パン屋さんで活躍する女性たち パンとお店と“私”のストーリー

VOL.47 食事としての美味しさ”を柱に
主人と目指したフランス式のパン屋 BlancPain(ブランパン) 店主 サラー 河原 亜古さん

BlancPain(ブランパン) 店主 サラー 河原 亜古さん

名古屋市天白区の住宅街に佇むピンク色の建物が、「ブランパン」です。フランス出身で、15歳の頃からパン職人をしていた主人と共に、2000年4月にお店を始めました。

20代の頃は一般企業で広報の仕事をしていました。定年まで勤めようと考えていましたが、30歳を迎えた頃に社長が変わり、社内の雰囲気が一変。女性社員が活躍できる未来がイメージできず、退社を決めました。それから「私は自営業だ!」と思い立ち、興味のあったお菓子づくりを学ぼうと、フランスのストラスブールに留学したのです。ストラスブールは、海外旅行が趣味だったOL時代に何度か訪れて好きになった場所。不思議なご縁があり、旅行中に知り合った3つ星レストランのオーナーのご好意で、お菓子担当として厨房で働かせていただけることになりました。2年ほどフランスを満喫し、お菓子づくりの技術を学んで帰国しました。

主人と出会ったのは、帰国して1週間経った頃でした。フランス語の聞こえない生活に少し寂しさを感じていた時、友人に連れられて入ったパン屋で働く主人を見つけ、「Bonjour!」と声をかけてみたことがきっかけです。それから半年後に結婚し、“主人のパンと私のお菓子で一緒にお店を出す”という夢を実現させたのが「ブランパン」です。パンが主食のフランスでは、“パン屋”は奥様方が毎日足を運ぶ店。そんな町に根付き、生活に馴染んだ“フランス式”のパン屋でありたいと、住宅が立ち並ぶこの場所を選び、ラインアップもバゲットやクロワッサンなど、食事パンがメインです。フランス仕込みのパンづくりを続ける主人を、みんなは「ムッシュ」と呼び、ブランパンの頼れる舵取りでした。しかし、2009年に他界。店を続けるか迷いましたが、「とりあえず1年は続けよう」と踏ん張り、その繰り返しでここまで続けることができました。ムッシュに鍛えられたスタッフたちのおかげで、今でもお客様に「美味しい」と言っていただけるブランパンが存在しています。

パンへのこだわり

オープンする前から主人には「自分がフランスでずっとつくり続けていたパンと、自分が考えたオリジナルのパンで勝負したい」と言われていました。そのため、ブランパンには、あんぱんやカレーパンといった日本でお馴染みの惣菜パンは置いていません。主食として、食事と一緒に食べていただけるような、小麦の味を楽しめる素朴なパンがメイン商品となっています。サイズ感もラインアップもフランスのスタンダードで、お客様からは「大きくてずっしりしている」「柔らかいパンがない」などのお言葉をいただくのですが、それがブランパンらしさだと思っています。

また、主人が日本でパンづくりを始めたときに「日本人は白いパンが好き」と感じたそうなんです。フランスでは、しっかり焼き目をつけるのが主流ですが、同じものを並べると日本人には焼き過ぎに感じる……。“郷に入っては郷に従え”ではないですが、「お客様がいいと思うものをつくらなければ意味がない」と口癖のように言っていた主人は、その初心を忘れないように店名を「ブランパン(白いパン)」と名付けました。日本人にも愛されるフランスのパンをつくる。それが、ブランパンの柱になっています。

今は、栄店とCAFE BLANC(名古屋大学内)も構えていますが、品質を保つためにパンづくりは本店で一括して行っています。私自身はパンを焼けないので、スタッフと密なコミュニケーションをとりながら、ムッシュの味を受け継ぐとともに、お客様に喜んでいただけるさらなる美味しさを目指しています。

オープン当初からある甘いうぐいす豆を使った「うぐいすフランス」は、ブランパン流の“あんぱん”です。 店内のイメージはムッシュの「おばあちゃんの家」。インテリアの小物は、フランスから持ってきました。 多くの有名レストランから注文いただく「バゲット」は自慢の味です。 シンプルなパンをいかに美しく、美味しく焼けるかが、パン職人の腕の見せ所です。

女性ならではの苦労

当初は「店番をしながら、空いている時間にお菓子をつくって……」と考えていましたが、実際に店をオープンすると、細々とした店の管理仕事が多く、とても時間が足りません。また、オープンと同年に妊娠が分かったので、お菓子づくりは他のスタッフに任せ、店頭や裏方の仕事に回りました。出産当日まで店に出て、ゆっくり休む間もなく2週間後には仕事を再開。体が丈夫なことだけが救いでした。
フランス人の主人との習慣の違いは、子育てが始まるとさらに大きくなりました。また、仕事に子育てに家事、どれも頑張ろうと思うと、どうしても全てが中途半端になってしまい、凹むことも多かったです。そんなときは、「なるようにしかならない!」と割り切って、少しずつ乗り越えていきました。

主人が亡くなってからは、私がオーナーとして店を仕切る立場になりましたが、さまざまな人に支えられていることを日々実感しています。子どもの面倒を見てくれた実母や、「辞めちゃだめだよ!」「通い続けるからね!」と声をかけてくださったお客様方。また、主人が亡くなったことを聞いて、戻ってきてくれたスタッフもいます。正直に言うと、最初は“主人が築いてくれた基盤を繋いでいけば大丈夫”と考えていました。しかし今では、残してくれたものを発展させて、これからもお客様に期待していただけるように、成長させていきたいと思っています。その想いが形になったのが「究極のクロワッサン食パン」です。スタッフと共に試行錯誤して、ムッシュが残した看板商品のクロワッサンから新しい美味しさが生まれました。

どんなお店にしていきたいですか?

目指す店のイメージに「フランスの洒落たパン屋」があります。フランスでは、パン屋がケーキを販売しているのはスタンダードで、洒落たパン屋には焼きっぱなしのタルトやシュークリームだけでなく、本格的なケーキが置いてあります。そのため、ブランパンもパティシエがつくるケーキを取り扱っています。パンに合うサラダや惣菜なども販売しているほか、パンを食事として美味しく食べてもらいたいという想いから、イートインコーナーも設けています。

また、オープン当初から、シュトーレンやガレット・デ・ロワなど、ヨーロッパの行事菓子も販売しています。ガレット・デ・ロワをアップルパイと勘違いする人が多かった当時に比べると、今では毎年フェーヴを集めてくださっているお客様もいて、続けることの大切さを感じています。私たちが店を始めた18年前から見ても、日本のパン食に対する意識はずいぶん変わってきました。ブランパンが、フランスの食文化に興味を持つ入口になれればいいな、と思っています。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

サラー 河原 亜古さん お気に入りのパン

ルヴァンフロマージュ ハーフ 411円(税込) ルヴァンフロマージュ ハーフ 411円(税込)
創業以来、継ぎ足して繋いできた天然酵母のパンで、生地にはクルミとレーズン、フランス産のkiriのクリームチーズが入った定番商品です。フランスでは、お決まりの「パン、チーズ、ワイン」の組み合わせを楽しめるパンをつくろうという発想から生まれました。甘酸っぱいレーズンと香ばしい食感が楽しいクルミ、そしてクリームチーズがベストマッチ!1個821円(税込)も販売しています。

ヴィヴァレ 335円(税込) ヴィヴァレ 335円(税込)
主人がパン屋を目指すきっかけとなったパン職人の叔父が住んでいた、アルデッシュ地方にあるヴィヴァレ渓谷をイメージしたパン。生地はバゲットと同じですが、打ち粉にライ麦粉を使い、格子状のクープを入れることで、香ばしさが増し、違う味わいを生みます。ごまかしが効かないシンプルなパンだからこそ成形が難しく、職人泣かせのパンでもあります。

パン オ ショコラ 217円(税込) パン オ ショコラ 217円(税込)
パンオショコラは私にとって“フランスっぽいパン”であり、フランスに滞在していた時も朝食などによく食べていました。なので、初めて主人がつくってくれた時に「美味しくて良かった!」と安心した思い出のパン。サクサクのデニッシュ生地でフランス・ヴァローナ社のチョコレートを包み込み、ショコラの香りもしっかり楽しめます。

店舗情報

 

店名/BlancPain(ブランパン)
郵便番号/〒468-0001
所在地/名古屋市天白区植田山1-410
最寄駅/バス停「植田山」
アクセス/バス停「植田山」徒歩1分
電話番号/052-783-1131
営業時間/9:00〜19:00
定休日/月曜

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年11月)のものです

<オススメパン> クロワッサン 195円(税込) 究極のクロワッサン食パン 1901円(税込) バゲット 281円(税込)

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