パン屋さんで活躍する女性たち パンとお店と“私”のストーリー

VOL.45 「大事な人に食べてもらいたいパン」を、チョコ大好きシェフと素敵な仲間がつくってます。 ル コパン (Boulangēre Le Copin Avec de Chocolet) オーナーシェフ 石川 有理さん

ル コパン (Boulangēre Le Copin Avec de Chocolet) オーナーシェフ 石川 有理さん

JR・近鉄の桑名駅から徒歩約15分。国道1号線に並行して走る道路に面し、大手ドラッグストアの隣にあるのがル コパンです。子どものころから専業主婦だった母と、一緒にお菓子づくりを楽しんでいました。小学5年生になると働き始めた母の代わりに、姉とふたりで家族の食事をつくるようになり、「食べるものをつくる」ということが漠然とした将来の夢になりました。
パティシエへの道も考えましたが、ちょうどそのころ、家の近くに大手ベーカリーチェーンのお店ができることを知り、それなら働きながら技術も学べると、オープニングスタッフとして入店したのがパン職人としての第一歩、20歳のときでした。

私が目標とするパン職人は、阪神淡路大震災で神戸の店舗が被災したために期間限定で桑名の店に来ていた方でした。その先輩はすごく美味しそうなパンを焼く方で、いつも楽しそうに仕事をしておられました。焼成の補助として、そばで見ていて学ぶことが多く、私もあんな職人になりたいと憧れました。
その後、焼成を任されるようになりましたが、次々と大量のパンを焼くために、休憩も少なく汗だくの毎日。けれど仕事は楽しかったです。何といっても焼き立てのパンを、一番に見ることができるのですから。その後、他の店でも勉強させてもらいましたが、修業時代の経験が今の自分をつくってくれたんだなと思うと、感謝の気持ちでいっぱいです。

3軒目に勤めた店で店長が急に辞めてしまって、私が製造の責任を担うことになりました。けれど、そろそろ自分の思うパンをつくろうと独立を決意。幸い両親が大賛成してくれ、開業資金も助けてくれました。
最初の店舗は自宅の庭に建てたプレハブでした。注文販売の分と、母が営むお好み焼屋のすみっこに並べる分とでスタートしました。これが予想外に順調で、最初からお客さまがつきました。でも、夜中の12時からパンを焼くのはきつかった…。2年間頑張りましたが、もっとたくさんのパンを焼いて、お客さまに選んでもらいたいという気持ちが大きくなり、現在とはちがう場所で店舗をオープンさせました。

しかし、ここで大挫折を味わいます。広さや駐車場などは気にしていたのに、お店の立地については何も考えていなかったので、お店の前は人通りの少ない田舎道。さらに新しい道路ができたせいで、主要道から店の前の道に入れなくなってしまったんです。
ちょうどそのころ、結婚式場にパンを卸す仕事が舞い込みました。スタッフもいましたが、店の営業と並行しながら何千個というパンをほぼひとりで焼いていました。結婚式用ということで、失敗は絶対に許されないし、苦しかったですね。その場所で5年間頑張りましたが、現在の場所に移転することになりました。

パンへのこだわり

私のパンづくりのこだわりは「良くなるのなら、何でもやってみよう」と、いろいろチャレンジすること。当店のパンは、それぞれにこだわりポイントがあって、製造に時間と手間がかかるんですが、子どもからご年配の方までお気に入りを見つけてもらいたいと、常時170種ほどをつくっています。
「お客さまは私にとっての大事な人」。その大事な人に食べてもらうのですから、有機のものなど素材にもこだわっています。けれど素材の良さを追求するあまり、味が損なわれては元も子もありません。なにかひとつにこだわるというより、全体が上手に高められたらいいなと思っています。

材料は国産小麦からフランス産小麦まで10種類以上の粉を使い分けたり、ブレンドして使用。また酵母も自家製酵母やドライイーストなどを、パンの種類によってチョイス。野菜やドライフルーツなどの具材は、ネット販売で手に入れることも。オーガニックのメイプルシロップなどが、小ロットで欲しい場合などに重宝しています。

私は食べ物の中で、チョコレートが一番好き!最初の店舗を構えたとき、よく使っていたのでお客さまに「チョコがお好きなんですね」と見抜かれるほど。それで店名もBoulang ēre(ブーランジェール=女パン職人)le copin(ルコパン=仲良し・お友達)Avec de Chocolat (アヴェック ド ショコラ=チョコレートと共に)としました。当店のパンに使うチョコレートは国産、ベルギー、フランス、スイス産など。合わせるパンや具材によって、酸味のあるもの、甘みの強いものなどを使い分けています。

苦労しながらもパン職人を辞めなかったのは、パンへの愛情が強かったから。仕事がきつくても全然イヤにならないんです。 女性ばかりのパン屋らしく可愛らしいパンも揃えています。スタッフのアイデアや、お客さまからの要望でできたメニューもあります。 木のぬくもりが感じられるあたたかみのある店内。茶色をベースに、落ち着いた居心地の良い空間づくりを目指しています。 黄色い看板とテントが目を引く建物。マスコットキャラクターが、にこやかにお客さまを出迎えます。

女性ならではの苦労

最初の店で働き始めたとき、女性の製造スタッフは私ひとり。正社員にはなれなかったけれど、いい先輩に恵まれて主な仕事はほとんど経験させてもらいました。仕事が楽しくて楽しくて、自分は食べることも好きだけど、それ以上につくることが好きなんだなと思いました。
この修業時代につらかったのは、まだ真っ暗な早朝にひとりぼっちで作業をしなければならなかったこと。お店はショッピングセンターの中にあったのですが、警備員さんもまだ寝ている朝4時に出勤。たったひとり暗くて広い建物の中で作業するのは怖かったですね。でも怖いと言うと仕事をさせてもらえない気がして「怖い」とか「できない」とか「重くて持てない」とは絶対に言わなかったです。

女性だからということではなかったと思いますが、中には「目で覚えろ!」と厳しい先輩もおられました。その日の生地の温度によって、発酵時間が微妙に変わってくるのですが、生地の温度をきちんと教えてもらえないことも。悔しかったですが、負けるもんかと歯を食いしばり、どんな状況に置かれても美味しいパンをつくりたい、という想いで乗り切りました。今にして思うと、成形チームの先輩方ともコミュニケーションを図り、いいチームワークを築くことができていれば、スムーズだったのかもしれませんね。

どんなお店にしていきたいですか?

扉を開けて入ってきたときに「わあっ」と、お客さまが笑顔になるお店が理想です。毎週のように通ってくださる常連さんや、プレハブ時代からのお客さまが今も来てくださいます。「店を大きくしないの?」とか「支店を出さないの?」とよく聞かれますが、私の目の届くところでパンづくりをしていきたいので、今のところは考えていません。デパートなどのイベントにも出店しますが、定休日だけでお店を休んでまでは出ません。拡大していくよりも、長く愛される店にしていきたいと思っています。

現在は社員3名、パートを含めると10名、女性ばかりで働いています。「みんな女性だともめごとも多いんじゃないの?」と聞かれますが、うちではまったくありません。職人を目指すくらいの人たちなので、みんなさっぱりした性格なんだと思います。
新メニューはスタッフと一緒に考えます。メニューを開発することは、将来独立したい人にとって、大事な修業のひとつだと思うんです。うちは長く働いてくれている人が多くて、みんな私がいちいち指示を出さなくても、次に何をすればいいか考えて動いてくれます。本当にありがたいと思います。みんなで相談しながら、新しいパンをつくるのがいちばん楽しい時間ですね。
独立を目指す人には「いいパートナーを見つけてね」と話しています。パートナーは男でも女でもかまいません。この業界は若い女性がひとりで乗り越えるには、まだまだ厳しい世界ですからね。
私が独立したてのころ、店舗がプレハブだということで、相手にしてくれない問屋さんもありました。逆にそのとき取引してくれた問屋さんとは、今も良いお付き合いが続いています。

パン職人の仕事自体は、毎日同じことの繰り返し。だから昨日よりはいいものをつくりたい、日々向上したいという気持ちが大切。それがないと、ちょっとした作業が雑になります。妥協したら最後。パンはお客さまが口に入れるものだということを、忘れてはいけないと思います。この業界では100人に1人が店を持つことができ、さらに10年愛され続けるのは100人に1人と言われています。私も地元の桑名で愛され続けるパン屋になれるよう頑張りたいと思います。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

石川 有理さん お気に入りのパン

クランベリークリームチーズ 220円(税別) クランベリークリームチーズ 220円(税別)
長時間発酵の生地を使用し、オーガニックのクランベリーとサイコロ状にカットしたクリームチーズを混ぜ込んでいます。クランベリーもクリームチーズも、自分で味見をして納得したものだけを使っています。見た目はそれほど大きくありませんが、予想以上の食べ応えです。いろんな食感を楽しんでいただけるよう、片方の端は太めでもっちり、だんだん細くなるに従ってカリカリした歯ごたえがでるようにしています。

アールグレイガナッシュ 200円(税別) アールグレイガナッシュ 200円(税別)
大好きなチョコレートをふんだんに使ったガナッシュクリームが、外にも中にもたっぷり。天然の茶葉を煮出して香り付けしているので、ほんのりと香ってチョコレートとの相性もバツグン。生地には有機栽培のアールグレイの茶葉を混ぜ込んで、ケーキのようなパンに仕上げました。トップの水玉模様は、スタッフとあれこれ相談して付けてみました。親しいお友達への手みやげにもぴったりです。

明太子フランス 160円(税別) 明太子フランス 160円(税別)
こだわって選んだ無着色の明太子を、当店独自のブレンドで味付けした特製ソースがたっぷり。お子さまにも食べやすいよう、あまり辛くない味にしています。パン生地をいったん焼き上げてから、食べやすいよう縦だけでなく、横にも切り込みを入れ、特製ソースを塗って再度焼き上げるという手間ひまかけた一品です。固いフランスパン生地を使っていますが、年配の方にも人気がありますね。

店舗情報

 

店名/ル コパン Boulangēre Le Copin Avec de Chocolet (ブーランジェール ル コパン アヴェック ド ショコラ)
郵便番号/〒511-0066
所在地/三重県桑名市北鍋屋町74
最寄駅/JR・近鉄桑名駅、三岐鉄道北勢線西桑名駅
アクセス/JR・近鉄桑名駅より徒歩約15分
電話番号/0594-24-3780
営業時間/8:00~18:00
定休日/水曜、第1・第3火曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年10月)のものです

<オススメパン> カルピスバターとはちみつのサンド 220円(税別) しぐれのリュスティック 160円(税別) アボカドと生ハムのキッシュ 370円(税別)

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