地下鉄東山線 一社駅から6分ほど歩いた静かな通りに、「トレマタンブーランジェリー」はあります。店名である「Tôt le matin」はフランス語で「早朝」という意味です。今でこそ、夜ごはんにもパンを食べる機会が増えてきましたが、私の中では朝のイメージが強くあって、朝起きたときに「パンが食べたいな」と思って買いに来てもらえるようなお店にしたいと思い、名付けました。私自身「朝」という時間が好きで、8時の開店から焼きたてのパンを求めて来てくれるお客様のために、夜明け前から仕事ができることを楽しんでいます。
パン屋を目指す前は、美術に打ち込んでいました。高校の美術科で油絵を専攻し、美大進学を目標に受験に挑戦する傍ら、時間を見つけては料理やお菓子づくりをしていたんです。幼い頃から、「絵を描く」「歌を歌う」など“表現すること”が好きで、私にとって料理も表現方法の一つでした。その延長でつくってみたのがパンです。レシピ本を見ながら最初はベーグルから始め、つくるたびに違う味になってしまう難しさや奥深さに惹かれていきました。また、つくったものを家族や友達に振る舞うと喜んでくれるのが嬉しくて、「自分のつくったもので周りの人を笑顔にしたい!」と、パンづくりを仕事にしようと決めたのです。
「パン屋になる!」という私の急な進路変更に、父はとても心配し、猛反対しました。しかし、私も決めたことは貫く頑固者。早速、名古屋のパン屋に修業入りして、接客販売から仕込み、分割、成形、窯など全ての工程を1から教えていただきました。6年間みっちり学ばせていただいた後、1年半はアルバイトを2つ掛け持ちして資金を集め、2018年4月に念願の自分の店を持つことができました。イタリアンレストラン、カフェ、美容院、雑貨屋さんが立ち並び、向かいには緑豊かな公園もある場所なので、よく小さなお子さんを連れたお母さん方が立ち寄ってくれます。休日には、パジャマ姿の子どもや寝起きのお父さんが朝食を求めて訪れてくれる光景もあり、嬉しい限りです。
計量から仕込みまで全ての工程に心をこめて気を配りながら進めていきますが、見た目も特に意識をしています。美味しそうに見えるパンには理由があって、ちゃんと発酵が進み、クープが開いて、程良い焼き目がついているパンは、美味しそうに見えるし、美味しい。だからこそ、成形には力が入ります。そして、常に心がけていることは“心を込める”ということです。パンづくりは流れ作業で、私たちは毎日たくさんのパンをつくっていますが、お客様が買うのは1つだけ。だからこそ、一つ一つに心を込めて「こうしたい」という明確なイメージを持って成形していきます。当たり前のことではありますが、心の込め方にも練習がいると思っていて、お客様との日々のコミュニケーションの積み重ねもパンづくりに活かされていると感じます。
新しいパンをつくるときも、スタッフをはじめ、お客様や友人の意見を積極的に聞いています。最終的な完成度は私が決めますが、味だけではなく、「この大きさで満足度はあるのか?」「美味しそうに見えるか?」など、あらゆる視点からの意見を真摯に受け止め、少しでも多くの人に「美味しい」と思ってもらえるように、試行の毎日です。
パン屋はハードで体力勝負な仕事。年齢を重ねるたび経験は増えていきますが、体力は減っていくため、重いものは小分けにして運ぶなど、“一度に全部やらない”ことを心掛け、体力を温存しています。また、“女性がオーナーのパン屋さん”は、どうしても「ほっこり」「かわいい」といった雰囲気になってしまう気がして、店構えは男性も訪れやすいように「スタイリッシュ」な雰囲気にこだわりました。コンクリートの壁をそのまま活かし、パンが映えるグレーを基調として、中性的な店を目指しています。
今いるスタッフは私を含め8名で、意図したわけではないのですが、全員女性。私が作業をしていると、サッと次の工程に必要な道具を差し出してくれるなど、思いやりを持って働いてくれているため、とても働きやすい環境です。オープン当初は力が入りすぎて、夜遅くまで仕込みをして全然眠れない日々が続きました。今では、信頼できるスタッフに恵まれ、休憩もとれるようになり、働き方のペースが掴めてきたところです。長くお店を続けるためにも、休息の大切さを実感しました。
また、写真を撮ることも好きなので、美術で培った感性を活かして、インスタグラムをよく更新しています。焼きたての情報なども発信しており、「写真見たよ!」と訪れてくれるお客様も増えてきたので、続けていこうと思っています。
お店に来たお客様には、ほっとしてほしいし、ワクワクしてほしいと思っています。「このパン食べたかったんだよね!」とお目当てのパンをいつでも購入できるように用意しておきたいし、「たくさんあって迷っちゃう!」とワクワクしてもらいたい。そのために、朝早くからパンを焼きますし、その都度陳列も変えてパンが一番輝くように工夫しています。頭の中には、つくりたいパンのアイデアがたくさんあるので、もっと種類も増やしていきたいと思っています。
対面式の販売方法にこだわったのも、パン一つ一つを大切に思ってほしかったからです。本当はもっと店頭に出て「このパンはこうだから美味しいんです」とお話したいのですが、どうしてもつくることがメインになってしまうため、開放感のある厨房にしました。つくっている人の顔が見えた方が安心してもらえると思うし、来てくださったお客様に挨拶もできます。パン屋をやりたいというのも「お客様の喜ぶ顔を直接見たい」という思いがあったから。「これ美味しかったよ」「また買いにきちゃった」という声が大きな励みになっているので、自分自身も楽しくパン屋を続けていければと思っています。
バタール 290円(税込)
こんがりきつね色の焼き目は、目にも美味しく、しっかり焼き上げることで糖分がカラメル化して、噛めば噛むほど小麦の甘さを感じられます。先端が尖った形は、カリカリとして香ばしい食感を楽しむための一工夫。皮は固めで食べ応えがあるけれど、中は水分を含んでいるのがバタールの魅力だと思っています。私はこの食感の対比が好きなので、長さや太さを何度も試作して自分好みのベストな形にたどり着きました。チーズと一緒に食べたり、スープにつけたり、食事に合うシンプルな美味しさを目指しました。
トレマタン ハーフ 290円(税込)
食パンだからこそ「飽きない美味しさ」を求め、牛乳の味はしっかりするけれどくどさはないバターを選び、小麦粉、スキムミルク、水、塩、砂糖とシンプルな材料を使用しています。山型で、しっかりと耳を焼いているので“耳の味”が楽しめます。中はきめ細かくしっとりとした口溶けを目指し、毎日食べてもらえるパンにしたいと店名である「トレマタン」と名付けました。そのまま食べた時の柔らかさと、トーストしたサクっとした軽さの両方を楽しんでほしいです。一斤は580円で販売。
キッシュ 400円(税込)
食材の「美味しい時期」に合わせ、具材が変わる月替わりのキッシュ。八百屋さんやレストランに立ち寄ったときに生まれるインスピレーションも活かし、旬の食材をぎっしり詰めこんで、具沢山に仕上げています。キッシュは水分を多く含んでいるため、土台となるパイ生地がしっとりしてしまいがちですが、厚みのあるパイ生地にしてザクザク感を実現し、卵生地のぷるぷるした食感の美味しさを引き立てています。どんな具材が入っているのか、気軽にスタッフにお声がけください!
店名/Tôt le Matin Boulangerie(トレマタンブーランジェリー)
郵便番号/〒465-0093
所在地/名古屋市名東区一社2-136パークサイドマンション1F
最寄駅/地下鉄東山線「一社」駅
アクセス/地下鉄東山線「一社」駅より徒歩6分
電話番号/052-717-5869
営業時間/8:00~18:00
定休日/月曜・火曜
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年11月)のものです