パン屋さんで活躍する女性たち
パンとお店と“私”のストーリー

フランスで出会った長時間発酵のバゲットをつくりたくて、店を始めました Passage à niveau(パサージュ ア ニヴォ)
オーナー・ブーランジェール 大和 祥子さん

Passage à niveau(パサージュ ア ニヴォ) オーナー・ブーランジェール 大和 祥子さん

「パサージュ ア ニヴォ」は武蔵境駅から歩いて3分ほどの場所にあるパン屋です。フランスで食べたバゲットのおいしさにほれ込み、このバゲットを自分の手でつくって、みんなにも食べてもらいたい!その一心で店を始めて、毎日心を込めてパンをつくっています。

私は30才までインテリアコーディネーターとして会社勤めをしていました。事情で退社することになり、だったら全然別なことをやってみよう!と思いたち、それがパンづくりだったんです。もともとバゲットが大好きで、ものをつくることも好き。でも、自分でパンをつくったことなど一度もありません。家庭向けのパン教室に少し通い、「パンがふくらむ仕組みは分かった!」と、まずはPaulのバイトからスタート。その後も、いくつかの個人店などで働き、現場でパンづくりを覚えていきました。

数年たったころ、高校時代の友人がフランス人と結婚して、フランス在住の彼女のところに遊びに行くことに。2週間の滞在中にパン屋さんもいろいろ回ってみたいからと、案内を頼みました。「それなら、いっそ働かせてもらえば?」と友人が頼み込んでくれて、10日間パン屋さんに弟子入り。いったん帰国して、今度はパリの南、アントニーという街にある別の店に、また友人が話をつけてくれたんです。ショコラティエやパティシエもいて、パンのほかにお菓子もつくっているパン屋さんで、3カ月間の観光ビザでギリギリまで働かせてもらいました。そこで出会ったのが長時間発酵でつくるバゲット。毎日、毎食食べても食べ飽きない、そこに暮らす人たちの生活にしっかり根づいている、このバゲットをつくりたい!という思いを抱えて帰国しました。<自宅近くに店を持ち、パンづくりに取り組む>のシミュレーションも兼ねて、近所のパン屋さんでバイトをしながら準備を進め、2008年に自分の店を構えることができました。

パンへのこだわり

何といっても長時間発酵でつくるバゲットにはこだわりと思い入れがあります。前日に仕込んでじっくり発酵させることで、粉の味が存分に引き出され、甘みも出ます。焼成は高温で短時間。クラストはバリッとかたく、中に水分を閉じ込めて、もちっとした食感のクラムには気泡が大きくランダムに出るのが特長です。
バゲットもバタールも長時間発酵のものを標準としています。フランスのパン屋さんでは、雑穀入りや、ドライフルーツ入りのバゲットも売っていて、こういうのもいいなと思っていました。うちでも長時間発酵のバゲット生地を使って、ドライフルーツ入りの「フリュイ」、ブラックとグリーンオリーブを入れた「オリーブ」、ヒマワリの種、かぼちゃの種、白ごまを混ぜた「3グレイン」を、どれも細長いバゲットの形に成形して販売しています。クラストの食感、芳ばしさ、小麦の持つ味わいを存分に楽しめ、薄く輪切りにするとワインのおつまみにもぴったりです。

バゲットとバタールのうち、当日の朝仕込んで昼に焼き上げるタイプは、こまかく挽いた雑穀入りのセレアル生地でつくる「バタール(黒)」のみ。同じ生地を使って、アンチョビ風味のオリーブを1粒ずつ入れたプチパン「アンチョビオリーブ」や、イチジクのワイン煮とクリームチーズの「フィグ・エ・フロマージュ」、平たく成形した「ゴルゴンゾーラ&ハチミツ」などもつくっています。

素材は、誰もが安心して食べられるものを選び、フィリングなども極力自分たちでつくったものを使っています。サンド系のアイテムに使うマヨネーズは、フランスで覚えた味を自家製で再現しています。お酢の代りに有機のディジョン・マスタードを使っていて、ハード系のパンにとてもよく合うんです。

バゲットの籠にはフランス国旗。こだわりの旗じるしです。 長時間発酵でつくるバゲット。やさしいクリーム色をしたクラムには美しい気泡が生まれています。
ルヴァン種を使用し、酸味は穏やかに抑えたカンパーニュ。メリメリと開いたクープに力強さを感じます。 「フリュイ」や「オリーブ」も細長いバゲットの形。

女性ならではの苦労

会社勤めをしていた時も夜中まで結構ハードに働いていましたが、当時から今に至るまで、仕事が大変!と思ったことがありません。職場の人間関係も含めて仕事で嫌な思いをしたことって、本当に思い当たらないんです。パン職人の修業中にいじめられたことなどもちろんなかったですし、少しずつ仕込みもさせてもらいました。「自分でもパンをつくってみたい」と飛び込んだ先々で、本当に多くの方々からいろんなことを教えてもらいました。

店では、フランス滞在中にパティシエから習った焼き菓子もつくって並べています。フランス菓子に混じって1つアメリカ国旗がついたオートミールクッキーがあるでしょう? お客様のお母様でアメリカ人のバーバラさんのレシピです。つくってみたらとてもおいしくて、商品にさせてもらいました。バーバラさんも喜んでくれて、入り口にかけてあるウエルカムプレートをつくってくださいました。

今は3時に起床、3時半には店に入り、当日店に出す分をつくりながら、翌日分の仕込みも同時並行していきます。19時には帰宅しますが、8時間の在宅時間は睡眠も含めてすることがいっぱい! 店長である夫の両親と同居しているので、食事づくりはサポートしてもらっています。 実は、昨年、具合を悪くして入院・手術を経験しました。店長を始め、スタッフたちみんなで頑張ってくれて、私が休んでいる間も店を閉めることなく乗り切れたのは、本当にみんなのおかげだったなと、感謝しています。

どんなお店にしていきたいですか?

今までも店でつくるものは、自分が食べたり、家族に食べさせるのに、これは入っていてOKか?という基準で選んできました。病気をきっかけに、より体にとってよいもの、健康づくりにプラスになるものを積極的に選んで商品づくりをしていきたいと思うようになりました。
例えば、雑穀は体にいいだろうな、と感覚的にとらえていましたが、栄養のことをもっときちんと勉強して、なぜいいのか、どういうふうにとればよりいいのかを、きちんと説明して売りたいです。「このパンは◎◎を使っているから、こんな野菜と合わせると、バランスがとれておすすめ」といった、おいしくて、健康づくりにも役立てていただける食べ方の提案もしていきたいと強く思っています。

店のある場所は、かつてはすぐ目の前に踏切がありました。それにちなんで、店の名前を「Passage à niveau=踏切」に。踏切で立ち止まるように、ふと足を止めて、ガラス越しに見えるパンの焼き色や、焼きたての香りに誘われて店に立ち寄っていただけたら、と思っています。

「お近くにお越しの際は是非お立ち寄り下さい!」

大和 祥子さん お気に入りのパン

バゲット 290円(税込)バゲット 290円(税込)
フランス産の小麦粉を60%ブレンド。仕込みの水はコントレックスを混ぜています。パンづくりに水はとても大事! 長時間発酵でつくると、バゲットの生地がどうしてもダレてしまいがちでしたが、コントレックスを使ったら、まったくダレずに味もいい! バゲットは、厚みを半分にして、そのまま食事パンとして食べてもいいですし、タルティーヌ風に具材をのせて食べるのもおすすめ。

クロワッサン 180円(税込)クロワッサン 180円(税込)
薄くハラハラと散ってしまう繊細さよりも、ガリッとした食べごたえを楽しんでいただけたらと、あえて折込回数は少なめにしてあります。焼き色は濃い目に。「焦げてるの?」とおっしゃるお客様もいらっしゃるのですが、バターが香ります!!

カンパーニュ 760円、ハーフ 380円(各税込)カンパーニュ 760円、ハーフ 380円(各税込)
ルヴァン種を使っていますが、酸味が出すぎないようにつくっています。全粒粉とライ麦粉を混ぜてあり、何にでも合わせやすいです。

店舗情報

店名/パサージュ ア ニヴォ
郵便番号/〒180-0023
所在地/東京都武蔵野市境南町1-1-20 タイコービル
最寄駅/JR中央線武蔵境駅
アクセス/武蔵境駅南口より徒歩3分
電話番号/0422-32-2887
営業時間/8:00~17:30(売り切れ次第終了)
定休日/水曜、第1火曜 ※第3火曜は不定休

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年7月)のものです

<オススメパン>ミルクチコリ 280円(税込)
カスタメロン 180円(税込) リ・コンプレ 410円(税込)

パンとお店と“私”のストーリー トップに戻る