パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

パンづくりを仕事にした今も家庭のキッチンからパンをお届けしている気分です

キブプ(Qui veut peut)店主 木曽 計恵さん

「キブプ」は5歩も歩けば店内すべてのパンを手にとれるほど小さいお店ですが、素材の味わいを大切に、一つひとつ愛情込めて焼いています。自家製の天然酵母を使ったハード系のパン、数種類の食パン、旬の食材を使った総菜パンやお菓子パンなど、少量ながらバラエティ豊かになるよう取り揃えています。

私がパンづくりに初めてふれたのは小学生ぐらいの頃。祖母にパンづくりを教わり、生活の中でパンをつくっていました。日常的にパンやお菓子を手づくりする家庭で、子どもの頃の夢はケーキ屋さんになることでした。高校生の頃は朝食用の丸パンなど食事パンをよくつくっていて、母や妹が喜んで食べてくれるのが嬉しくて、せっせと焼いていたのを覚えています。私にとってパンづくりは趣味というより生活の一部。食事をつくるようにパンを焼いていました。そのせいか職業としてのパン屋は念頭になく、就いた職業は高校の教師でした。

転機となったのはパン教室の運営をめざし、思い切って教職を退き、パン屋で修行していた時、北九州からパンづくりを勉強に来ていた池上さん(写真左)と出会ったことでした。ちょうどその頃、私のパンを食べてくださっていた方々から、パン教室ではなくパン屋を開業することを強くすすめられていました。迷いながら池上さんを誘ったところ快諾を得ました。一人ではやる気にならなかったと思います。強い味方を得たことで、2012年5月に「キブプ」をオープンしました。今も二人でパンづくりに取り組んでいます。

パンへのこだわり

私は自然なものが大好きなんです。粉と水と酵母、そして人の力が加わると、それらはパンとなって成長していきます。そんなパンとなっていく姿に自然の力を感じ、パンづくりは面白いと私を夢中にさせてくれます。だから、当店のパンには余計な添加物を使わず、極力シンプルな材料だけで美味しいパンになるようにつくっています。美味しい小麦粉を使えば自然と美味しいパンができるので、卵やバターも基本的なパン生地には使っていません。私自身がよくわからない材料は使わないようにしています。

また、旬の材料を積極的に取り入れるようにしています。旬の素材には生命力を感じますし、季節にあったものをいただくと体が喜ぶように思います。店内に並んだパンに豊かな季節を感じ取っていただけるはずです。当店の天然酵母は、池上さんが旬の素材を使って手づくりしてくれています。酵母が変わると香りが変わり、同じようにつくっていても味わいが変わります。それを生かすためにどんな小麦粉を使うのか、ブレンドするのか、ミキシングは…と楽しみが広がります。それに旬のものは生命力が強いので、パンも発酵させやすいんですよ。

店内奥の厨房には専門的な大きな機械をいれるスペースがないため、ミキサー、ホイロ、オーブン以外はほぼ家庭でつくるようなスタイルでパンづくりをしています。 バゲット類など人気のあるパンは午前中で売れ切れてしまうこともしばしば。予約も受け付けているので、お気軽にお電話ください。
店名の「Qui veut peut」とは、フランス語で「強く願えばできる」といった意味。あるパン職人の座右の銘で、素敵だと思い店名にしました。 手づくりしている酵母が育つ様子を写真に撮って飾っています。酵母担当の池上さんいわく、できあがって蓋をあけたときのポンッという音がたまらないのだとか。

女性ならではの苦労

女性だから苦労したという覚えはありません。あえていえば体力的なしんどさでしょうか。一日の終わりにはぐったりしてしまいます。でも、教師を続けていただけでは絶対に出会えなかった人との出会いがあり、そんな人と人とのつながりは、かけがえのない財産になっています。いろんなご縁があったり、お客様から野菜や果物をいただいたり、元教え子や保護者の方々が訪ねてくれたり、お店を始めてよかったということがたくさんあります。

体力的な課題はありますが、お店をちゃんと続けていけるために、今はとにかく健康であることに気を付けています。私たち二人のどちらかが病気になってもお店を開くことができないので、お互いに責任を感じながら体調管理をしています。そのため、廃棄率を下げるためでもありますが、体力的なことも考慮してつくる量を無理せず、限定することで体力を温存しています。

どんなお店にしていきたいですか?

当店のパンは、すべてやさしい味わいです。それは私の好みでもあります。パンは人それぞれの好みによりますが、当店のパンを一人でも多くの方が「美味しい」と思ってくれれば最高です。「ここの食パンじゃないと!」といってくださるお客様がいらっしゃる限り、より良い商品をめざしてパンづくりに邁進したいと思っています。今後はパンの種類をもっと増やしていきたいですね。食品売り場などにいくと、さまざまな食材からインスピレーションをもらって、いろんなパンをつくってみたいとワクワクします。焼き菓子なども、もっといろいろ挑戦してみたいです。そのためにも、店舗販売以外にも安定した販売経路を確立していくことが今後の目標です。

また、2012年9月から月1回のペースで催しているパン教室も、続けていきたいと思っています。これは小学生ぐらいの子どもから大人までが、パンを一緒につくってその場で焼き立てを食べるというもの。直接「美味しい」という言葉を聞けるので、私たちの励みにもなっています。リピートで参加してくださる方もいらっしゃるほど楽しみにしていただいているので、大切に続けていければと考えています。当店のパンづくりに対する姿勢にもふれていただける機会だと思うので、興味のある方はぜひ気軽に参加してみてください。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!

木曽 計恵さん お気に入りのパン

天然酵母 310円(税込)天然酵母 310円(税込)
旬の食材を使って酵母を手づくりし、粉の1/3は全粒粉を使ってつくったパンです。酵母の育ち具合で変更することもありますが、基本的に毎週木曜日限定のパンです。写真はコーヒー豆の酵母を用いたもの。シンプルな素材だけでつくったパンでありながら、コーヒーの香りがほんのりする深い味わいを楽しめます。酵母の素材となるのは、スイカやスイートバジルなどまさに旬を迎えた食材たち。旬の食材はエネルギーがあるので、パンを発酵させやすいというメリットもあります。酵母が変わるだけで驚くほど風味が変わるので、つくる側にとっても仕上がりは楽しみです。噛みしめるたびに広がる滋味深い味わいを、ぜひ一度味わってみてください。

折り込み食パン 1本 620円(税込)折り込み食パン 1本 620円(税込)
デニッシュ食パンであればバターを折り込む部分に、旬の食材や季節にあった食材を練り込んだ生地をシート状にして、食パン生地に折り込んだ食パンです。写真は抹茶を折り込み、小豆も混ぜ込んだもの。練り込む食材はマンゴーや紅茶、イチゴ、ブルーベリー、メープルシロップなど、その時々によって変えています。甘みのある食パンなので、買った当日はぜひそのままで食べるのがおすすめです。翌日はトーストするだけで何もつけずに食べても美味しくいただけると思います。1/3本サイズから販売しています。一般的なデニッシュ食パンほど重くなく、でもリッチな味わいを楽しんでいただけるのでは。

明太オリーブ 165円(税込)明太オリーブ 165円(税込)
パンは当店の「長時間冷蔵バゲット」と同じパン生地を使って焼いたものです。これは24時間以上冷蔵で寝かせて、ゆっくり発酵させることでもっちり深みのある味わいに仕上げています。サンドしているのは、パートナーの池上さんの地元の北九州市で有名な『かば田』の明太子でつくった明太子クリーム。この明太子を味わってからは、他の明太子を食べられなくなったほど私が惚れ込んだ味わいです。昆布の旨みが染み込んだ柔らかな辛み、大きな粒の食感が活かされた明太子クリームは、バゲットと相性抜群です。パンの上にはブラックオリーブまたはグリーンオリーブをトッピングしています。

店舗情報

店名/キブプ(Qui veut peut)
郵便番号/〒652-0805
所在地/兵庫県神戸市兵庫区羽坂通3-7-6
最寄駅/JR西日本「兵庫駅」
アクセス/JR西日本「兵庫駅」より北東に徒歩約4分
電話番号/078-335-5685
営業時間/8:30~18:30
定休日/日曜日

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年8月)のものです

<オススメパン>バターイン 155円(税込)
流行りの塩パンをヒントに考案。フランスパン生地でバターを包み、さらに上から薄く延ばしたフランスパン生地で包んで焼き上げました。表面のパリッとした食感と、バターが溶けて柔らかくなった中の食感の違いを楽しんでください。 レモンチーズ 155円(税込)
菓子パン生地を白焼きしてふわっと柔らかな食感に仕上げ、その上にレモンの皮とレモン汁を混ぜ込んだレアチーズ生地をふわりとかぶせて焼き上げました。甘みは控えめなので、見た目以上に軽い味わいです。 こしあんクルミ 155円(税込)
菓子パン生地を使いながら練り方を変えることでもっちりとなり、和菓子をいただいているような食感に。中には大きめに砕いたクルミを混ぜ込んだ甘さ控えめのこしあんを包み、飾りにクルミをトッピングしています。

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