり方はさらに広がりを見せています。

「開店からちょうど3年。今が勝負どころです。お店の前の道は通勤の車がよく通っているので、朝の開店時間を早くするなど、まだまだできることはあると思っています。これまで同様にひとつひとつ丁寧な仕事を心がけながら、サンドイッチをはじめとしてもっともっと商品数を増やしていければと考えています」。

お店の詳細情報、商品情報はこちら!

ページのトップへ戻る

パンの蔵

JR大磯駅の目の前という好立地に位置する「パンの蔵」。季節の旬の味や地元の名店、漁業、農園と考案するコラボレーション商品など、店鋪近くにある蔵造りの工房で次々に生み出される味を求め、地元住民で今日も店は賑わいを見せます。

パンの蔵
住所:神奈川県中郡大磯町大磯1009
電話番号:0463-61-4441
営業時間:[火曜~土曜]7:30~19:30/
[日曜・祝日]7:30~18:00
定休日:月曜、月に一度連休あり

近くに海と山がある、という大磯のロケーションを活かせる店にしたかった


JR大磯駅の改札を抜けたまさに目の前に店を構え、今年創業20年をむかえる老舗のパン屋「パンの蔵」。この店を経営する加藤秀晴さんは、元々は広告代理店でデザイナーをしていたという異色の経歴の持ち主です。

「35歳を越えると、デザインの現場から離れて管理職的なポジションに移ります。でも、私にはそれが性分にあわなかったんです。何かクリエイティブなことを続けたい……そう思ったときに思いついたのがパン職人に転身することでした。パン作りって、とてもクリエイティブなんですよ」。

実家が和菓子屋を営んでいたことで手作業へのこだわりと憧れがあったこと。また、「お店を出すなら地元の大磯で」と考えたときに、当時の大磯には魅力あるパン屋がなかったことから一念発起。40歳のときに、まずは会社勤めをしながら土日だけ知り合いのパン屋で修行したのが出発点でした。

やがてパン作りに専念しようと会社を辞め、古い蔵を改装して「パンの蔵」を創業。次第に地域住民に支持される人気店となり、お店が手狭になったこともあって今の大磯駅前という立地に移転したのが創業から10年後のことでした。そしてこの頃から、より意識するようになったのが「大磯だからこそできることは何か?」、そして「地域をもっと活性化したい」ということでした。

「やっぱり、他でやっていないことをやらないとわざわざ来てもらうことは難しいですからね。そして、大磯という場所は目の前に海があって、すぐ近くには山もある。このロケーションもぜひ活かしたいと考えました」。

加藤さんがそう話すように、地元でとれた野菜・果物をふんだんに使った調理パンや、海産物を使ったパンなど、季節ごとにさまざまなオリジナルパンが店頭に並びます。

地元の名店、漁業、農園、学校とコラボレートした商品で地域を活性化



 「パンの蔵」が取り組む地元活性化は、パンの種類も方法論も多岐に渡ります。

たとえば、地元大磯の老舗・井上蒲鉾店とコラボレートして生まれたパン「イノウエ」は、モチモチの生地の中に井上蒲鉾店のさつまあげを入れて揚げた、おやつにも酒のつまみにも嬉しい逸品。大磯港で毎月開催される「大磯市」で販売すると、食べ歩きができる商品として1000個用意しても売り切れてしまう人気を誇ります。

ほかにも、大磯の網元がはじめた水産加工会社「湘南定置水産加工」とコラボレートした「サバの生ハムサンド」も定番の人気商品です。 コラボレートするのは企業だけではありません。地元の農業高校が取り組んでいた「おからをもっと活用できないか」という研究活動に賛同して「おからくん」というソフトクッキーを共同開発したり、高校生が栽培した小麦粉を石臼で挽き、「田舎パン」や「バケット」の香り付けに活用しています。 

地元食材の活用例としては、平塚の契約農家の朝摘みイチゴを使った「いちごあんぱん」や「ストロベリーサンド」、近くのみかん農園でとれたみかんのヘタ以外を全て活用し、水を一切使用せずに果汁だけで作る「みかんブレッド」、隣町でとれた菜の花とエビを使った「エビと菜の花のキッシュ」などなど、季節限定の商品も店頭を彩ります。

さつま揚げは加工工程で生じる切れ端部分を活用したり、少し傷があるため市場には回せなくても品質には何も問題がないみかんを使うことで仕入れ値を下げるなど、コラボレートする会社や農家双方にメリットになる取組みを続けています。

「地域の皆さんにも、地元の食材を使った商品がいつもある、という認知をしていただけていると思います。これからもどんどん、地元の食材を活かした商品を開発していきたいですね」。

お店の詳細情報、商品情報はこちら!

ページのトップへ戻る

新鮮でおいしい、誰が作ったのか生産者の顔が見えやすい、旬の味に出会える……このような理由から「地産地消」はこれからますます注目を集める食のキーワードです。今回取り上げたお店以外にも、地元食材を活用するベーカリーは今後さらに増えるのではないでしょうか。その季節しか食べられない、この店でしか出会えない、といった限定感も魅力のひとつです。あなたの周りのベーカリーでも地元食材を使ったパンがないか、ぜひ探してみてください。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年5月)のものです

パンのテーブルトップに戻る