パンのテーブル

喫茶店の名物メニュー

  • 珈琲ショパン
  • 若生(わかお)
  • カフェ呂久呂(ろくろ)
  • 珈琲専門店エース

珈琲ショパン

神田エリアに数多くある、昭和の雰囲気漂う老舗喫茶の名店の1つ。ネルドリップで淹れるコーヒーにもぴったりの、あんこをはさんだホットサンド「アンプレス」が人気です。

珈琲ショパン
住所:東京都千代田区神田須田町1-19-9
電話番号:03-3251-8033
営業時間:月曜~金曜 8:00~21:00、土曜 11:00~21:00
定休日:日曜・祝日

老舗ストリートにしっくりなじむ純喫茶

神田須田町界隈には東京大空襲を奇跡的に免れた一角があり、ビルの間に歴史を感じさせる建物や明治、大正、昭和初期から続く名店が静かなたたずまいを見せています。そんな老舗ストリートにある「珈琲ショパン」。昭和8年に現店舗のすぐ近くで創業し、昭和61年に移転。昔ながらの純喫茶の雰囲気を今に伝えています。

店を始めたのは現店主のお母様。「とてもハイカラな方で、ショパンという店名も<語感がおしゃれ!>というようなノリで決めたんじゃないでしょうか」と語ってくれたのは、初代のころから一緒に店を切り盛りしてきたチーフの佐々木信博さん。「戦時中はコーヒー豆の輸入は途絶えたものの、ショパンの出身地ポーランドが同盟国のドイツ領であったせいか、外来語の店名にはお咎めもなかったようです」(佐々木さん)。

店内には静かなクラッシック音楽が流れ、赤いベロア貼りの籐椅子、ステンドグラスをあしらった照明、木彫りの大きな灰皿などがゆっくりと過ぎてきた年代を感じさせます。

ホットサンドの裏メニューが名物に

同店の名物メニューが「アンプレス」。食パンで粒あんをサンドしたトーストです。 「ホットサンドメーカーで焼く、チーズやハムのホットサンドは当初からあったのですが、常連さんが『他のメニューはないの?』と。
そこで、お客さんなのか店の発案なのか今では定かではないのですが、甘いのもいいんじゃないかとあんこをはさんでみたのが始まり。今から37~8年前のことです。 ホットサンドの裏メニューだったのですが、いろいろなメディアで取り上げられて、遠くからこれを食べに見えるお客様もいてこちらがビックリするくらいです」(佐々木さん)。

厚めに切った食パンに粒あんをはさみ、表面にバターを塗って、長年使い込んだホットサンドメーカーBow-Loo(バウルー)でプレスしながら直火焼きに。これを両面3回ずつ、<バターを塗っては焼く>を繰り返すことで、パンにバターがしみ込んでいき、表面はこんがりきつね色に。 あんこの甘さにバターの塩気と香りがからまり、バターがまわったみみの部分はカリカリとした食感を楽しめます。

パンは、真四角でやや小さめの業務用食パン。フワフワ柔らかすぎるものでは、バターがしみ込んだときにベタッとしてしまうため、しっかりとした生地のパンを昔から使っているそう。常温に置いたバターを惜しげもなくたっぷりとパンに塗って、200gのバターを8食分くらいで使い切ってしまうそう。

「コストがかかるうえに、焦がさないようにバターを塗ってはひっくり返して焼く、という手間のかかるメニューです。でも、毎日のように食べに来てくれる常連さんを大切にしたいから、抑えめの値段にしています」(佐々木さん)。

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若生(わかお)

賑やかな浅草・六区ブロードウェイにある喫茶店。猫をこよなく愛する、ママと店主の本多邦洋さんのお2人で切り盛りしています。
名物「カレートースト」のほか、「ミルクセーキ」なんて懐かしい名前のメニューも。

若生(わかお)
住所:東京都台東区浅草2-10-13
電話番号:03-3844-5403
営業時間:10:00~17:00(L.O.16:30)
定休日:木曜

白い暖簾が粋な喫茶店

かつて劇場や演芸場が多数集まり、一大歓楽街として栄えた浅草六区。現在は六区ブロードウェイ商店街を中心に、内外の観光客も多く訪れる活気に満ちた街になっています。賑やかなビルの間でさらりと白い暖簾を掲げているのが「若生」です。

粋な和食の店?と思わせる外観ですが、昭和初期に「蛇の目」の屋号で創業し、40年ほど前から洋風の喫茶店に。常連さんで賑わっていた店は、いつしか「カレートースト」で全国的に知られるようになりました。
「トースト好きのママが、店で人気のカレーをまかないとしてトーストにかけてみたのが始まりでした。なかなかいける、ということでメニューに加え、試行錯誤を続けていくうちに次第にパンが厚くなっていったんです」(本多さん)。

カレートーストと聞くと、ピザトースト風にカレーをのせたものを思い浮かべますが、トーストにカレーを「かける」という意外性とおいしさに加え、洋食の一皿のような見ためのインパクトも人気の秘訣のようです。

トーストの上にカレーを「かける」

「カレーは辛いだけじゃダメ。玉ねぎやにんじんは姿が見えなくなるまでトロトロに煮込んだポークカレーで、隠し味にレーズンを入れ、お子様でも食べられるようにまろやかに仕上げています」(本多さん)。仕込んでから毎日火を入れて、5日間くらい寝かせたものを使っているそう。

パンは浅草「セキネベーカリー」の上食パンを使い、5~6cmの厚さでスライスし、みみを切り落としてトーストに。年季の入ったオーブントースターで、何度も何度もパンの向きを変え、ひっくり返しながら焼き色をつけていきます。「人の手をかけることで、遠赤外線で焼いたみたいに全体がきつね色になって中までじんわりと温まっていく。パンの厚さもきっちり何センチ、なんて決めていなくて、お客さんの顔を見て、そのときどきで微妙に違っています(笑)。カップルで来たら男性のほうは心もち厚めにするとか、ね」(本多さん)。

切り分けてからたっぷりのバターをのせて、上からカレーをかけてさらに生クリーム。「トーストすると微妙に反るから、バターが脇に流れないようにへこみがある方を上にしています」(本多さん)。サラッとしたカレーにバターと生クリームが混じり合うことで、よりマイルドな味わいです。カレーとパンと油脂の組み合わせはカレーパンとも共通しますが、さらっとしたカレーをまとったトーストは、カレーライスの「台替わり」という感じの1皿です。

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カフェ呂久呂(ろくろ)

自家焙煎のコーヒーと手づくりのケーキ、食パンを器代わりにした「カレートースト」が人気のカフェ。オーナーの野口由布子さんは、カフェを営む傍ら、千葉県産の有機野菜のファーマーズマーケットを主宰しています。

カフェ呂久呂(ろくろ)
住所:千葉県千葉市中央区中央3-4-10
電話番号:043-224-5251
営業時間:10:00~20:00(L.O.19:30)
※10:00~11:00はモーニング営業
定休日:水曜

特注のロースターで自家焙煎したコーヒーが自慢


この土地で明治の半ばから商いを続けて約100年。3代目で、陶芸好きのお父様がギャラリーを開設し、40年前からはもっと気軽に陶芸作品に親しんでもらえるようにとカフェも始めました。自家焙煎のコーヒーが自慢のカフェを、今は娘の野口さんが引き継いでいます。

「今でこそカレートーストが評判になっていますが、本業はコーヒー。『カレートースト目当てで来たけれど、コーヒーがおいしくて驚いた!!』なんてお客様もいらっしゃるんです」と野口さん。店頭に置かれたロースターで世界各国の産地から仕入れた生豆を焙煎し、1杯ずつハンドドリップで淹れています。豆の種類は常時7~8種あり、焙煎後に鬼澤さんたちスタッフが、手作業で未成熟の豆を丁寧に選り分け、余分な雑味やえぐみを出さないようにしています。

もともとカレーライスや厚切りトーストなどフードメニューも出していました。誰が最初に始めたのか定かではないですが、ごはんの代りにトーストにカレーというメニューが生まれたそう。それならば、食パンそのものを器に見立て、中にカレーを入れてみようということに。フォークでパンをちぎりながら、ちょうどチーズ・フォンデュのようにカレーをからめて食べるスタイルが完成しました。

欧風カレーに合う、シンプルな食パンを使っています

「カレーは、玉ねぎをじっくり炒め、ビーフのブイヨンをベースにした欧風カレー。ピリッとスパイスを効かせてあります。コーヒー屋らしく、カレーを煮るときの隠し味に抽出したコーヒーを入れています。多分、味に深みとコクが出るんじゃないかと」(野口さん)。

「カレージャンボトースト」の場合は食パン3斤を1/4にカットして使っています。高さ9~10cmある、まさにジャンボサイズ。「最近は食パンも生クリームなどを入れて、やわらかくてリッチなものが多くなっていますが、甘みの強い食パンではしつこくなってしまい、カレーには合わないと思います。パン屋さんと試作を繰り返して、甘みは抑えめで食べたときにわずかに塩気を感じるもの、重くてもたれるのはダメですが、ひきがしっかりと強く、トーストしたときにみみはパリッと、クラムはサクッとあがる、シンプルな味わいのものをつくってもらいました」(野口さん)。

食パンのみみの内側に沿って切り込みを入れ、さらにクラムを9分割してオーブンで焼きます。クラムを上から軽く押して沈ませ、カレーを入れて出来上がりです。「みみを少しずつ切り取りながらカレーをディップして、全体をバランスよく食べるお客様もいますし、残ったパンに追加のカレーをかけたり、ハニーシロップやクリームで趣向を変えて食べていただけるように、いろいろなトッピングを用意しています。半熟卵やチーズのトッピングもパンによく合いますよ」(野口さん)。

カレージャンボの約半分のサイズもありますが、話のタネにジャンボを注文するお客様が多いそう。パンの仕入れの関係もあり、1日35食が限界とのこと。早いときは15時くらいでジャンボは売り切れになってしまうこともあり、フェイスブックでお知らせしています。

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珈琲専門店エース

清水英勝さん、徹夫さんご兄弟が、息の合った連係で営むコーヒー専門店です。早朝7時から店を開け、モーニングサービスやテイクアウトもあり、付近で働く人にとっての憩いの場所にもなっています。

珈琲専門店エース
住所:東京都千代田区内神田3-10-6
電話番号:03-3256-3941
営業時間:月曜~金曜 7:00~19:00、土曜 7:00~14:00
定休日:日曜・祝日

脱サラ父子でコーヒー専門店を創業

創業は昭和46年。大のコーヒー好きだったお父様が、コーヒーに特化した専門店をつくろうと、50代の半ばで息子さんたち(5人兄弟の4男・5男)を誘って、この店を始めたそう。
「脱サラの走りでしたね。開店を前に兄弟で新橋にあった喫茶の専門学院に通って、豆のことからコーヒーの淹れ方、喫茶店経営のノウハウを習ってきました。2016年8月で45年周年になりますが、産地や銘柄を厳選して豆を仕入れ、1杯ずつサイフォンで淹れるスタイルと、ストレート、ブレンド、アレンジと全部で40種のメニューはほとんどが創業当時のままです」(英勝さん)。
ウィスキーをたらしたアイリッシュ、チョコレートを入れたモカジャバなど、往年の珈琲専門店でおなじみのアレンジコーヒーも健在です。

開店当初からある名物メニューが「のりトースト」。お母様がつくる「のり弁」をヒントに、ごはんをパンに替えて出してみたら、意外に好評だったそう。当時は家庭でもトーストにのりと醤油や、のりの佃煮を塗る、などが流行しました。「誰でも簡単につくれそうですが、<パンを焼いてバターを塗って、のりと醤油>だけでは、この味にはならない。少しずつ改良をしながら、進化してきたんです」(英勝さん)。

醤油と霧吹きで驚きのしっとり食感

同店の「のりトースト」は、8枚切りの食パン4枚を並べて、まず片面に霧吹きで水分をふきかけます。パンをひっくり返して醤油さしを1往復半させて醤油の3本線。のりをはさんで2組のサンドをつくり、トースターに。
焼き加減を見ながら何度かひっくり返して焼き、最後に片面にたっぷりのバターを塗ってこんがり焼き上げます。
バターの面を内側にして重ね、固いみみの部分は思い切りよく切り落とし、対角線で三角に。
ほどよい厚みの「のりトースト」ができあがります。4枚重ねのまま食べれば、バターで手がべたつくこともありません。

のりとバターと醤油の相性の良さは想像通りですが、しっとりしたパンの食感に驚きます。「最近話題の高機能トースターも買ってみたのですが、シュッシュッと霧吹きをかけるウチのやり方と、ほぼ同じような焼き上がりでした」(英勝さん)。

チェーンのコーヒー店に席巻されて、個人店は生き残りが厳しい昨今ではあるようですが、「お店ごとにコーヒーの味も違うし、トーストにもその店ならではの個性がある、そんな個人店のよさが最近また見直されてきているように感じます。若いお客さんも増えて、みなさん、のりトーストを注文して、SNS用に写真を撮っていかれるんです。それで、外に立ててあるのぼりのミニサイズをつくりました。かわいいでしょ?」と英勝さん。

創業当時を彷彿とさせる店の雰囲気と気さくな店主さん、メニューはよりおいしく進化させ、時代の流れに即してちょっとした仕掛けも工夫する……変わらないところと変えていくところ、そのしなやかなバランスが長く愛される秘訣なのかもしれません。

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今でこそ、パンの種類は数えきれないほど豊富になりましたが、日本人にとってのパンの原点ともいえるのが「角食パンでつくるトースト」ではないでしょうか? シンプルだからこそ、バターやカレーはもちろん、あんこやのりなど、和の食材ともよく合います。名物トーストを味わいに、老舗喫茶店巡りを楽しんでみてはいかがでしょう。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年6月)のものです

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