パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

余計なものを入れず、体にいい素材を厳選し、自分がおいしいと感じるパンだけをつくっていきます。
ラ ロッタ ベーカリー(La LOTTA Bakery) 店主 小林 紀子さん

ラ ロッタ ベーカリー(La LOTTA Bakery) 店主 小林 紀子さん

店名の「ラロッタベーカリー(La LOTTA Bakery)」とは、私が考えた造語です。“La”はフランス語で、英語でいうところの“The”にあたる冠詞です。でも、“Bakery”は英語で“パン屋”のこと。ブーランジェリーとするより、誰もがすぐにパン屋とわかる方がいいなと思ったからです。 “LOTTA”は、スウェーデン映画のロッタちゃんシリーズの女の子の名前からつけました。ロッタちゃんは5歳のすごく自己主張が強い個性的な女の子。その気の強い性格が自分と似ていると感じ、店名にしました。

私がパン屋を志すきっかけとなったのは、仲の良かった父の死でした。私の父は「女性は働くより家庭を守るもの」という、ちょっと古い考えをするタイプで、私はそんな父の側にいられれば安心と、学校卒業後はバイトをするぐらいでフラフラとしていました。しかし、父が亡くなったことで「このままではだめだ」と気持ちが切り替わりました。パン屋かケーキ屋になりたいという子どもの頃の想いがまだ心に残っていたので、パン屋の門を叩いたのが始まりです。

そのときすでに24歳で専門的な勉強もしていなかったので、最初は販売からでもいいという気持ちでした。しかし私がラッキーだったのは、最初からフランスパンをつくる工程に入らせてもらえ、どんどんパンづくりを学べるチャンスに巡り合えたことです。するともっともっとという気持ちが強くなっていきました。そして関西の数店で修業後、東京のパン屋を知らないと日本のパンを知った気分になれないと27歳のときに上京。29歳には独立したいと考え、2016年3月に当店をオープンさせました。

パンへのこだわり

パンづくりでは、余計なものを入れない、極力製法だけでおいしくつくることにこだわっています。私に子どもはいませんが、自分が母親だったら自分の子どもに食べさせたいと思えるような、体にいい自然なものでつくりたいと材料は厳選しています。たとえば砂糖は、さとうきびの絞り汁でつくられている喜界島粗糖を使っています。キメが粗くミネラル臭がするのですが、コクがあってミネラル分が多く栄養価が高い砂糖です。毎日食べても安心な材料を使うことで、気持ちよくお客さまにおすすめできます。

粉と配合は生地ごとに変えています。日本は湿気が高いのでパンがしけりやすいのに、買ったパンを翌朝など時間が経ってから食べる方も多いので、リベイクしたら焼きたての香ばしさや柔らかさが戻るようなパンになるよう、自分なりに工夫しています。また、自分が食べておいしいと思うパンをつくりたいと思っているので、ハード系のパンを日本人好みに柔らかいものにするのではなく、硬いからこそ噛みしめるほどに旨みが広がるようなパンに仕上げています。全粒粉がもつ苦味のようなものも活かしており、大人に喜んでもらえるような味わいにしているのも当店の特徴です。

店内奥にフルオープンのキッチンがあり、工程のすべてが見える構造。つくりながらお客さまとの会話を楽しめ、接客もすぐ対応できます。 同店ならではの味わいを楽しめるカンパーニュ。噛むほどに滋味深い味わいが広がっていきます。1/4個 350円(税込)。
仕事前などにさっと食べていけるようなイートインスペースも。エスプレッソ豆を使ったホットコーヒーを150円(税込)で提供しています。 素朴な甘さのシナモンロールやマフィン、ラスクなど店長好みのスイートパンをご用意。

女性ならではの苦労

私は兵庫県出身で、パン屋として独立するなら神戸でしたいと考えていました。神戸での修業時、神戸はすごくビジネスにおいて閉鎖的と聞いていたのですが、私は思い立ったたらすぐに行動に移さないと気がすまない性格。当店のオープンもその勢いで、人脈もなにもないゼロからスタートさせました。

また、場所が神戸・元町の中華街として有名な南京町にあるので、「なんで南京町に?」とよく聞かれるのですが、いろんな偶然と通りの石畳の雰囲気を気に入ったから。最初は誰からも相手にされなかったのですが、毎日同じ人が通るような場所にあり、せっせと女性一人がつくっている姿を見てか、だんだん話しかけてもらえるようになりました。南京町で昔から商売をされている方からすると、昔、中国から日本に来てお店を始めて苦労された姿と重なるのかもしれません。今では野菜などを差し入れてくれるなど、長くここで商売されている方に、なにかと可愛がってもらえるようになりました。

女性ということもあり、だまされないように気を付けていますが、業者さんはいい方ばかりなので助けられています。でも、体はぎりぎりで、睡眠もぎりぎり。体力をつけることは、これからの課題ですね。

どんなお店にしていきたいですか?

私は「その日が寿命」という気概で、今をとても大事にしています。パンづくりも同じで、今できるベストを尽くしたいと、体はぎりぎりでも気持ちで自分を奮い立たせています。ただ、ずっとフランスに憧れているのに、一度も行ったことがないのがひっかかっていたので、オープンして1年間頑張れたら、そのご褒美にフランスに行くと決めていました。そして、いよいよ今年の7月にパリに1週間行くことに!お客さまにはご迷惑をおかけしますが、フランスの空気や生活、料理などにふれることで感性を磨き、よりおいしいパンをつくれるような五感を磨いて帰ってきたいと考えています。

私がつくるパンは、万人に受けるというより、私と好みのあう方に向けてつくられた味わいです。今後もその方向性は変わりません。大量にはつくれないので、私一人でつくるだけのパンを食べてもらえれば嬉しいと思います。私自身は、絶対においしい!体にもいいパン!と自信をもってつくっているので、そんな私のつくる味わいに共感してもらえる方に愛されていきたいですね。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

小林 紀子さん お気に入りのパン

ロッタ バゲット 320円(税込)ロッタ バゲット 320円(税込)
外側のクラストはかためで、中のクラムはもっちり。噛みごたえがあって、中はしっとり水分が残った味わいに仕上げています。材料自体はシンプルなのですが、フランスパン用の小麦粉や国産小麦粉のほか、全粒粉も少し配合させることで、噛むほどに粉の奥深い味わいが広がります。軽さより、粉の旨みを追求したひとくせある味わいです。バゲット自体が味わい深いので、当店のバゲットサンドはバターやソースなどをあえて塗らず、バゲットの塩味だけを活かして、ただチーズなど食材をはさんだだけのシンプルものにしているほど。バゲット専門店にしたいぐらい、バゲットが大好きです。ハーフサイズでも販売しています。

カンパーニュ・レザン 500円(税込)カンパーニュ・レザン 500円(税込)
北海道産の小麦粉を70%、ライ麦を30%の割合で配合。あえて天然酵母は使わず、生地は酸味のないタイプのカンパーニュに仕上げています。自然なライ麦の酸味だけで、食べやすいと思います。レーズンはお気に入りのサルタナレーズンをほどよく混ぜ込み、カンパーニュならではの生地そのものの味わいをレーズンが邪魔せず楽しめるようにしています。帰って袋を開けたときに、ふわっと小麦のいい香りが匂い立つのも楽しんでほしいですね。また、カンパーニュは大きいサイズで焼くことで、中をしっとりさせるようにしているので、あまりたくさん食べられない方にはハーフサイズでも販売しています。お気軽にご要望ください。

ブラックココア 100円(税込)ブラックココア 100円(税込)
仕事に恋愛に夢中に生きていたココ・シャネルをイメージして考案したパンです。生地のベースはライ麦パンで、2種類のココアを練り込んでいます。生地自体は甘くない、ふんわり柔らかいパンなのですが、温めると中に混ぜ込んだスペイン産のチョコチップがとろけて、ほろ苦い甘みが広がります。ココ・シャネルの情熱に溢れた人生のように、甘いだけでなく苦味もある、そんな大人に向けた味わいです。人生を精一杯楽しんでほしいという私のメッセージも込めています。映画好きの勝手な想いから、いつか北野武監督に食べてほしいと願っています。ぜひ、小さくてかわいい丸いパンからは想像できない、見た目と味のギャップを楽しんでください。

店舗情報

店名/ラ ロッタ ベーカリー(La LOTTA Bakery)
郵便番号/〒650-0022
所在地/兵庫県神戸市中央区元町通2-4-5
最寄駅/JR元町駅、阪神電車元町駅、神戸高速鉄道花隈駅
アクセス/JR元町駅より徒歩2分、阪神電車元町駅より徒歩3分、神戸高速鉄道花隈駅より徒歩7分
営業時間/9:00~18:00(売り切れ次第閉店)
定休日/月曜(臨時休業あり。フェイスブックにてお知らせ)

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年4月)のものです

<オススメパン>ロッタのトースト 350円(税込) シナモンロール 300円(税込) バゲット ジャンドゥーヤ 190円(税込)

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