竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-vol.12 お客様の生活に溶け込んだ「地域密着」の店づくりを目指しています ネモ・ベーカリー 根本 孝幸さん

前編 後編

自分で学び、試して、身に付けることが大事

竹谷
 スタッフの教育方針について教えて下さい。
根本
 若いスタッフにも自分の包丁やスケッパーを持たせて、研ぐところから教えています。複数の店を展開するベーカリーに勤務していた時は、異なるミキサーを設置して「どのように使いこなすか」を考えさせ実践させました。自分で考え抜いたスタッフが、美味しいパンを焼いた時が一番嬉しいですね。
竹谷
 スタッフに教えるだけでなく、自分自身で考えさせる訳ですね。
根本
 スタッフは5年経験して、ようやく1人前です。終業後も本屋や市場調査で勉強するくらいの緊張感を持って、仕事に取り組む事が大事だと考えています。突然、先輩の代わりに経験していない業務を担当する場面もあるので、そうした時に備えてアドバイスを受けずに一人で出来るよう勉強しておかなければなりません。「教えてくれないから出来ません」ではなく、「先輩の手際を見て学んでおくべき」だと思います。私自身も教わった事が少なく、自分で試して身につけた事がほとんどなのです。

美味しいハード系のパンが近くの店で買えて嬉しい

竹谷
 商品構成をどのように考えていますか?
根本
 年配の方が多い地域で、当初はハード系のパンが売れないのではないかと考えていました。しかし実際はそうではなく、「美味しいハード系のパンが近くの店で買えて嬉しい」との声を多くいただきました。「デパ地下などへ遠出しないと美味しいハード系のパンが買えなかったのが、自宅近くで買えるようになった」と喜んでいただきました。今でも、ハード系のパンに力を入れています。
竹谷
 お客様にハード系のパンを受け入れていただいたという事ですね。
根本
 大きいパンは買いづらいので小物の量り売りも検討しましたが、小さいパンを焼成しても美味しくありません。ドイツパンなどは大きめに焼成して切り分けるから美味しいはずです。カンパーニュは1玉3.3kgを55分かけて焼成しています。パンは元々切り分けて食べるもので、パンでスライスしていいのはプルマンぐらいではないかと思います。最近はパンの切り方が解らないというお客様が増えているので、パン切りナイフを紹介する事もあります。
竹谷
 カフェスペースの通路は十分に広いですね。
根本
 ベビーカー、車椅子のお客様でも動き易い客導線を重視しました。トレーやトングは車椅子で来店されたお客様やお子様にも取りやすいように棚の下段は低くしてあります。また、おつかいで買いに来るお子様が多いので、バターロールは置き場所を覚え易い店の入口すぐのお子様にも手が届くパン棚に並べています。
竹谷
 最後に根本シェフのパンに対する想いをお聞かせ下さい。
根本
 料理や菓子についても学びましたが、パンは一番奥が深いと思います。レストランではデザートは作っていますが、バケットを焼いている店は多くありません。「自分の料理が全て」と考える料理人もいるかもしれませんが、パンは脇役ではないのです。美味しい料理が提供されても、パンが美味しくなければお客様に喜んでいただけません。ベーカリーではお客様の食べている姿を見る事が出来ないので、レストラン以上に真剣に作る必要があると思います。しかしながら、売りやすい小物ばかりを焼き上げるベーカリーが増えている為か、パンの香りが感じられないベーカリーが増えているのは残念ですね。私はお客様に喜んでいただけるパンを焼き続けます。
竹谷
 本日はありがとうございました。

トングやトレーは低い位置に
根本氏プロフィール

【根本 孝幸氏プロフィール】
昭和45年(1970年)生まれ。15歳でマザーグースに入社し、その後ピーターパン、ポンパドゥル、オーバカナル、アトリエ・ド・リーブなど有名ベーカリーでシェフを歴任した。オールアバウトの「読者の選ぶおいしいパン」では、バゲット部門とロワッサン部門で堂々全国1位を獲得している。
2007年に研究とこだわりを重ねた「大人のパン屋」ネモのシェフに就任。パンの仕込みには、いろいろなフルーツから体に優しい天然酵母を作り出して使用するなど原料に徹底的にこだわっている。「自分が本当につくりたいパンを焼き、お客様に喜んでいただけるベーカリー」を目指している。

対談場所

営業時間:9:00~23:00(定休日:毎週水曜日)

店頭のパン棚で買い求めたパンを、レジ奥のカフェコーナーでコーヒーと共に食べるお客様が次々に来店しています。朝9時に開店して23時までゆっくりと利用出来、19時からはバータイムとして、ソフトドリンクだけでなくビールやワインなどのアルコールも提供しています。20席あるカフェコーナーはアンティーク調の家具で統一されており、カウンターの下にはヨーロッパで実際に使用されていたドアが組み込まれています。
カフェでサンドイッチをお客様に提供する事で、ネモ・ベーカリーのパンの美味しい食べ方をご紹介しています。最近のディナーセットとしては、丹念に焼き上げたローストポークをメインにオープンサンド風に仕上げた「ローストポーク・ドゥ・リーヴル」などがあります。


カウンターに組み込まれたドア

前編 後編

対談を終えて

根本さん  竹谷さん、お忙しい中当店までお越し頂き有難うございます。
 最初は質問に対して何を答えたら良いのか分からず色々考えた結果、私はまだ勉強不足な所も多々あるので正直に自分の考えを話しました。
 竹谷さんはパン屋になりたくて日清製粉に入社したそうですが、その理由は竹谷さんの考えを聞いているうちに納得出来ました。
 竹谷さんから「根本さんは何でパン屋になったのですか?」と聞かれ、私は素直に「子供の頃からパンが嫌いでしたが、中学卒業後マザーグースに入社し、そこでパンの見方が変わりました。フランスパンを焼いている先輩がカッコ良く見え、自分もああなりたいと思ったら、もう気付けば28年にもなっていました」と答えました。
 今回、雲の上の存在である竹谷さんに会えました事、感謝し励みにしながらパン道に努めてまいります。
 本当に竹谷さん有難うございました。

竹谷さん  久し振りの武蔵小山である。前もってHPを見せていただいたが、300件以上の物件の中からこの店を探し当てたとのこと、ポイントは商店街ではないこと、近くに学校、オフィスが無いこと、地域密着でわざわざパンを買いに足を運んでくれる立地であること。よほどパンの味と品質に自信がないと言えることではない。確かに人通りの多いアーケード街をさけた静かな場所にネモ・ベーカリーはある。入り口には植え込みがあり、外観は黒を基調にし、入るとイタリアのバールを思われる雰囲気の中にパンが並んでいるが、とにかく種類が豊富、ドーナツ、菓子パン、フランスパン、ドイツパンはもちろん、三重県産「タマイズミ」100%のチャバッタ、3.3kgのカンパーニュ、サンドイッチが、3段の棚と平台に整然と並んでいる。棚にも独自の工夫があり、子供、身障者でも取り易いように下段が低くなっている。奥は軽食と喫茶、夜にはアルコールも提供するとのこと。
 このお店のオーナーが根本孝幸氏である。マザーグースをスタートに、パン一筋28年とご自身は言っているが、お話をうかがう中でパンを中心に和菓子、洋菓子、調理、接客、インテリア、エクステリア、店舗素材、製パン機械、道具の世界にも深く入り込み、根本氏独自のパン食文化を創り出している。それがどこにも無いお店の雰囲気になって見事に表現され、お客様もこのお店の空気を味わいにわざわざご来店しているように思える。
 従業員は厨房に4名、店舗・喫茶に4名、5年で1人前になるように教育しているとのこと、驚いたのは厨房が綺麗なこと、オープン6年目とは思えない明るさがある。パン屋には珍しく、各人が自分用の包丁、スケッパー、クープナイフ、カードを持ち、道具を大切に使うことを仕事の基本にしている。製法も発酵種を上手に活用して味の向上と、生産性のアップ、そして時間の短縮を実現している。本当に熱心、前向き、明るい性格の方である。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2013年11月)のものです

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