竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談 大ヒット商品「珈琲あんぱん」を生み出した歴史と経験 ~地域の人への感謝と関わりを大切に~ エスプラン 塩田 一善さん

1日に1,000個売れる「珈琲あんぱん」の開発秘話







竹谷
 やはり気になるのは2009年の「パングランプリ東京」で東京都知事賞を獲得した「珈琲あんぱん」ですね。いつから販売を開始したんですか?
塩田
 1998年です。私は珈琲が大好きで、カフェ・オレのようなあんぱんを作りたいと思っていました。餡に珈琲を混ぜることは最初から決めていたのですが、問題は混ぜ込む方法でした。インスタントコーヒーを混ぜ込んでみたのですが、酸味がでてしまい失敗。いろいろな方法を試した結果、オリジナルのコーヒー餡が完成しました。
竹谷
 なるほど。餡だけでも試行錯誤があったのですね。
塩田
 餡が完成したので、市販のホイップクリームを入れて、常温販売をしていました。ただどうしても生クリームなので夏場の販売はできません。お客様に夏場でも食べたいという要望を受けて、冷蔵ケースでの販売を開始しました。
竹谷
 1日でどれくらい売れるんですか?
塩田
 「珈琲あんぱん」と「生ずんだあんぱん」の2種類で全体の売り上げの約3割、1日1000個以上売れます。雨でも雪でも必ず買いに来ていただけるお客様がいるので、ありがたいですね。青山で行われるパン祭りや百貨店での催事販売でも1500個ほど売れます。
竹谷
 すごいですね!この「珈琲あんぱん」はなかなか難しそうですね。餡の上に生クリームを入れる隙間を作るために粉を強くしているんですよね?
塩田
 はい。おっしゃるとおりです。特に丸くするのが難しいですね。職人には時間がかかってもいいから丁寧に仕事をするように指示しています。
竹谷
 丁寧な仕事が感じられる商品ですね。
塩田
 販売開始当時は、1日20個ほどしか売れませんでしたが、2007年横浜市鶴見区の「つるみみやげ80選」に選定されたことをきっかけに、数々のメディアに取り上げていただき、たくさんの人に食べてもらうことができました。本当にうれしいです。
竹谷
 1日1000個売れるのも納得のおいしさです。「生ずんだあんぱん」はどんな工夫をしているんですか?
塩田
 「生ずんだあんぱん」は、ずんだの下に餅を入れているんですが、丸餅を使用しています。求肥で作れるのではないかと試してみたことがあるのですが、食感と味が変わってしまいました。冷やして食べても固まらず、程よい食感と味を保てるのはこの丸餅だけでしたね。
竹谷
 いろいろと研究されてこの味にたどり着いたんですね。

小さなことでも街のためにできることを







竹谷
 パン文化を広める活動として実際にやっていることはありますか?
塩田
 これが直接パン文化を広める活動と呼べるかはわかりませんが、やはりお客様に食べていただくことが一番だと思っています。そのために商店街のイベントや会合には積極的に参加し、地元の方と交流を図るようにしています。地元のお客様が一番お店を盛り上げてくれる存在ですから、地元のため、地域のためにできることはないかをこれからも考えていきたいです。
竹谷
 なるほど。地域の人との結びつきを大切にしているんですね。
塩田
 はい、常連のお客様にりんごをお土産でいただいた時には、次に来たときにアップルパイにして差し上げたりもしました。
竹谷
 それは喜ばれたでしょうね!私のお店でもお客様の要望で作ったスコーンがありますが、そのお客様は来店すると必ず買ってくれますね。では最後に、今後の目標をお聞かせください。
塩田
 これからの自分の夢は小さなお店を作りたいと思っています。昔から珈琲が好きで、おいしく珈琲・紅茶を楽しめる小さなベーカリーを作りたいですね。エスプランは息子(3代目)に任せ、自分はそのお店を経営していきたいと思っています。
竹谷
 3代目となる息子さんもきっと塩田さんの意志を継いで素敵なお店を作り上げていってくれるでしょうね。これからの活動に期待しています!

プロフィール

【塩田 一善さんプロフィール】
学生時代に「伊藤製パン」、卒業後には阿佐ヶ谷の「ピーターパン」での修行経験を経て、先代である母がスタートさせた「エスプラン」の2代目となる。「覇王樹(サボテン)茶屋」から続く家業としては11代目。

対談場所

営業時間:7:30~18:30 土・祝日は7:30~18:00(定休日:日曜・第3月曜)

1952年にパン屋としての歴史をスタートさせた「エスプラン」は神奈川県鶴見区のJR鶴見駅から徒歩3分、京急鶴見駅から徒歩2分ほどの場所にあります。「ベルロード つるみ商店街」という旧東海道に面し、江戸時代には「覇王樹(サボテン)茶屋」を営んでいました。看板商品は1998年に販売を開始した「珈琲あんぱん」。朝から行列ができることもあります。天然野生酵母など素材にこだわり、「毎日でも食べたくなるパン」を提供しています。

前編 後編

対談を終えて

井上さん 今回、お久しぶりに尊敬する竹谷さんとお会いし、さらに対談ということで大変緊張した数日間を過ごしておりました。 ただ、いざ対談が始まると昔から変わらない竹谷さんの物腰の柔らかさからとても充実した時間にしていただきました。
 当社で「製販ミーティング」を始めて3年になります。私も製造の人間なので、ついつい日々の業務でも、製造側の意見になってしまいます。竹谷さんのおっしゃる「面倒な行程を排除」してしまいますし、商品も「これくらいなら」という部分もあります。
 「ミーティング」以前であれば販売もそのまま出していました。それが「ミーティング」開始以降、販売から「これはちょっと・・・」と止め始めたのです。
エスプランの品質に安定と向上、さらに販売員も「正社員」である意識が芽ばえました。エスプランのこれからの成長には、製造と販売、両面からのアプロ―チが不可欠です。今回の竹谷さんとの対談でそう確信させられました。
ありがとうございました。

竹谷さん  昔住んでいた懐かしい京急鶴見駅を降りてほんの1~2分のところに「エスプラン」がある。新装開店してすでに10年とは思えないほどエクステリア、インテリアがフレッシュで洗練されて、駅前商店街の中でも特別の空間を演出している。塩田氏とは久し振りにお会いするが相変わらずソフトで高貴な雰囲気をお持ちで、さすが400年の家柄と納得する。しかし、珈琲あんぱんの開発秘話を聞いていると、ヒットするまでの9年間改良を重ねながら育ててきたことなど、芯の強さもあわせ持つ方である。
 お店はとにかく明るく、商品、POP、接客、そしてお店からよく見える厨房とそこで働く職人さんのきびきびした動き、行き届いた従業員教育が感じられる。店舗を任されている三代目の悠樹氏がますますお店を発展させ、塩田氏には夢の「おいしい珈琲、紅茶を楽しめる小さなベーカリー」を実現していただきたい。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2015年3月)のものです

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