竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦 パンへの愛が会社員をパン職人へと導いた~特異な経歴が生んだ奇跡を辿る~Boule Beurre Boulangerie(ぶーる・ぶーる・ぶらんじぇり) 草野 武さん

「竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦」。今回お話をお伺いしたのは、東京都八王子市にある『Boule Beurre Boulangerie(ぶーる・ぶーる・ぶらんじぇり)』のご主人・草野武さんです。30代半ばまで広告会社に勤め、そこからパン職人へ転身したという特異な経歴の持ち主。草野さんがパン職人を目指した意外なきっかけや、開業時の話、地域の人々との関わり方などお話を伺う中で見えてきたのは、彼のパンへの愛情と、地元・八王子への感謝の気持ちでした。

前編 後編

アメリカで出会ったパンの香りを求めて







竹谷
 本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。
草野
 竹谷先生とお話できるというだけでも緊張いたしますが、よろしくお願いいたします。
竹谷
 早速ですが、パン職人になる前は広告会社に勤められていたと伺いました。
草野
 大学卒業後から34~5歳までの約12年間は、広告会社でデザインの仕事に携わっていました。
竹谷
 パン職人とは、縁の無い職業のように思えますが、どのようなきっかけでパン職人を目指すようになったのでしょう?
草野
 趣味の岩登りでアメリカを訪れていた時、カルフォルニア州のビショップという村にある『エリックシャツベーカリー』のパンを食べてから、パンが大好きになりました。『エリックシャツベーカリー』のあるビショップという村は、街から何マイルも離れた砂漠に位置するにもかかわらず、行列ができる人気店でした。今でこそ、行列のできるベーカリーはたくさんありますが、この当時はまだ珍しかったのです。
竹谷
 そのベーカリーとの出会いが、『ぶーる・ぶーる ぶらんじぇり』さん誕生のきっかけになっているんですね。
草野
 『エリックシャツベーカリー』で食べたパンの香りがあまりにも良く、忘れられませんでした。この香りのパンを日本で食べられる場所はないかと探し始めたことが、パンの世界へとのめり込んでいくきっかけですね。
竹谷
 日本で同じ味のベーカリーは見つかりましたか?
草野
 麹町にある『シェ・カザマ』さんには、勤めていた会社が近かったこともあり何度も通いましたね。
竹谷
 パンの世界にどんどん魅了されていき、パンをつくりたいとまで思ったのはどうしてだったのでしょうか?
草野
 今は閉店してしまったのですが『二コラ』というベーカリーのパンを食べた時、その美味しさに感動しました。何度か通ううちに、シェフとも話すようになり、彼の考え方やパンづくりへの姿勢にも感銘を受けましたね。そうしているうちに、彼の元で働きたいと強く思うようになったんです。しかし、シェフに働きたいことを伝えると「何もできない人は雇えない」と言われてしまいました。
竹谷
 そこからパンづくりの勉強を始めたのですか?
草野
 6時~9時までの出社前の時間を利用して西馬込のベーカリーで働き、土日は社会人の製パン学校に通いました。約1年経った頃には会社を辞め、西馬込のベーカリーに就職。その後は、多摩地区の天然酵母ベーカリーで2年半働きました。その後、念願だった麹町にあった『二コラ』で1年間お世話になることができました。ただ、その頃は既に茨城に移転されていたので、茨城まで押しかけることになりましたが(笑)。

5.5坪の小さな人気ベーカリーの誕生







竹谷
 草野さんをそこまで魅了したパン、とても気になりますね。では、色々な修業先を周りながら、4年間ほどの修業期間を経て独立したのでしょうか?
草野
 はい。かなり特殊な経歴ですよね。驚かれることも多いです。
竹谷
 最初に開業したのはたった5坪の店舗だったと伺っています。
草野
 今のお店の向かいにある美容室の場所で開業しました。5.5坪のみで対面販売のベーカリーでした。
竹谷
 かなり限られたスペースでの営業は大変なことも多かったでしょう。
草野
 体力的にかなり辛かったですね。妻の助けはあったものの、ほぼ一人で製造していたので、1日1~2時間ほどしか寝ていませんでした。小さなスペースで経営するには、技術もしっかり身についていないと出来ないことを学びましたね。
竹谷
 そんなに大変だったということは、開業当初からかなり売れ行きは良かったのでしょうか?
草野
 ありがたいことに、オープン当時から売れ残ることはほぼありませんでした。この近隣にベーカリーがないことも理由のひとつだと思います。その辺りはリサーチして開業場所を決めました。
竹谷
 行列もできていたそうですね。
草野
 行列ができたのは、店の造りを考えていただいた建築家・シミズケンゾウさんの「人が入れないパン屋さんをつくりましょう」という提案から生まれたものです。窓越しに対面販売していくので、どうしても並んで買うしかないというつくりにしたのです。
竹谷
 絶好調でオープン1年で10坪に増設、開業11年目の2014年11月に現在の場所へと移転したんですね。
草野
 移転した時の店舗デザインは私自身で考え、シミズさんに構想を伝えながらつくり上げていきました。私の考えを上手くくみ取ってくれて、とてもいい形にできたと思っています。
竹谷
 前職でデザインをやられていたことが活きた素敵なお店ですね。やはりセンスもこの仕事には大切だと、改めて感じます。
前編 後編
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