パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

素材に寄り添ったパンづくりをしていきます ガーデンハウスクラフツ ヘッドベッカー 村口 絵里さん

ガーデンハウスクラフツ ヘッドベッカー 村口 絵里さん

東急東横線の地下化に伴ってできた線路跡地に、2015年にオープンした「ログロード代官山」。緑に囲まれた散策路沿いにコテージ風の建物が並ぶ、施設のいちばん奥にあるのがデリ&ベーカリーカフェの「ガーデンハウスクラフツ」です。コンセプトは「ローカル&クラフト」。身近で手に入る食材を使って手づくりをする職人集団として、ベーカリー部門は私が、デリ部門、スイーツ部門はそれぞれ専門のシェフとパティシエが担当しています。お互いの感性に刺激を受けながら、アイデアを出し合い、お店の雰囲気づくり、商品づくりをしています。

私は、芸術大学でテキスタイル・デザインを学び、もっぱら草木染めに取り組んでいました。卒業後は、何か自分の手でものをつくる仕事がしたかったのと、食べることが好きだったので、パン職人を志してアンデルセンに入社。その後、個人店や食パン専門の「セントル・ザ・ベーカリー」を経て、当初ここに出店予定だったサンフランシスコのタルティーン・ベーカリーで研修を受けました。ところが、直前で出店は中止となり、替わって鎌倉にあるレストラン「ガーデンハウス」の姉妹店である今の店がオープン。私にとって思いがけない急展開ではありましたが、ここでヘッドベッカーを務めることになり、「地産地消と手づくり」を基本に、自分がつくりたかったパンを極めている毎日です。

パンへのこだわり

うちのパンは茶色いのばっかりですよね。丸ごとの小麦を挽いた全粒粉を主に使っているからなんです。国産小麦だけを使っているのも、私のこだわりです。学生時代にバイトをしてお世話になった大阪の「ブーランジュリ タケウチ」のシェフが、国産小麦粉でつくっていたパンがとてもおいしくて、自分でもぜひつくってみたいと思っていました。食材に限らず、日本でつくられるものが好きですし、今の時代、なるべく近くで採れたものを使うほうがよいのでは、とも思うのです。

日本の小麦は、主にうどん用に栽培されてきたので、でんぷん質が多くてもちもち感があります。その食感は、日本人が求める食感や味覚に適っていて、私たちが慣れ親しんだテイストを出しやすい。例えばバゲットの生地は、湘南小麦と九州産の小麦粉を50%ずつブレンドしています。今は、全部で12種類の粉を使い分けて、よりおいしい、イメージ通りの味になるように配合もいろいろ変えながら試しています。これが楽しくて、ついつい寝る時間も忘れてしまうほど!

酵母は、毎日粉と水を継いでケアしているルヴァン種をメインに使っています。クロワッサンとバゲットはイーストも併用して酸味のバランスを取り、全粒粉の食パンとまるパンはイーストのみで発酵させています。いずれもドライイーストそのままではなく、ポーリッシュ法で1晩おいたものを使っています。粉自体が水分を持った状態になるため、しっとりした食感、有機酸なども生まれて、味に深みが出ます。パンの種類はオープン当初の15アイテムから今では32アイテムに増えました。

対面式の売り場に深い焼き色のパンが並びます。 焼き上がったパンを売り場に並べるときに、お客様と積極的にコミュニケーション。
湘南小麦と鎌倉ベーコンエピ。 パンづくりの要となるルヴァン種。毎日水と小麦粉を継ぎ、大切に育てています。

女性ならではの苦労

自分が職場で2番手、3番手だったころ、「将来パン職人として独り立ちできたとして、結婚して子どもが生まれたら、どうやって続けていけるんだろう」と気になり、先を行く先輩たちをつかまえては話を聞いていました。私自身は結婚したばかりで、今もまだ答えは出ていません。
そして、パン屋は体力勝負で労働時間も長いですから、体調管理が大事。夜なべが続くと自分でも「あっ、マズいな」と思うことが。私がぐったりしていると、他のスタッフにも伝わりますから、常にいいコンディションでいるように気をつけています。

パン職人を目指す女性が本当に増えていて、今は5人いるスタッフ全員が女性です。午前中は窯もフル回転でバタバタしていますが、午後になるとベーカリー部門はとても和やかで穏やかなムードになります。

後輩たちを育てることも大切な仕事です。みんなそれぞれ性格も違い、新しい技術を教えるにも、本人が「やりたい!」とテンションが上がっているときのほうが伝わりやすい人もいれば、気持ちが落ち着いているタイミングで教えるのが向いている人も。これは男女にかかわらずだと思いますが、人に何かを教えるには、相手のことをまずよく知ることが大切だと思っています。

どんなお店にしていきたいですか?

私は、あちこち出かけて新しい食材を見つけるのが大好きです。店で使うものについては、できる限り産地まで足を運び、生産者の方とお話をしたり、作物が育っている様子を見せてもらったりしています。まるパンのピーナッツクリームなどに使っているピーナッツも、千葉の畑に行って自分の手で抜いてみる体験をしました。自分で開拓して、いいものに出会ったときは本当にうれしいです。

でも、素材のほうががよすぎて、「パンにするにはもったいない!」と感じてしまうこともあります。何度も何度も試作を繰り返して、素材を生かしきれた!!と納得できたものだけを店に出し、生産者の方にもお送りして「こういうパンができました」と報告しています。
とても喜んでくださいますし、「自分たちがつくっている素材のおいしさにあらためて気が付いた」なんて言っていただくこともあり、それがまた励みになります。いい素材を見つけ、もっともっと素材に寄り添ったパンづくりをしていくことで、うちのパンをどんどんレベルアップしていきたいです。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

村口 絵里さん お気に入りのパン

クロワッサン 320円(税込)クロワッサン 320円(税込)
酵母は、毎日継いでいるルヴァン種とイーストを併用。一般的なものより生地の層を多くしてあり、仕込んでから店頭に並ぶまで3~4日間かけています。32層の重なりが窯の中でフワッと立ち上がり、繊細なサクサク感とともにポーリッシュ法ならではのしっとりした食感、バターの豊潤な香りを楽しんでいただけます。

いちじくのカンパーニュ 1,200円、1/2 600円、1/4 300円(税込)いちじくのカンパーニュ 1,200円、1/2 600円、1/4 300円(税込)
今まで見たことのないカンパーニュをつくりたくて。。。カンパーニュ生地に、紅茶(アールグレイ)でふっくらと煮た、黒いちじくと白いちじくを約30%入れてあります。大粒のいちじくは、ズッシリ重みがあって存在感が大!! チーズとの相性も抜群です。

千葉クランチピーナッツの全粒まるパン 280円(税込)千葉クランチピーナッツの全粒まるパン
280円(税込)

全粒粉食パンの生地に20%湯種を混ぜてもっちり感をアップ。オーガニックメープルシロップ2番しぼりを加えて、全粒粉独特の匂いを和らげてあります。千葉県産のピーナッツをクランチにして発酵バターを混ぜ、ペーストをつくるのも自分たちの手で。厨房がピーナッツの芳ばしさに包まれます!!

店舗情報

店名/GARDEN HOUSE CRAFTS(ガーデン ハウス クラフツ)
郵便番号/〒150-0034
所在地/東京都渋谷区代官山町13-1 LOG ROAD DAIKANYAMA 5号棟
最寄駅/東急東横線代官山駅
アクセス/代官山駅より徒歩5分
電話番号/03-6452-5200
営業時間/8:00~20:00(L.O.19:00)
※モーニング 8:00~10:30
定休日/不定休

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年6月)のものです

<オススメパン>カンパーニュ 1,300円 1/2 650円、1/4 350円(各税込)
オリーブ・カンパーニュ 1,400円、1/2 700円、1/4 400円(各税込) カシューナッツと黒胡椒 280円(税込)

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