パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

街の人たちに、頼りにされるパン屋でありたいです
ブーランジェリーオンニ マダム 近賀 希さん

ブーランジェリーオンニ マダム 近賀 希さん

店名の「onni(オンニ)」はフィンランド語で「幸せ」の意味です。上大岡駅から歩いて10分ほどの地に、夫婦で力を合わせ、2015年7月オープンしました。

私には、「パン屋のおかみさん」として、尊敬している女性が2人います。
お1人は、最初に入った阿佐ヶ谷のベーカリーの女性オーナーです。今はもう閉店されていますが、その店のパンも雰囲気も大好きで、オーナーの人柄に惹かれ、「ぜひここで働きたい」と思ったのです。3年間で仕込み、窯、仕上げ、接客の全部をやっていく中で、私は接客の楽しさを知り、パンをつくることと同じくらい販売の大切さをオーナーから学びました。ここで知り合った夫とともに、「自分たちの店」を目指しました。

「店を持つなら、ハード系のパンづくりをブラッシュアップしたいね」と話し合っていた矢先、「Zopf(ツオップ)」の求人を見つけ、夫がダメもとで応募。採用され、2人目の子どもがおなかにいるときに一家で千葉に移り住みました。
Zopfのパン、店の雰囲気、接客などをそばで見て、メルマガも毎号熟読し、「伊原りえさんは、理想のパン屋のおかみさん。こういうおかみさんになりたい!」と思い、今も目標にしています。

仕事を離れて子育てしている間、私はひたすら自分たちの店の妄想を膨らませていました。「開店してからでは引き出しを増やす時間は持てないだろう。ならば今のうちに!」と、ネタ帳を何冊もつくりました。パンのアイデアをたくさん書きとめたり、Zopfのパンの並べ方を見て、「わぁ~、素敵」と思うのはどうしてだろう?と考えてみたり。
雑誌を見ては「いいな」と思うページをスクラップし、好きだな、いいなと感じさせる要素はどこにあるのかを分析。次第に「いい感じ」の共通点が見えてきて、古木の梁を通した店のデザインがかたまってきました。アンティーク市に通っては店に置く雑貨類や、花を生けるための花瓶など、せっせと買い集め、いざ開店準備のときに、「あとからあとから、よくこんなに出てくるね!!」と夫に驚かれたくらい。 それらを今、どんどん出して、形にしているところです。

パンへのこだわり

食卓での会話が弾むようなパンを目指しています。おおっ?と思われるような素材づかいや、驚きのある食材の組み合わせ、ひと工夫のある味に仕上げています。例えば、ライ麦パンに抹茶とホワイトチョコを練りこんだり、フォカッチャをレンコンとひき肉の和風味にして仕上げにごま油をきかせたり。鎌倉野菜や神奈川県産豚肉など地元産の食材も積極的に取り入れています。
新商品をつくるときは、シェフである夫と私とで知恵を出し合い、何度もつくり直します。スタッフたちに「これ売れるかな?」と食べてもらい、みんなで時間をかけてつくりあげ、店に並べています。

ライ麦パンは30%・40%・80%の生地を仕込んでいます。ヨーグルトを混ぜて小さなお子さんでも食べやすいヨーグルトライ、フランスパンの生地に黒糖を練り込んだ甘めのハード系、いろいろな素材を増ぜた小物系でバリエーションを広げ、試食も出しています。これを入り口にして、もっともっと皆さんにハード系のおいしさを知っていただきたいと思っています。

そして、主に接客・販売を担当している私は、お客様がドアを開けた瞬間に「わぁ~♡!」と、感嘆符付きのワクワクを感じていただけるような店づくりをしています。
たくさんの種類のパンを隙間なく、高低差もつけて重なり合うように並べ、焼きたては目立つ場所に。売れた分はこまめに補充し、パズルのように並び替えて、いろいろなパンがぎゅうっと集まった、にぎやかで豊かな売り場。このパンの後ろに、また違うパンが隠れていたり、プライスカードも上からのぞきこむようにしないと全部読めなかったり。わざと隠してチラ見せして、お客様に今日連れて帰っていただくパンを探してもらう……そんな勢いのあるパン選びを「楽しい!」と感じていただけたら、と思っています。

勢いのある売り場づくりを心がけています。 「黒糖くりゆず」。ナイフを入れると柚子の香りがふわっと立ちのぼります。
和風味のレンコンのフォカッチャ。 ベリーやチョコ を載せて、きらめくデニッシュ。

女性ならではの苦労

「女性ならではの苦労」といったら、フルで働いて子どもと家庭も両立させる、これに尽きるのではないでしょうか? うちには3人子どもがいて、下の2人はそれぞれ別の保育園に通っています。夕方は18時に上がり、2人を迎えに行って21時には寝かせたいのでその間にごはんとおふろでバタバタです。
幸いに、夫は「家のことも分担していこう!」というタイプですし、義母には、事あるごとに助けてもらっています。

今、販売の方は女性のパートさん10人でシフトを組んでいます。子育て中の方が多く、チームワークを発揮して、お互い様で助け合いながら仕事をしています。中でも、いちばんフルに入ってもらっているのは1才のお子さんを保育園に預けているお母さん。採用したときに彼女は、「雇ってもらえると思わなかった!」と言っていました。
幼い子どもを抱えていると、急な発熱などで休むこともあるのは致し方ないこと。そこだけを見たらマイナスかもしれません。でも、人の輪でフォローする環境さえつくっておけば、彼女の頑張りは店にとって大きなプラスになっています。

仕事仲間であり、子育ての仲間・先輩でもあるパートさんたちのことが、私は人として好き。いい人にたくさん出会える、ここ上大岡の街も好き。ここで店をやって本当によかったと思っています。

どんなお店にしていきたいですか?

先日、お店によく来てくださっていたご年配の方が亡くなられ、ご家族から「故人が好きだったあんパンを」とのご注文をいただきました。そんなふうに、街の人たちの暮らしの中にうちのパンがあり、何かの折には周りから頼りにしてもらえる店でありたいと願っています。

子育て中、ふっと孤独を感じたときに、コンビニに行って人の気配を感じながら1杯のコーヒーを飲むことが、私にとってのかけがえのない気分転換でした。今、店内にささやかな席を設けてありますが、カフェスペースをもっと広げて、お年寄りも赤ちゃんを連れたお母さんも、ほっと一息くつろげる場を充実させることがハード面での希望です。

毎朝、たくさんのパンを揃えてお客様をお迎えできるよう、シェフは暗いうちから店に入り、パンを焼いています。6時ごろに少しだけ手が空く時間帯があり、オンニのSNSを更新。かなり疲れているだろうな、という日でも、そんなことはみじんも感じさせない、楽しく元気いっぱいな情報発信をしています。お客様にうちのパンのこだわりや魅力をお伝えするのはもちろんですが、パン屋を目指して修業中の若い人たちに、「パン屋は楽しくてやりがいのある仕事」と夢を持ってもらいたいのです。

2016年は、世田谷パン祭り、青山パン祭りにも参加しました。準備が本当に大変でしたが、こうしたイベントにも余裕をもって参加できる、お店としての底力をもっともっとつけて、みんなが無理なく働くことのできる環境づくりをしていきたいです。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

近賀 希さん お気に入りのパン

クリームパン 216円(税込)クリームパン 216円(税込)
パン生地は、サクッとしているのにパサつき感はなく、スッと口溶けるのど越しのよさが自慢です。青森県産のこだわり卵の黄身だけを使い、毎日炊いているカスタードクリームは、濃厚で滑らかな仕上がり。世の中に数あるパンの中で、私はクリームパンならどれも大好きなのですが、どこの店にも負けない、いちばんおいしいクリームパンです。

シナモンロール 237円(税込)シナモンロール 237円(税込)
バターロール生地に、黒糖とシナモン、バターを合わせたシナモンパテをたっぷり塗って、クルクル渦巻にして焼き上げました。トッピングのクリームは、クリームチーズとバターと砂糖。ソフトなパンをちぎってクリームをつけながら食べると、ほのかな酸味がシナモン&黒糖の香りとコクにぴったりマッチ。コーヒーにとてもよく合います。

黒糖くりゆず 259円(税込)黒糖くりゆず 259円(税込)
小麦粉は灰分高めのものと、フランスパン生地用の粉をブレンド、八重山産黒糖を混ぜた甘めのハード系です。刻んだゆずピールと蒸した栗をゴロゴロ混ぜてあり、日本茶のお茶請けにもおすすめです。ご年配の方にも好評!

店舗情報

店名/boulangerie onni(ブーランジェリー オンニ)
郵便番号/〒233-0002
所在地/神奈川県横浜市港南区上大岡西3-10-1
最寄駅/京急本線・横浜市営地下鉄ブルーライン 上大岡駅
アクセス/上大岡駅より徒歩10分
電話番号/045-367-8501
営業時間/8:00~18:00
定休日/日曜、月曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年12月)のものです

<オススメパン>クロワッサン 237円(税込) マンダリンオレンジとマカダミア 302円(税込) キャラメルりんごのブリオッシュ 237円(税込)

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