パンとお店と”私”のストーリー パンとお店と”私”のストーリー

vol.53 普段の生活にフランスのエッセンスを
おいしく楽しくお届けしたい
Les Initiés(レジニシエ)
シェフ 品田 麻衣さん

Les Initiés
(レジニシエ)
シェフ 品田 麻衣さん

下町情緒の残る文京区根津の街、「根津神社」の表参道・藍染大通りをしばらく歩くと、「Les Inities(レジニシエ)」があります。白い壁に小さな看板、一見ブーランジェリーとは気づきにくいかもしれません。通りに面したガラス越しに見えるバゲットが目印です。

この店は、ボルドーワインの輸入を手がけるオーナーと、フランスで活躍するブーランジェの成澤芽衣、パティシエである私がフランスで出会ったことがきっかけとなり、2019年10月にオープンしました。フランスでは、パン屋でもパティスリーでも、パンとお菓子の両方をつくり、売っているのが一般的です。フランスのエッセンスを感じてもらえる、パンとお菓子の店を根津の街につくろう!と3人で協力し合って、この店が生まれました。

私は、製菓の専門学校で学んだ後、日本とフランスで10年以上にわたり、パティシエとしてお菓子づくりに携わってきました。パティシエをめざすきっかけは、学生時代、バースデーケーキをつくって友人にプレゼントしたら、とっても喜んでもらえたこと。また、幼いころから母が家でよくお菓子づくりをしていましたから、そうした環境も少なからず影響しているのかもしれません。

専門学校卒業後は麹町の「パティシエ・シマ」に入店。正統派フランス菓子のお店で、店内にディスプレイされたさりげない小物に至るまで、フランスから来たものたち。それらに囲まれて仕事をしているうちに、ぜひ本場に行って、この雰囲気にどっぷりつかってお菓子を学びたい、と思ったのです。
滞在したのはアルザスの田舎町。パリにあるような、きらびやかで時代の最先端を行くパティスリーとは異なり、素朴で、おおらかで、街の人たちの普段の暮らしの中にしっかりと根づいたお店で修業しました。アルザスにいる間に、お菓子のコンクールがあるからエントリーしてみなさいと勧められ、ガレットデロワとミルフィーユで賞をいただきました。
帰国後は「ヴィロン」で働いた後、次のステップとして当店のシェフに就任しました。店の商品全体を統括する役割は、私にとって初めての経験。自分らしいお菓子をつくること、そしてパンづくりという新しいチャレンジに真摯に取り組んでいます。

パンへのこだわり

当店のパンは、すべて成澤芽衣が監修しています。成澤は、2017年フランス全国バゲットトラディションコンクールで、女性として、アジア人として初めて優勝を勝ち取った実力派です。成澤とは、フランスで一緒に仕事をする中で、ブーランジェとして、パティシエとしてのお互いを信頼し、深くリスペクトし合うようになりました。
この店では、配合から製法、味わい、食感、パンの表情まで、成澤がこだわってつくるパンをそのまま忠実に再現し、私が一つ一つ丁寧に粉から仕込み、焼きあげて、彼女の世界観を表現しています。

早朝からパンと焼き菓子を同時並行でつくり、
昼前にはほぼ出そろいます
対面式のカウンターにパンと焼き菓子が
約30種ほど

フランスで食べるパンと同じおいしさを日本の皆さんに楽しんでもらいたい。そのために成澤がこだわっていることの1つが、しっかり焼きこむこと。濃いめに焼くくらいのほうが、芳ばしさが際立ち、かみごたえも生まれます。パンやお菓子をつくるうえで、見た目の美しさやオーガニックの素材、体にやさしい配合など、こだわるポイントはいろいろあるかと思いますが、私たちはなによりも「食べておいしいこと」を最優先しています。パンもお菓子も、香りや味わいとともに、食感やかみごたえがとても大切な要素なのです。
シンプルにクープを1本入れたバゲットは、キリリとエッジが立ち上がって、ガリガリッと心地よい歯ごたえ、芳ばしさが弾けます。パリッと薄めのクラストに包まれたクラムは、しっとりもちもちとして、かむほどに、粉の香りや旨味があふれてくるのです。

バゲットへのこだわりを堪能できる看板商品の
「バゲット トラディション」
バラの花びらをまとったようにキュートな
「ブリオッシュプラリネロゼ」

カリカリのプラリネをまとったローズ色のブリオッシュなどは、日本ではあまり見かけないパンだと思いますが、フランスのパン屋ではおなじみのアイテムです。バゲットにフガスにクロワッサン、そしてタルトやケークサレ、おへそのぷっくり膨れたマドレーヌなどが仲よく並んだ売り場を眺めて、フランス人の常連のお客様は、「フランスにいるみたい!」とおっしゃってくださいました。そして、「ここのパンはおいしいよ!」とお友だちを連れて見えることもあります。

パンは、発酵をとることがお菓子とのいちばんの違いで、それがパンづくりのおもしろさであり、難しさでもあります。毎日同じようにつくっても、気温や天候の違いが微妙に影響してきます。発酵が行き過ぎてしまえば元に戻すことはできないし、足りなければ思ったように膨らみません。やり直しがきかない真剣勝負。常に変わらない、ベストなおいしさに仕上げることを日々心がけています。

女性ならではの苦労

これまで、女性だからつらいとか大変だったとか、考えたことがなかったです。重たいものは男性でも同じように重たいでしょうし……。日本で働いた2店ともパティシエは女性のほうが多かったせいか、本当に特に意識することなく、働くことができました。
この店では、製造は私1人で行い、販売をオーナー夫人の井田さん、女性スタッフで行っています。たまたま女性3人ですけれど、お互いに協力し合いながらチームワークで仕事をすすめていくのは、女でも男でも同じじゃないかな、と思います。

奥の厨房で作業する合間に、3人でコミュニケーション

ただ、有名店のシェフパティシエの方は、まだまだ圧倒的に男性が多いのは、どうしてなんだろう?とは常々思っていました。これから、自分の人生でいろいろなことに直面すると思います。もしかしたら、「女性って大変!!」と感じることも出てくるのかもしれません。でも、その時その時で、どう乗り越えていくかを考えて自分なりに切り拓いていきたいし、きっとそうしていくだろう、と思っています。

白とグレーのシンプルな内装に焼き菓子が映えます
パンとお菓子が美しく共存する売り場を
つくっていきます

どんなお店に
していきたいですか?

レジニシエの店の雰囲気と、パンやお菓子を通して、普段の生活の中にフランスのエッセンスを気軽に取り入れて楽しんでいただけたら、というのが私たちのいちばんの願いです。特別な日に食べるパンやお菓子ではなく、普段使いできる価格で、毎日食べても飽きないおいしさをこれからも提供していきたいです。
成澤が監修したパンを常時置いているのは当店だけ。それを楽しみに来店されるお客様も多いです。そのご期待に添えるように、成澤ならではの「本場で食べるのと同じおいしさ」を意識したパンづくりを、これからも続けていきます。

パンとワインのマリアージュなども提案していきます

今はパンとお菓子、それぞれ13~14種ずつをつくることで手一杯な状態ですが、アルザスをはじめ、フランスの地方ごとに魅力的なお菓子がまだまだたくさんあります。そうした、日本では、まだあまり知られていない地方菓子を少しずつ皆さんにご紹介していきたいです。
お店の前の通りは、毎週日曜日は歩行者天国になり、さまざまなイベントが行われます。当店も外にテーブルを出して焼き菓子やパンを販売したり、寒い季節には店内で「ヴァン・ショ(ホットワイン)」を楽しんでいただいたりもしました。
ワインとパンやお菓子とのマリアージュなども、いろいろな機会に積極的にご提案して、パンの楽しみ方をもっともっと広げていけたら、と思っています。

ときには、お客様が人力車でご来店することも。
谷根千エリアならではの光景です
フランスの地方菓子の種類も少しずつ
増やしていく予定

『お近くにお越しの際は
是非お立ち寄り下さい!』

品田 麻衣さん お気に入りのパン

バゲット 330円(税込)

小麦粉と塩と水と酵母、材料は極めてシンプル。水はコントレックス、塩はフランス産のものを使い、粉の味わいや香りをしっかりと引き出して、フランスでつくるバゲットの味の再現を意識しています。成澤がコンクールで優勝したバゲットとは別のレシピですが、成澤のバゲットを通年食べられるのは今のところうちだけ。何もつけずにそのまま食べても、本当においしいです。

バゲット 330円(税込)
バゲット 330円(税込)

クロワッサン 270円(税込)

フランス産の発酵バターを使い、しっかり焼き込んだ生地は美しい層をつくり、バターが存分に香ります。表面はサクサクを通り越してパリパリッとした歯触りで、中はしっとり。噛むほどに心地よい、食べごたえ満点のクロワッサンです。

クロワッサン 270円(税込)
クロワッサン 270円(税込)

ショソンオポム 350円(税込)

発酵をとらない、お菓子のパイ生地でつくるアップルパイ。フィリングはりんごのコンフィチュールに、フレッシュのりんごをバターでソテーしたものを加えて、シャキシャキとした食感をプラス。サクサクの生地にリンゴの甘酢っぱさとシナモンの香りは、最高の組み合わせです。

ショソンオポム 350円(税込)
ショソンオポム 350円(税込)

店舗情報

店名
Les Initiés(レジニシエ)
郵便番号
〒113-0031
所在地
東京都文京区根津2-32-5
最寄駅
東京メトロ千代田線根津駅
アクセス
根津駅から徒歩6分
電話番号
090-8041-6329
営業時間
10:00~17:00
定休日
月曜、水曜 ※不定休あり

<オススメパン>

パンドミ 340円(税込)

パンドミ 340円(税込)

少しだけハチミツを使ってコクを出し、食事パンとして毎日食べても飽きのこない味わいに仕上げています。トーストしたときに、表面はカリカリッとした歯ごたえを楽しめて、中はきめ細かくてしっとりモチモチ。シンプルにバターとジャムをつけて食べるのもおすすめです。

ブリオッシュ プラリネロゼ 280円(税込)

ブリオッシュ プラリネロゼ 280円(税込)

フランスのパン屋さんではおなじみの、ローズ色のブリオッシュ。色づけしたシロップでアーモンドを煮込んだプラリネを纏わせました。割ると、中はローズ色のマーブル模様。ほんのり甘いブリオッシュに、カリカリの糖衣がアクセントになっています。

カヌレ ド ボルドー 250円(税込)

カヌレ ド ボルドー 250円(税込)

ボルドー地方の修道院でつくられていた伝統菓子のカヌレ。色濃く焼きあげた外側はカリカリで、中のカスタード生地は、トロリとクリーミーな食感。ラム酒をしっかり効かせてあり、卵とラム酒の香りが口の中いっぱいに広がります。プレゼント用に購入されるお客様も多いです。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2020年03月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2020年03月)のものです

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