竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-対談
「出会い」「繋がり」がシェフの武器~軌跡をたどりみえてくるもの~
ブーランジェリー コシュカ 秋元 英樹さん

先輩方の築いた道に自分流の“スパイス”をプラス









竹谷
 お店のこだわりを教えてください。
秋元
 対談の話をいただいてから「お店のこだわり」という部分をどのように答えようか考えていたのですが、こだわりというのは特にもっていないんです。
竹谷
 こだわりがないのがこだわりというところでしょうか?
秋元
 そうですね。私たちは先輩方が築いてくれた作り方の中からいいと思うものを選べるというとても恵まれた環境にいます。まずは真似ることから始めて、そこからオリジナリティを出していけたらと思っています。その考えの中で作ったのがライ麦60%のドイツパン「Kブロート」という商品です。今後はドイツパンのサンドウィッチを販売するなど食べ方の提案をしていきたいと思っています。食事の一部として、ハード系のパンをお客さまにオススメしていきたいです。
竹谷
 「Kブロート」食べてみたいですね。お店のアイテムはドーナツや焼き菓子なども揃え、充実していますね。どのくらいの数があるんですか?
秋元
 焼き菓子なども含めると約100種類だと思います。焼き菓子は、パンの売り上げが落ち込む夏期にとても助けになります。お菓子屋さんよりもフレッシュなお菓子を提供できるのはパン屋の強みですね。
竹谷
 やはり焼き菓子も大切ですね。コーヒー豆も販売しているんですか?
秋元
 はい。軽井沢の『丸山珈琲』というブランドのコーヒー豆を販売しています。実は『丸山珈琲』は仁瓶利夫さんから紹介していただきました。世界トップクラスのスペシャルティ珈琲に出会えたのも仁瓶さんのおかげです。 ドリップコーヒーのテイクアウトを考えたのですが、今はまだ余裕がなくて…。いつかはコーヒー豆の販売だけでなくイートインスペースを作って販売したいですね。
竹谷
 コーヒーの販売やドイツパンのサンドウィッチ販売など目標がしっかり見えていますね。
秋元
 当店のお客様は親子連れが多いです。幼稚園の帰りにパンを買って、遊びに行く時に持っていくそうです。そのためお子さんたちが好きなパンの種類も多めに作っています。
竹谷
 ニーズに合わせた商品展開ができているんですね。従業員教育についてはどのような方針でやっていますか?
秋元
 私は従業員一人ひとりに合った教育ができればと思っています。しかし人を育てるというのは難しいですね。竹谷さんだったらどのような方法がいいと思いますか?
竹谷
 私は従業員を雇ったことがないので実際のところはわかりませんが『サンメリー』の前身である『大阪屋』で採用していた教育方法がいいと思っています。独立を目指す人は製造と経営を学ぶ5年コース、製造だけ学びたい人は3年コース、と入社する時に希望を聞き、スケジュール通りにステップアップし、給料も少しずつ上げていくという方法です。もちろん人によって期間は異なりますが、目標が持てて挫折が少ないのかなと思いますね。
秋元
 なるほど。確かにいい方法ですね。スーパー、コンビニなどで販売されている大手製パン企業のパンがおいしくなってきている今、しっかりとパン作りを学んでおかないとこれからは大変だと思います。若い世代にはそういう未来を見据えた教育もしていかなくてはなりませんね。

長く愛される「街の一部」になるために



竹谷
 どんなお店にしていきたいですか?
秋元
 ヨーロッパのパン屋さんのように、街に溶け込んだパン屋さんになりたいですね。ヨーロッパではパン屋の主人が近所の子どもたちに「ちゃんと勉強しているか?」と声をかけるほど身近な存在です。そんな街の一部のようなお店にしていきたいです。
竹谷
 先ほどの話に出てきたように、今、お母さんと買いに来てくれているお子さんたちが大人になっても通ってくれるパン屋さんを目指してください。
秋元
 はい!実際オープンから8年経ち、赤ちゃんだった子どもたちが小学生になっています。近所の子どもたちの成長とともにお店も進化していけたらと思います。
竹谷
 これからの夢と理想をお教えください。
秋元
 明石さんといえば「ドイツパン」というように、何か自分の強み・武器となる商品を作れたらと思います。幸い、仲間には恵まれているので同世代の人たちとパン業界を盛り上げていけたらと思っています。

プロフィール

【秋元 英樹さんプロフィール】
17歳で「ベッカライ シャラント」へ入社。「ルノートル」へ転職後、約7年間勤め志賀勝栄氏の片腕として「ペルティエ」へ。フランス・ドイツへ渡り修業。恩師・明石克彦氏のお店である「ベッカライ ブロートハイム」、「mikuni」を経て2007年に独立。JPB友の会で青年部の幹事も務める。

対談場所

営業時間:10:00~19:00(定休日:月曜)

東京都世田谷区の等々力駅から徒歩15分ほどの住宅街に佇む「ブーランジェリー コシュカ」。2007年5月オープンから現在まで、地域の人から愛されるお店作りを心がけてきたオーナーシェフの秋元さん。彼が作り出すパンは、修業時代の師匠たちから受け継いだ技と秋元さんの個性の融合と言える品。もっちりとした食感でほんのり甘みのある「深沢食パン」(1本660円)やしっとりとした生地の「ペイザン」(1/4カット280円)など、食卓に加えたいパンの他、子どもに人気の「ぐるぐる」など豊富なラインナップも魅力です。

前編 後編

対談を終えて

僕のお世話になった人たちが竹谷さんに色々なことを教わったと聞いていたので 初めて竹谷さんに話していただいたときはとても嬉しかったことを思い出しました。 パン屋を始めたときから「製パン基礎知識」を読んでいたので、まさかそのご本人と話しができるとは…。
対談の日もそうですが、いつも優しく話しをしていただきとてもありがたく、本当にいい人たちに出会えてきたと思っています。 もっといいパンが焼けるよう頑張りますのでこれからもアドバイスよろしくお願いします。 ありがとうございました。

竹谷さん  昔から秋元さんは、若手では気になる存在でした。自然体の振舞い、自身を「ちゃらんぽらん」と言いながらもその意志の強さと、行動力はこれまでの経歴とお店の品ぞろえにも出ています。お聞きするとその経歴がすごい。スタートが伝説の職人「シャラント」の竹内像一氏、その後、「ルノートル」の大田潤一郎氏に師事し、志賀勝栄氏に誘われて「ペルティエ」の立ち上げに協力、フランスで研修後、「ブロートハイム」から三國シェフの経営する「ブーランジェリー・ミクニ」のセカンドとして移り、ここで料理の世界を知り、人脈を広げる。「コシュカ」をオープンして8年目、22坪のお店にドーナツから菓子パン、ペストリー、ハード系、焼き菓子、ライブレッド、ペイザン、カンパーニュ、とにかくアイテムが幅広く、お客様が希望するパンと自分が食べてもらいたいパンをお店一杯に並べている。これだけのアイテムを若い職人さん2人を使って焼くのは大変なことと思うが、地域のお客様に愛されるパン屋としてゆっくり、時間をかけて提案し続けていただきたい。

※店舗情報及び商品価格は掲載時点(2015年8月)のものです

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