パン屋さんで活躍する女性たち パンとお店と“私”のストーリー

VOL.44 おいしい瞬間を見逃さずにつくったパンを自家農園の旬の味わいとともにお届けします Boulangerie Pave nature(ブーランジェリエ パヴェ ナチュール) 店主 西村 綾さん

Boulangerie Pave nature(ブーランジェリエ パヴェ ナチュール) 店主 西村 綾さん

大阪と京都の県境にあるJR東海道本線「山崎駅」、そのすぐ側にある阪急京都線「大崎山駅」より、山の緑に包まれた道を歩いて11分ほどいくと「Boulangerie Pave nature(ブーランジェリエ パヴェ ナチュール)」はあります。ここは私の地元であり、店舗や庭は建築士である父に設計してもらいました。大阪や京都へのアクセス至便な場所ですが、山の緑が多く残り、空気も水もきれいな場所です。自然とゆったりとした気持ちになれ、店舗裏の斜面には自家農園している野菜や果実が元気に育っています。

私がパンづくりに目覚めたのはフランスでした。実は、私はもともとパティシエだったのです。母親の影響で料理やお菓子づくりが好きだったのでパティシエとなり、5~6年ほど日本で働いていました。でも、お菓子づくりの本場であるフランスに行ってみたい気持ちが高まり、ワーキングホリデイを決意。当時はフランスで修業しようとする人は今ほど多くなかったのか、申請すると意外とすんなりと審査を通過できたのはラッキーでした。そして、語学学校に通いながらフランスの菓子店で1年ほど修業。でも、ワーキングホリデイの期限が切れ、そろそろ日本に帰国しようかと考えていた頃。せっかくパンの本場でもあるフランスに来て、パンづくりを経験しないで帰国するのはもったいないと、フランス語で履歴書を書き、軽い気持ちでパン職人の応募にエントリーしたのです。すると雇ってもらえるパン屋が見つかり、労働許可書も取ってもらって修業させてもらいました。

それまで私はパンを食べることはあっても、パンづくりの工程については知識も経験もありませんでした。まさにゼロからパンづくりをフランスで学ばせてもらったのです。それから4年半ほど修業して帰国。独立を考えていたので、日本でのパンづくりや経営について学びたいと、京都で人気のブーランジェリー「ル プチメック」に就職しました。そこで5年半修業させてもらい、2014年5月に当店をオープンしました。

パンへのこだわり

パンには、手を加えると一番いい、おいしくなる瞬間があります。パンを捏ねる時間、発酵を待つ時間、オーブンに入れるタイミング…それぞれの工程においてベストなタイミングはいつかを感じることを大切にしています。でも、季節やその日の天気などでパンが一番おいしくなる瞬間は変わるもの。それがパンづくりのままならない点であり、おもしろさでもあります。

店舗裏の斜面に自家農園するのにちょうどよい広さがあり、無農薬で育てた旬の野菜や果物をパンにふんだんに使っています。大根をパシュパシュと音が聞こえてきそうなほど瑞々しい状態で使えるのは、まさに土地の利。採れたてならではの生命力を感じる味わいを堪能していただけると思います。

また、売れ残ったパンを廃棄するのが忍びないこともあり、畑の栄養として再利用。豊かな腐葉土となって野菜も果実も元気に育っています。レモンや柚子、甘夏などフルーツも余らすほど育っており、コンフィチュールにしたり、レモン塩にしたり保存も一工夫。これからも試行錯誤しながら、パンに旬の味わいを取り入れていければと考えています。

野菜もフルーツも旬となる一歩先回りしてパンを考案しておくことが、お客様に季節を味わってもらえるポイントです。 材料の安心安全は大切にしながら、特に国産にこだわることはなく、めざすパンの味わいに合った材料を選んでいます。 緑に包まれた店内のイートインスペース。ドリンクも充実してきて、パンに合う手づくりのスープなどイートイン限定メニューもあります。 駅より西国街道を行き、桜や紅葉で有名な古刹「山崎聖天 観音寺」の赤い鳥居を横目に進んだ先にお店があります。

女性ならではの苦労

フランスのパン業界はまだまだ男社会で、がたいがいい男性パン職人が重たい物をひょいと運ぶ様は、まねできないなと感じたものでした。しかし、帰国後に修業していた「ル プチメック」は女性のパン職人が多かったこともあり、とくに女性であることにデメリットを感じませんでした。体力的にはしんどいと感じることはありますが、重たい物は分けて運べばいいだけ。日本では女性のパン職人がすごく増えているので、女性も働きやすくなっているのではないでしょうか。私自身は「ル プチメック」で働いたことで自然と業者さんとのつながりを築け、経営についても多く学ぶことができたので、女性であることにハンデを感じませんでした。

性別の違いだけでなく、フランスでは様々な人種の方がいて、「ル プチメック」にはドイツで修業していた方やカフェ出身など幅広いバックボーンの方が集まっていて、結果的にいろんな考え方や文化に触れながら働いてきました。「同じ材料で同じつくり方でも、性格の違いでこんなに違う味になるのか!」と本当にびっくりしますよ。その多様性が刺激になって、今の私が仕上がっているのだと思います。

どんなお店にしていきたいですか?

開店当時はサンドイッチもないほどパンの種類が少なく、ドリンクもホットコーヒーしかなかったのですが、製氷機を買うなど少しずつ設備を充実させてきました。今ではアイスコーヒーはもちろん、フレーバーティーやフルーツジュースなどドリンクメニューを幅広くそろえています。2017年の冬からはイートインで手づくりのスープもメニュー化。今後も、パンに合うイートインメニューを増やしていく予定です。そして、バゲットのおいしさをより深めてもらえるように、食事にパンをとりいれる時のヒントになるような、ちゃんとしたランチメニューもいつか提供できるようにしたいですね。

また、実は店舗裏には父が手づくりした石窯があります。まだ商品化できていませんが、いつかこの石窯を使って、薪で焼いたパンも提供できればと計画中です。今後は自家農園で育てる野菜や果物も種類を増やして、もっとお客様に旬のおいしさを味わってもらえれば嬉しいですね。これからもいろんなことに挑戦していきながら、10年かけて理想の店に育てていこうと考えているので、ぜひ楽しみにしていてください。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

西村 綾さん お気に入りのパン

レーズン酵母パン 400円(税抜) レーズン酵母パン 400円(税抜)
レーズンに水やモルトを入れ、何度かガス抜きをして発酵させた手づくりのレーズン発酵液を使ったパン。一口食べるとレーズン酵母のフルーティーな香りが広がります。生地には中力粉、ライ麦粉、小麦全粒粉、強力粉の4種類の粉を使い、酸味を抑えめに粉の香ばしい風味を味わえるように工夫しました。くるみやレーズン、カシューナッツをぜいたくに生地に練り込んでいるので、食感も楽しいパンです。朝食にはもちろん、スープや肉料理などの食事パンとして合わせてもらえれば、パンの世界をより広げてもらえるんじゃないでしょうか。気軽に召し上がってもらえるように、ハーフサイズ200円(税別)もご用意しています。

オレンジショコラ 200円(税抜) オレンジショコラ 200円(税抜)
カカオ54%のビターチョコをたっぷり包み、オレンジピールをどっしりのせました。チョコとオレンジピールの組み合わせはお菓子の世界では定番なのですが、やはり黄金カップルだなと思います。生地はバゲットと同じものを使っていますが、発酵の仕方や焼き方を工夫することで、もっちりとした食感がアップ。バゲットとは異なる味わいに仕上げています。菓子パンですが甘すぎず、しっかり噛んで食べるパンになるので、朝食用のパンとしてもおすすめです。手にのるサイズなので、私は小腹が空いたときに手がのびるパンです。少しリベイクして中のチョコをとろけさせてからいただくと、よりおいしくなりますよ。

塩レモンベーコンフガス 200円(税抜) 塩レモンベーコンフガス 200円(税抜)
自家製の塩レモンと存在感あるベーコンの塩味とのマリアージュが楽しめる季節限定パン。塩レモンは、自家農園で育てたレモンを塩漬けにしてつくり、それを刻んで生地に混ぜ込んでいます。自家農園は無農薬農法なので、レモンの皮も安心して召し上がっていただけます。塩レモンにするとレモンの皮がもつ独特の苦みがとれるので、レモンの爽やかな風味をあますことなく楽しんでいただけるのではないでしょうか。生地はオリーブオイルを入れたチャバタ生地で、時間がたってももっちり感が失われません。食べごたえのあるサイズなので、ランチや食事パンにおすすめ。私自身は前菜代わりにいただくこともあります(笑)。

店舗情報

店名/Boulangerie Pave nature(ブーランジェリエ パヴェ ナチュール)
郵便番号/〒618-0071
所在地/京都府乙訓郡大山崎町大山崎白味才51-2
最寄駅/JR山崎駅、阪急大崎山駅
アクセス/JR山崎駅、阪急大崎山駅より徒歩11分
電話番号/075-952-1188
営業時間/7:30~18:00(売切次第終了)
定休日/火曜・水曜・祝日営業

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年6月)のものです

<オススメパン> ルヴァンフィグ 300円(税抜) 栗バゲット 230円(税抜) 有機レモンパン 380円(税抜)

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