パンのテーブル

スパイスやリキュールが香る 大人スイーツ

  • ロワール
  • Kies(キーズ)
  • 洋菓子舗 茂右衛門(ようがしほ もえもん)
  • Pâtisserie L‘essentielle(パティスリー レセンシエル)

ロワール

東京・世田谷区奥沢の住宅街で60年近く続いている老舗洋菓子店。こだわりの材料を使い、丁寧に手づくりしたケーキや焼き菓子をリーズナブルな価格で提供しています。商品の包装紙に使われている絵は洋画家・三岸節子さんのもの。シックな包装紙にトリコロールのリボンをきりりとかけたパッケージからも、老舗洋菓子店の端正な仕事ぶりとどこか懐かしい雰囲気が感じられます。

ロワール
住所:東京都世田谷区奥沢2-17-4
電話番号:03-3718-1133
営業時間:9:00〜20:00
定休日:月曜

50年近く変わらないおいしさにファンが多い「ブランデーケーキ」

ショーケースに30種類ほどの生ケーキや焼き菓子などが並ぶ店内で、接客をされているのは代表取締役の藤井悦司さんです。同店にはお店の歴史もさることながら、数々のロングセラー商品があります。ブランデーを使った同店の看板商品「ブランデーケーキ」もその1つで、なんと50年近く、変わらないレシピで多くのお客様に愛されてきました。

昭和生まれの方には、懐かしいお菓子でもあるかと思いますが、今でも手がけているお店は意外にも少ないようです。小麦粉、バター、卵、砂糖など、使う材料は生菓子などに使うビスキュイ生地と同じですが、仕込み方はまったく異なるそう。「口当たりはふんわりとしていますが、数種のブランデーをブレンドしたシロップをたっぷり含ませても、形が崩れないようにつくっているのです」(藤井さん)。

ブランデーシロップは、数種のブランデーをブレンドしています。使うブランデーの種類の違いで、2種類のブランデーケーキがあり、1800円のほうは高級感のある木箱入りです。
ブランデーケーキがお好きで、いろいろな店のものを食べてみたけれど、やっぱりここのケーキがいちばん口に合う、とおっしゃるお客様も少なくないそう。たくさんのお客様に長く愛され続けてきたことが、味わいの確かさを物語っています。

「製造してから1週間ほどおくと、ケーキの内部にブランデーシロップが浸みていき、アルコールも落ち着いて、よりまろやかになります」(藤井さん)。常温で2カ月保存できるので、ギフトにもぴったり。婚礼の引き出物など、まとまった数の注文も多く、毎日少ないときでも40~50本は焼きあげ、つくったそばからお客様の手に渡っていきます。藤井さんのおすすめ通り、1週間ほどおいてみました。香りを逃さないように銀色のメタルシートに包まれたケーキは、ずっしりと重みがあり、包みを開けると華やかにブランデーが香ります。やさしい卵の色をしたきめ細かなケーキは、ほどよくシロップが浸みてしっとりと、やさしく口どけていきます。ブランデーの香りを余韻としても楽しめる、まさに大人のためのスイーツです。

いい材料を使い、手間をかけた手づくりのおいしさ



もう1つ、洋酒を使ったお店自慢のスイーツが生チョコレートの「トリュフ」です。粉砂糖をまぶした白いほうは、口当たりのスッキリした「シャンパントリュフ」、ココアパウダーのほうは、オレンジリキュールを使った「グランマニエトリュフ」です。
「コロンと丸い形でつまみやすく、ブランデーにもよく合います」(藤井さん)。
また、大人の男性へのプレゼントにもぴったりなのが、葉巻をイメージした焼き菓子「ガトウバー」です。アーモンドプードルを入れたガトウバー専用の生地で、プレーンなバニラのほかにオレンジピール入りとチョコチップ入りの3種類があります。葉巻のように木箱に並べたギフトボックスは、シックな大人仕様です。
「オリジナルの焼き型を業者につくってもらい、当店専用として押さえてあったのですが、長年の間にほかの店でも見かけるようになりましたね」(藤井さん)。

ショーケースに並ぶ生ケーキは200円台からあります。「見た目を豪華にするのではなく、材料はいいもの選び、シンプルな素材から手間暇かけて自店で手づくりし、お客様に満足していただけるものをつくっています。時代に合わせて、つくるケーキは少しずつ変えてはいますが、値段は極力変えないようにしています」(藤井さん)。
昔ながらの丁寧な手仕事と、おいしくてリーズナブルな価格、そしてどこか懐かしさを感じさせてくれる洋菓子は、お客様に愛され続けています。

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Kies(キーズ)

店名は、店主が大好きなクッキー(COOCKIES)の“Kies(キーズ)”から。ペールトーンの水色をアクセントにした店内には、カウンターにさまざまな焼き菓子やクッキーが並び、クッキー1枚から購入することができます。日差しが差し込む、ナチュラルな雰囲気のカフェスペースで、お好みの焼き菓子とドリンクを楽しむこともできます。

Kies(キーズ)
住所:東京都杉並区西荻北4-35-5 中村ビルA
電話番号:なし
営業時間:12:00〜19:00
定休日:火曜、水曜 ※不定休あり

一つ一つ手作業でつくる、ほっこりやさしい表情の焼き菓子



店主の堀友美さんは、パティスリーやカフェで働いたのち、ワーキングホリデーでイギリスへ。2年間現地のフランス菓子店で働きながら、イギリスのお菓子を探訪。帰国後は西荻窪にある知人の喫茶店にて、週末の閉店後の店内を「間借り」して食事とケーキ、クッキーを提供していましたが、お客様から空き物件を紹介されて、現在の骨董通り沿いのお店を2016年にオープンしました。

店内には、ケーキ4~5種類、クッキー10~14種類ほどの焼き菓子が揃い、すべて店舗内のキッチンで堀さんが一つ一つ手づくりしています。クッキーはガラスボトルに、ケーキはフードケースに入れて対面販売のスタイル。お客様にとっては、おやつ選びのワクワク感がノスタルジックに甦ってくるとともに、「全種類の大人買い」にもつい誘われそうな見せ方になっています。
一番人気の「thanksクッキー」は、アーモンドパウダー入りのサクサクとしたサブレっぽい食感で、小さなクッキー生地1枚ずつにthanksの文字がスタンプされています。 「文字を入れると見た目のアクセントにもなりますし、プチギフトにしていただくにも『ありがとう』のメッセージがあると、ちょうどいいかな、と思って。せっせとスタンプを押しています」(堀さん)。

同じ形でカルダモンとレモンピールを生地に練り込んだクッキーも人気です。 「ケーキやクッキーにスパイスを使うことはよくあります。とくに大人向けに、とねらっているわけではなく、入れたほうが味がしまったり、よりおいしくなると思うから。私が、スパイスの入っているお菓子が好き、というのが大きいですね」(堀さん)。 お菓子によく使うのは、カルダモン、シナモン、クミン、ローズマリー。たまにジンジャーを使ったり、フレーバーとしてクローブを使うこともあるそう。



型抜きクッキーは、家庭でつくるクッキーと同じ工程で、ピケ(生地に空気抜きのための小さな穴をあける)の作業も1枚1枚フォークでプツプツと刺しているそう。1枚ずつ生地を手で伸ばして成形する「ピーナッツバター」は、フォークで描いた十字模様をアクセントに。どれも焼きあがりの表情に、ほっこりとした手づくりの温かみが生まれます。

取材当日の朝に焼きあげたという四角いクッキーは、生地にカスタードパウダーを混ぜたもの。サクサクの食感で、ほんのり甘いカスタードの香りがします。
「材料があるから、とか店主の気まぐれで『ちょっと焼いてみた』という商品がちょこちょこ登場します。その中で、オーソドックスなものが定番化していきます」(堀さん)。

「チョコチップ&シナモン」、「ローズマリー&アーモンド」などのアイスボックスクッキーは、水分量(卵、牛乳)を少なめにして、ややかための焼きあがりに。砂糖はきび砂糖とグラニュー糖をブレンドして、飽きの来ないおいしさを目指しているそう。

「砂糖は、味わいの違いが焼きあげたときにダイレクトに伝わってくるので、結構使い分けています。卵は使わず重曹でサックリした食感を出している全粒粉のビスケットには、ブラウンシュガーを使っていますし、素焚糖もよく使うお気に入りです」(堀さん)。

スパイスが香るベイクドケーキや懐かしのレモンケーキも





「ホワイトチョコとカルダモンのケーキ」は、パウンドケーキをアレンジして、ミルクのほかにヨーグルトも入れて、よりしっとり感のある生地がベース。これに溶かしたホワイトチョコレートを型1本に230gくらい、たっぷり練り込んであります。「アクセントにカルダモンのホールを粗く挽いて混ぜています。ホワイトチョコレートのとてもミルキーなテイストに、カルダモンが爽やかさを加え、ひきしめる役割も。スパイスはパウダーで使うよりも、粒のほうが、口の中で弾けて香りの立ち方が断然違ってくるんです」(堀さん)。

上にアイシングをかけたレモンケーキは人気の定番商品。年配の方には懐かしいレモン風味の焼き菓子ですが、最近またブームが起こっているようです。パウンドケーキの生地にヨーグルトとレモン汁、レモンの皮のすりおろしを混ぜ、アイシングにもレモン汁。「日本の昔ながらのレモンケーキと、甘くて重めなイギリスのレモンケーキのちょうど中間くらいを目指しました。ケーキはしっとり軽めにして、仕上げのアイシングをたっぷりかけて、懐かしい感じを出しています」(堀さん)。

イギリスの定番おやつのビクトリアスポンジケーキは、シンプルなケーキの生地にバタークリームとジャムをサンドしたもの。季節ごとに、自家製ジャムの種類を替えていますが、バタークリームの保存性を考えて夏季はお休みにしているそう。「暑いとどうしても甘い焼き菓子には手を出しづらくなります。昨年はゼリーをやっていましたが、今年は夏に向けてのサレ系の商品をもう少し充実させたいと今考えているところです」(堀さん)。

かわいい、おいしい焼き菓子を求め、素敵な店内でSNS映えする写真を撮っていくお客様や、地元のご年配の方がお茶受け用のお菓子を買いに見えたり、結婚式などの引菓子、ショップのノベルティー用に大量の注文が入ることもあるそう。オープンから2年で、たくさんの方々に愛されています。
「店をやるにあたって、当初は製造と包装のことくらいしか頭になかったですが、材料の発注作業から事務作業に至るまで、店主のやることってこんなにたくさんあるんだ、と改めて実感した次第です。大変な面はもちろんありますが、レシピも含めて全部自分で決められるのがよいところでもあります。西荻の街には、1人でお店をやっている店主さんがたくさんいるので、アドバイスしてもらったり、励まし合ったりしています」(堀さん)。

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洋菓子舗 茂右衛門(ようがしほ もえもん)

ビルの半地下にある店舗は、黒い板壁、九曜の紋を大きく染め抜いた暖簾がかかり、一見、洋菓子店とはわからないような佇まいです。店内のシックなショーケースに並ぶケーキは生菓子7種、タルト5種ほど。このほかにフルーツケーキ、クッキー、サブレなどの焼き菓子を揃えています。スパイスやハーブ、洋酒を巧みに、ふんだんに使った、他店ではあまり見られないフランス菓子を手がけています。

洋菓子舗 茂右衛門(ようがしほ もえもん)
住所:東京都国分寺市南町2-18-3 国分寺マンションB1F
電話番号:042-323-8200
営業時間:11:00〜19:00(売り切れ次第終了)
定休日:月曜、火曜

ほかでは味わえない、フランス菓子のおいしさを伝えたい



引き戸を開けると掛け軸と茶釜に出迎えられ、内装も和の雰囲気で、壁にはおすすめケーキが墨書でアピールされています。「お菓子全般も和テイスト?」と思われるお客様も多いそうですが、同店のお菓子は、すべて伝統的なフランス菓子をベースにしています。

店主の志村恭代さんは、もとは販売の仕事をされていましたが、洋菓子の店を持つことを志し、「イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ」の弓田亨シェフが主宰するフランス菓子の学校へ。2012年10月に同店をオープンしました。基本にしているのは弓田シェフのルセット。忠実に再現したものもあれば、独自のアレンジを加えたもの、オリジナルのものもありますが、すべて弓田シェフから学んだ「日本にある素材を使って、いかにフランス菓子のおいしさを表現するか」を軸にしています。

ケーキのラインアップは日によって変わり、そのほとんどが洋酒をふんだんに使った大人向けのもの。サフランを使ったケーキ、刻んだフレッシュハーブをムースにたっぷり混ぜ込んだケーキ、薬草系のリキュールを使ったケーキなど、他店ではなかなか見られないタイプのケーキが日々登場します。
「当初は『奇をてらっている』などと言われたこともありました」と語る志村さん。ですが、香りを大切にするフランス菓子の世界では、ケーキにスパイスやハーブ、リキュールを使うのはごく当たり前なこと。王道のルセットが数々あり、昔から広く親しまれてきています。


「つくり手はおいしいとわかっているのに、『洋酒を使うと子どもには食べられない、スパイスは好みが分かれる』といった理由で、お客様がこのおいしさに出会うことができないのは本当にもったいないこと。大多数の人が好んで食べるわけではないところに、実はおいしいものが潜んでいることを知り、自分が本当においしいと思うフランス菓子だけをブレずにつくっていこう、と決めたのです」(志村さん)。

チョコレートケーキのような「ミントとラプサンスーチョン」に使っている「正山小種(ラプサンスーチョン)」は、強い燻香のある紅茶の一種。薬の「クレオソート」にも例えられる独特の香りは、ミルクチョコレートによく合い、さらにチョコレートと相性の良いミントを香らせています。

「おいしさがわかりづらいお菓子、と言えるかもしれません。ですから、どのケーキについても丁寧にご説明し、納得して買っていただくようにしています。うちのお菓子は、例えば『チーズ独特の香りを抑えたチーズケーキ』とは対極の、好みが分かれるお菓子ではありますが、食べてみて、おいしいと喜んでくださるお客様がこんなにも多いのか、と私のほうが驚いているくらいです」(志村さん)。

茂右衛門が考える「大人味」



ケーキの姿は、至ってシンプルに丸・三角・四角。タルトは、丸い小さな型で焼くよりも大きく焼いたほうがおいしいから、三角形のピースに。生菓子のほとんどは長方形で、ビスキュイとムースやクリームが層になった構成です。 「見た目のかわいらしさよりは作業性を重視し、目指すおいしさに仕上げるために、素材を選ぶことを大切にしています。小麦粉なら、フランスのものと日本のものでは焼きあげたときの、きめの細かさやシロップの浸み具合がまったく違いますし、同じ材料でも焼き加減でまた違ってきます。また、フランスと日本で手に入る素材のギャップを埋めるための工夫と手間暇も欠かせません」(志村さん)。

ビスキュイ生地は、それぞれのケーキごとに配合からつくり方、厚さもみな変えてつくり分けています。
オレンジリキュールとジンが香る「それいゆ」は、アーモンドプードル入りのビスキュイ生地にジェニパーベリーというスパイスを使っています。洋酒のジンの香りづけに使われるスパイスで、苦み・甘みのあるウッディーな香りが特徴。柑橘類とよく合いますから、真ん中には奄美大島産のたんかんのママレードを。アーモンドムースはローマジパンとバターでこってりと濃厚なのでビスキュイ生地を厚めにしてバランスを取っています。
「カライブ」は、ハーブキャンディなどに使われるレグリス(甘草)を混ぜたコーヒービスキュイで、キャラメルのババロア、ココナッツリキュールが香るココナッツのムースを軽いビスキュイ・キュイエールで囲んでいます。
「あんことくろみつ」には、卵黄の入らないダックワーズ生地、「エヴァジウォン」はサフラン風味のかぼちゃのビスキュイ、といった具合です。

香りはケーキに限らず、食べ物すべてにおいて、おいしく感じるためには欠かせない要素です。そして香りとともに、大切にしているのがバランスです。

「うちのケーキ、『甘さ控えめで大人の味ですね』と言われることがよくあるのですが、甘さはまったく控えていません。甘さだけ、スパイスだけが突出しないところがバランスであり、香りを際立たせたら甘さもしっかり甘くします。スパイスが強い、ムースの味も強い。食べる側の鍛錬も必要になってきますが、さまざまな食体験を重ねて、鍛えられた五感に応えるおいしさこそが『大人味』だと思うのです」(志村さん)。

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Pâtisserie L‘essentielle(パティスリー レセンシエル)

有名パティスリーで修業後、南仏・ニースに渡り、香りを探求してきた若きオーナー・パティシエが、ご夫妻で営むパティスリー。桜並木が美しい播磨坂に面した店舗は、ゆったりと広い歩道に向けてオープンエアのカフェスペースを併設。豊かな香りを楽しめる約20種類の生菓子のほか、焼き菓子なども取り揃えています。

Pâtisserie L‘essentielle(パティスリー レセンシエル)
住所:東京都文京区小石川4-16-7 カーサベラソーレ 1F
電話番号:03-6320-8669
営業時間:10:00〜19:00
定休日:木曜

五感で楽しむ、香りで魅せるケーキたち


ショーケースに整然と並ぶ、華やかなケーキの数々。それぞれのプレートには、ケーキに使われているハーブやスパイス、ナッツなどの素材をあしらって、ビジュアルでも香りをイメージしやすいようにしてあります。
「香りには、その香りにまつわる記憶だとかイメージを呼び起こす作用があると思います。私がつくるケーキは、フランスでの修業中に五感で感じとってきた、季節のイメージをケーキという形で表現したものが多いんです」と語ってくれたのはオーナー・パティシエの牛島源希さん。
「パティスリー・サダハルアオキ・パリ」にて修業する中で、人が食べたときに「おいしい」と感じるものには「香り」の働きが大きい、という気づきに至り、香りを自らのテーマにしてきたという牛島さん。高級食材が集まるパリではなく、イタリア的、スペイン的な要素もあり、さまざまな食材や草花が四季を彩る南仏ニースに渡り、レストラン「KEISUKE MATSUSHIMA」にて香りの探求を深めます。帰国後、2015年に自店をオープンし、香りの魅力にあふれるお菓子づくりをされています。




「ほとんどのケーキに、ハーブやスパイスを使っています。ですが、それだけを突出させた刺激的な『香辛料』としてではなく、つくりたいお菓子を構成するのに欠かせない素材の1つとしてスパイスがあり、ハーブがあるのです」(牛島さん)。

例えば「プロヴァンス」は、初夏のケーキ。マルシェに旬のアプリコットが並ぶころ、あたりにはラべンダーが花を咲かせます。アプリコットにラべンダーの香りを添えて、初夏らしい爽やかさを表現しました。
ヘーゼルナッツのダックワーズをベースにして、旬のアプリコットの自家製コンポートを入れた塩キャラメルのチョコのムース、ラべンダーのシロップを打ったヘーゼルナッツのビスキュイ、アプリコットのジュレを重ね、トップにラヴェンダーの香りのムース、という構成です。
「ラべンダーといっても精油のような強い香りではなく、ハーブティーのイメージで、香りを抽出したシロップをつくっています。ほのかな香りと、チョコレートやナッツ、フルーツのハーモニーでおいしさの相乗効果が生まれます。また、当店のケーキは細長いスクエア型ですが、スッとフォークを入れた1口分で、全体のハーモニーを味わっていただけるという効果もあります」(牛島さん)。

「ニソワ」は、ニースで働いていたレストランのスペシャリテ。ココナッツムースにパッションフルーツとパイナップルのジュレを重ね、ビスキュイにはフレッシュバジルの葉をちぎって混ぜています。「バジルの葉をランダムな大きさにちぎって入れることで、そよ風に乗って香りが運ばれてくるように、食べ進む間の香りに強弱の変化を感じていただけます」(牛島さん)。

トンカ豆のフレーバーが魅力のシューアラクレームは焼きたてのおいしさ



同店の看板商品でもあり、つくりたてを提供しているのが「シューアラクレーム」です。
「クリーム詰めたて、というのはよくありますが、シュー生地は時間がたつほどに乾燥していきます。1日数回に分けて焼くことで、ケーキ屋には珍しい、焼きたてのおいしさを楽しんでいただく商品にしています」(牛島さん)。
表面はカリッとしていても中はしっとりの状態を保つために、焼きたてのまだ温かいうちにクリームを詰めて、開店時には第一弾のできたてが登場します。
そして、カスタードクリームにはバニラではなく「トンカ豆」で香りをつけています。トンカ豆は、コーヒー豆などと同様に発酵のプロセスを経て香りが開いてくる素材で、「クマリン」という芳香成分がバニラ、杏仁、キャラメルにも似た複雑な香りを醸します。プラムの種ほどの大きさの、固く乾燥したものを細かく挽いて茶こしでふるって使っているそう。トンカ豆ならではのやさしい、魅力的な香りとともに、まだあまり知られていない素材を使うことで「トンカ豆って、どんな豆が入っているんですか?」とお客様に聞かれることから、香りについての会話も始まります。

焼き菓子のコーナーには、トンカ豆のほかにもローズ、柚子、アールグレイなど、香りを楽しむ焼き菓子が並んでいます。「ケークオショコラ」には洋酒のグランマルニエ、「ケークオフリュイ」はドライフルーツをキルシュに漬け込み、シナモン、スターアニス、胡椒、山椒などスパイスを10種類以上使用しています。
「修業していたころは、こんなにいろいろ入れる意味があるのか、と疑問に思ったこともあったのですが、1つ欠けると全く違ったものになる。一つひとつが意味を持っていて、全体として調和することが大事なのです。店名の『L‘essentielle』は、フランス語で『本質』という意味。なぜこの素材を使うか、なぜこのようなつくり方をするのか、常に問いかけ、本質を見極めて菓子づくりをしています」(牛島さん)。
そして、お店には小さいお子様連れのお客様もたくさんいらっしゃいますから、お酒を使った焼き菓子にはシルバーのシールをつけて目印にしていますし、ホールケーキはご家族皆さんで食べていただくことを考えて、洋酒は一切使わずにつくっているそう。

プロヴァンスに代表される南仏は、花やハーブなど生きた香りが生まれる街。南仏のグラースは、香水が誕生した街で、日本でも人気の植物由来のコスメティック・ブランドでも知られています。「生活の中に香りを取り入れることで、ちょっとした贅沢感を楽しめますし、皆さん、よい香りが好きですよね。ただ、お菓子に関してはフランスとは異なり、日本ではまだまだ味を楽しむだけのものになりがちです。たとえ南仏を知らない方でも、彩りと香りに満ちた豊かな情景が自然とイメージされるような、味わい、香りの魅力に溢れたお菓子をつくっていきたいです」(牛島さん)。

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今回取材した4店舗ともに、お菓子づくりにおいて香りをとても大切にし、スパイス、ハーブ、リキュールなどを使うことで、大人の感性を満足させる商品に仕上げているのが印象的でした。ぜひ各店舗に足を運んで、お気に入りの大人スイーツを選んでみてくださいね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年7月)のものです

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