竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-フランスでの経験も活かし老舗ベーカリーから新しい息吹をもたらす

みんなが買いに来てくれるお店を目指して



竹谷
 パン作りで一番大切にしていることはなんですか?また現在お店で販売しているパンの種類は何種類ですか?
谷口
 料理と一緒に食べて邪魔をしないパンを提供できるように心がけています。パンの種類は、約140種類です。2カ月に1度新商品を出し、売れ筋を残しています。
竹谷
 特におすすめの商品を教えてください。
谷口
 「バゲット・ペイザンヌ」をぜひ味わってほしいですね。夙川という場所柄もありますが、バゲットは人気商品ですね。
竹谷
 バゲットのおすすめの食べ方はありますか?
谷口
 パンは食事の器だと思っています。西洋文化の食は油脂に旨みを求めます。ただ唯一バゲットは粉の旨みを味わうものです。なのでパンの味をたっぷり楽しんでいただけるよう、無塩バターやオリーブオイルなどでシンプルに食べて頂きたいですね。
竹谷
 最終的にはどんなお店を目指していますか?
谷口
 嗜好品としてのパンではなく、朝ご飯にはパンというように普段から食べていただけるパンを提供していくことが私のパン作りのコンセプトになっています。月並みの言葉になってしまいますが、「みんなが買いに来てくれるパン屋さん」になるといいですね。味、商品力、商品提供力など全てを強化していきたいと思っています。
竹谷
 商品力は難しいですよね。味や品質だけではないですよ。そしてこの「だけではない」という部分のウエイトが今、大きくなっていますね。
谷口
 はい。今までおいしくないとされていたパンがおいしいと言われることもあります。消費者のニーズを敏感にキャッチしていかなくてはならないなと思います。

竹谷
 お客様とお話しする機会はありますか?
谷口
 販売には携わっていませんが、店頭にパンを並べにいく際にお客様から声をかけて頂くことはあります。できればパン教室を開き、もう少しお客様との接点を増やしていけたらと思っています。
竹谷
 地域密着型の店舗展開とあって地元のお客様は大切にしていきたいですよね。

気持ちは創業4年。新たな躍進に向けて

竹谷
 3代目というと先代の跡を継いだというのんびりとしたイメージを抱きがちですが、谷口さんはとてもしっかりとご自分の意志を持っていますね。
谷口
 はい、4年前に跡を継いだのですが、3代目といわれるのがあまり好きではないんです。もちろん、祖父、父の代が築き上げたものには敬意を払っています。ただ現状維持ではだめだと思うんです。食というのは常に趣向の変わるもの。新しいものを提案し続け、攻めの姿勢で行かなくてはいけないと思いますね。自分のやりたいビジョンも持っています。
竹谷
 そのビジョンは新しいアイテムということですか?それとも店舗展開ということですか?
谷口
 新しいアイテムということですね。大阪などへの出店は考えていません。店舗を増やしていってしまうと、いずれ自分のパンではなくなってしまうと思うんです。

竹谷
 では、地域に根差した店舗展開をしていかれるんですね。
谷口
 はい、来年2015年末頃、この辺りに新たなコンセプトのショップをもう1店舗増やそうと思っています。
竹谷
 新しいお店はどんなコンセプトになる予定ですか?
谷口
 今までは、売れるパンを提供していましたが、私自身が作りたいパンを販売できる場所にできればと思っています。
竹谷
 谷口さんの作りたいパンが並ぶ新しいお店。オープンが楽しみですね。
プロフィール

【谷口 佳典さんプロフィール】
1980年兵庫県西宮市夙川生まれ。2003年に株式会社ドンクに入社し、6年間修業を積む。2009年には製パン技術研修のため渡仏。2010年にフランスでの経験を活かし、株式会社フリアンド シェフ・ブーランジェに就任。関西のパン職人勉強会「ハートベーカリークラブ21」幹事、「KOBEパンプロジェクト」メンバー、専門学校講師などとしても活躍している。フランスで開催される「第5回モンディアル・デュ・パン2015」日本代表に選出。

対談場所

営業時間10:00~19:00(無休※年末年始とお盆は臨時休業)

兵庫県西宮市の阪急夙川駅の目の前に建つ「夙川グリーンタウン」の地下1階にある1950年創業の老舗「フリアンド」。夙川駅周辺は、パンの街・兵庫のなかでも多くのパン屋が出店することでも有名なエリアです。4年前に谷口シェフが3代目に就任。先代の教えを守りつつも、谷口シェフ自身のこだわりを豊富に盛り込み、新たな商品展開をしています。窯、小麦粉、天然酵母に至るまで、店内にズラリと並ぶ商品には、ひとつひとつに谷口シェフの強い想いを感じます。

前編 後編

対談を終えて

井上さん 私がパンに携わり始めたとき、先輩の勧めで手に取った専門書が竹谷先生の『新しい製パン基礎知識』でした。
 今回、このような大先生とお話しさせていただき、ただただ感激しております。
 また、現在のパン業界の礎を築いてこられた大先輩でもあり、言葉の端々に深い知識と威厳を感じました。竹谷先生のように、次世代に影響を与えられるような、そんな職人を目指して精進していきたいと思います。

竹谷さん  阪急・夙川駅、真正面の商業ビル夙川グリーンタウン・地下1階にフリアンドはある。訪問日は残念ながら1週間の夏休み最終日、当然パン棚に並ぶパン類を見ることも、食べることも出来なかったがその分じっくりお話を聞くことが出来た。
 大学時代はアメフトと日本拳法にのめり込み、パンへの興味はあまり無かったが、卒業前にパン屋の仕事を手伝っていた時の2代目の一言に触発されパン屋を目指すことにしたとのこと。スタートはドンクで大阪京橋のマリーカトリーヌ、千里中央・大丸店で6年半。その後、フランスに渡り、6軒のベーカリーを経験、3店目では店長も経験し、最後の店では日本風のベーカリーをゼロから立ち上げるという貴重な経験もしている。
 2011年に帰国、お客様に配慮しながらも商品のほぼ半分を変えて自分の味、商品を提供した。現在は140アイテム、新商品は不定期にある程度のボリュームをまとめて提案している。来年には3店舗目を路面店で出店、パネオトラッドを使って、効率と旨みを重視したベーカリーの可能性を実現したいとのこと。
 お店以外では、神戸パンプロジェクトの設立に尽力し、3年前からは毎日曜日、大阪エコールバンタンで講義も務めている。来年4月にはハートベーカリーの代表幹事を大阪フルニエの坂田氏より引き継ぐとのこと、益々、忙しくなるがそれ以上のエネルギーで、地域のお客様へ美味しいパンをお届けし、業界の若手により多くの学びの場を提供したいという情熱を感じる対談となった。

※パネオトラッド・・・ホイロを必要としない製法のパンを作るために開発された分割成形機
※ハートベーカリー・・・関西のベーカリー技術者とベーカリー経営者を中心とした会員制の勉強会

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2015年1月)のものです

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