竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-新春対談vol.14 ロデヴとの出会いで始まった新たな挑戦 ベッカライ徳多朗 徳永久美子さん

前編 後編

「ロデヴ」との出会い、そして研究の日々

徳永
 その病気を患う前のことですが、「ロデヴ」との出会いは鮮烈でした。
竹谷
 初めて食べた時どんな風に思いましたか?
徳永
 久しぶりに胸がときめきました!作るのはとても難しいという話も聞いていたのですが、やってみたいという気持ちが強かったですね。
竹谷
 「ロデヴ」に関しては久美子さんが仕込みからやっているのですか?
徳永
 はい。今までは主人が仕込み、私は成形・窯という役割分担がありました。そのため私は仕込みというポジションをやったことがなかったんです。自分で仕込んで成形し、焼くという全ての工程をやってみたいと思っていたところに「ロデヴ」と出会ったのです。
竹谷
 最高の出会いでしたね。やはりロデヴは難しいですか?
徳永
 やり始めは本当に仕込みが楽しくて仕方なかったですね。ただやはり迷ったり、悩んだり試行錯誤の連続で大変な部分も多かったです。ちょっとした温度の違いでもまったく味が変わってしまいます。その日の分量や温度などを記入しておき、次に仕込む時はペンの色を変えて記録。そうすることで比較・検討できます。今はまだロデヴの研究途中という感じですね。

知ってほしいのはプレーンなパンのおいしさ

竹谷
 今、本を執筆されていると伺いましたが、どんな本になるか教えて頂けますか?
徳永
 これで4冊目になるのですが、今回はパンの作り方という本ではなく、この本を見た人が「食パンを買ってこようかしら」と思って頂けるような本を執筆しています。プレーンなパン促進本といったところでしょうか。自分が今までやってきたパンと一緒に食べたいものを紹介しようと思っています。例えばパテ・ド・カンパーニュなどですね。
竹谷
 素敵な本になりそうですね。プレーンなパンとの組み合わせで一番のおすすめはなんですか?
徳永
 実はとてもシンプルなのですが、冷たいバターです。この冷たいバターとパンの組み合わせを教えてくれたのは初めて修業をした青山アンデルセンの師匠・児玉さんでした。天然酵母のパンに冷たい無塩バターを乗せて食べさせてくれたのです。その時、人生で初めてパンを食べて「なんだこれは!」と思いましたね。本当にバターのもつ乳の味をしっかり感じることができるんですよ。
竹谷
 おいしいですよね。なかなか冷たいバターとパンが合うということを知っている人は少ないです。もっと知ってほしいですね。ぜひ本で紹介してください。
徳永
 はい。実は本の一番目で、これを紹介しようと考えています。

竹谷
 今、お店の課題はなんですか?
徳永
 たくさんありますが、スタッフ教育にももっと力を入れていきたいですね。どこに出しても恥ずかしくない人材を育てていきたいと思います。
竹谷
 教育面でどんな工夫をしていますか?
徳永
  とにかく今は声がけを大切にしています。どんな些細なことでもいいので声をこまめにかけていくことで、色々なことに気が付けると思います。他にも自分の「おすすめのサンドウィッチ」を紙に書いて提出してもらったりしています。従業員同士で高め合ってくれたらいいなと思いますね。
竹谷
 一番いい従業員教育ですね。しかしご主人と一緒に働かれていて、ご夫婦で目指すもの、目的が一緒というのはとても素敵ですね。これからどんなお店にしていきたいですか?
徳永
 頑張ったことは全て来客数や売り上げに反映されるので、やりがいはありますね。売れない季節や売れない日ももちろんあります。そんな時でも絶対にいいものを提供し続けるというのは心に決めています。そうすることで、お客様は必ずついてきてくれると信じています。
竹谷
 その気持ちはとても大切なことですね。
徳永
  でも決して夫婦共々、有名になりたいという気持ちはないのです。近所の人に喜んでもらえるパンを作りたいという想いが強いです。その日食べる分を買いに来てもらいたいと思います。
プロフィール

【徳永久美子さんプロフィール】
神奈川県横浜市にて「ベッカライ徳多朗」、「the EARLY BIRD cafe」、「ベッカライ徳多朗 Yotsubako」を営む。いずれの店舗も県外からパンを求める客が訪れるほど、客足の絶えない人気店として知られる。家庭で手軽に美味しく作れるレシピを紹介した著書も好評。 著書に『パンを楽しむ生活‐おいしいおはなし』(主婦と生活社)、『パンとお菓子の本』(扶桑社)、『わが家のパンと料理とおいしい食べ方』(毎日コミュニケーションズ)がある。

対談場所

営業時間7:00~18:00(定休日:毎週火曜日・水曜日)

東急田園都市線たまプラーザ駅から車で10分ほどの場所に2011年9月14日に新装開店した「ベッカライ徳多朗 元石川店」があります。
あざみ野駅からバスに乗り「寛永寺」というバス停からも至近です。明るいガラス張りのカフェスペースが印象的な店舗で、敷地内には15台分の駐車スペースを備えています。オープン時間である7時から、ウォーキングやランニングついでのお客様で賑わいます。

前編 後編

対談を終えて

徳永さん  優しいまなざしの中にも職人魂を感じる竹谷さんのパンを食べてみたいと、お話をさせて頂いている間、ずっとそう思っていました。パンにはその作り手の人となりが出るので、竹谷さんのパンは男らしく温かな気持ちになれるパンなのではと思いました。
最初、このお話を頂いた時には、どんな事を話したら良いのだろう…と緊張いたしましたが、実際には、お迎えのタクシーが来てもまだ話は尽きず、本当に私共に素敵なお話をいただき感謝しています。
冷たいバターとパンのお話でもりあがってとても楽しかったです!
次にお会いするまで、もっと勉強して竹谷さんとパンのお話がしたいと思いました。

竹谷さん  新店にお伺いするのは今回が初めてになる。たまプラーザから車で10分、決して人通りの多い場所とは言えないが1日、500人の来店数という。
大きな南向きのガラス窓が印象的なエクステリア、15台という多めの駐車場、それでいて入口には新鮮な野菜が売られており、現代的な外観と土の香りのする親しみが妙にマッチしている。中に入ると広いガラスに囲まれたイートインスペースと500人という来客数の割にはこじんまりした販売スペースがある。早速、厨房を見せていただき、またまた驚き、販売スペースからは想像もつかない充実した設備を整えている。聞くと、ご主人が可能なところは機械化し、パン作りを楽しむための時間をプレゼントしてくれたとのこと。
徳永久美子氏は丁度、ロデブの窯出しのタイミングで実に楽しそうにパンを見つめている。美味しいロデブを完成させることが今最大の楽しみとか。実に、前向き、積極的、そして明るい。ドンクの仁瓶氏が「パン業界の財産」と言ったのが分かるような気がする。
従業員の方々も実にのびのびと明るく、久美子氏を実の母親のような気持ちで慕っているのがその雰囲気から感じ取ることができる。残念ながら今回、ご主人の淳氏にはお会いできなかったが、このご夫婦、お子さんとの繋がり、従業員との連携がそのままお客様に伝わり、「徳多朗」の人気になっているのが良く分かる訪問でした。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2014年4月)のものです

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