竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談vol.16 今までにない新しいパンを世の中へ~志賀流スペシャリテ発想の源を探る~

前編 後編

バゲットにクロワッサン…こだわり抜かれた商品の数々



竹谷
 少し商品についてお伺いしたいのですが、全ての商品が自家製酵母ですか?
志賀
 ほぼ全て市販パン酵母ゼロの自家製酵母ですね。バゲットだけは匂いがつくのを避けるために微量の市販パン酵母を加えています。
竹谷
 おすすめの商品はなんですか?
志賀
 「クロワッサン オ ルヴァン」はもちろんですが、「クロマメ」もぜひ味わっていただきたいですね。
竹谷
 どんな商品ですか?
志賀
 カボチャや栗粉、はちみつなどを使用したしっとりとした生地に、黒豆の甘煮がたっぷり入っています。生地と黒豆が調和し、歯切れよく口当たりも良いので、まるで和菓子を食べているようなパンですね。
竹谷
 バゲットは全部で3種類あるんですね。
志賀
 「バゲット プラタヌ」、「バゲット ドゥ ジュール」、「バゲット アンプ」の3種類です。低温長時間発酵のバゲットの極みを味わえる「バゲット プラタヌ」はおすすめです。そのまま食べても充分おいしさを感じられるバゲットになっています。オリーブオイルや無塩バターなどシンプルに味わっていただきたいですね。
竹谷
 オリジナルの商品が沢山ありますが、従業員の方も一緒に新製品の開発はするのですか。
志賀
 新製品は私が1人で考えます。お客様は志賀のパンが食べたくて、このお店に来てくれます。私が食べたいパン、食べてもらいパンをイメージして、レシピーを作り若い人に試作をしてもらいます。今ではほとんど1回の試作でイメージした通りの商品が作れるようになりました。
竹谷
 従業員の方も沢山いらっしゃいますが、どのような教育をなさっていますか。
志賀
 その日の仕込み量を製造個数に対してグラム単位で計算し、1個の製造ロスも出ないようにしています。そうすることで仕事に対する集中力が高まります。私は仕事をするうえで集中力を高めることが一番大切で、それが技術者を育てる最良の方法と思っています。
竹谷
 それにしてもオープン8年目とは思えないほど厨房がきれいですね、オーブンがピカピカなのに驚きました。
志賀
 掃除には毎日2時間ほどをかけています。オーブンの上も毎日掃除をしています。

これからの展望。新たな挑戦へ

竹谷
 (株)ユーハイム時代には3つ、「カフェ・アルトファゴス」を入れると全部で4ブランドを立ち上げているんですよね?
志賀
 はい。新規ブランドの立ち上げは本当に楽しいですね。
竹谷
 「Signifiant Signifie 世田谷本店」さんは、ブランド立ち上げで学んだことを活かした集大成の店舗といえるのでしょうか?
志賀
 オープン当初はそのつもりでしたが、最近新しい事に興味が湧いてきました。
竹谷
 何か新しいことをはじめられるんですか?
志賀
 お店のマイナーチェンジはずっと続けているんですが、あと4、5年でガラッと変えようと思っているんです。
竹谷
 例えばどんなことですか?
志賀
 厨房のスペースがもっと広げられたら、72時間かけて作るパンなどを作ってみたいですね。24時間で完結するパン作りではなく、さらに時間をかけて発酵させていけたら面白いことができると思っています。

志賀
 私は昔、竹谷さんに教えてもらった「パンって焼くとデンプンが骨格になるでしょ?」という言葉がとても記憶に残っています。その言葉から焼いた後のデンプンのおいしさはとても大事なことだと今でも思っています。
私に欠けていたパン作りにおける科学的な根拠を竹谷さんに教えてもらいました。
竹谷
 志賀さんは私の助言がなくても立派にやって来られていたと思いますよ。
志賀
 竹谷さんがいなければ、今の自分はいないですね。本当に感謝しています。
竹谷
 これからのパン作りに対する想いを聞かせてください。
志賀
 今までもそうでしたが、これからも誰もやっていない新しい感覚・作り方でパンを仕上げて行こうと思っています。
プロフィール

【志賀 勝栄さんプロフィール】
新潟県出身。(株)アートコーヒーに12年間勤めた後、代官山「カフェ・アルトファゴス」のシェフ・ブーランジェに就任。2000年には (株)ユーハイムにてパティスリー・ペルティエ、ユーハイム・ディー・マイスター、フォートナム&メイソンなどのシェフを歴任。2006年に「シニフィアン・シニフィエ」を立ち上げる。

対談場所

営業時間11:00~18:00(テイスティングスペース L.O.17:00)(定休日:不定休)

東京都世田谷区の東急田園都市線三軒茶屋駅・池尻大橋駅から徒歩15分ほどの住宅街。志賀シェフの「Signifiant Signifie 世田谷本店」があります。オープンは2006年10月。シェフの作り出すこだわりの詰まったパンを求め、多くの人が訪れる名店です。
また日本橋タカシマヤ店もあり、本店の味をこちらでも楽しむことができると人気。どちらの店舗でもそのまま食べてもおいしい厳選された素材と、粉の特性を活かした小麦の配合でおいしさはもちろん、健康にも配慮したパン作りを心がけています。

前編 後編

対談を終えて

井上さん 僕が初めて、竹谷さんにお会いしたのはたしか25歳か26歳の頃。まだ髪の毛がいっぱいあった頃のことだと思います(笑)若かった自分にはとてもまぶしい大人に感じていました。(実際、そうなのですが・・・)月日の経つのは早いもので、あれから24年あまりの時が過ぎていったんですね。変わることのない紳士的な対応と物腰のやわらかさと情熱もさすがだなぁ。という感じでした。
自分自身も気持ちは20代のまま働いているつもりなのですが、腰が痛かったり、肩がこったりと、体は若い頃のようにはいきません。ですが、生き方、情熱は20代のまま突っ走りたいと思わせていただけた、とても楽しい対談でした。
竹谷さん、ありがとうございました。

竹谷さん  久し振りのシニシアンシニフィエ訪問であり、志賀さんにお会いするのも1年ぶり?
でも何も変わっていない、お店が開店して8年経つにもかかわらず、オーブンはピカピカ、粉ぼこりも全く感じられない。忙しい中で掃除に1日、2~3時間はかけているとのこと。
それにもまして、志賀さんの物腰、話し方、修業時代の謙虚さそのままである。業界でも有数のカリスマシェフと言われている人物とは思えない。インターネットの書き込みで志賀さんを例えて、哲学者か悟りを開いた高僧と表現していたがまさにその通りと納得した。アートコーヒーでの12年で基礎を固め、アルトファゴスで素材を通しての商品開発、即興性を学び、その後の、ユーハイムでペルティエ、ディー・マイスター、フォトナムメイソン等、ブランドを立ち上げる楽しさを発見したとのこと。1日の生地仕込みが60バッチ、1つの生地からは1つの作品しか作らない。仕込み量も注文数に応じてg単位まで計算し、余分な数は仕込まない。それによって1個も失敗できないという緊張感の中で仕事をしているとのこと。お店自体もブティック、宝石店のような雰囲気が有るが、並んでいる商品も志賀さんの意思が注ぎ込まれているパンばかりである。これからますます知識、技術を深め業界をリードしてくれることを確信した対談でした。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2014年9月)のものです

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