竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談vol.21
パンの可能性を広げ続ける気鋭のシェフ~多様なニーズに応えるチカラの源を探る~
ブーランジェリー レカン 割田 健一さん

資質・仲間…環境すべてをパン作りに活かす





竹谷
 普段の生活のなかでパン作りに活かしていることはありますか?
割田
 私は洋服が好きで、あるメイド イン ジャパンにこだわっているブランドの大ファ ンです。服の素材はもちろん紙袋に至るまで全てが日本で作られています。なぜ国産にこだわるのかという話をショップの店員と話したことがありました。そういった話の中から「なぜ国産小麦にこだわるのか」というパン屋にとっても重要なエスプリをもらうことはできますね。
竹谷
 先ほどの話のなかで、美大を目指されていたと伺いました。職人さんに大切なのは、美意識の高さだと思います。割田さんは本当に職人の資質を十分に持っていると思います。
割田
 そう言っていただけると大変ありがたいです。またパン作りに直結するわけではありませんが、友人たちとの交流も欠かせないですね。友人には異業種の人が多く、集まる時によく話すのが「中二で行こう!」という話です。中学二年生の頃は今よりも熱く、積極的で夢があったと思います。そういう気持ちを忘れずに行こうと思っています。
竹谷
 いい仲間が周りにたくさんいるのですね。
今後の目標・夢を教えてください。
割田
 「稼げるパン職人」でありたいですね。それはもちろん金銭的な話しもありますが、「割田のパンは旨い」と言ってもらえることが第一です。
竹谷
 試食をさせていただきましたが、どれもみんな美味しかったです。それにひとつひとつに個性もありますね。
割田
 美味しいパンを作るためにはどうしたらいいのだろうということは常に考えています。気になるレストランや、よく行くお店での「食べるトレーニング」も欠かしません。
竹谷
 世界コンクール「モンディアル・デュ・パン」の理事もされていますね。
割田
 はい。「モンディアル・デュ・パン」のメインテーマは「健康と栄養」です。そのテーマを意識して作ったのが赤ワインのカンパーニュです。
竹谷
 そのアイディアはどこから生まれたんですか?
割田
 山梨のワイナリーに通っているのですが、そこのオーナーさんから「ワインをしぼったあとの残った葡萄で何か作れないか?」と相談されたことがきっかけですね。
竹谷
 私も北海道池田町というところから頼まれて同じようなパンを作ったことがありました。なかなか難しいですよね。
割田
 葡萄のかすをピューレ状にして、種を除去し生地に練り込むことで、優しい味のパンに仕上がりました。ルヴァン種を少し入れ、クルミとイチジクも入れて食感を出しています。山梨のカンパーニュというイメージですね。
竹谷
 とても軽く仕上がっていていいパンですね。とてもおいしいです。

全ての要望に応えられる職人であるために





竹谷
 これからのパン業界を盛り上げるためにやっていきたいことはなんですか?
割田
 私は「こんなパンが食べたいから作って」という要望に応えられるパン職人でありたいと思っています。世の中にはまだまだたくさん「作って欲しいパン」があると思うんです。だから私は、「できない」とは言いません。
竹谷
 大事なことですね。
割田
 さまざまなニーズに対応できるパン職人が必要とされているので、まだまだたくさん世の中には求められているパンがあると思います。
竹谷
 具体的にどんなパンを作って欲しいという要望がありますか?
割田
 バレリーナの方からは「糖質を抑えたパン」、知り合いのバーからは「お通しで出せるパン」などお話はたくさんいただきますね。レストランのシェフや、友人にもアドバイスをもらいながら新しいパンを作っています。
竹谷
 レストランのシェフと話す機会があるというのは、本当に恵まれた環境ですよね。
割田
 はい。小さなフーガスを焼き上げてその上にオリーブオイルを塗ってから試食に出したことがありました。その時シェフから「このオリーブオイルでべたつくのは普通なの?」と聞かれ「確かに、レストランで食事をするお客様の手がオリーブオイルで汚れてしまうのはあまり格好がいいものではない」ということに気付かされました。パン屋の目線であれば、パンのつや出しや、乾燥を防ぐといった意味があります。こういったシェフとの会話の気づきから、目線はかなり変わりましたね。
竹谷
 割田さんがそういった話を受けていただけることで、パンの可能性はどんどん広がっていきますね。我々世代のパン職人さんは、古い製パン技術をかなり深く掘りさげて考えています。しかしそれだけでは新しいものは生み出せない。
割田
 今まで先輩たちが築き上げてきた土俵があるからこそ、自分は新しいものにチャレンジできるのだと思います。お付き合いしている周りのパン職人の方々にも興味深い人や新しいパンを作ろうとしている人がたくさんいるので、パン業界はこれからもっと面白くなっていくと思いますね。自分ももっと頑張っていかなければならないと思います。
竹谷
 今後に期待していきたいですね。
プロフィール

【割田 健一さんプロフィール】
埼玉県出身。高校卒業後、「ビゴの店」プランタン銀座にて修業。 2007年、第1回「モンディアル・デュ・パン」日本代表に選抜される。 14年間務めた「ビゴの店」退職後、2011年銀座レカンのブーランジェシェフに就任。 パン業界を牽引する気鋭のシェフのひとり。

対談場所

営業時間:10:30~21:00※最終焼き上がり20:00(定休日:月曜日(祝日の場合は、翌日の火曜日))

2014年12月にリニューアルオープンした老舗フレンチレストラン「ロテスリー レカン」に併設する「ブーランジェリー レカン」。「銀座レカン」グループ初となる業態とあって、オープン当初から話題となっています。2011年から「銀座レカン」グループのブランジェリーシェフを務めるのが割田シェフ。彼が手がけるパンはどれもこだわりにあふれ、素材の旨みを最大限に引き出した味が特徴です。国産小麦のバゲット(324円)は、「ロテスリー レカン」でも味わうことができます。

前編 後編

対談を終えて

 「新しい製パン基礎知識」の本を通して、長年お世話になってる方と対談なんて、とんでもないと思って、お断りしようと思っていました。
 実際、当日はパンの話はもちろん、パンの話に限らず、お話しをして頂き有難かったです。
特に印象に思ったのは、会話の中で激励、応援してくれるような言葉を随所に頂き、これからもこの仕事をしていく上で凄く勇気を頂きました。
 これからもパンを作って行きますので、竹谷さん、引き続き宜しくお願い致します。

竹谷さん  今回はレカングループ初のパン専用ブランド「ブーランジェリー レカン」の初代シェフ・割田健一氏にご登場いただきました。お店のオープンが2014年12月17日とまだ半年にもならないのに、確実に固定客と思われるお客様が来店しています。
 銀座レカンにふさわしいパンが整然と並んでいますが、試食をさせていただき、その姿以上の美味しさに驚きました。新しいパン、新しい味を作る場合、作り手の味覚が重要になります。音楽家に絶対音感の持ち主がいるように、食べ物を作る我々の中にも絶対味覚の持ち主が居ることを確信しました。レカン商品のラインナップ基準は「小麦粉の香り」「銀座のパン」「40年の歴史を持つレカンのフレンチ」そして「割田シェフの味」を大切にすること。
時代を先取りするセンスと幅広い人脈、先輩・仲間・従業員を大切にする心配り、そしてお客様への情報発信力、我々の時代とは違った新しいベーカリー技術者像を見せていただきました。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2015年6月)のものです

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