
「ベッカライ徳多朗」は「近所のお客様が毎日買いに来てくれるパン屋」をめざして開業から25年。パンは全部で45種類ほどあります。そのまま食べてもおいしい食パンや、カルピスバターを使ったミルクフランス「ミルククリーム」のほか、最近では自家製のルヴァン種を使ったハード系も人気です。店内に開放感のあるカフェを併設し、焼きたてパンのほかパニーニやスープなどもお召し上がりいただけます。
私は、子どものころから料理をつくるのが大好きで、将来は料理の道に進もうと思い、まず栄養学を学んだ後、調理師専門学校で日本料理を専攻しました。そして、卒業を前にした1カ月間のヨーロッパを巡る旅の中で、パンと粉の文化に出会ったのです。地方ごとに風土や食べ物に合ったパンがあり、人々の生活に密着してこんなにも長く愛されている・・・その豊かさと奥深さに感動を覚えました。このとき、パンのことをもっと知りたいと、パン職人として修業することに決めたのです。
その後、修業先の職場で出会った夫とともに「ベッカライ徳多朗」を開業。自分で思っていたよりもずっと早く「パン屋」になりました。現在は、この「元石川店」を私が、もう1店舗の「Yotsubako(ヨツバコ)店」を夫が中心となって営んでいます。たった2人で始めた店は、2店舗合わせて総勢60名の大所帯になりました。若いスタッフたちと声をかけ合い、フォローし合って楽しく仕事をしています。
私たちが作っているのは、ごく普通のパンですが、お客様に「徳多朗でしか出会えないおいしさ」を感じていただけるように、との思いを込めています。イギリスパンと角食パン、どちらも白くてソフトな食事パンですが、配合、発酵、成形、焼成などそれぞれに最適なバランスで作っています。角食パンのほうが砂糖を少し多めにし、クラムはよりきめ細やかで少し引きのある焼き上がりです。
餡もクリームも惣菜パンのフィリングも、お店を始めたときからずっと自分たちで作ってきました。クリームパンのクリームにはパプリカや唐辛子入りのエサで育った鶏の卵を使用し、バニラビーンズを使用して香りにもこだわっています。
そして、今はパン・ド・ロデヴに夢中です。今まで、パン生地の仕込みは夫、成形・窯は私、という分担があったのですが、ロデヴは初めて全過程を私1人でやっています。自分の好きな、「これぞロデヴ」という食感になるように、毎回毎回ミキシングの時間や温度などを微調整して、研究を重ねています。それが楽しくてたまらない! スタッフから、「ロデヴを焼く日の久美子さんは、目の輝きが違ってる!」と言われるくらいです。
若いころは、「子どもが生まれたら、もうパン屋はできないかな」と思っていました。1人目は、いちばん忙しいクリスマスには首がすわっているようにと、夏生まれにしました。母が協力してくれたことも大きいのですが、夫やスタッフたちに支えられて、私はパン屋の仕事を続けながら3児の母に。子どもたちと一緒に過ごす時間が少なくて、胸が痛むこともありましたが、夜は上の2人を両腕に抱え、もう1人はおなかにのせて、たくさんお話をしていました。
3人の子どもたちは、たくさんの大人たちに見守られて育ち、今では、末の息子が「おいしいパンの食べ方」を考えてくれて、私もご相伴にあずかったりしています。
パンをつくることと子どもを育てることはよく似ています。幼いときに目をかけ、手をかけ、しっかり向き合えば子どもはうまく育ってくれます。パンも1次発酵までがとても大切なのだと、ロデヴを仕込みからやってみて実感しています。パン屋って、こねたり伸ばしたり、どちらかというと攻撃的なイメージでしょう? でも、何もしないで見守る、じっと待つこともおいしいパンを育てるんです。パン生地に触れて、今日はどう扱ってあげるといいのかを肌で感じ取る、子育てを通してパンの気持ちにも近づけたように思います。
私は、「パン・ド・ロデヴ普及委員会」の会員をしています。ロデヴの魅力をもっともっとたくさんのお客様に知ってほしいですし、ごはんと同じような感覚で、家庭の食卓に取り入れていただけたらいいな、と思っています。そして、カフェのほうでも週に何回かはロデヴによく合う、パテ・ド・カンパーニュのプレートなども出していきたいですね。
昨年秋に4冊目の本『もっとパンを楽しむ生活』を出版しました。パン屋がまかないでどんなもの食べているのか、ご紹介しようと思ったのです。季節ごとに、家にあるものや簡単に手に入る食材を使った料理と、それに合うパンを提案しています。スタッフたちにアンケートをして集めた「簡単でおいしいパンの食べ方」ものせています。この本を見て、「おいしい料理と一緒に、シンプルなパンが食べたい!!」と思っていただけたら何よりです。
「シンプルなうまいパンをつくる」のがパン屋の使命。これからも新しいチャレンジを続けていきたいです。
パン・ド・ロデヴ(くるみ) 量り売り1.3円/1g(税抜)
フランス・ロデヴ地方のパン・パイヤスをヒントに、ドンクの仁瓶氏がアレンジしたもので、自家製のルヴァン種を使用。粉に対しての水分量が約90%のトロトロの生地を、成形しないで焼き上げた素朴な食事パンです。クラストは香ばしくパリッとしていながらも口溶けがよく、クラムの中に大きな気泡ができるのが特徴で、炊きたてのごはんを思わせる透明感があり、しっとりもちもちの食感です。くるみとの相性も抜群です。
焼き上がり時間 月曜日11時30分頃
店名/ベッカライ徳多朗(とくたろう)元石川店
郵便番号/〒225-0004
所在地/神奈川県横浜市青葉区元石川町6300-7
最寄駅/田園都市線あざみ野駅、たまプラーザ駅
アクセス/田園都市線あざみ野駅、たまプラーザ駅より徒歩30分
あざみ野駅より東急バス(た51・たまプラーザ駅行き)
たまプラーザ駅より東急バス(た51江田駅行き)
(新25・新百合ヶ丘駅行き)「覚永寺」停留所下車すぐ
電話番号/045-902-8511
営業時間/7:00~18:00
定休日/火曜・水曜
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年3月)のものです



