竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 直向きに、真摯にパンと向き合い続ける~伝説のベーカリー(パン職人)と呼ばれる由縁~たま木亭 玉木 潤さん

「竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦」。今回お話をお伺いしたのは、京都府宇治市にある「たま木亭」のオーナー・玉木潤さんです。この対談のために「たま木亭」で人気のパンもご用意いただき、試食させていただきながらお話しを伺いました。玉木さんのパン職人としての歩みを伺うにつれ、見えてきたのは彼の類い希なるセンスと、パンづくりにかける情熱でした。

前編 後編

パンづくりに目覚めるきっかけをくれたアルバイト経験





竹谷
 本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、ご実家がベーカリーだったと伺っていますが、子どもの頃からパン職人を目指していたのでしょうか?
玉木
 小さい頃は、パン職人になろうとは考えてもいなかったですね。もちろん実家の手伝いはしていましたが、直接的なきっかけとなったのは、学生時代のアルバイト、ステーキ店「あさくま」で働いていた時に、パンの製造に携わったのが最初だったと思います。「冷凍生地を解凍して、焼いておいて」と指示された事を覚えていますね。
竹谷
 そのアルバイトをきっかけにパン職人の道へと進んだんですね。
玉木
 それから「京都製菓技術専門学校」に進学しました。その後「日本パン技術研究所」を経て、京都駅前にある「センチュリーホテル」のベーカリー部門に就職しました。1年ほど働いた後、ベーカリー部門のチーフが「パトリエ フクモリ」のオーナーである福盛幸一さんと知り合いだったこともあり、福盛さんが開校した「ムッシュf製パン技術訓練塾」に2ヶ月ほど通いました。
竹谷
 「ムッシュf製パン技術訓練塾」からは有名なパン職人が多数輩出されていますね。通われている間に出会った人はどんな方がいらっしゃいますか?
玉木
 一番長い付き合いなのは、「Boulangerie Parigot(ブーランジェリー パリゴ)」の安倍竜三さんです。当時、私が22歳、安倍さんは15歳でした。彼は、頭が良く、バイタリティに溢れていますし、尊敬しているパン職人の一人です。
竹谷
 安倍さんとは、私自身、接点はないのですが、いつかお会いしてみたいと思っているパン職人の一人です。

土台を築いたのは、修業時代の師と素晴らしいパンとの出会いから











竹谷
 「ムッシュf製パン技術訓練塾」を経て、「ドンク」に就職したのでしょうか?
玉木
 福盛さんの紹介で「ドンク」に入社しました。9年間のうち6年間は、フランスパン課で働いていましたね。
竹谷
 「ドンク」時代の経験で、今に活かされていることはどんなことですか?
玉木
 私が働いていた当時は、本当に自分の興味のあることや、つくってみたいパンを自由につくらせてくれました。今の自分があるのもこの時の経験が大きいと思います。好きにやらせてもらっていたことが今の自分をつくっています。
竹谷
 ベーカリーという忙しい現場の中でも、そうやって自分自身がつくりたいパンを追求したところは、本当にすごい事だと思います。特にお世話になった師匠はどなたでしょうか?
玉木
 仁瓶利夫さんですね。仁瓶さんから教えてもらったパンの良し悪しは、今の自分の土台となっていると思います。
竹谷
 勉強熱心な玉木さんですが、修業時代は講習会やセミナーにも参加されていたのでしょうか?
玉木
 当時はセミナーや講習会は貴重だったので、積極的に参加していました。今は、インターネットで情報も手軽に手に入る時代ですが、昔は、セミナーや講習会で得られる情報のひとつひとつが宝物だったんです。
竹谷
 確かにそうでしたね。そういった場所に足を運ぶ際に、出会ったおいしいパンもあったと思いますが、印象に残っているベーカリーはありますか?
玉木
 明石克彦さんの「ベッカライ・ブロートハイム」で食べたパンのおいしさは、今でも忘れられません。自分もこんなおいしいパンがつくりたいと心から思いました。
竹谷
 おいしいパンとは何かを教えてくれる師匠に、おいしいパンとの出会い、そして学んだことを実践できる職場と全てに恵まれた修業時代だったのですね。それから2001年に独立し「たま木亭」をオープンされたのですね。
玉木
 当時の上司に背中を押されたこともあり、独立を決意しました。最初は厨房も含めてわずか14坪という小さな店舗からスタートでした。
竹谷
 この土地を選ばれた理由はなんだったのでしょうか?
玉木
 生まれ育った土地だったので、データには表れない何かを掴みやすいのではと思ったからです。お客様の好みや、今売れそうなパンなど、なかなか把握しにくい事でも直感的に掴めるのではないかと思いました。
竹谷
 2015年には現在の店舗へと移転リニューアルオープンを果たされ、さらに魅力を増していますね。先ほど、お店にも伺いましたがとても素敵な雰囲気が漂っていました。
玉木
 ありがとうございます。お店のインテリアは全て私が選んだものです。また、お客様の動線が一方通行になるように棚を配置していて、自然と購買意欲が湧くような仕組みにもなっています。
竹谷
 70種類のアイテムがズラリと並んだ棚は、見ているだけでも食欲をかき立てられますね。また、棚から溢れそうなほど積まれたパンは幸福感すら感じさせます。
玉木
 自分自身がお客様の立場に立った時、やはり商品の少ないベーカリーを訪れたらガッカリすると思うので、なるべく閉店間際まで売り切れは出さないように心がけています。
前編 後編
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