パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

薪の窯でパンを焼きたい!という気持ちに突き動かされて始めたお店です。
ボン・ボランテ(bonne volonte) 店主 井上 恵さん

ボン・ボランテ(bonne volonte) 店主 井上 恵さん

ボン・ボランテがあるのは、京阪神宮丸太町駅より歩いて10分ほどの、京都市内でも住宅が多く建ち並ぶ郊外にあります。当店の大きな特徴は、薪をくべて窯でパンを焼いていることです。おかげさまでオープンして16年目を迎えています。

私はもともとアパレルの販売をしていたのですが転職をしたいと思い、就職活動をするにあたりパン屋のような早朝に働けるのは都合がいいと、ドンクで製造のバイトを始めたのがパンの世界に入ったきっかけです。そんな理由だけでパンの世界に入ったのですが、簡単なパンの成形などをするうちにパンづくりの面白さに目覚め、もっとちゃんと技術を身につけたいと思うようになりました。そこでドンクを辞め、パン職人が通う研修施設に通うことにしたのです。1カ月ほど研修した後、その学校が経営するお店で働きながらさらに技術を磨いていきました。そして1年半ほど働いた頃、今度はドンクに社員として就職。しかし、もっと自分の技術を高められる環境に身を置きたいと思っていたタイミングで、イタリア料理店併設のパン屋のオーナーからお声掛けいただき転職したのです。

その後、薪の窯をつくっているオーナーの知り合いから、パンの焼き方の基本を教えほしいといわれたのが薪の窯のオーブンとの出会いでした。そして薪の窯でパンを焼いてみると、電気オーブンより火の通りが早いため、外はカリッと中はしっとりと焼き上ることを体感。一度きりの体験でしたが、それから薪の窯を使っているパン屋を探して食べるようになりました。しかし薪の窯がいいのか、その職人の腕がいいのかはわかりません。そこで自分で薪の窯でパンを焼きたいと思うようになりました。とはいえ、オーナーに薪の窯を買ってほしいとリクエストするのは難しいため、独立を決意。まさに薪の窯を使いたいがために、自分のパン屋をオープンしたのです。

パンへのこだわり

薪の窯で焼いたパンには特別な魅力があると感じるのですが、薪の窯は電気オーブンのような複雑な温度調節が苦手です。そのため、当店では温度調節に神経質にならなくてもいいパンだけをつくっています。結果的に、昔からあるようなオーソドックスなパンが主流になりました。

パンづくりでは、粉の風味や旨みをじっくり味わってもらいたいと、パンによって粉の配合を変えています。小麦の種類を変えるだけでなく、愛媛の農家さんから取り寄せたモチ麦の粉も使っています。モチ麦は体にいいと注目されていますが、栄養面だけでなく、生地に粘り気が出て、表面はバリッとおかきのように、中はもちもちと柔らかい食感になるのが面白いですね。モチ麦はパンに使うと少し独特のクセが出るのですが、キャラウェイシードというハーブを入れるなど、香りをつけることで食べやすくしています。当店のパンは、シンプルなものが多いのですが、そんな素材のもつ美味しさやハーモニーをじっくり味わっていただけると嬉しいですね。

薪の状態は毎日違うため窯のコントロールは難しく、腕の見せ所。 パンはガラスケースに並べてスタッフに注文するというスタイルで販売しています。
売り場横に薪を積み上げています。薪は京都の山でとれた間伐材です。 ハード系、食パン、クロワッサン、あんぱん、サンライズなど、カテゴリーは決めずに、いろいろつくっています。

女性ならではの苦労

パン職人の大変さは、性別に関係ないような気がします。ただ薪の窯は、冬は暖かくなっていいのですが、夏はとにかく暑くて体力的に無理なので、8月は大胆にも1ヵ月お休みさせていただいています。そんな体力的なしんどさは男女関係なくパン職人にはついてまわりますが、女性が働く上で一番苦労するといえば子育てと仕事の両立です。その点、私はスタッフに恵まれていますね。私が子育てで大変だった時期は、スタッフに仕込みを任せ、窯の面倒と販売だけをしていた時期もあります。今は女性スタッフばかりということもあり、気が楽なのかもしれません。

実は開店当初の頃、薪の窯のローンを返せたらお店をやめようかとさえ思っていたのですが、オープン当時からずっと通ってくれる常連さんもいて、そんなお客さまに支えられて続けてこられました。それにパンづくりは楽しく、自然に左右されるので毎日違って飽きることがありません。なかなか自分で納得のいくパンがつくれないのですが、それでも自分に花丸をあげたくなるほど上手くパンが焼けたときは嬉しくて、私の活力になっています。

どんなお店にしていきたいですか?

薪の窯がひとつしかない今の環境では、大量にはパンをつくれないのですが、だからといってお店を大きくしたいという野望もありません。無理せず、もっとじっくりパンと向き合って、今より美味しいパンを焼けるようになれればと考えています。今でも工程の段取りは難しく、ほとんど毎日納得ができるパンづくりをできているとはいえないのですが、そんな私のつくるパンを好きだと通ってくれるお客さまのためにも、もっと腕を磨いていきたいですね。

また、おすすめのパンは何かと聞かれることが多いのですが、できればその前に、お客さまの好みの味を教えていただければ嬉しいです。食の好みは千差万別なもの。自分好みの味わい、どんなときに食べるのかなど、パンに求めているものをお伝えいただければ、その方にあったおすすめをお伝えしますので。当店はセルフではなく、お客さまのご注文を聞いてスタッフがパンをとるというスタイルなので、ぜひスタッフとの会話を楽しむようにお気軽にお尋ねください。まだ薪の窯で焼いたパンを食べたことのない方には、ぜひ薪の窯ならではの美味しさを発見していただければ幸いです。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

井上 恵さん お気に入りのパン

ヘーゼルナッツのモチ麦パン 460円(税込)ヘーゼルナッツのモチ麦パン 460円(税込)
生地に大好きなヘーゼルナッツを混ぜ込んでいます。このヘーゼルナッツ好きが高じて、他にもヘーゼルナッツを使ったパンは多いんですよ。粉にはモチ麦も配合してあります。モチ麦の特性により生地に粘り気が出て、焼き上げると中はもちもちとした柔らかさが出て、表面はバリッとした歯ごたえを楽しめるパンになります。まだまだ市場には少ない国産のモチ麦を、ご縁があって使えるのもありがたいですね。

オリーブの花形パン 410円(税込)オリーブの花形パン 410円(税込)
ハード系パンでもなく、食パンでもない食事パンをつくりたいと思って考案しました。オリーブオイルを生地に練り込んでいて、中はしっとりやわらかい食感です。中にはオリーブの塩漬けを混ぜ込んでいます。直径14cmほどと大きめのパンなのに、オリーブの塩気がクセになって手がとまらず、私はついつい食べ過ぎてしまうぐらい。食事パンにはもちろんですが、おやつとしてもワインのお供としてもおすすめです。見た目が花形でちぎって食べやすく可愛い見た目なので、ホームパーティーなどでバゲットと一緒に置いても絵になりますよ。

リンデンバームさんのソーセージ入りパン 235円(税込)リンデンバームさんのソーセージ入りパン 235円(税込)
近所に「シャルキュトリー リンデンバーム」という、フランス料理を極めヨーロッパでソーセージ修業をしたシェフがしているお惣菜屋さんがあります。シャルキュトリーとは、フランス語でソーセージやハム、テリーヌなどをテイクアウトできる惣菜店の総称なのですが、そこのソーセージが絶品なのです。パンにもあうと思い、そこのソーセージをフランスパンの生地で包んで焼き上げました。焼き上げるとソーセージから出た油がパン生地にしみこんで、噛むほどに旨みが広がります。シンプルで小さな食事パンなのですが、食べるとしみじみ美味しく、満足度の高い味わいです。

店舗情報

店名/ボン・ボランテ (bonne volonté)
郵便番号/〒602-0855
所在地/京都府京都市上京区河原町通荒神口下ル上生洲町229-1
最寄駅/京阪神宮丸太町駅
アクセス/市バス「荒神口」バス停下車すぐ。京阪神宮丸太町駅出口1より徒歩約10分
電話番号/075-213-7555
営業時間/11:00~19:00
定休日/日曜、月曜、8月

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年4月)のものです

<オススメパン>山型の食パン 1斤/360円(税込) クリームパン 205円(税込) ライ麦のラスク 125円(税込)

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