パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

りんご酵母を育て、りんご酵母に育てられてきました

est Panis(エストパニス) 店主 横森 あき子さん

「エストパニス」は、田園調布駅前の落ち着いた雰囲気の商店街を7分ほど歩いたところにある、グリーンの外装の小さな店。自家製のりんご酵母を使って、毎日パンを焼いています。

私は、「リッツ・エスコフィエ・フランス」料理学校でフレンチを学び、帰国後は、東京・南青山にて料理教室「fc-studio」を主宰していました。ところが、10年くらい前から、自家製酵母で作るパンの奥深さ・おもしろさにすっかりはまってしまったのです。シンプルな材料でメニューの可能性が無限に広がるパン作りは、高価な食材と複雑な調理法のフレンチとは対照的。りんご酵母が醸し出す、豊かでやさしい味わいをもっと大勢の方に知ってほしくて、2010年にこの店を始めました。

女性スタッフと2人で、店内奥のオープンキッチンでパンを作り、販売しているほか、パンと料理のレッスンも毎月開催しています。

パンへのこだわり

りんご酵母は、りんご・水・砂糖で起こした酵母エキスに小麦粉と水を毎日かけ継ぎし、時間をかけて育てていく酵母種です。セーグル生地には、ライ麦粉をかけ継ぎしたライ麦酵母種を使っています。りんご以外にもいろいろな果物で酵母を起こしてみましたが、りんご酵母はハード系のパンに適していて、クラストはパリッとかたく、クラムはふんわり焼き上がります。やわらかなパンを焼いてもやわらかさを損なわず、いちばん幅広く使えます。
今使っている酵母は、かけ継ぎを繰り返して7年。熟成され、安定感が増すごとに、次はどんな新しいパンをつくろうかと、自分の中の創造力がどんどん引き出されていくのを感じます。りんご酵母を育て、りんご酵母に育てられてきたのだと思います。
この酵母種と、パンの種類によって国産の小麦粉4種類のほか全粒粉とフランス産ライ麦粉を使い分けて生地を作り、低温長時間発酵後に焼き上げています。日本の小麦粉は、しっかりした味わいと甘みがあり、フランス人のお客様から「母国のバゲットよりおいしい」とのお褒めの言葉をいただいたこともあるんですよ。

りんご酵母はハード系もソフトなパンにも適したオールマイティ。ブリオッシュナンテールも美しい焼き色に。 酵母は長い時間を経て熟成します。あとは粉と水、シンプルな材料だけでも風味豊かなパンができるのです。
全粒粉を細かく挽いた田舎タイプのバゲット。1本440円(税込)。同じ生地・ボリュームでつくるバタールもあります。 パン・ド・ミやシナモンロール、ミルキーオレンジなど、やわらかなパンも人気です。

女性ならではの苦労

お店を始めるにあたって、不動産の契約、銀行との交渉ごと、製パン用の機械類に今まで縁のなかった額のお金が動くなど、慣れないことだらけ。自営業の先輩である夫からのアドバイスで、苦手な分野もなんとかクリアすることができました。
毎朝6時半から閉店までの長時間、仕事に集中できるのも家族の協力があってこそ。ですから、お店を出た瞬間に頭を切り替えて、通勤用バイクを走らせながら家の冷蔵庫の在庫を思い出し、家族のための夕食メニューを考えています。

世に出回る食品の多くに添加物がたくさん使われているのは、女性としてショックなこと。安心して食べられるものを作りたい、というのもお店を始めた理由の1つでした。ドライフルーツやナッツ類はオーガニックを使うなど、材料に関しては譲れない部分がありますが、コストが上がっていくのが悩みです。でも、自分で食べたくないものは作らない。そこにはこだわっていきたいです。

どんなお店にしていきたいですか?

私はハード系のパンが大好きで、最初は「バゲットがあればバタールはいらないでしょ?」と思っていました。ところがバタールを希望されるお客様が本当に多くて、自分の好みだけではいけないのだと気づかされました。新作のクラシコも、「バゲットは好きだけど、固いものが食べづらくなって……」という年配の方のお話がヒントに。お客様とパンのことからご近所のことまで、いろいろなお話をする中から、次はどんなパンをつくろうか、と新しい発想をつかんでいきたいです。

また最近では、りんご酵母を使ったスイーツも少しずつ手がけています。「こういう使い方もあるの?」という驚きのある、りんご酵母のパンやスイーツを提案していきたいです。
そして、まだお客様にご紹介できていない、おいしいパンがたくさんあります。パン・ド・ミや菓子パンには、濃厚なベリー系の酵母もよく合います。ブルーベリー酵母でつくるイングリッシュブレッドも、いずれはぜひ取り組んでみたいパンの1つです。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!

横森 あき子さん お気に入りのパン

パンドセーグル1個910円(税込)パンドセーグル
1個910円(税込)、1/2個460円(税込)、1/4個230円(税込)
ライ麦パンは、一般に酸味が強い印象がありますが、りんご酵母とフランス産のライ麦粉でつくったセーグルは、酸味はごくわずか。カシスやブラックベリーのような、軽やかで奥ゆかしい香りが特長です。パン生地を仕込む間も、あとからあとからいい香りが生まれて、作っている間も幸せな、私のお気に入りです。薄くスライスしたものをアルミホイルに包み、グリルで温め、バターをのせて食べるのがおすすめ。ホイルを開けると湯気と一緒にふわ~っと香りが立ちのぼります。

ウィンナプレッツェル 250円(税込)ウィンナプレッツェル
1個250円(税込)
中にウィンナを巻いてあり、プレッツェルと同様に、ゆでてから焼き上げています。重曹入りのお湯でゆでるため、たい焼きを思わせるノスタルジックな香りが気に入っています。まかないメニューですが、この生地にはあんこ&バターも合うんですよ。

店舗情報

店名/est Panis(エストパニス)
郵便番号/〒145-0071
所在地/東京都大田区田園調布2-23-4
最寄駅/東急東横線・目黒線田園調布駅
アクセス/田園調布駅より徒歩7分
電話番号/03-3721-5006
営業時間/10:00~18:00
(なくなり次第終了)
定休日/水曜・木曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年3月)のものです

<オススメパン>クラシコ 1本400円(税込)
クラシックなバゲットに倣った成形です。ミルク生地を使い、スチームを加えて焼いているため、やわらかな食感で焼色も薄めに。サンマスカットとカレンズ、2種類のレーズンのラム酒漬けをたっぷり巻き込んであります。
プチショコラ 1個280円(税込)
カンパーニュ生地と相性のいいクルミを練り込み、中にはフランス・ヴァローナのチョコレート。ビターなカカオパウダーをたっぷりまぶした、チョコ好きのためのパンです。食べる直前に軽く温め直すとよりおいしくいただけます。シチリア 1/2個400円 (税込)
パン・ド・ミの生地にセミドライトマト、レッドチェダーチーズを巻き込んであります。上面にはエダムパウダー。夏季限定の商品でしたが、大人気のため定番化しました。

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