SDGsや食の多様性への関心が高まる中、動物性の食材を一切使わないヴィーガン対応のパンやお菓子を提供するお店が増えています。今回は、扱う商品すべてがヴィーガン対応のベーカリーと焼き菓子のお店を取材しました。植物性の食材だけでおいしさをつくり上げるための工夫やこだわり、各店自慢のアイテムをご紹介します。
EARTH BAKERY(アースベーカリー)
「食べてきれいになる」をコンセプトにしたレストランを展開する、株式会社CHAYAマクロビフーズによるベーカリーカフェ。100%プラントベースにこだわったパンを揃えています。2024年4月オープンの店内は、天井が高く、ゆったりとした空間に32席のイートインスペースを併設しています。
EARTH BAKERY(アースベーカリー)
- 住所
- 神奈川県横浜市西区高島1-2-5 横濱ゲートタワー1階 105区画
- 電話
- 045-264-8705
- 営業時間
- 8:00~20:00(カフェL.O.19:30)
- 定休日
- 不定休
ヴィーガンの人もそうでない人も一緒に楽しめる
同店の母体となっているレストラン「チャヤマクロビ」は、マクロビオティックをベースに、地産地消・季節の食材をバランスよく摂り入れることで、体の内側から元気に・きれいになるようなメニューを提供しています。新しく誕生したベーカリーについて、店長の松岡沙也加さんにお話を伺いました。
「ベーカリーでは、これまでレストランで培ってきた“チャヤマクロビ”をベースにして、動物性の食材を一切使わずにパンをつくっています。厳格なヴィーガンの方には、何が使われているかを気にせず、どれを選んでいただいても安心してお召し上がりいただけますし、ヴィーガンではない方にも普通のベーカリーと同じように、おいしいパンを楽しんでいただけます」(松岡さん)。
広々とした厨房の景色を背景にして、対面式の売り場にはバゲットや食パン、フォカッチャなどの食事パン、クロワッサンやドーナツ、惣菜パンに菓子パン、冷蔵ケースにはさまざまなサンドイッチが並びます。一見しただけではヴィーガンのパンのみとは気づかないラインアップです。
例えばカレーパンの商品名は「バターチキンカレー」。食パン生地に、レストランで丁寧に仕込んだスパイシーなカレーフィリングをのせて焼き上げています。大きめのごろっとしたチキンの原材料は大豆ミート。バターも鶏肉ももちろん使っていませんが、食べてみるとほどよいスパイス感とコクの深い「バターチキンカレー」の味わいそのもの。「お客様の中にも、食べたあとでヴィーガンと知ってびっくりされる方も多いです」と松岡さん。
ヴィーガンのパンをつくるとなると、ベーカリーでは当たり前のように使う卵や、バター、牛乳、生クリームなどの乳製品を一切使うことができません。レストランで長年“チャヤマクロビ”を極めてきたスタッフと、ベーカリーシェフが互いに持つ知識や技術、知恵を出し合い、試作を重ねて「動物性の素材を使ったパンと遜色のないおいしさ」をつくりあげています。
「クロワッサンは、バターを使わずにパリパリっとした食感をどう出すかに苦労しました。ヴィーガンで使える食材をいろいろ調べて、きなこの特性を生かせるのではと考えました。クロワッサンはじめ、当店のパンのほとんどに豆乳を使用していますが、同じ大豆由来の豆乳ときなこは相性もよく、油分を含んだきなこを加えることで食感もよくなります」と語ってくれたのはベーカリーシェフの高津幸江さんです。
「Soyホイップクリームパン」には全粒粉入りの生地を使っています。プチっとした胚芽の食感と香りが楽しめるパンの中に豆乳ベースのとろとろのクリームをあと詰めしています。甘さもあっさりとして、さらりと口どけのよいクリームパンです。
ドーナツは、国産小麦粉を使ったもちもち食感の生地。砂糖の使い方にもこだわりがあり、生地には粒子が細かく、溶けやすいきび砂糖を使うことでマイルドな甘さに。こんがり揚げたあとの仕上げには、溶けにくいビーツのグラニュー糖をまぶしています。プレーンのほか、Soyカスタードなど豆乳ベースのホイップクリームをたっぷりと詰めたドーナツも5種類揃っています。
ツナ、チキン、カツ、卵などのヴィーガンサンドも充実
「バターチキンカレー」をはじめ、いろいろなアイテムに展開している食パンやバンズの生地は、自家製酵母を使い、一晩寝かせる製法でもっちり感を出したふわもち食感が特長です。
「料理に深みのある甘さや、つや感を出すために水あめを使うことをヒントに、食パン、バンズの生地には砂糖のかわりにもち米のあめを使っています。いろいろな水あめを試した結果、もち米あめがパンづくりにはもっともマッチして、しつこさのない甘みを生み出し、内層の食感もとてもよくなりました。そのまま食べてもトーストにしても、具材をはさんでサンドイッチにもぴったりの、当店自慢のアイテムです」(松岡さん)。
サンドイッチには、色とりどりの野菜をたっぷりはさんだ「野菜サンド」もあれば、分厚いカツのサンドイッチもあります。「VEGANカツサンド」は、大豆原料ながらも肉々感をしっかり楽しめます。また、「コロッケバーガー」は野菜と雑穀のコロッケをはさんだ食べやすいサイズのバーガー。どちらも野菜をベースにした濃厚なベジカツソースを合わせて、100%植物性の素材でも十分に食べ応えのあるアイテムになっています。
ほかにも、大豆を主原料としたヴィーガンのハムやツナ、豆乳ベースのスクランブルエッグ風の食材などを使い、サンド系のバリエーションが充実しています。
「長くレストランを手がけてきた私たちにとって、ベーカリーは新しいチャレンジ。多くの方にチャヤマクロビ発のヴィーガンのパンを知っていただきたいです。そのためにも、お客様の声を聴きながらトレンドを意識し、サンドイッチに使う食材なども研究して、ヴィーガンをよりおいしく、お客様が何度来ても飽きずに楽しんでいただけるように、新しい商品を展開していきたいです」(松岡さん)。
Te cor gentil (テコールジャンティ)
店名は、フランス語でterre(地球) corps(身体) gentil(優しく)を組み合わせた造語。「ヴィーガンは、体にやさしく、地球に、動物にやさしい選択肢の1つ」というコンセプトのもと、動物由来の素材は一切不使用の100%ヴィーガンのベーカリーです。
Te cor gentil(テコールジャンティ)
- 住所
- 東京都港区麻布十番2-18-8 グランルーブル麻布十番 1F
- 電話
- 03-6809-3230
- 営業時間
- 10:00~18:00
※売り切れ次第閉店 - 定休日
- 月曜、火曜
おいしさと美しいビジュアルにもこだわった100%ヴィーガン
対面式の売り場には、バリエーションも豊かに、さまざまなパンが並んでいます。ヴィーガンのベーカリーとは知らずにお店に来ても、好みのパンをあれこれ迷いながら、楽しく選べるラインアップが勢ぞろい。店長の四宮ゆいさんにお話を伺いました。
「当店では、すべての商品を卵、牛乳、バター、ハチミツや肉類などの動物由来の食材を一切使わずにつくっています。卵や牛乳にアレルギーのある方、さまざまな理由で動物性の食品を食べられない方も、そうでない方と一緒にみんなで同じものを食べることができます。環境への負荷が少ないことも、植物性の素材だけを使うヴィーガンのメリット。
いいことづくしのヴィーガンに、これまで足りなかったものがあるとしたら、それは『おいしさ』。私たちは、そこをとことん追求して、おいしいのはもちろんのこと、見た目のかわいらしさにも大いにこだわって商品づくりをしています」(四宮さん)。
ヴィーガンのパンをつくるにあたって、いちばん難しかったのが「クロワッサン」だったそう。バターならではの芳醇な香りと味わい、生地をふわりと持ち上げ、サクサク感を生み出し、時間が経ってもおいしさをキープするなどの機能を担うバターは、クロワッサンの要ともいえます。
「クロワッサンの繊細な層をつくるために、いろいろなヴィーガンバターを試しました。アーモンドオイルからできたバターを使い、折り込み方を試行錯誤して、きれいな層とサクッとした食感、芳ばしさと味わいを引き出すことができました」(四宮さん)。
このクロワッサン生地に、ピスタチオ入りの層を重ねたバイカラーの「ピスタチオクロワッサン」は、オープン以来の人気アイテムです。中にはあっさりとした豆乳ベースのピスタチオクリームがたっぷり。バターの強い主張がない分、サクサクの食感にピスタチオの素材の味わいが際立ちます。
「あんバター」は、もちもち食感の塩パンにアーモンド・ココナッツオイルベースのヴィーガンバターと甘さ控えめのオーガニックあんこをたっぷりサンド。コストは高めになりますが、多くのアイテムにナッツ系のバターを使うこともおいしさへのこだわりの1つで、香りやコクが際立ちます。
「焼きチーズカレーパン」は、塩パン生地にたっぷりのカレーフィリング、モッツァレラ&チェダーの2種類のヴィーガンチーズをのせて焼き上げ。フィリングは、あえて大豆ミートなどは使わずに、野菜だけのうまみをギュッと凝縮してスパイスと合わせたキーマ風です。濃厚チーズがとろけるビジュアルもインパクトがあり、油で揚げていなくても十分な食べ応えがあります。
おいしいヴィーガンのパンをつくるには、素材選びがとても大切
卵や牛乳を使わないブリオッシュ生地の「クリームパン」は、試作と改良を重ねてつくり上げた1品です。
「ブリオッシュ生地に使用するパウダー状の代替卵はエンドウ豆が主原料。これを使うことで、ふんわりとリッチなヴィーガンのブリオッシュが出来上がりました。カスタードクリームにもこの代替卵を使用し、ふわふわトロトロのクリームに。キュートな形にもこだわって、1個1個型を使って高さを出し、丸くてかわいい花のような形です」(四宮さん)。
また「極上こだわりフライドチキンサンド」も新登場。シェフがおいしいとほれ込んだ大豆ミートのチキンを、下ごしらえの手間をかけてさらにジューシーにしてフライドチキンに。パリッとしてむちっと引きのある生地を使ったパンにはさみ、オーガニックレモンを効かせたオリジナルのタルタルソースなど、こだわりの極上素材を合わせています。
卵やバターの強い味わいがない分、素材のおいしさを前面に出せるのもヴィーガンならではです。素材のチョイスやパンのフォルムへのこだわりは、期間限定のアイテムにも大いに発揮されています。例えば、プチサイズの西洋梨を1個丸ごとのせたデニッシュや韓国で流行したリボンの形のデニッシュなどは季節のイベント時に限定で登場。思わず手にとって写真を撮りたくなるキュートなアイテムはお客様に大好評だったそう。「こうした食べる前のワクワクする楽しさも大切にしていきたいです」と四宮さん。
取材時は「抹茶ダマンド」や抹茶クリーム入りの生ドーナツなどが期間限定で登場。
「1カ月くらいのスパンで、季節の素材を使った限定商品を今後も出していきたいです。また、来客数が鈍りがちな雨の日には、『雨の日限定アイテム』を投入しています。『あんバター』を『あんホイップ』にしたり、生ドーナツのクリームを別なものに替えるなど、今あるものをアレンジすることで、お客様にも楽しんでいただけますし、フードロス削減にもつながります」(四宮さん)。
「お客様には、当店のパンをおいしく食べていただくことがいちばん。そして、ヴィーガンのパンを食べることは社会貢献にもつながると、私たちは考えています。ときにはそんな視点で、自分が食べるものを選択してみよう!と思っていただけたら、とても嬉しいです」(四宮さん)。
ovgo Baker Edo St.店(オブゴ ベイカー)
100%プラントベースのアメリカンクッキーなどを製造・販売するベイクショップ。工房併設の店内は甘い香りに満たされ、アメリカンサイズのクッキーやマフィンなど、焼きたてが並びます。店内にはカウンター席があり、イートインもできます。
ovgo Baker Edo St.店(オブゴ ベイカー)
- 住所
- 東京都中央区日本橋小伝馬町10-8 ウィンド小伝馬町ビル 1F
- 電話
- 050-1502-8698
- 営業時間
- 月曜~金曜11:00~19:00、土曜、日曜、祝日10:00~18:00
- 定休日
- 無休
おいしくてかわいい!プラントベースのアメリカンベイク
20代の女性4人が起業してアメリカンクッキーのポップアップやファーマーズマーケットからスタートし、現在は都内に4店舗を展開するovgo Baker。小伝馬町の江戸通り交差点に面した同店は、その1号店です。
店内のショーケースには、オリジナルクッキーが5種類、マフィンが3種類、スコッキー(スコーンとクッキーのハイブリッドスイーツ)が2種類、そのほか、ブラウニーやバナナブレッドなどのケーキ・ブレッド4種類ほどをラインアップしています。店長の水谷鮎香さんにお話を伺いました。
「私たちのコンセプトは“おいしくて、かわいいアメリカンベイク”。動物性の素材を使わないプラントベースの食は、環境への負荷を軽減できるというメリットもあります。当店を立ち上げたのも、大好きな焼菓子で環境問題や途上国支援に貢献できたら、という想いから。環境や動物への配慮は素晴らしいことですけれど、それは人に押し付けるものではありません。甘いものをおいしく楽しく食べていただくことを最優先にして、“環境にやさしいこと” は、そのオプションだと考えています」(水谷さん)。
アメリカンクッキーは同店の原点。卵もバターも牛乳も使わずに、どうやったらおいしいクッキーができるかを、いろいろな植物性の素材を使って試作を重ね、オリジナルクッキーのレシピをつくり上げました。これまで作ってきたクッキーのレシピは、季節限定も含めると200種類以上。
クッキーはどれも直径10㎝くらいの大きさで厚みもあり、サクッとかじると食べ応え満点のしっとり食感。甘さはしっかりとあるけれど、合わせる素材のフレーバーを生かす自然な甘さです。
「スニッカ―ドゥードゥル」は、アメリカではチョコチップと同じくらいポピュラーなクッキー。ベースの生地にシナモンをたっぷり練り込み、焼く前にもシナモンシュガーをたっぷり振りかけて、これでもかというくらいにシナモンが効いています。
クッキーよりもさらに厚みがあるのが「スコッキー」です。クッキー試作の過程で米粉の量を多くしたら、思いがけずスコーンのように外はサクサク、中はホロホロな食感が生まれたそう。ホロホロ食感からのしっとりとした口どけが特長で、スコーンとクッキーを同時に食べているようなおいしさです。
卵やバターなしでも、ふんわりしっとり、リッチな味わい
「クッキーなどに使う材料の中でも、オイルとミルクは、どれを使ってどう組み合わせるかで、生地の膨らみ方や風味も違ってきます。牛乳や生クリームの代わりに使っているのが、豆乳やココナッツミルク、オーツミルクなど。また、油脂は米油をメインに使っています。アイテムによって、ほかの植物性油脂を使ってフレーバーを生かすこともありますが、お米の油はクセがなくていろいろなアイテムにオールマイティに使えて、仕上がりのよさという点でもダントツです。」(水谷さん)。マフィンは、ふんわりとしてとてもしっとりした食感。卵を使わずに、マフィンならではのカップから大きく膨らんだ形と、ふわふわの食感を出すのには苦労したそう。
「マフィンには基本的には豆乳を使い、油分と水分(豆乳)をしっかりと乳化させるのがポイントです」(水谷さん)。
たっぷりのブルーベリーと中にヴィーガンクリームチーズが入った「ブルーベリー&クリームチーズ」や「シトラスアールグレイ」の定番のほか、取材時は夏季限定で「お好み焼きマフィン」が登場。キャベツと紅ショウガ入りの生地に、ヴィーガンマヨと青のりなどをトッピング。お好み焼きの味なのに、ちゃんとマフィン感も残した甘じょっぱいテイストで、夏の人気アイテムになりました。
プラントベースの食品は、欧米などでは当たり前の食文化として定着していますが、日本ではまだまだ発展途中。「プラントベースって、体にはよさそうだけどおいしいのかな?」という疑問を抱かれることも少なくないようです。
「植物性の素材を使うことに加えて、よりヘルシーにと甘さや油脂類を抑えすぎれば、おいしさが犠牲になってしまいます。私たちは、使う材料の1つ1つを製造方法まで細かくチェックして、100%プラントベースを厳密に守っていますが、それ以外ではかなり自由に、おいしさをとことん追求しています。プラントベースでもしっかり甘く、味も濃く、リッチにもできるんです」(水谷さん)。
アメリカの焼菓子というと、種類もそれほど多くなく、ざっくりと大らかで素朴な印象がありますが、同店では、常に改良を重ねて、スタッフみんなが本当においしいと納得できるまで何度も作り直し、新しいもの、よりよいものを商品開発しているそう。
「日本人ならではの食へのこだわりや味覚の繊細さが生かされた、大きくて食べ応えのある当店のアメリカンクッキーやお菓子、ぜひ味わっていただけたらと思います。お店の雰囲気やかわいい焼き菓子を楽しんで、“卵アレルギーの友人もこれだったら一緒に食べられるね、今度誘ってみよう!” そんなふうにお客様から新しいつながりが生まれて、いい連鎖が広がっていくといいな、と思っています」(水谷さん)。
今回取材した3店舗ともに、「ヴィーガンだけど、おいしくてビジュアルも素敵!」を実現していることが印象的でした。ヴィーガンの方もそうでない方も、皆が一緒に同じものを楽しめるヴィーガンのパンやお菓子。いつもの食事やおやつの時間の選択肢の1つとして、楽しんでみてはいかがでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2024年7月)のものです